自転車道

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「自転車専用」(325の2)の道路標識

自転車道(じてんしゃどう)とは、自転車の通行の安全や、自転車を利用したレクリエーションを目的として、自転車を自動車交通から分離するために設けられた道路または道路の部分を指す。

歴史

イギリスでは、19世紀後半に自転車愛好家たちが団体を組織するなどの運動を展開し、1888年国会は彼らの求めていた荒廃した道路の整備に着手することと自転車の交通手段としての公認を決めた。なおイギリスに自転車道ができるのは20世紀に入ってからである。

19世紀末、地形的条件などから自転車が急速に普及したオランダで、世界最初の自転車道路が造られたとされる。これは危険な馬車から自転車を保護するための分離を図ったものと考えられている[1]

モータリゼーションを経たあと、オランダでは、「サイクリストのためというよりは、自転車がドライバーの邪魔にならないようにするためだった」とはいえ、「高速道路の脇に自転車専用道路が作られた」[2]。「西ドイツでもアウトバーンの改修、新設にはりっぱな自転車道路を併設することが義務づけられ」 [3]たという。

日本における定義

日本では、道路法令(道路法道路構造令)に規定された自転車の通行に供される自動車から分離された各種の道路または道路の部分を指す。一般的な用法としてはこのほかに、道路交通法に基づく交通規制による「自転車専用通行帯」(自転車レーン)や自転車以外の通行禁止規制が実施された道路、自転車が通行することのできる「歩行者用道路」、道路法上の道路ではない道路(施設扱いのサイクリング道路や河川管理道路など)を含む場合がある。日本国外の自転車走行空間については、国・地域によって定義が異なる場合があるが、それにかかわらず「自転車道」と呼ぶことがある。

日本における各種の「自転車道」については、道路行政当局や関係団体において、機能面から大きく2種類に分類されている。自転車道設計指針[4]では、次の通りA種、B種に区分されている。

A種の自転車道は、交通の安全と円滑を主目的とし、日常生活で利用される自転車交通を対象としたものであり、多くの場合それ自体独立した道路ではなく、道路の一部として自動車等のための車道に併設される。道路構造令と道路交通法に定められた自転車道は、工作物によって区画され、車道だけでなく歩行者のための歩道からも分離されたもので、道路交通法により自転車以外の通行は認められていない。自転車道の設置されている道路において、普通自転車は自転車道を通行することが原則として義務づけられている。

B種の自転車道は、スポーツやレクリエーションとして自転車を利用すること(サイクリング)を主な目的とした道路を指す。この場合道路法にいう自転車専用道路として整備されることがあり、一般にサイクリングロードと呼ばれる。ただし日本においては自転車専用である場合はごくわずかな例外に過ぎず、歩行者の通行も認められていることが圧倒的に多い。自転車道という用語は、こういった道路の路線名の一部として使用される場合もある。

日本における自転車道の歴史

日本では、1951年、日本自転車産業協議会の事業計画が、自転車道路の必要性に言及する[3]が、自転車道の法制化機運が高まるのは本格的なモータリゼーションを経た1960年代後半のことで、実際に法制化されるのは1970年である。

法制化以前

自転車道法制化以前は1958年に制定された道路構造令(旧令)に見られるように、自転車は車道・緩速車道を通行する自動車との混合交通を前提とした。1964年には、徳島市左古町に自転車道(併設型、後のA種相当)が設置され、これが日本初の自転車道と考えられている[5]。翌1965年には、高知市電車通りに歩道を改造した自転車道が設置された。これら法制化前に出現した短い距離の自転車道は、所轄警察署の要請により国道事務所が事故多発地点に設置したものである。一方、1967年10月には、神奈川県青少年サイクリングコース(金目川サイクリングコース)が開通する。専用道路型、B種相当、つまりサイクリングロードと呼ばれるタイプのさきがけとなる[5]が、道路法上の道路とは認められず、「施設」扱いとされた[3]1965年には、国会に自転車専用道路の建設や法制化を求める請願が寄せられ始めた。

自転車道路協会の発足とその活動

1967年4月、自転車道路建設促進協議会が発足した。1968年8月には、協議会が自転車道のサンプルと位置づけた東京・神宮外苑サイクリングセンターが実現する。これは、警視庁・明治神宮など関係各方面に働きかけ、休日の公道で自動車等の通行を禁止する交通規制を実施し、サイクリングに開放したもので、初の「自転車公園」とされた。1970年には常設の代々木公園サイクリングコース、1975年には休日の交通規制によるパレスサイクリングが開設されたほか、東京以外の各地にも広がった。協議会は1968年9月に改組して財団法人自転車道路協会となった。この月、協会は太平洋岸自転車道構想を含む全国一周自転車道路網構想を建設大臣に陳情した。

法制化と制度改正

自転車道法制化の動きは国会でも具体化し、超党派の「自転車道路建設推進議員連盟」が結成され、1969年7月に議員立法による「自転車道の整備等に関する法律案」の提出に漕ぎ着けた。その審議過程では、特にオランダ、デンマーク、スウェーデンでは自転車道は完備に近く、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツといった諸国でも自転車道の整備が進んでいるとの認識が示された[6]。この法案は、自衛隊法・防衛庁設置法改正案や大学臨時措置法などの上程による影響で、ほかの20あまりの生活関連法案とともに審議未了となるなどの紆余曲折を経て、翌1970年の3月に成立、4月に公布された。

1970年には、「交通戦争」ともいわれた交通事故多発の対策として、道路・交通関連の法令の新規制定や改正が相次いだ。まず前述のように「自転車道の整備等に関する法律」が成立した。また道路交通法道路構造令に「自転車道」などの規定が加わり、「交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法」に自転車道の整備に関する規定が盛り込まれた。これらの新規定により自転車を自動車交通から分離する方向性が固まった。また道交法改正に伴い「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」が改正され、「自転車専用」(325の2)と「自転車及び歩行者専用」(325の3)の道路標識が定められた。翌1971年には道路法改正により自転車専用道路自転車歩行者専用道路の規定が加わる。また1980年には、「自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律」(旧自転車法)が公布され、自転車道・自転車歩行者道の整備、自転車専用車両通行帯の設置など「良好な自転車交通網の形成」を図る規定が盛り込まれた。

整備事業

1973年大規模自転車道整備事業が始まり、一般にサイクリングロードと呼ばれる道路の建設が緒につく。翌1974年には、建設省都市局長・道路局長通達「自転車道等の設計基準」が出され、詳しい仕様が固まる。

道路交通法の1970年と1978年の改正で自転車の歩道通行が認められ、なし崩し的に一般化する一方、歩行者との共用でない自転車道などの通行空間の整備は、「我が国の道路状況において……容易ではない」ことを理由に「十分とは言い難い」[7]状況が今日まで続いている。

日本における法令上の定義

広義の自転車道

1970年に制定された「自転車道の整備等に関する法律(以下「整備法」)」にいう「自転車道」は、以下のように定義され、法令上最も広義である。

  • もつぱら自転車の通行の用に供することを目的とする道路の部分(第2条第3項第1号)
  • 自転車及び歩行者の共通の通行の用に供することを目的とする道路又は道路の部分(第2条第3項第2号)

これにより整備法の「自転車道」は、自動車等からは構造的に分離され、歩行者とは分離されているとは限らない次に挙げる自転車の通行空間の総称とされる。この場合の「自転車道」の総延長は2006年4月1日現在、7万8638km[8]となる。

これらは一般に「自転車道等」と総称されることがあり、近年は「自転車走行空間」「自転車通行空間」などと言い換えられることも多い。なお道路構造令では、特に同令に規定される自転車道と自転車歩行者道の総称として自転車道等という名称を用いている。

狭義の自転車道

道路構造令第2条第2号
専ら自転車の通行の用に供するために、縁石線又はさくその他これに類する工作物により区画して設けられる道路の部分
道路交通法第2条第1項第3号の3
自転車の通行の用に供するため縁石線又はさくその他これに類する工作物によつて区画された車道の部分

道路交通法・道路構造令の自転車道(本節以降では単に自転車道といった場合この意味で使う)は、「縁石線又はさくその他これに類する工作物により区画」された道路の部分であり、自動車等のための車道の各側に一体となって建設され、独立した道路ではない。なお道路構造令上の車道は「(自転車道を除く。)」と明記されているが、道路交通法の自転車道は「車道の部分」である。ただし道路交通法でも、第3章の交通方法の適用上、第16条第4項により「自転車道と自転車道以外の車道の部分とは、それぞれ一の車道」として別個に扱われる。

普通自転車は「自転車道が設けられている道路においては、自転車道以外の車道を横断する場合及び道路の状況その他の事情によりやむを得ない場合を除き、自転車道を通行しなければならない」(道路交通法第63条の3)と義務づけられている。自転車道は、前述のように自転車道以外の車道(以下単に「車道」という場合、自転車道を含まない)と別個に扱われるため、通行すべき左側部分も別個になり、双方向通行となる。また、普通自転車は進行方向右側にしか自転車道がない場合でも、そこを通らなければならない。また、自転車であっても、四輪以上のもの、サイドカーが取り付けてあったりリヤカー等ほかの車両を牽引するものは自転車道を通行できない(道路交通法第17条第3項)。これらの自転車は、車道を通行することになる。自転車以外の軽車両も同様である。モペッド原動機付自転車であるため、やはり自転車道でなく車道を走行する。

自転車道の要件

自転車道は、縁石線、さく(柵)などの工作物や植樹帯といった分離施設によって区画されていることが要件である。

道路交通法第20条第2項の規定による車道上の車両通行帯のうち、道路標示等により「自転車専用」と指定されたものは、工作物ではなく区画線や道路鋲によって区画されているため、自転車道には該当しない。「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律(自転車法)」で自転車専用車両通行帯と称され、一般に「自転車レーン」と呼ばれるが、この部分は依然、車道の一部分であるため、車道全体で見た左側通行の規制を受ける。

道路交通法第63条の4第1項により普通自転車が通行することができるとされた歩道に、「普通自転車の歩道通行部分」の道路標示(114の2)がある場合、この部分は「歩道の自転車レーン」と俗称されることがあるが、自転車道には該当しない。また従来歩道とされていた部分を工作物で分離したものであっても、車道上に設けられたものではないので自転車道とはいえないとされる[9]

サイクリングロード

一般に「サイクリングロード」と呼ばれるものは、B種の自転車道に分類され、道路法の自転車専用道路等として整備されることが多い。自転車(または「自転車および歩行者」)の通行のために設けられる独立した道路である。整備法の第6条第1項では、道路管理者としての市町村に自転車専用道路等の設置について努力義務を課し、同第2項では河川や国有林野の管理者が協力するものとし、同第3項では国が財政支援の努力義務を負うこととしている。国の支援策としては、大規模自転車道整備事業が知られている。このほかに道路法にいう道路には該当しない施設扱いの“いわゆる自転車道”なども、サイクリングロード(あるいはサイクリング道路など)と呼ばれる。日本以外の諸外国においても、同様の道路の整備例が見られる。

設計基準

各種の自転車道の幅員は、道路構造令により定められている。自転車道は2メートル以上を原則とし、やむを得ない場合1.5メートルまで縮小できるとされる(第10条)。自転車専用道路は3メートル以上を原則とし、やむを得ない場合2.5メートルとされ、自転車歩行者専用道路は1993年以降自転車専用道路より広い4メートル以上とされる(いずれも第39条第1項)。

設計速度は、A種・B種の違いに応じて差異がある。まちなかの道路に併設される環境からスピードが制限されるA種の自転車道では、通常の自転車の速度と考えられた時速15キロメートル、専用道路で快適な走行が目的となるB種の自転車道では時速30キロメートルとされた。これらの規定速度を確保する設計が不経済とされる場合には、双方とも時速10キロメートルとされた[4][10]

日本国外における現状

オランダやドイツなどでは、車道から構造的に分離された自転車道の設置に早くから取り組んできたが、自転車の通行空間に占める割合は必ずしも高くない。費用や空間上の制約、安全観の変化などの要因によって、かつてはこうした自転車道の代用として考えられた自転車レーンの整備が現実的と判断されるようになっている。また、ロンドンエディンバラジュネーヴベルリンパリなどの都市では、バスレーンが自転車の走行空間としても活用されている。一般車両の通らないことから交通量が少ないこと、バスと自転車の速度差が少ないこと、バスの運転手はプロに限られること、バスは前方の見通しがよいことなどから、バスレーンを走行することは一般レーンに比べて自転車にとっての安全性確保に有効であると指摘されている。[11]

日本における現状と問題

自動車交通から構造的に分離された自転車の通行空間の総延長は7万8638キロメートルとされるが、このうちの91.7%にあたる7万2119キロメートルは「自転車歩行者道」である。設計の上で自転車の通行を意識したことになっているとはいえ、運用の上では自転車には歩行者を優先するために徐行や一時停止をする義務が課せられる「自転車通行可の歩道」にすぎない。自転車歩行者道については該当項目に譲り、本項では自転車道とサイクリングロード(自転車専用道路等とそれに類似したもの)の現状について述べる。

都市交通の中での自転車専用の通行空間とされる自転車道の延長は、2004年現在、1199kmに過ぎず、歩道延長15万5786kmの100分の1にも満たない[7]。自転車道の設置に際しては、自動車交通から自転車を分離し、混合交通による自動車の速度低下を防ぐことも意識されてきた。半面、設置・管理が高コストであり、自転車道の存在自体が自動車交通の処理能力の低下を招くとも考えられた。車道の幅員確保や歩道の設置・拡幅(幅員2メートル以上の歩道では、普通自転車を歩道に上げることも可能とされる)が優先され、自転車道の設置は進まなかった。

また自転車道は車道の付帯施設と認識されたため、独自の連続したネットワークを形成していないという問題も指摘されている。

自転車の歩道通行については、双方向通行が認められていることと、車道との間の分離施設によって、自転車が右左折する自動車からの死角に入り、自動車対自転車の交通事故を誘発する危険性が指摘されている[12]。自転車道は事故防止を図ることを目的として導入されたものの、歩行者と構造的に分離されていることを除いて歩道との共通点が多いことから、自転車道にも同じ問題が存在するとの見解がある。

サイクリングロードの現状

サイクリングロードの設置場所は、河川敷がほとんどで、このほかに湖沼の沿岸、海岸、鉄道廃線跡が挙げられる。

自転車専用道路等の総延長は5113kmになるが、そのうちの90.8%は自転車歩行者専用道路が占める。このほか、河川敷や堤防上に設置された河川管理道路や緊急用道路は、一般の自動車・原動機付自転車による通行を禁じていることから、サイクリングコースとして使用されている例が多い。東京都内の荒川緊急用河川敷道路など、自転車愛好者にはサイクリングロードとして認識されているものが、実はあくまで河川管理道路であるということもある。

サイクリングロードは、設計上自転車の高速走行の快適性を重視し、ほかの道路と平面交差する箇所が市街地の一般道路に比べて少ないため、自転車の走行速度が速くなる傾向が強い。一方でこの構造的条件はランニングやウォーキングといった運動や散歩にも適している。またサイクリングロードや自転車道などと呼ばれていても、大部分で歩行者は排除されていない。このため歩行者の利用も多い。高速な自転車と大勢の歩行者が混在している状況で、両者の間にトラブルが多発し、主に歩行者から苦情が管理者に寄せられ、管理者としては対策として自転車に対して何らかの規制・措置を行う方向で動きが見られる[13]。近年サイクリングロードでは、自転車に対してスピードを落として歩行者に注意し優先するよう呼びかける標示や掲示物が目立つようになった。自転車歩行者専用道路に代表される自転車と歩行者が混在する状況に対しては、古くから自転車愛好者らによる批判がある。しかし両者を分離して自転車専用道路歩行者専用道路を設置しようとする動きは、ほとんど見られない。

脚注

  1. 自転車産業振興協会編『自転車の一世紀 : 日本自転車産業史』自転車産業振興協会、1973年、482ページ
  2. 横島庄治著『サイクルパワー : 自転車がもたらす快適な都市と生活』ぎょうせい、2001年 ISBN 4324063834
  3. 3.0 3.1 3.2 佐野裕二『自転車の文化史 : 市民権のない5,500万台』文一総合出版、1985年 ISBN 4829911077
  4. 4.0 4.1 日本道路協会『自転車道等の設計基準解説』1974年 ISBN 4889501029
  5. 5.0 5.1 自転車道路建設促進協議会『交通戦争に第3の道路を 3』1968年
  6. 1969年7月15日 参議院建設委員会における「自転車道の整備等に関する法律」についての審議
  7. 7.0 7.1 警察庁 自転車対策検討懇談会『自転車の安全利用の促進に関する提言』2006年11月30日、9ページ 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "npa20061130-1"が異なる内容で複数回定義されています
  8. 国土交通省道路局地方道・環境課道路交通安全対策室、警察庁交通局交通規制課『第1回新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会 資料3 : 自転車利用環境をとりまく話題』2007年5月18日、7ページ
  9. 国土交通省 社会資本整備審議会 都市計画・歴史的風土分科会都市計画部会『都市計画部会第6回都市交通・市街地整備小委員会議事要旨 : 参考資料1 自転車等に関する法令等の規定
  10. 自転車道路協会『交通戦争に第3の道路を 12 : 自転車道の計画と設計』1974年
  11. 古倉宗治著『自転車利用促進のためのソフト施策 : 欧米先進国に学ぶ環境・健康の街づくり』ぎょうせい、2006年 ISBN 4324080070
  12. 警察庁 自転車対策検討懇談会『自転車の安全利用の促進に関する提言 : 資料』2006年11月30日、8ページ 資料8「自転車マニュアル等における歩道通行の危険性の指摘」
  13. 「サイクリングロードちょい不良(ワル)オヤジ改造計画」『funride』2006年4月号、ランナーズ、96ページ

関連項目

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外部リンク