自動体外式除細動器

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ファイル:AED at Centrair.jpg
中部国際空港に設置された自動体外式除細動器
ファイル:Medtronic aed training kit.jpg
メドトロニックのAEDトレーニングシステム。AEDは電気ショックの発生源となる本体と人体に装着する電極パッドから構成される。本体は、電源スイッチの他に心電図の解析を行う解析ボタンと電気ショックを与える通電ボタンを備えている。

自動体外式除細動器(じどうたいがいしきじょさいどうき、Automated External Defibrillator, AED)は、心室細動の際に機器が自動的に解析を行い、必要に応じて電気的なショック(除細動)を与え、心臓の働きを戻すことを試みる医療機器である。

除細動器の一つだが、動作が自動化されているので、施術者が一般市民でも使用できるよう設計されている。

日本で現在承認されている製品は、薬事法上の「類別・機械器具12、一般的名称・半自動除細動器あるいは非医療従事者向け自動除細動器」に該当する。

一部の国では、全自動化された製品が発売されているが、日本ではこの方式は承認・流通ともされていない。

機器の概要

主に不特定多数の人が出入りする空港飛行機内、ホテルなどの公共施設に広く設置され、消火器などと同様に、万一の事態が発生した際には、その場に居合わせた人が自由に使えるようになっている。

使い方は、電源を入れ、電極パッドを胸に貼り付けると心電図を解析して電気ショックを与えるべきかを調べる[1]。電気ショックが必要と解析した場合には、機械の指示に従ってスイッチを押すと、機械が自動的に電気ショックを与え、除細動を行う。

従来の除細動器は、医師などの専門家の使用を想定しているため手動式であるが、空港など公共の場に配備されている自動体外式除細動器 (AED) は、操作を自動化して、医学的判断ができない一般の人でも使えるように設計されている。AEDの発する指示音声にしたがってボタンを押すなど2 - 3の操作のみで、取り付けもピクトグラムで分かりやすく説明されており、医療知識や複雑な操作なしに電気的除細動が実行される。なお、AEDによる除細動の実行と併せて、胸骨圧迫心臓マッサージ)・人工呼吸を継続して行うことも、救命のために望ましい(一次救命処置参照)。

日本では、救急車が現場到着するまで平均で約7分を要するが、心室細動の場合は、一刻も早く電気的除細動を施行することが必要とされている[2]。救急車の到着以前にAEDを使用した場合には、救急隊員医師が駆けつけてからAEDを使用するよりも、救命率が数倍も高いことが明らかになっている[3][4]

AEDが登場し始めた当初は一セットあたり100万円以上だったが、2007年には30万円程度になっている。心停止に陥る可能性の高い疾患を持つ家族を抱える家庭では、自家所有している例もある。レンタルだと1機当たり月額5000円程度。また現在では子供用のAEDパッドが認可され、1歳以上の子供なら使用できるAEDが増えている。

収納スタンドは、蓋を開けるとサイレンやブザー鳴動・赤ランプの点滅で緊急事態発生を周囲に告げる他、使用された事を示す信号が、当該施設の防災センターに送られるようになっているものもある(これにより防災センターは、警備員を現場に向かわせ対応する)。

使用方法

AEDの使用方法については、テンプレート:PDFLink日本心臓財団のサイトを参照のこと。

日本の状況

かつて日本では、医師しか使用が認められていなかった。2003年救急救命士に使用(医師の指示なく)が認められ、2004年7月からは一般市民も使えるようになり、空港や学校球場などの公共施設に設置されることが多くなった。

2005年に開催された愛知万博では会場内にAEDを多数配置している。また2006年から2008年頃にかけて公共交通機関でのAED設置が進んだ。2006年7月、都営地下鉄全101駅へのAED設置完了を皮切りとして2006年にはJR東日本新幹線全駅、JR東海も新幹線全駅と在来線主要駅に設置[5]小田急ロマンスカーも2008年10月22日に設置完了。東京都清瀬市コミュニティバスでは全車に設置された。現在各鉄道主要駅には大抵の場合設置されている。

Jリーグではすべての試合会場にAEDを設置することを義務付けている。

高校野球では、2007年4月に行われた春季近畿地区高校野球大会大阪府予選で、飛翔館高等学校の投手に打球が直撃して心肺停止状態に陥り、AEDなどの救命処置によって一命を取り留める事故があった[6]。2009年に、この出来事を題材としたAED普及広告が日本心臓財団によって出されている。

JR東海とJR西日本は、2008年12月より東海道山陽新幹線の全編成でAEDを設置すると発表した[7]。さらにJR東日本も所有する新幹線の全編成に2009年2月以降AEDを設置すると発表[8]JR九州でも2009年3月1日より九州新幹線の6編成すべてに設置すると発表した[9]

2009年3月22日に開催された東京マラソン2009にて、ランナーとして出場していたタレントの松村邦洋が、スタート地点から約15kmの港区高輪二丁目付近で突然倒れ、一時心肺停止 (CPA) 状態になった。救護班として巡回していた国士舘大学のモバイル隊がAEDを使用するなど対応が早かったため意識はすぐに回復し、命に別状はなかった。松村の所属事務所の発表によると原因は急性心筋梗塞による心室細動であったという[10]。東京マラソンでは2013年2月24日に開催された大会でも、参加ランナーが約23kmの水天宮前交差点で突然倒れ、近くを走っていた松山市役所勤務の参加ランナーなどが心臓マッサージや近くの交番から持ってきたAEDによる処置を行い、一命を取り留めたことがある[11]

テレビ東京系列で放送されているバラエティ番組開運!なんでも鑑定団」の収録スタジオ内に、2010年からAEDが設置された。特定のテレビ番組のためにAEDを設置した初めての事例で、これは同番組の性格上、高齢もしくは心臓に何らかの持病がある出演者(依頼人等)が、鑑定結果にショックを受けて、万が一の事態が発生した場合等を考慮したものである。

静岡県三島市では、平成22年7月1日から「あんしんAEDステーション24設置事業」を実施して市がAEDを購入し、市内の24時間営業のコンビニエンスストアガソリンスタンドなどに協力を仰ぎ、AEDを設置してもらっている。この事業で42台のAEDが市内のあらゆる場所に設置された[12]

2010年4月、大阪府大阪市で、心肺停止状態の男性に救急隊員が救命処置を行おうとした所、救急車に取り付けられたAEDが故障により作動せず、男性が搬送先の病院で死亡すると言う事態が起こった。製造元の調査により、部品の欠落が原因と発表されたが部品が欠落した原因は不明。これに伴う自主回収などは行われていない[13]

主な設置場所の例

交通機関
  • 空港、旅客機内(旅客機は、1990年代から諸外国の航空会社がいち早く機内に搭載を開始し、日本航空も、2001年10月に国際線機内に搭載を始めている[14])
  • 鉄道駅構内(大都市周辺や地方主要都市のJR駅、大手私鉄地下鉄)、新幹線特急列車
  • フェリーターミナル、フェリー内
  • バス(主に観光バス)
医療機関
公共施設
商業施設、娯楽施設
その他
  • 大規模な工場内、救急車など

日本の認可製品

出典:日本心臓財団[15]

講習を受けるには

公的団体
日本では、各地の消防本部日本赤十字社の都道府県支部が、心臓マッサージやAEDの使用方法などの救命講習会を開催している。病院保健所で独自に行っているところもある。
民間団体
アメリカ心臓協会 (AHA: American Heart Association) 公認講習を開催する日本蘇生協議会所属のNPO法人愛宕救急医療研究会、NPO大阪ライフサポート協会、日本ACLS協会や、メディックファーストエイド社、国際救急救命協会、日本救急蘇生普及協会(財団法人日本救急医療財団指定事業者)が一般市民向けにトレーニングを提供している。

また、プロ野球球団に入団したばかりの新人選手に対して救命講習会を行った例がある。[16]

その他

電極のパッドやバッテリーには使用期限があるため、定期的な点検と交換が必要となる。[17]

出典

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参考図書

  • いのちを救う先端技術 久保田博南 PHP新書 ISBN 4569701159

外部リンク

関連項目

テンプレート:Sister

テンプレート:救急医学

テンプレート:Asbox
  1. 心室細動・非常にテンポが速い心室頻拍(一部機種では上室性頻拍も適応)の場合のみ電気ショックの適応心静止を含め、心臓が完全に停止した場合などでは電気ショック不要を適用する。
  2. カーラーの救命曲線によれば、心停止3分で死亡率はおよそ50%、と言われている。
  3. 非医療従事者による自動体外式除細動器 (AED) を用いた除細動と心肺蘇生 - 大阪府三島救急医療センター(シカゴのオヘア空港やラスベガスのカジノに設置されたAEDが市民によって使用され、高い救命率を示した話。)
  4. Outcomes of Rapid Defibrillation by Security Officers after Cardiac Arrest in Casinos(上記カジノの話の原文) - NEJM. (2000) 343:1206-1209.
  5. お客様、沿線の皆様、関係業務機関との連携 - JR東海 安全報告書 2008
  6. 打球直撃の投手、AEDで救命処置 高校野球・大阪朝日新聞、2007-04-30
  7. 東海道・山陽新幹線の全編成へのAED(自動体外式除細動器)搭載について - JR西日本 プレスリリース 平成20年7月28日
  8. 新幹線へのAED(自動体外式除細動器)搭載について - JR東日本 プレスリリース 2008年11月6日
  9. 九州新幹線「つばめ」にAED(自動体外式除細動器)を設置します - JR九州 プレス発表資料 2009年2月25日
  10. 松村邦洋、東京マラソンで一時心肺停止 ニュースORICON STYLE
  11. 救命ランナーズの1人名乗り 男性「助かって良かった」東京新聞、2013年2月26日
  12. 三島市公式サイト:あんしんAEDステーション24設置事業について
  13. 時事ドットコム:救急車のAED作動せず=心肺停止の男性死亡-大阪市
  14. 航空機内での心肺蘇生の実施により心的外傷を負った1例総合病院国保旭中央病院神経精神科 大塚祐司、宇宙航空環境医学 Vol. 44, No. 3, 71-82, 2007
  15. AEDはどこで購入できますか?2011年12月26日
  16. 西武 新人選手に心臓マッサージとAED講習会スポニチ、2013年1月19日
  17. AEDの部品 使用期限切れに御注意を京都市消防局、2009年11月20日