細胞性粘菌

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テンプレート:生物分類表 細胞性粘菌(さいぼうせいねんきん)とは、変形菌と同様に、アメーバ状の生活と、菌類のような子実体を、その生活環の中に持っている微生物である。ただし、生活環のどの段階でも、単細胞かまたはそれが集合した形を取り、細胞の構造を失わない。”細胞性”といわれるのはそのためである。

これに類するものにはタマホコリカビ類アクラシス類の二つがあり、かつては一つの分類群にまとめられた。しかし、分子系統学などの証拠から現在ではこれらは系統的に遠いものと判断され、独立させた。そのため分類群としての細胞性粘菌というくくりは認められていないが、今もこの語を聞くことは多いため、これについてここに説明する。右の分類表はあえて過去のものを示した。

これに属するキイロタマホコリカビが、モデル生物として、特に分化の研究材料として注目され、変形菌とは異なる分野で研究に利用されている。

概論

細胞性粘菌というのは、アメーバ運動をする体と、胞子形成する子実体をその生活環に持つ点で、変形菌類に似た点を持つ生物である。

ただし、変形菌類のいわゆる変形体が、核分裂を繰り返しながら、細胞質は分かれない、いわゆる多核体であるのに対して、この仲間は、その生活環を通して細胞の構造を失わない。単細胞のアメーバとして増殖し、それが集まって、一時的に外見的には変形体のような構造をとる。しかし、この場合にも細胞が集まっただけで融合することはなく、また、移動して子実体に変化するまでの一時的な構造にとどまる。多くの変形菌が、子実体形成時には変形体が細かい部分に分かれ、それぞれが子実体の形を取るのに比べると、ある意味では逆である。 また、変形菌の変形体が場合によっては1mにも広がるのに対して、細胞性粘菌の偽変形体はせいぜい数mmであり、多くの変形菌よりもはるかに微小な生物である。

子実体はひとつの偽変形体からひとつしか生じない。ただし枝分かれする場合はある。なお、この類の子実体のことを、特に累積子実体(るいせきしじつたい、またはソロカルプ sorocarp)と呼ぶ。

細胞の集合はここに含まれる群の特徴であるが、これを変形体に相同と考えたのがこの群を変形菌類と見なした理由である。他方、それぞれのアメーバが個体性を失わないまま集まるのを社会的な行動と見なし、これらを社会性のアメーバ(social amoeba)と呼ぶこともある。

利用

現実的には利用価値はない。利害関係も存在しない。しかし、モデル生物としてはキイロタマホコリカビは極めて重要である。その細胞の集合の機構や、集合後の胞子と柄細胞への分化などが非常に大きな興味を持って研究された。そのため、本家の変形菌よりこちらが有名になっていた時期がある。また、現在でも細胞性粘菌と言えばこの種、あるいはタマホコリカビ類を指していることが多い。

分類

細胞性粘菌としてふつうに知られているのはキイロタマホコリカビを含むグループのタマホコリカビ類(テンプレート:Sname 類)である。この類では子実体は柄と胞子塊に分かれ、胞子塊の部分が胞子として機能する。

細胞性粘菌には、もう一つアクラシス (テンプレート:Sname) 類が知られている。

両者には、アメーバの性質、子実体形成時の細胞の振る舞いなどに大きな違いがある。しかし両者とも細胞性粘菌であると考え、たとえば以下のように体系づけた(ウェブスター菌類学の例)。

しかし、その後の現生生物学分野の進歩により、これらはより系統的に遠いものと考えられるようになっており、細胞性粘菌をまとめる意味は分類学的には存在しないと考えられる。現在ではタマホコリカビ類はアメーボゾアに含め、ここには変形菌類も所属する。他方、アクラシス類はヘテロロボサと言う別の系統に属するとされる。

いずれにせよ、この両者は、5界説ではともに原生生物界に所属させるものの中で、変形菌やミドリムシと同様に真核生物の進化の早い段階に分化した古い系統の生物と考えられている。詳細は各群の項を参照されたい。

関連項目

外部リンク

参考文献