細胞外マトリックス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
細胞外マトリクスから転送)
移動先: 案内検索
ファイル:Extracellular Matrix.png
上皮細胞内皮細胞及び結合組織に関連した細胞外マトリックス基底膜及び間質性組織)を表現する図、en:Epithelial cell:上皮細胞en:Basement membrane:基底膜en:Endothelium lining the capillary:毛細血管を被覆する血管内皮en:Connective tissue with interstitial matrix:間質性組織による結合組織en:Fibroblast:線維芽細胞

細胞外マトリックス(さいぼうがいマトリックス、Extracellular Matrix)とは生物において、細胞の外に存在する超分子構造体である。通常ECMと略され細胞外基質細胞間マトリックスともいう。

細胞外マトリックスの種類

多細胞生物動物植物)の場合、細胞外の空間を充填する物質であると同時に骨格的役割(例:動物の軟骨)、細胞接着における足場の役割(例:基底膜フィブロネクチン)、細胞増殖因子などの保持・提供する役割(例:ヘパラン硫酸に結合する細胞増殖因子FGF)などを担う。植物における代表的な細胞外マトリックス成分は、セルロースである。

わかりやすく表現すると、多細胞生物を構成する個々の細胞の多くは細胞外マトリックスのベッドあるいは巣に埋もれて生活しているとも言える。ただそれは単純なベッドではなく細胞の生き様を変化させることができる動的で機能的なものであり、細胞にとっての「微小環境microenvironment」の実体である。

脊椎動物無脊椎動物にも細胞外マトリックスが見られる。ヒトを含めた脊椎動物に顕著な成分は、コラーゲンプロテオグリカンフィブロネクチンラミニンといった糖タンパク質(一部は細胞接着分子)である。

間質にはI型コラーゲン、プロテオグリカン(バーシカン、デコリンなど)、フィブロネクチンなどが顕著である。軟骨を作る細胞外マトリックスの主要成分はII型コラーゲン、プロテオグリカン(アグリカン)、ヒアルロン酸、リンクタンパク質などである。間質(結合組織)と上皮(実質)の間などに見られる基底膜には、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(パールカンなど)、ラミニン、エンタクチンなどが見られる。脳の主要な細胞外マトリックス成分はコンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、テネイシンなどの糖タンパク質である。

昆虫ハエ)や線虫などの動物にも同様な成分が見られるが、脊椎動物のものとはやや構造や成分に違いがある。甲殻類を含め節足動物における細胞外マトリックスで顕著なものは、キチンである。細胞外マトリックスは、カイメンやボルボックスといった単純な多細胞生物にも存在する。

マトリックス工学

細胞外マトリックスを操作することで組織や細胞を制御し再生医療などに利用する応用技術であり、1980年代に初めて提唱された。また個々の細胞外マトリックス成分やその複合体は細胞培養などに用いられ、既に医療応用も盛んである。特にブタ膀胱から抽出した細胞外マトリックスはアメリカ合衆国において実用化が進められており、ヒトにおいても事故で切断した指先を再生することに成功している。

細胞外マトリックスの分解

胚の発生段階やがん細胞の転移などの際、基底膜などの細胞外マトリックスが特殊なプロテアーゼなどにより分解されることで細胞の移動が制御される。

外部リンク