科学捜査研究所

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テンプレート:出典の明記 科学捜査研究所(かがくそうさけんきゅうしょ)とは、日本の警視庁及び道府県警察本部刑事部に設置される研究機関。略称は科捜研(かそうけん)。

概要

鑑識課とは別。科学捜査の研究および鑑定を行う。警察庁科学警察研究所と連携して、科学捜査を支えている。研究所の所員は1分野で1人~20人程度の所がほとんどで、総所員数も10人~70人程度である。

原則として、法医学(生物科学)、心理学、文書、物理学(工学)、化学の分野に分かれている。具体的には法医学の分野では血液、体液、DNA(デオキシリボ核酸)、組織等の鑑定、検査業務とその実験研究に従事、心理学の分野では犯罪心理の研究、ポリグラフ等による虚偽検出業務、文書の分野では筆跡印章、印字印刷物、不明文字、通貨などの鑑定業務とその研究、物理学の分野では車両、構造物、機械、銃器弾丸、火災、電気事故、音声などの鑑定業務とその研究、化学の分野では麻薬、覚せい剤、毒物、薬物や繊維、塗料、樹脂、金属などの鑑定業務とその研究に従事している。

それぞれの業務および研究は最先端の科学技術レベルを誇っており、大学や企業などの研究機関、警察庁科学警察研究所との連携や国内学会、国際学会への参加も積極的に行われている。

科学警察研究所(科警研)と混同されがちだが、科警研が警察庁の附属機関であるのに対して、科捜研は各警察本部の付属機関である点が異なる。ちなみに科警研の設立当初の名称も「科学捜査研究所」であった。

研究員

警察官ではなく技術職員であり、捜査権などは有さない。それぞれの専門知識・技術を応用して、犯罪現場から採取された資料などの鑑定を行っている。さらに鑑定技術向上のための研究開発を行う。全国の科学捜査研究所に数百人の研究員が存在する。

採用

研究員の採用は都道府県によって大きく異なり、都道府県で研究職として独自の試験、面接を行うことで採用する場合や、地方上級試験から採用する場合などさまざまである。採用試験の内容は地方公務員上級程度の教養試験、志望分野の専門試験と口述試験、人物を見るための面接試験、適性検査、論文試験となっている場合が多い。

基本的に研究所は小規模なため、各分野で数年に1人程度の採用の所も多く、希望の年に希望の都道府県で希望の分野での採用試験を受けることは非常に難しい。ただ、警視庁ではほぼ毎年採用がある。大規模警察本部では細い分野別に採用している所もある。近年、新卒採用において、大学院生を積極的に採用する傾向があるものの、分野によっては学部生で採用される場合もある。事前に取得しておかなければならない資格などはない。

中途採用を行っている所もあるが、その分野での業務経験があることや、専門知識を持っていること、大学院卒などが条件である場合が多く、ハードルが高い。例年採用人数は全国で各分野合計10人程度(平成22年度は全国で法医学8人予定)。採用人数が極めて少ないことから採用試験倍率は数十倍程度となる事が多く、100倍を超える事も珍しくない。受検者層に修士卒や博士卒などの高学歴が多いことも加味すれば、本試験は一般的な公務員試験よりも遥かに合格難易度が高い試験であると言えるだろう。

採用後

通常まず警察学校に入校し研修を一ヶ月受けなくてはならない。ただ、警察官とは違い、術科(柔道・剣道・逮捕術)はなく、座学(規律・職務倫理・法律)が中心である。 さらに、一年目の秋には全国の科学捜査研究所の新人研究員が千葉県柏市にある警察庁科学警察研究所に法科学研修所鑑定技術職員として入所し研修を受ける。さらに五年目にもさらに高いレベルの研修を受ける。科学捜査研究所の研究員の身分は地方公務員研究職職員である。

労働環境

勤務地は一部の例外を除いて都道府県庁所在地であり、転勤などがない。ただし企業や科警研、海外への長期出向や長期研修などがある場合がある。給与、福利厚生は地方公務員研究職としての待遇に各種手当を加えた程度である。

昇進

研究員技師→研究員主任→研究員主査→研究員副主幹→管理官

資格等

科学捜査研究所の研究員で業務遂行において絶対不可欠な資格は存在しない。研究員で取得者が多い資格は以下のとおりである。

  • 臨床心理士(心理学関係の業務を行うものが入所後取得するケースが多い)
  • 薬剤師(薬学部出身者保有)
  • 技術士
  • 放射線取扱主任者
  • 修士(学位)(半数以上が修士の学位を保有。最近は修士博士以外採用しない都道府県も増えている)
  • 博士(学位)(全国の科捜研の博士学位保有者は合計80人程度、全体の約一割程度にのぼる。内容は医学博士、薬学博士、理学博士、工学博士、文学博士など)

警察官

警察官が配属される場合もある。研究補助や鑑定補助、庶務が主な業務である。科学捜査研究所長には警視が就任するのが一般的である。

業務

法医学(生物科学)分野鑑定

犯罪現場に残された血液(血痕)、体液(唾液、精液等)、毛髪、骨、組織など犯罪に関連する多くの資料について鑑定・検査を行う。これらの試料から、血清学的な手法による血液型検査や最新の科学力を導入したDNA型鑑定などを行う。

また、実際の犯罪現場でもルミノール反応など様々な検査を行う。たとえば、すでに被疑者が逃亡してしまったあとでも現場に残された痕跡からDNA照合で犯人の割り出しを行う。最近では足利事件飯塚事件にて昔のずさんな鑑定結果が発覚している。現在では鑑定精度は飛躍的に向上しているため、DNA鑑定で冤罪を引き起こす確率は低下している。

鑑定水準強化

2010年警察庁は30億円かけ47都道府県の科学捜査研究所に対して最先端水準のDNA型解析ソフトウェア、ジェネティックアナライザー、およびDNA抽出機器の設置している。

DNA鑑定の急増問題

DNA鑑定は平成18年以降、4兆7000億人に1人の割合でしか一致しないところまで精度が向上した。これにより鑑定結果の重要性が増している。さらに、裁判員制度が導入されたことからも、物証の重要性が増している。ここ五年で鑑定委託件数は30倍に増加。各都道府県警察は鑑識課の人員増員を行っている。しかし鑑定人は熟練が必要で、鑑定人育成のためには長い時間がかかる。このためDNA鑑定が追いつかず、鑑定待ちの資料が急増している。

専門分野

分子生物学、生化学、遺伝子工学、生物工学等

心理学分野鑑定

犯罪心理の研究、ポリグラフ等による虚偽検出等の業務を行う。

専門分野

生理心理学、認知心理学、社会心理学、犯罪心理学、犯罪精神医学、犯罪社会学等

文書鑑定

詐欺・贈賄・文書偽造などの鑑定を行う。裁判で証拠物件の検証のために鑑定を担当することもある。

物理学(工学)分野鑑定

火災、交通事故や放火、ひき逃げ、発砲事件での再現実験や調査、音声、音響などや電子機器、電子回路などの検査鑑定を行う。サイバー犯罪に使用されたコンピューターの 解析も行う。

専門分野

材料力学、流体工学、熱工学、システム解析学、情報工学、計算工学、電気工学等

化学分野鑑定

覚せい剤、麻薬、シンナー、大麻などの依存性薬物、中毒死事件の毒物薬物、放火事件で使用された油類、 不法投棄された廃棄物や産業排水の化学的鑑定、検査、油類、火薬類、金属類等各種工業製品の分析検査鑑定 薬類、爆発物、高圧ガス、放射性物質、その他危険物の取締りに関する業務を行っている。化学工場の爆発事故などが起これば 現場に出動し、原因解明を行うこともある。兵庫県にあるSPring-8で微量成分の解析分析も行う場合もある。

専門分野

分析化学、無機化学、高分子化学、有機化学、放射化学等

研究開発

鑑定業務の他に各々の分野において鑑定技術の研究開発を行っている。犯罪の手口が巧妙化しており、更なる精度の向上、簡略化、迅速性、冤罪防止の必要性があり、最新の機器を導入することとともに研究所としての技術向上のために研究開発は不可欠なものとなっている。 研究内容はそれぞれの研究所で得意とする専門分野があり主に専門に特化した研究開発を行っている。最新の技術を導入するために、大学や学術学会などと連携し研究開発を行うことが多い。研究員が博士の学位の取得のため研究所の支援のもと大学院に社会人博士として入学し博士の学位を取得するケースも増えている。現在、博士学位保有者が全国で80人程度となっている。最近では特許取得なども行われている。

捜査における位置づけ

鑑識課と合同で捜査のバックアップをすることもあるが近年は科捜研独自での科学捜査活動も行う。科学捜査官を募集したりなど刑事捜査に科学捜査を本格的に導入することが検討されている。複雑なハイテク犯罪の増加に対抗して鑑定研究費は拡大していくことが予想される。

鑑識課との関連

鑑識課は刑事警察が捜査対象とする全ての事件の鑑識活動(現場保存、現場観察、資料の保全)を行う。 科学捜査研究所は通常の捜査や鑑識活動では解明できない事案の鑑定や研究を行う。 鑑識課と科捜研は常に連携をとっており、事件発生の際は証拠品・遺留品情報が科捜研に届けられる。

所在地

類似する機関

  • 米国FBI研究所(FBI Laboratory Services)

科学捜査研究所を舞台とした作品

小説

テレビドラマ

同名の組織が登場するが、全くの無関係。これを踏まえて、「怪奇大作戦 セカンドファイル」(2007年)や「怪奇大作戦 ミステリー・ファイル」(2013年)では特殊科学捜査研究所に変更されている。

外部リンク