硬水

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硬水(こうすい)は、硬度の高いカルシウムイオンマグネシウムイオンが多量に含まれている。逆のものは軟水という。語源については、英語hard water を直訳したというもの、ご飯など物を硬くする成分を含んでいるため硬水といわれる(『豆を煮ると豆が固くなる水』、『絹を精錬するとき絹が固くなる水』というものがある)。

硬水は含有するイオンによって一時硬水と永久硬水の二種類に分けることができる。前者は石灰岩地形を流れる河川水、地下水などで、炭酸水素カルシウムを多く含み、煮沸することにより軟化することができる(反応式は後述)。後者はカルシウムやマグネシウムの硫酸塩・塩化物が溶け込んでいるもので、煮沸しても軟化されない。以前は飲用できない水であったが、現在はイオン交換樹脂で容易に軟化できる。

アメリカ合衆国ヨーロッパの水に多い。日本では関東地方の一部や沖縄諸島で見られる。日本では、ほとんどの地域の水は軟水であり、硬水が供給される沖縄本島では、水道水の硬度を下げる処理を施している。

利用

一般に、飲料水料理洗濯染色工業等の用途には適さない。

水に含まれるミネラルが多くなるほど口当たりが重く、癖の強い味になるため、ミネラルを多く含む硬水は軟水と比べて飲み辛く、飲用に適さないものが多い。

水分子と強く結合(水和)するマグネシウムイオンは体内に吸収されにくい。これを人間が摂取すると、大腸に長時間留まり、水の吸収を妨害する。この結果、腸内に水分が溜まり、下痢を起こすこととなる。このような理由で、硫酸マグネシウムを多く含む硬水を飲むと下痢をしやすくなる。しかし硬水の中でも飲用に適しているものも存在し、水に含まれているミネラルを栄養として利用するために、飲料として販売されているものもいくつか存在する。(例:コントレックスなど)

石鹸脂肪酸とナトリウムの塩であるから、硬水のマグネシウムイオンと出会うと不溶性の塩(石鹸かす)を生じるため使用感が悪い。また、衣類にその塩が付着するので色のくすみが生じ、衣料の保存中にそれが分解して脂肪酸になり異臭を発したりする。染色ではカルシウムイオンが染料と反応し、不溶性の色素が生じ、それが繊維と結びつくため、色ムラが生じる。

硬水が蒸発すると、含まれていた塩類が析出する。したがって自動車の洗浄に用いた場合などはすぐに拭き取らないと白い斑点が生じる。一時硬水を自動車のエンジンの冷却水として使用するとオーバヒート・水漏れなどの問題が生じる場合がある。また工業用ボイラーにおいては、加熱によってライムスケイル石灰, Limescale、缶石、水垢)が生じるため、パイプ詰まりを起こしたり熱効率を著しく低下させたりする。

料理

料理に使う場合も軟水の方が適している場合が多いが、肉の煮込み料理には余分なタンパク質などを灰汁として抜き出し、肉を軟らかく[1]したり臭みを消したりすることのできる硬水の方が適している。また、糊化が抑制されるためジャガイモでは煮崩れが抑制され[1]たり、や豆や米では堅く炊きあげる事ができる。

化学

硬水を煮沸すると炭酸カルシウムを沈降させることができる。

<math>\rm Ca(HCO_3)_2 \longrightarrow CaCO_3 + H_2O+ CO_2</math>

また、軟水化剤の投入でカルシウム塩を沈殿させることもできる。

<math>\rm Ca(HCO_3)_2 + Na_2CO_3 \longrightarrow CaCO_3 + 2NaHCO_3</math>

蒸気機関車が鉄道の主力であった時代は軟水の確保は深刻な問題であり、砂漠の中の機関車給水設備には必ず軟水化のための施設が付属していた。上述の式の右辺に生じる炭酸水素ナトリウムはボイラー中で炭酸ナトリウムになり、これは定期的に排水されて低濃度に保たれる。

<math>\rm 2NaHCO_3 \longrightarrow Na_2CO_3 + H_2O + CO_2 \uparrow </math>

脚注

テンプレート:Reflist

関連項目

  • 1.0 1.1 鈴野弘子、石田裕:水の硬度が牛肉,鶏肉およびじゃがいもの水煮に及ぼす影響 日本調理科学会誌 Vol.46 (2013) No.3 p.161-169