白頭山

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テンプレート:複数の問題 テンプレート:Infobox 山 テンプレート:Infobox テンプレート:中華圏の事物 白頭山(はくとうさん、朝鮮語백두산 ペクトゥサン Paektusan・テンプレート:簡体字)は、中国吉林省北朝鮮両江道の国境地帯にある標高2,744m火山。別名、長白山(ちょうはくさん、テンプレート:簡体字 チャンパイシャン)。

名称

中国吉林省と北朝鮮両江道の国境地帯にあるこの山は、古くは「不咸山」「白山」「太白山」と呼ばれたテンプレート:要出典。このうち「白山」「太白山」は中国でも朝鮮でも後世までこの山の別名としても使われた。李氏朝鮮の時代には「太白山」と呼んでいた。白頭山という名称の起源は不明である。

満族満州語ではゴルミン・シャンギヤン・アリン(Golmin Šanggiyan Alin、「どこまでも白い山」)と金 (王朝)の時代より使われ始めた。

清朝では長白山(ちょうはくさん。中国語长白山長白山 チャンパイシャン、Chángbáishān)と漢訳され定着している。同じく領土地域に含まれる朝鮮民主主義人民共和国では「金日成将軍の歌」など、長白山(チャンパクサン、Changpak san、朝鮮語창바이 산)の名称を長らく用いてきたが、近年では白頭山を使うのが一般的になってきているテンプレート:要出典

呼称問題

現在も実効支配の領土地域ではないが、韓国は「長白山」呼称は中国による侵略の残滓であるとして国際的な呼称問題運動を展開して摩擦を起こしてきた[1](また領有権について歴史認識問題も発生している(#領有問題)。その結果、近年では「長白山」より「白頭山」の名称が先に記述されたり、世界各国でアルファベット表記のPaektusan、Baekduが採用されるにいたって、後手にまわった中国や香港、台湾で反発の声があがり、「長白山」の名称を積極的に使うように各地で巻き返し運動が展開されている[2]

地質学的特徴

山の中央部は、地下のマグマの上昇圧力により、毎年3mmずつ上昇を続けている。また、黒曜石の産地でもあり、朝鮮半島北部の旧石器時代から新石器時代の遺跡で出土する石器に用いられる黒曜石の産地は白頭山であることが多く、既に黒曜石を介した交易が存在したとされている。

天池

頂上には天池(ティエンチ)と呼ばれるカルデラ湖がある。満州を潤す松花江、および中国と北朝鮮の国境である鴨緑江豆満江はこの山を源と発している。天池は周囲12kmから14kmで水深の平均は213m、一番深い部分は384mとなっている。10月中旬から6月中旬までは天池はに覆われる。

天池の周りは2,500mを超す16つのが取り囲んでいる。その最高峰は将軍峰であり一年の8ヶ月はに覆われている。

天池から北に出る川があり、出てすぐのところで落差70mの長白瀑布を形成している。

山麓

山麓は、朝鮮側は朝鮮半島摩天嶺山脈などの高原地帯、中国側はなだらかな傾斜が東北平原まで続く。中国側の山麓では、朝鮮人参の中国版とも言える長白山人参(又は中国産朝鮮人参)が栽培され、日本などに輸出されている。この他、中国側では様々な薬草が栽培されている。

気候

白頭山の気候は非常に移り気である。山頂の年平均気温は摂氏マイナス8.3度である。夏の間は18度に届く時もあるが、厳冬期はマイナス48度にまで下がる時がある。1月の平均気温はマイナス24度、7月の平均気温は10度であり、一年のうち8ヶ月は気温はマイナスに下がる。山頂の平均風速は秒速11.7m、12月には平均で秒速17.6mの強風となる。平均湿度は74%。

火山活動

近代的な火山研究が始まったのは1900年代以降で活動歴の解明は進んでおらず、研究者により様々な年代の噴火説が出されている。周辺国の歴史記録書に白頭山の火山活動を示唆する記述がある[3]

10世紀の活動

白頭山は約1万年間の活動休止期間後の10世紀前半に過去2000年間で世界最大級とも言われる巨大噴火を起こし、その火山灰は偏西風に乗って日本の東北地方にも降り注いだ(白頭山苫小牧テフラ(B-Tm))[5][6]。この噴火と926年の渤海滅亡との因果関係が指摘されているが、各種の年代推定は940年前後を示唆するものが多く直接の関係はないとの見解が有力である[7]

噴出物の地質調査結果[8]によれば活動は6ステージに分けられる。

  1. A:一連の活動に先立った活動と考えられ、二道白河泥流堆積物を形成した活動で、現在の二道白河最上流部で大崩壊が発生。
  2. B:ブリニアン噴火による白頭降下軽石層。白頭山の東方向から東南方向に堆積している灰白色粗粒降下軽石層を形成。
  3. C:長白山火砕流堆積物を形成する活動で破局的噴火。珪長質軽石を主成分とし平均体積厚数メートルで山体の周辺に広く分布する。総体積は、101km3と推定されている。
  4. D:両江火山砂礫層。AとCの活動による噴出物が北麓に堆積し、洪水・氾濫により段丘を形成している。山頂から70kmの距離で10m程度の堆積厚が確認された場所もある。
  5. E:円池降下軽石・火山灰層。山頂から東方向に分布する軽石・火山灰層を形成した活動。砂が風によって移動し各所に砂丘が形成されている。
  6. F:北麓の海抜1100m以上に分布する白山火砕流堆積物を形成した活動。

噴火の兆候

2006年10月20日現在、ロシア非常事態省は、白頭山に噴火の兆候があると発表している。そして2010年6月19日には、釜山大学の尹成孝(ユン・ソンヒョ)教授が、中国の火山学者の話として、2014-2015年に噴火する予測を立てていることを韓国各紙で明らかにしている[9]。2002年以降、地震の回数が以前よりも約10倍に増加。頂上の隆起・カルデラ湖や周辺林からの火山ガスの噴出が確認されている。もし大規模な噴火が起これば、その規模は2010年のエイヤフィヤトラヨークトルの噴火の約1000倍となり、極東地域では甚大な被害が予想され、大韓民国気象庁が対策に乗り出し始めている。なお、白頭山の噴火間隔は約100年とされている[10][11]

2010年のアイスランドの火山噴火や、2011年3月の東日本大震災が発生してから、諸国の学界では白頭山噴火の可能性が提起され、北朝鮮でも噴火説が広まっている[12]

歴史

白頭山は渤海が滅亡する926年までは渤海領であり、その後は渤海を滅ぼした契丹)の領土になった。その後はの領土、モンゴル帝国の領土と変遷していった。

朝鮮人が白頭山を領有するようになったのは李氏朝鮮世宗(在位:1418年 - 1450年)の時代になってからであり、世宗は鴨緑江・豆満江沿いの要塞化を進め、白頭山は朝鮮民族と北方民族との境界となった。

白頭山信仰

朝鮮民族

白頭山は周囲に住む民族から崇拝を受けてきた。文化信仰としてはまず、韓国でも北朝鮮でも、『三国遺事』が引用する「朝鮮古記」による「檀君神話」が国定教科書で教えられていて、最初期の朝鮮国が白頭山で起こり、その後、平壌に遷都したので、白頭山は「朝鮮民族の揺り籠」であると多くの人が信じている。

しかしその根拠になっている『三国遺事』に登場する山の名前は太伯山で、今(『三国遺事』が書かれた当時の今)の妙香山(北朝鮮の平安道にある山)だと書かれている[13]。なお「三国遺事」の第三巻に含まれる「臺山五萬真身」と「溟州五臺山寶叱徒太子傳記」に白頭山という名称が見受けられ、これが朝鮮の文献における白頭山という名称の初出であるが、これは現在の江原道内の山であって現在の白頭山のことではない。仏教関連の項目に、中国の五臺山などと共に、仏教の修行地として登場している。

女真・清朝における白頭山信仰

白頭山周辺は、もともと・貊・粛慎が居住しており、彼らの聖地だったテンプレート:要出典。その後この地における濊貊の勢いは衰え、粛慎の後裔とされる女真満州族)が霊山としていた。女真のは、1172年には山に住む神に「興国靈応王」の称号を贈り、1193年には「開天宏聖帝」と改めている。は女真語の呼称を「長白山」と漢訳し、金と同様、この山に対する毎年の典礼を行った。清朝の歴史書『満洲実録』によると、清朝の皇室愛新覚羅氏の祖先は長白山の湖で水浴びをしていた三姉妹の天女の末の妹が、天の神の使いのカササギが運んできた赤い実を食べて妊娠して生んだ男の子ブクリヨンションである。ブクリヨンションは成長後、母から乱れた女真の国を治める天命を受けて生まれてきたことを聞かされ、長白山から船に乗って川を下っていき、争っていた女真の人々はブクリヨンション見て争いやめ、王として仰いだ。清朝時代には長白山は神聖な山としてあがめられた。また東三省封禁地とされたため東三省に含まれる長白山も自動的に一般人が立ち入ることは禁止されていたテンプレート:要出典

近代

近代朝鮮のナショナリズム

朝鮮王朝末期の19世紀終わりから20世紀にかけて、白頭山を朝鮮人のナショナリズムの象徴とする運動が生まれ、それ以降、大韓民国北朝鮮双方の国歌や朝鮮民族の代表民謡であるアリランでも歌われるようになった。過激な韓国人民族主義者が白頭山を自国領と主張するパフォーマンスが行うことがあり、中国を警戒させている[14]

抗日ゲリラの拠点 (聖地)

テンプレート:Main 第二次世界大戦前は、満州国との境界であったことから、白頭山山麓の針葉樹の密林は反満抗日ゲリラの拠点ともなり、しばしば日本軍によるゲリラ掃討戦が繰り広げられた。

金日成は、自分が白頭山を根拠とするゲリラパルチザン)の指導者であり、小白水の谷にある白頭山密営で金正日が生まれた、と自称しており、現地では「生家」とともにそのような案内が行われているが、証言などから「金正日ロシアソ連極東生まれ説」が有力となっている。テンプレート:Mainテンプレート:See also

領有問題

ファイル:Apprx. PRC-DPRK border around Baekdu-Changbai Mountain.PNG
おおまかな白頭山付近の中朝国境線(Google map
清・朝鮮定界碑

朝鮮人が満州豆満江以北地域である間島へと移住する動きが絶えず、1712年と朝鮮の役人達は白頭山の分水界に国境を示す定界碑を建てた。ここに書かれた、国境を「西方を鴨緑とし、東方を土門とする」という表記の解釈をめぐり、土門を豆満江とする清側の主張と、土門江(松花江支流)とする朝鮮側の主張が19世紀末から20世紀はじめにかけてぶつかりあったテンプレート:要出典

中朝辺界条約

1962年に結ばれた中朝辺界条約によって天池上に中朝国境線が引かれ、中国側の主張を北朝鮮が呑む形で終結した。この条約により天池の54.5%が北朝鮮に、45.5%が中国領としてほぼ半分に分割される事になった。これに対して韓国のメディアや世論は批判的であり、松花江を境界とする主張を続けているテンプレート:要出典

韓国における主張

中国と北朝鮮の間では国境が画定しているが、中国と韓国の活動家グループの間で、白頭山および間島地域の領有権論争がある。韓国の活動家は、中国側で近年行われている経済開発、文化イベント、インフラ整備、観光資源開発、世界遺産への登録申請、冬季オリンピックの招致などはすべて、この白頭山地域全体の領有権を主張する動きの一環だとしている。中国側でこの地域を「長白山」と呼ぶこと自体に対しても韓国側は歴史の歪曲だとし反発している。中国側は「東北工程」プロジェクトでこの地域を研究に含んでいる[15][16][17]

高麗史」に、第6代高麗王成宗(在位:981年 - 997年)の時代の990年10月に「逐鴨緑江外女眞於白頭山外居之」という記述があるが、韓国ではこの文章を「鴨緑江を渡ってきた女真族を白頭山の外側に追いやった」という意味だとの漢文としては不自然な読み方をして中国の東北工程に対抗しているが、この漢文を普通に解釈すれば高麗の王都からみて鴨緑江よりも手前に白頭山があることになる。よって、この頃の白頭山という名称が現在の白頭山を指していたとは考えられないテンプレート:要出典。白頭山は926年までは渤海領であり、その後は渤海を滅ぼした契丹)の領土、その後はの領土、モンゴル帝国の領土と変遷していったため、高麗が現在の白頭山を領有したことはなかった。また韓国は朝鮮半島の北部を実効支配はしていない。

観光

ファイル:Changbai Mountain Entrance.JPG
長白山の入口 2009年撮影
  • 鴨緑江: 白頭山(長白山)を源にし、中朝国境を境に成して黄海へと流れ込む全長803kmの川(北朝鮮最長)。
  • 長白瀑布: 白頭山には他に兄弟の滝、思技文の滝がある。
  • 天池: 白頭山頂にあるカルデラ湖。約100万年前に生じた。朝鮮の日の出は天池に始まると言われ、それは世にまれな神秘境を呈す。雪の中に咲くシロバナシャクナゲと湖水に棲むイワナが有名。
  • 無頭峰: 白頭の橋から8km下りて行くと見られる標高1,930mの峰。踏査者の利用する無頭峰宿営閣がある。
中国の観光政策

大瀑布温泉などがあることから、中国政府外貨獲得のため観光地化を進めている。日本や韓国からツアー客が訪れる際は、交通等の便が良い中国側から主に入山する。また夏季を中心として(7 - 9月頃)北朝鮮側(平壌からチャーター航空便を利用して三池淵へ飛行)からのツアーも行われている。最近、韓国の現代峨山が韓国から白頭山に向かう観光ツアーの実現について北朝鮮側と交渉を続けているが、今もって条件面で折り合いがついていないテンプレート:要出典

スポーツ

  • 2009年2月18日から28日に中国で開催された第24回世界ユニバーシアード冬季競技大会は大成功を収めた。これをきっかけに、中国政府は黒竜江省ハルビン市と中国側の長白山地域(吉林省長春市)にて、2018年冬季オリンピックの招致に立候補することを表明していたが[18]、最終的に立候補を見送っている。

日本の気候への影響

白頭山はユーラシア大陸から日本に向け吹き付ける冬の季節風の経路中にある為、山体により気流が乱され日本海にカルマン渦や帯状対流雲を発生させる事がある。この現象が発生すると、雲がぶつかる地域で局地的な大雪となる[19][20][21]

その他

  • 外国メディアとしては初の白頭山(北朝鮮側)長期取材が行われ、2001年NHKスペシャルとして放送された。

ギャラリー

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

関連項目

テンプレート:Sister

外部リンク

写真
テンプレート:東・東南・南アジアにおける領有権紛争
  1. 韓国チームの「白頭山はわが領土」セレモニーに中国が抗議 中央日報 2007年2月1日
  2. 長白山のイメージ強化のため、18の学校名を変更―吉林省長春市 レコードチャイナ 2007年2月4日
  3. 3.0 3.1 テンプレート:PDFlink
  4. テンプレート:PDFlink
  5. 早川由紀夫・小山真人日本海をはさんで10世紀に相次いで起こった二つの大噴火の年月日-十和田湖と白頭山』、『火山』43巻5号、403-407頁、日本火山学会、1998年。
  6. 朝鮮日報、2011/01/29 09:44:11【萬物相】九州の火山噴火。「946年の白頭山噴火の際には、およそ1000億から1500億立方メートルの火山灰が噴き出した。」(クラカトアは200億)
  7. テンプレート:Cite web
  8. 中国長白山の大噴火とその森林生態系に与えた影響 地学雑誌 Vol.97 (1988) No.6 P634-637
  9. 白頭山、4~5年以内に噴火か中央日報、2010年6月20日
  10. 白頭山4、5年以内に噴火も=日本に火山灰、韓国政府が対策、時事ドットコム、2010年6月19日
  11. 中朝国境の白頭山が5年以内に噴火の恐れ、威力はアイスランド火山噴火の1千倍?ー韓国紙レコードチャイナ、2010年6月21日
  12. 2011年11月7日・週刊北韓動向第1075号
  13. 古朝鮮王儉朝鮮
    魏書云 乃往二千載 有壇君王儉 立都阿斯達經云無葉山 亦云白岳 在白州地 或云在開城東 今白岳宮是 開國號朝鮮 與高同時
    古記云 昔有桓因 謂帝釋也 庶子桓雄 數意天下 貪求人世 父知子意 下視三危太伯 可以弘益人間 乃授天符印三箇 遣往理之 雄率徒三千 降於太伯山頂 即太伯今妙香山 神壇樹下 謂之神市 是謂桓雄天王也 將風伯雨師雲師 而主穀主命主病主刑主善惡 凡主人間三百六十餘事 在世理化 時有一熊 一虎 同穴而居 常祈于神雄 願化爲人 時神遺靈艾一炷 蒜二十枚曰 爾輩食之 不見日光百日 便得人形 熊 虎得而食之 忌三七日 熊得女身 虎不能忌 而不得人身 熊女者無與爲婚 故毎於壇樹下 呪願有孕 雄乃假化而婚之 孕生子 號曰壇君王儉
  14. http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=84247&servcode=200&sectcode=200
  15. "Beijing Eyeing N.Korean Territory: Lawmaker", 朝鮮日報, September 7, 2006. テンプレート:En icon
  16. "China Seeks U.N. Title to Mt. Baekdu", 東亜日報, July 31, 2006. テンプレート:En icon
  17. ショートトラック女子韓国代表「白頭山は韓国の領土」』、スポーツ朝鮮/朝鮮日報JNS、2007年2月2日。
  18. テンプレート:Cite news
  19. テンプレート:PDFlink
  20. NASA散乱計(NSCAT)で観測された寒気吹き出し時の日本海の風の収束帯 本リモートセンシング学会誌 Vol.17 (1997) No.5 P518-523
  21. 冬の季節風時の日本海上の収束雲帯の構造 ournal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II Vol.62 (1984) No.3 P522-533, テンプレート:JOI