雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

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テンプレート:Infobox 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(こようのぶんやにおけるだんじょのきんとうなきかいおよびたいぐうのかくほとうにかんするほうりつ、昭和47年7月1日法律第113号)は、男女の雇用の均等を目標とする日本の法律。通称は男女雇用機会均等法(だんじょこようきかいきんとうほう)。

概説

この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする(第1条)。

男女の雇用機会の均等については、本法が制定される以前から裁判所による政策形成によって「どのようなケースが男女の雇用機会均等に反するか」といった体系ができあがっており[1]、本法は、施行当時はこの裁判所が作り上げた体系を越える内容は盛り込まれなかった。例えば、裁判所は定年解雇に対しては積極的に新たな判断基準を示していった一方で、採用などの男女間の差に対しては、特にアプローチをしていなかったが、本法も定年や解雇については男女間の差別を禁止する一方で、採用などで努力規定しか盛り込んでいない[2]

構成

第一章 総則(第1条~第四条)
第二章 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等
第一節 性別を理由とする差別の禁止等(第5条~第10条)
第二節 事業主の講ずべき措置(第11条~第13条)
第三節 事業主に対する国の援助(第13条)
第三章 紛争の解決
第一節 紛争の解決の援助(第15条~第17条)
第二節 調停(第18条~第27条)
第四章 雑則(第28条~第32条)
第五章 罰則(第33条)
附則

性別を理由とする差別の禁止

事業主は、労働者の募集・採用、配置・昇進・降格・教育訓練、福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新について、性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない(第5条、第6条)。たとえば、以下のような措置は法違反となる。

  • 男性または女性についての募集又は採用する人数の限度を設けること(「男性10名、女性5名」など)
  • 男性または女性を表す語を含む職種の名称を用いること(他方の性を排除しないことが明らかである場合を除く)
  • 「男性歓迎」「女性歓迎」「男性向きの職種」「女性向きの職種」等の表示を行うこと
  • 採用活動において、男性(女性)に送付する会社の概要等に関する資料の内容を、女性(男性)に送付する資料の内容より詳細なものとすること
  • 営業、基幹的業務、海外で勤務する職務等の配置に当たって、その対象を男性(女性)労働者のみとすること
  • 昇進試験を実施する場合に、合格基準を男女で異なるものとすること
  • 一定の役職を廃止するに際して、当該役職に就いていた男性(女性)労働者については同格の役職に配置転換するが、女性(男性)労働者については降格させること
  • 教育訓練、工場実習、海外での留学による研修等の対象者を男性(女性)労働者に限ること
  • 教育訓練の期間や課程を男女で異なるものとすること
  • 一定の役職に昇進するための試験の合格基準として、男性の適性を考えた基準と女性の適性を考えた基準の双方を用意すること

ただし、業務を行う上で片方の性別でなければならない理由があれば、除外される。

  • 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から片方の性別に従事させることが必要である職業
  • 守衛、警備員等防犯上の要請から男性に従事させることが必要である職業
    • 現金輸送車の輸送業務等
  • 宗教上、風紀上、スポーツ競技の性質上その他の業務の性質上いずれか一方の性別に従事させることについて、上記2件と同程度の必要性があると認められる職業
    • 宗教上(神父巫女等)
    • 風紀上(女子更衣室の係員等)
    • 業務の性質上(ホストホステス等)
    • スポーツの実業団チームの男子部員、又は女子部員

事業主は、以下の措置については、当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない(間接差別の禁止、第7条)。なお、本法で法違反として指導の対象となる間接差別はこの3例に限られ、争いのあるすべての事例が指導の対象となるわけではない。

  • 募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重又は体力に関する事由を要件とすること
  • コース別人事制度における「総合職」の募集又は採用に当たって、全国転勤(住居の移転を伴う配置転換)に応じることができることを要件とすること
  • 昇進に当たって、転勤(異なる事業場への配置転換)の経験があることを要件とすること

第5条、第6条、第7条にあたる差別的取り扱いについては不利に取扱う場合だけでなく有利に取扱う場合も含むが、事業主が、職場における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者を有利に取扱う措置(ポジティブ・アクション)を講ずることは認められる(第8条)。

変遷

年月日は、施行日。

  1. 1972年(昭和47年)7月1日-「勤労婦人福祉法」
  2. 1986年(昭和61年)4月1日-「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」
  3. 1997年(平成9年)10月1日-「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女性労働者の福祉の増進に関する法律」
  4. 1999年(平成11年)4月1日-「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」
  5. 2007年(平成19年)4月1日-改正法施行

元は昭和47年(1972年)に「勤労婦人福祉法」として制定・施行されたが、女子差別撤廃条約批准のため、昭和60年(1985年)の改正により「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」となる。同時に、労働基準法も妊産婦などの育児時間や出産前後の休みの規定など65条以下があわせて改正された(労働基準法第6章の2)。

この法律は当時の国会が男女の差別を無くすために制定したと言うよりは、女子差別撤廃条約によって1985年(これは、女性の10年の最後の年に当たる)までに法律を整備する必要に迫られていたため、制定したという意見がある[2]

1999年改正による禁止規定

1999年4月1日の改正により、募集・採用、配置・昇進、教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇において、男女差をつけることが禁止された。制定当初、募集・採用、配置・昇進については努力目標とするにとどまっていたが、この改正で禁止規定とした。

また、労働基準法の改正(1997年)とも連動するが、女性に対する深夜労働・残業や休日労働の制限(女子保護規定)が撤廃されている。この改正以降、たとえば鉄道の乗務員など、深夜勤務が必然的に伴う職業への女性の就業が増加している。

1999年改正法の問題点

本法は女性差別をなくす趣旨で制定され、男性差別を直接規制していなかった。つまり、「女性であることを理由とする差別」を禁止していながら、「男性であることを理由とする差別」については禁止されていなかったのである。そのため、男性を理由とした不採用とされる事例もあった。たとえば、事務職、看護師などの職種で、男性であることを理由に採用しない事業者があったという[3]

それゆえに、法の運用にあたる司法で、本法の精神を適切に反映した実務が行われていないという批判がある(「司法における性差別」日本弁護士連合会明石書店等)。

その他

この法律に違反した事を直接の理由として刑罰が課される事はないが、「募集及び採用(5条)、配置、昇進、降格及び教育訓練(6条1号)、福利厚生(6条2号)、退職勧奨、定年、解雇及び労働契約の更新(6条3号)、性別以外の事由を要件とする措置(7条)における差別的取扱い禁止項目に違反した、またはセクシュアルハラスメント防止措置(11条)、妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(第12条)を怠った事業者に対しては、厚生労働大臣は勧告を行い、勧告を受けた事業者がこれに従わなかった場合は、その旨を公表することができる(30条)」という規定があり、これが違反者に対する実質上の社会的制裁として、一定の拘束力は有しているとされる。

脚注

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関連項目

外部リンク

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  1. 例として、日産自動車事件では、性別を理由とする不合理な差別は公序良俗(民法第90条)に反し無効と判事した。
  2. 2.0 2.1 『裁判と社会―司法の「常識」再考』ダニエル・H・フット 溜箭将之訳 NTT出版 2006年10月 ISBN:9784757140950』
  3. 2006年5月14日付配信『就職性差別:大阪の男性が提訴 派遣会社に賠償求める』毎日新聞