炭化ケイ素

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テンプレート:Infobox 化合物 炭化ケイ素Silicon Carbide化学式SiC)は、炭素(C)とケイ素(Si)の1:1 の化合物で、天然では、隕石中にわずかに存在が確認される。鉱物学上「モアッサン石」(Moissanite)と呼ばれ、また、19世紀末に工業化した会社の商品名から「カーボランダム」と呼ばれることもある。

ダイヤモンドの弟分、あるいはダイヤモンドシリコンの中間的な性質を持ち、硬度、耐熱性、化学的安定性に優れることから、研磨材、耐火物、発熱体などに使われ、また半導体でもあることから、電子素子の素材にもなる。

結晶の光沢を持つ、黒色あるいは緑色の粉粒体として、市場に出る。

結晶構造

SiとCは、いずれも周期表上で同じIV族に属することから、基本的には共有結合性であるが、電気陰性度の違いによりイオン性を持つため、1対1の定比化合物として安定に存在する。

図1で結晶構造を説明する。

図の左半の正三角形に筋目をつけて折り上げ、接する稜線を貼りつければ、正三角形四枚を表面とする正四面体ができる。その四つの頂点にSi原子あるいはC原子、そして重心の位置にC原子あるいはSi原子を置いた正四面体から、炭化ケイ素の結晶を組みあげることができる。ちなみに、ダイヤモンドでは頂点と重心位置とがすべてC、シリコンではすべてSi、高圧窒化ホウ素ではBとNである。

ダイヤモンドの弟分、あるいはダイヤモンドシリコンの中間的な性質はここからくる。

その正四面体を密に平面上に並べると、図の右半の網目模様となり、正三角形の中央で120°間隔の三本足をつけた黒丸が正四面体の頂点の原子たち、それ以外の黒丸が正四面体の底面の原子たちである。正四面体の詰まった層が一つできた。その第1層の上に乗る第2層の正四面体は、第1層の頂点たち、すなわち三本足つき黒丸を足場に並べることになる。その場合、図の右端に斜線をつけた(<)と(>)の二通りの並べかたがあり、この(<)か(>)かが炭化ケイ素に多くの結晶多形(ポリタイプ)を作ることになる。第1層は(<)の向きに描いてある。

斜線つき正三角形の(<)か(>)かのいずれかで第2層を並べてゆく。第2層の頂点は、斜線つき正三角形の中央、すなわち、図で"<"の記号、あるいは">"の記号を囲んだ白丸の所になり、そこが第3層を積む足場になる。以下同様……。

第1層の底面 → 第1層の頂点(兼第2層の底面) → 第2層の頂点(兼第3層の底面)、と原子をたどると、(<)で積む場合は一様に右上がりに、(>)で積む場合は右上がりだったのが左上がりに折れる。そして、図の">"の記号を囲んだ白丸の真下には第1層の底面の原子がある。すなわち、(<)の向きの第1層に(>)の向きの第2層を重ね、その上にまた(<)の向きの第3層というふうに(<)(>)(<)(>)(<)(>)……と積むと、原子はジグザグを描いて上がり、2層が一周期になる。この結晶は六方晶系の(hexagonal)対称性を持つから、2Hと記号し、また、(<)が1つ、(>)が1つだから、ジグザグを11と書く。つぎに、(<)(<)(<)(<)……と積むと3層が一周期になり、立方晶系の(cubic)対称性を持つから、3Cと記号する。

何十種類も知られている炭化ケイ素の多形の、繰り返し周期の小さい方の幾つかを表1に書く。

表 炭化ケイ素結晶の多形の例
記号 晶系 ジグザグ 同類
2H 六方晶 11 ウルツ鉱型窒化ホウ素
3C 立方晶 ダイアモンド、立方晶窒化ホウ素
4H 六方晶 22
6H 六方晶 33
8H 六方晶 44
10H 六方晶 55
15R 菱面体晶 (32)3

3Cが立方晶であることは、図1の網目模様を立方晶の(111)面として眺めれば理解できる。(0,0,0)と(1/4,1/4,1/4)とを原点として重なる二つの面心立方格子と考えてもいい。Siの面心立方とCの面心立方との組合わせである。15Rのジグザグの(32)3は、(<)(<)(<)(>)(>)を三回繰返して一周期と読む。Rは、6枚の菱形に囲まれた菱面体晶の(rhomboheral)対称性を持っているという意味である。同じく図1を(111)面として眺めればいい。立方体をつまんで引き伸ばせば菱面体になる。この対称性を持つのは、周期の数が15、21、27……など、奇の3の倍数の場合である。

以上、多形の種類は多いが、同じ結晶層を重ねるときの(<)か(>)かの向きの違いだけにより、したがって隣り合うSi-Cの原子間距離は多形によらず、密度もすべての多形で同じである。また、次項の工業的製造法で生産される炭化ケイ素中の多形は、4H、6H、15Rが圧倒的に多い。そして結晶粒の強さの度合が、それら3種間で異なるという証拠はない。

工業的製造法

ここでいう「工業的」とは、一度に10トンの単位で作られ、製品が最高純度ではないというような意味の、19世紀末以来の方法である。

ファイル:SiC Furnace.png
図2 炭化ケイ素の製造炉 左:長さ方向の断面 右:横方向の断面
図2の左は、炉の長さ方向の断面で、10mよりは長い。左右端部の黒いのは黒鉛電極で、それらを結ぶ黒まだらは黒鉛の粉、その上下は、ケイ石、コークス他の原料である。

電極に電圧をかけると、黒鉛粉が発熱して周囲の原料を加熱する。1500℃を越えると微細な3Cが生成しはじめ、昇温とともに3Cは消え4H、6H、15Rなどが発達するが、この環境では、2200℃以上でそれらは分解して黒鉛の粉を残す。反応は SiO2+3C→SiC+2CO でまとめられる。

電圧を切ったあとの横方向の断面が図2の右である。同心円の中心部の黒鉛粉はSiCが分解した分だけ太り、その外側に(斜線を付けた)SiCの塊がチクワ状に生成する。その外側は温度が1500℃くらいにしか上がらなかった3Cの薄い層、その又外側は反応しなかった原料で、未反応物は次の操炉の原料に混ぜる。 SiCの塊は、中心から外側へ放射状に発達した結晶粒の集まりで、通気性に富む。

炉に原料や黒鉛粉を積む → 通電する → 停めて冷す → SiC塊を取出すの各工程の長さは、数日ずつである。

この炭化ケイ素の製造には多量の電力が必要で、安価な電力が得られる立地で行われる。

製品の塊から不純物を除き、粉砕し、さらに不純物を除き、粒度ごとに篩い分け、製品にする。

性質

表2に、周期表IV族の三兄弟、C、SiC、Siの性質を並べる。炭素原子よりシリコン原子の方が大きいから、C<SiC<Siと原子間距離は広がり、熱伝導率は小さくなり、硬さは下がる。表の熱伝導率に幅があるのは、純度による。ヌープ硬度は、結晶面によって違う。

表 C, SiC, Siの特性の比較
特性 単位 ダイヤモンド 炭化ケイ素 シリコン
原子間距離 nm 0.154 0.188 0.235
密度 g/cm3 3.513 3.217 2.330
熱伝導率 W/m/K 600~2000 100~350 168
ヌープ硬度 kgf/mm2 7000~8000 2500~3200

炭化ケイ素の特長はまずその硬さで、滑石を1、ダイヤモンドを15とする修正モース硬度の序列では、13である。

純粋な炭化ケイ素は無色透明と言われ、工業製品は緑色から黒色を呈するが、製造の環境を清浄にするほど色が薄くなる。緑ないし黒の着色は、窒素、アルミニウムなどIII族V族元素の原子が結晶格子に入り込んで作る不純物準位による。

したがって結晶の電気抵抗は色が薄いほど桁違いに高く、発熱体の原料に使用されるのは緑色品である。 (半導体材料として用いられる基板は6H-SiC n型・・・青緑色(エメラルドグリーン)、4H-SiC n型・・・緑色、3C-SiC・・・黄色。ただし、オフ角度が0度になると白濁したり、色が変化する場合がある。基板濃度でも変わる。また、p型でも白濁する場合がある。{1-100}面や{11-20}面は焦げ茶に近い。)

炭化ケイ素は800℃以上の大気中で酸化するが、表面に生成するSiO2が酸化を遅める保護被膜になる。液体にはならない。2545℃で昇華するといわれる。

フッ化水素硫酸硝酸の混合液にはわずかに溶ける。ある種の溶融塩および融鉄には溶ける。

用途

研磨材、耐火煉瓦原料鋳鉄への加炭化ケイ素剤、高級釣り竿リール竿)のガイド(釣り糸を通す輪)、登山鉄道車両非常ブレーキ用シューなどに大量に使われる。鋳鉄用は低純度品である。

電気素子の素材としては、発熱体アレスタバリスタなどに長く使われてきた。シリコンに比べてバンドギャップが大きい事から、高温、高線量下で利用できる半導体材料として注目され、1980年代以降の結晶成長技術の発展にともない、青色発光ダイオード、高速ショットキーバリアダイオードMOSFET電界効果トランジスタ)、などに使われるようになった。熱伝導率が高いので、他の半導体の基板としても重宝がられている。

ファインセラミックスエンジニアリングセラミックスとしての用途も、開けている。金型プレス成形、静水圧成形、射出成形、スリップキャスト成形、押出成形、などの成型法、反応焼結、常圧焼結、加圧焼結、再焼結などの焼結法が行われている。

近年、ディーゼル車排出するの集塵用フィルター(DPF)材料としての用途が急拡大されている。

また、大粒のものを装飾用宝石として用いる、果ては「モアッサナイトダイヤモンド」と称してダイヤモンドの一種であるかのように扱い、高額で売却する悪質な例もある。

関連項目

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