海底軍艦 (映画)

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海底軍艦』(かいていぐんかん、英題:Atragon)は、1963年(昭和38年)12月22日に公開された、東宝制作の特撮映画。正月興行作品。併映はハナ肇とクレージーキャッツ主演の『香港クレージー作戦』(監督:杉江敏男)。

1968年8月1日には、『怪獣総進撃』の併映として再上映されている。

概要

原作は1900年に発表された押川春浪の小説『海底軍艦』だが、映画での登場人物や設定はオリジナルのもので、「少数の人員が孤島で海底軍艦を建造する」という大まかなストーリー以外ほぼつながりはない。脚本の関沢新一は、「海底軍艦は子供のころに読んで、とにかく“ロマン”というイメージがあった。現代の設定に置き換えるに当たり、このロマンをどう描くか考えた」とコメントしている。やはり原作どおりの「ロシアが敵役」などの設定は時代的に無理ということで、敵を架空のムー帝国とし、自身が戦時中関わった、南方前線での寄せ集めの機材による戦闘機建造の体験をベースに、骨太のストーリーを構築している。

前年からこの年にかけて、東宝では当作の他に、『太平洋の翼』、『青島要塞爆撃命令』、『マタンゴ』と特撮の比重の大きな作品が続けざまに組まれており、円谷英二ひとりが全ての特撮現場を任じていた円谷組特撮班の撮影スケジュールは、過密状態となっていた。このため、当時の東宝特撮の正月映画としては、本作の特殊撮影のスケジュールは約2カ月(当時の平均は3カ月)と、やや短めである(本編撮影は従来通り約1カ月)[1]

円谷監督は過密な撮影スケジュールを鑑み、戦時中に円谷門下だった川上景司をB班監督に起用して対応している。川上は円谷と袂を分かって松竹映画に引き抜かれていった過去があるが、円谷はまったく意に介せず、翌年には「円谷特技プロダクション」のスタッフに招いてみせ、その度量の広さは関係者の語り草となった。

ラストシーンの海上爆発は、キャメラを上下逆にして、水槽に絵の具を落として表現している[2]。丸の内崩壊シーンの冒頭に、マンホールの蓋が蒸気で吹き飛ぶカットでは、マンホールの蓋を軽いウェハースで作って撮影した。人工衛星のカットには、『地球防衛軍』や『宇宙大戦争』の宇宙ステーションの映像が流用されている。

田中友幸プロデューサーは、この映画に登場する「神宮司八郎」の名がお気に入りで、自らのペンネームにもしている。

英題は "Atragon"。好評だったらしく、実際には続篇ではない『緯度0大作戦』が、海外では "Atragon II" の題名で公開されている。ドイツでは"U2000"という題になっている。轟天号の英語名Atragonの由来は"Atomic dragon"。

本作のDVDは封切り公開40周年を記念して、2003年10月24日に発売された。Blu-rayディスクは2010年3月19日発売。

あらすじ

日本の土木技師が行方不明となる事件が相次いでいた。こうした事件の現場に居合わせたカメラマン旗中進西部善人は、被写体としてスカウトしようと光國海運の楠見専務の秘書、神宮司真琴を追跡し、楠見と真琴がムウ帝国工作員23号と名乗る怪人と工作潜水艦に誘拐されようとするのを阻止する。

後日、ムウ帝国からの脅迫フィルムが届いた。それは1万2千年前に海底に沈んだ伝説上の大陸ムウ大陸を支配した帝国が、地熱を資源とする強大な科学力をもって今なお健在であると示し、神宮司大佐の「海底軍艦」の即時建造中止と、かつてのムウ帝国の植民地であった地上全世界の即時返還を要求していた。同じ脅迫フィルムが国連の場にも届けられていたが、即時黙殺された。だが、世界各地の海岸地域での大陥没や、貨物船が謎の潜水艦に襲撃・撃沈されるなどの異変が相次ぎ、世界各国は総合防衛司令部を設置、最新鋭の原子力潜水艦レッドサタン号や人工衛星による警戒網を動員する。だが、ムウ帝国の潜水艦を深海に追ったレッドサタン号は水圧に耐え切れず圧壊爆破。地上人の手の及ばぬ深海のムウ帝国の科学力は恐るべきものであることを証明した。

ここに到って、日本の治安担当首脳は元大日本帝国海軍少将の楠見に、「海底軍艦」の出動は国連の要請であると伝えるが、楠見は元部下・神宮司の秘密を告白する。「終戦時、神宮司はイ403潜で反乱を起こし消息を絶った」と。その時、警視庁から、ムウ帝国の工作員と思われる男を捕らえたとの連絡が入る。

捕らえられた男は、ムウ帝国人ではなかった。神宮司大佐の部下、天野兵曹である。神宮司大佐が健在であることを知り、楠見らは神宮司に会うことを決意する。神宮司大佐の根拠地は知られざる島にあった。その名も「轟天建武隊基地」である。海底軍艦轟天号の驚くべき性能の一端を示した試験航行の成功に酔う神宮司に、楠見は非道なるムウ帝国撃滅のために海底軍艦の出動を要請するが、拒絶される。神宮司は大日本帝国海軍の再興をかたくなに望んでいた。真琴と旗中は痛烈な抗議をするが、一行に混じって海底軍艦基地に潜入した海野魚人=ムウ帝国工作員により、基地は爆破された。

ムウ帝国に拉致された真琴と旗中は、ムウの大群衆の極彩色の群舞の中で、華麗なるムウ帝国女帝より、守護竜マンダの生贄として死刑を宣告される。なおも世界を脅迫し続けるムウ帝国によって、世界各地に最後通告が行われる。東京丸の内も陥没、ムウ帝国の潜水艦の怪光線により東京湾の船舶が炎上する地獄図の中を、海底軍艦の雄姿が空中に出現した。これ以上のムウ帝国の暴虐を阻止せんと破壊された基地をドリル衝角で突破して出撃したのだ。潜航し、逃走を図るムウ帝国の潜水艦を追って、海底軍艦もまた潜航する。

一方、真琴と旗中らは拉致された土木技師らと共に奴隷労働を強いられていた。作業現場より盗み出した特殊火薬を武器に、女帝を人質に取り、脱出を図るがここは海底である。だが、そこにムウの潜水艦を追って海底軍艦が到着した。マンダの妨害を排除し、楠見と神宮司らは脱出者を海底軍艦に収容した。今こそ心をひとつにした父と娘の再会である。喜びもそこそこに、海底軍艦はありえざるゲストを迎えることになった。ムウ帝国の女帝だった。

神宮司大佐の和平の提案を、無礼と一蹴し、「余を殺せてもムウ帝国を滅ぼすことは不可能じゃ」と冷たく言い放つ女帝に対し、神宮司は毅然と返すのだった。「ではムウ帝国の心臓部を攻撃してご覧に入れよう。」

登場メカ

轟天号
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伊号四〇三潜
日本の敗戦に納得しない神宮司大佐が、日本を出発し南方へと向かうのに用いた潜水艦。途中、国籍不明の潜水艦(正体はムウ帝国潜水艦)に攻撃されたが、神宮司大佐は轟天号の設計図の一部を残して脱出に成功。その後、伊号四〇三潜はムウ帝国の神殿に飾られており、脅迫フィルムに映っていたため存在が公になった。
実在の潜水艦である伊四〇〇型潜水艦が元になっている。なお、実在の伊号四〇三潜は起工直後に空襲で損傷して建造中止になっている。
轟天建武隊基地
大日本帝国海軍大佐の神宮司が同志と共に戦後に南方に築いていた基地で、戦後18年に渡り存続していた帝国海軍残党の本拠地でもある。
轟天号を戦後の技術発展と研究、得られた資材で完成させられるほどの設備を持つ。劇中の所属人員は通常の士官や兵士以外には防衛要員として、海軍陸戦隊の部隊がいることが確認できる[3]
ムウ帝国潜水艦
ムウ帝国が保有する潜水艦。石棺を思わせる形状をしており、その形状から「石棺型潜水艦」と呼ばれる事もある。深海3000メートルの水圧に耐えうる強固な船体を有する。武装として艦首にムウ帝国の守護神マンダを模した光線砲を装備している。劇中では追跡してきた原子力潜水艦レッドサタン号を、深深度に逃れる事によって水圧で圧壊させた他、東京湾に出現し、光線砲を用いて周囲の船舶を炎上させたが、轟天号に追跡され海中に逃走する。
デザインは小松崎茂。2尺ほどのサイズのミニチュアが数隻制作された。
  • 全長:130メートル
  • 重量:7500トン
レッドサタン号
世界最先端の性能を持つ原子力潜水艦。艦番号は715。外観はジョージ・ワシントン級原子力潜水艦に類似している。劇中では深海へと逃走するムウ帝国潜水艦を追撃するも、深海の水圧に耐えきれず圧壊してしまった。

登場キャラクター

ムウ帝国人

古代に海中に没した大陸の末裔で、彼らが記す英語表記は「MU」。女皇帝を頂き、怪竜マンダを守護神としてあがめ、太平洋某所の深海底に巨大な動力炉を中心とした古代エジプトに似た風俗の、それでいて地上の文明先進国よりも進歩した科学力を誇る大帝国を築いている。地殻変動により帝国の終焉が迫り、地上に再び返り咲き、世界をその植民地にせんと企む。モンゴロイドとコーカソイドの二人種が見受けられ、地上の人間が火傷するほどの高熱を体内から発することができる。海から現れる際には体温と海水温の温度差で蒸気を伴うため、西部善人は彼らを「蒸気人間」または「温泉人間」と呼んだ。その反面、寒さに弱い。動力炉に危険が及ぶためか警備兵は銃砲類を持っておらず、槍または短刀という、前時代的な武装である。そのせいで警備兵全員は轟天号挺身隊の小型冷線砲により一瞬のうちに氷漬けにされた。ムウ帝国長老、工作員23号、海野魚人はムウ帝国潜水艦で動力炉襲撃の難を逃れ、帝国の大爆発から脱出した轟天号を攻撃するも轟天号の艦首冷線砲で氷漬けにされてしまい、大爆発に巻き込まれ全滅する。

全身をうろこで覆ったような銀色の潜水服兼戦闘服を着用する。この姿で三原山の火口から現れ、鳥のような形の飛行爆弾を使って爆撃を行う。この飛行爆弾は体当たりすることで爆発するが、威力は1機だけで自衛隊のジープ1台から大型貨物船1隻を大破・炎上させる威力を持っている。

ムウ帝国皇帝側近の女官役で、横田基地など在日米軍の軍人の家族が多数エキストラ出演している。「(衣装が)映画『クレオパトラ』みたい」などとおおむね好評だったそうだ。

ムウ帝国人の履いているサンダルは、のちに『さよならジュピター』でジュピター教団のものに流用された。天本英世は、当時38歳でムウ帝国睨下(長老)役を演じている。帝国の群衆ダンスは、スクールメイツが担当した。

ムウの皇帝を22歳で演じた小林哲子は、メイクや衣装コーディネートを自ら行ったとのことで、リハーサルで本多猪四郎監督に「こんな感じでどうでしょうか?」と尋ねたところ、「それでいいです!」と喜ばれ、即座にOKが出たと述懐している。当時助監督だった川北紘一は、この年の「東宝砧祭」でムウの女帝の仮装をさせられたそうである。

伊福部昭作曲のムウ帝国祈祷歌には、伊福部本人によって太平洋諸島の言語で歌詞がつけられている。

怪竜マンダ

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スタッフ

本編

特殊技術

特殊視覚効果

キャスト

※映画クレジット順

※以下ノンクレジット出演者

参考文献

  • 『海底軍艦/妖星ゴラス/宇宙大怪獣ドゴラ(東宝SF特撮映画シリ-ズ4)』 ISBN 4924609137

脚注

  1. 『東宝特撮映画大全集』(ヴィレッジブックス)では頓挫した作品の代替として製作されたので製作期間が短かったと記述している。
  2. テンプレート:Cite
  3. 予告編より
  4. 当時の東宝の宣伝用プレスリリースには、藤中尉役を南道郎名義のものがある。また宣伝用ポスターでは、藤中尉役が空欄のものがある。

関連項目

  • 空飛ぶ戦艦』 - 1966年(昭和41年)頃に企画されていた東宝映画だが諸事情でお蔵入りになってしまう。
  • 惑星大戦争
  • 『再編集版 海底軍艦』 - 1968年(昭和43年)、冒頭の蒸気人間のシーンと主人公旗中と神宮司大佐との会話での「戦争気違い」発言をカット・編集した再編集版が、『怪獣総進撃』と2本立てで公開されている 。
  • 新海底軍艦』 - 1995年(平成7年)に製作されたOVA片山一良監督、岸間信明脚本)。こちらは「映画だけ観て原作を読んでいない」と当時のアニメ誌で揶揄されていた。
  • ゴジラ FINAL WARS』 - 2004年(平成16年)では、新旧轟天号が共演し、守護龍マンダも再登場している。
  • 劇場版 超星艦隊セイザーX 戦え!星の戦士たち』 - 2005年(平成17年)では、轟天号の発進シーンに本作のテーマ曲が流用されている。

外部リンク

テンプレート:本多猪四郎監督作品