水筒

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サーモスの水筒

水筒(すいとう)はなどの飲料を携帯するための携行用の飲料用容器[1]。かつては、水道や商店、自動販売機などが現代ほど配備されていなかったために、旅行や農作業だけでなく通勤や通学時など、お弁当と対を為すものとして日常的に用いられてきた。 また、個人用の物だけでなく、シルクロード隊商が使っていたような、ひとつで数十リットル以上を運ぶ水袋や水樽なども水筒と言う場合もあるが、耐水容器であっても、保存のために作られた容器や酒瓶の類、フタの出来ない容器などは一般的には水筒と呼ばない。

歴史

古来は、ヒョウタン(瓢箪)やの筒のように、自然のままで容器として使える植物はもとより、動物の胃袋膀胱を利用した革袋、木や紙で形成した器にを塗布することで耐水性を持たせた漆器類、木製品(小樽類)、粘土による陶芸品(陶磁器)など、その地域で入手可能な、様々な素材で作成されていた。珍しい物では、ダチョウのような大型の鳥類の卵に穴を空けて中身を吸い出した後、洗浄した殻を水筒として用いた例も有る。

むしろ竹やヒョウタンのように、採集したままで耐水容器となりうる都合の良い素材は稀であり、木材の接合部をミツロウで密閉したり、漆や柿渋などの塗装によって水漏れを防ぐなど、液体を無駄なく運ぶために、水筒に用いる素材に対して世界各地で数々の工夫が行われていた。 アフリカ原産とされるヒョウタン類が、栽培植物として世界各地に広まったのは、食用としてよりも、ヒョウタンの耐水容器としての有用性が高かったからであり、同時に耐水容器に対する人々の需要がいかに強かったかを物語る一例とも考えられる。ただしヒョウタンは自然乾燥させただけの状態では水が少しずつしみ出るので、長期間使用する加工品では柿渋や漆などの耐水塗料による目止めと腐食防止のコーティングが必要であった。

竹やヒョウタンでは大型の水筒を作成するためには巨大なヒョウタンの実や非常に太い竹を品種改良によって作出する必要が有る。また、ガラス瓶や陶器類は重いうえに壊滅的な破損の危険が高いので、水を失うことが生命の危険に直結するような、乾燥地帯の長旅には適さない。そこで、大量の水を持ち歩く必要性の有った乾燥地帯では、軽くて容量を稼げる革袋系の水筒が主流となっていた。 普通の革(表皮)で作った袋では毛穴や縫い目から水がしみ出るので、耐水性を持たせやすく、もともと袋としての形状を持っている胃袋や膀胱を利用して水筒を製作することが多かった。

の胃袋で作った水筒に水ではなくを入れて運んだところ、中の乳が凝固しチーズが偶然生まれたという話は良く知られている。

逆に、日本を含む水の豊富なアジア地域では、一度に大量の飲料水を持ち歩く必要性が少なく、竹筒やヒョウタンのように、コンパクトで手軽な容器が多く利用されていた。ちなみに、英語圏では水筒に対してWater bottle(水-瓶)やWaterskin(水-革)といった表現が有るのに対し、日本では「水-」と呼ぶのは、竹を用いるのが一般的だったからだと言われている。

近代に入って各国で都市化と水道整備が進んでからは、もっとも大量に製造された水筒は個人装備の軍用品としてであり、登山などの野外スポーツで使用する水筒にも、軍用品やその派生商品を利用することが普通であった時代が長く続いた。各国の軍隊ごとに、様々なスタイルの水筒が用いられたが、初期にはブリキ製、後にはアルミ製の水筒が主流となり、キャンバスのカバーで覆われた金属製の水筒を肩や腰から下げるスタイルは、ごく一般的な兵士の装備であった。 金属製の水筒は頑丈であることに加えて、緊急時は直接火にかけてお湯を沸かすことも出来るので、戦場でのサバイバル装備として適している。中には、お湯を沸かしやすいように、水平に置いた時にヤカンの形状となるように工夫された水筒や、専用カップと固形燃料用の燃焼台などがセットになった水筒などもあった。

近年では軍用水筒も徐々にプラスティック製品へと移行しつつあるが、長年の実績と、火にかけられると言うメリットを持つ金属製水筒も未だ健在である。

ペットボトルとの競合

日本では1990年代後半より、自動販売機とコンビニエンスストアの拡大に伴って、全国どこでも容易に手に入るペットボトル入りの飲料が10代から30代の若者を中心に、水筒の代替品として使用されることが増えており、製品としての水筒が使用されることは減少している。

ペットボトルを携帯する際は、別売の専用ストラップに吊り下げて携帯したり、ペットボトルカバーやタオルなどに包ませて保温性(保冷性)を高めて使用することがあり、ペットボトルを水筒の代わりとして利用する事を前提とした関連商品も各種開発されている。

また、逆にペットボトルに馴染んだ年齢層に向けて、あえて外観をペットボトルと似せた「直飲みボトル」と呼ばれる魔法瓶タイプの水筒も販売されている。これは、従来の魔法瓶のように一旦カップなどに中身を移して飲むのではなく、普通の水筒やペットボトルのように、直接口を付けて飲みやすいように作られていることから来た名称である。

なおペットボトルを範とした直飲みタイプの魔法瓶水筒が「コールドドリンク専用」となっているのは、使用しているプラスチック部品の耐熱温度よりも、誤って熱い飲み物を直接のどに流し込んで口腔内を火傷する危険を避けるためである。このため、ホットドリンク兼用の直飲型魔法瓶水筒は、口にくわえるタイプの飲み口は付けずに、縁から飲むマグカップタイプとしている事が普通である。

いずれも、ペットボトルとサイズを共通化した水筒は、自動車用のドリンクホルダーを始め、前述の関連商品などの利用環境を共有出来るといったメリットがある。

現代の水筒

現代の水筒は、主にアルミニウムポリカーボネートをはじめとした各種の合成樹脂ステンレス、さらにチタンなど、軽くて強度のある材料で作られている。

他に、学校での遠足やピクニック・外出等によく用いられる、保温・保冷機能をもつ魔法瓶タイプのものに関しては、ガラス製の二重真空構造の内瓶とプラスティックまたは金属製の外装を組み合わせたものが長らく主流だったが、近年では耐久性・耐衝撃性を重視して、オールステンレス製品への移行が著しい。

スポーツ医学の発展に伴って、かつての「水を飲むとバテるから練習中はのどの渇きを我慢する」といった根性論によるトレーニングが廃れ、熱中症などの危険を避けるためにも、のどの渇きを覚えた際には、出来るだけすみやかに水分を摂取して脱水症状を防ぐべきだという考え方が主流になっている。これに伴い、運動中に常に飲料を携帯する容器として水筒の重要性が見直されるようになった。 市民マラソンなどのスポーツイベントの場においては、片手に自前の水筒(スポーツボトルなどと呼ばれる)を持ちながら走っているランナーの姿を、多く見ることができる。

かつては、学校の遠足ピクニック・外出などでは水筒をぶら下げながら使用する光景が一般的であったが、先述した通り主にストラップやカバーなどを付けたペットボトルに代わりつつある。

また、1990年代頃より登場した、プラティパスに代表されるフィルム状の柔軟な高性能プラスティックで作成された水筒は、かつての「水袋」や「ビニール袋」のイメージとは異次元の物であり、柔軟でありながら強度も高く、滅多なことではパンクしない。しかも高温にも強く消毒などのために煮沸もできる。使用しない時には平らに潰したり折り畳んだりしてコンパクトに運ぶことができ、非常に軽量でも有るので、登山など装備の小型軽量化を重視するアウトドアスポーツでは、瞬く間に主流となった。

さらに、これらの柔軟なプラスティックフィルムの大容量水筒を背中のバックパックの中に収め、口元まで伸びるドリンキング・チューブを装着することで重い水を運ぶ負荷を軽減させ、かつ、動きながらでもチューブを口にくわえれば即座に水を飲めると言う「ハイドレーション・システム」へと進化しており、トレイルランニングのように、長時間にわたって運動量の高いスポーツでは多く利用されている。

水筒の復権

昨今では健康上の観点から、多量の糖分が含まれているスポーツドリンク食品添加物の入っているお茶などのペットボトル飲料を避けて、水筒に自前の水やお茶を入れて持ち歩く人も増えてきている。 また、外出先で安易に飲み物を買ってやペットボトルなどの資源を消費するのではなく、昔のように自分の水筒(マイボトル)に飲み物を詰めて持っていくことの意義が再認識されつつある。

利用する上での留意点

日常的な水筒の利用が復権しつつあると同時に、ペットボトルの普及でこれまで日常的に水筒を利用することが無かった世代が増えているため、知識不足に伴う衛生上のトラブルも発生している。

例えば、市販されているペットボトル入りのお茶に保存性を高める食品添加物が含まれていることを知らないため、あるいはそれらが密閉して販売されていることを考慮せずに、「お茶は腐りにくいものだ」と誤解して、前日から自前で作り置きしたお茶を水筒に詰めて夏場に持ち歩いてしまうことなどで、食中毒のような健康上のトラブルが発生する可能性がある。 お茶は植物の成分を煮出した液体であり、特に栄養分が豊富に含まれた麦茶などは、一部の微生物にとっては増殖に適した培地のような環境にもなりうる。 通常、お茶を作った時には同時に煮沸消毒されていることが多いために問題にならないが、これを冷やすために保存用のボトルに詰めたり、水筒に移し替えたりする際に付着した細菌は、水筒内で容易に繁殖する。特に、キャップの内部形状が複雑な魔法瓶型の水筒は、洗浄や消毒を怠ると菌が付着しやすい。

消毒されている水道水に比べて、自家製のお茶やジュース等は、はるかに傷みやすい物だと言うことを理解して水筒を利用することが大切である。

大日本帝国軍の水筒

陸軍では、准士官以上用と下士兵用とがあった。 前者は、大正元年9月制定で、筒(アルミニウム。口金は白銅)、口栓(アルミニウム。下部はコルク)、水呑(白銀)、筒覆(茶褐色厚毛織)、紐などから成った。 下士兵用は、明治31年10月制定で、筒は茶褐塗アルミニウムで、コルク口栓、紐が付いた。 携帯法は、騎兵は右肩から左脇に掛け、その他はこの反対であった。

出典

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関連項目

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  • 意匠分類定義カード(C5) 特許庁