株式持ち合い

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テンプレート:簡易区別 株式持ち合い(かぶしきもちあい)とは、複数の株式会社が、お互いに相手方の発行済株式を保有する状態をいい、相互保有されている株式を相互保有株式という。

日本銀行金融研究所では、「株式持ち合い(持ち合い)とは、『上場企業(信託銀行を除く)の2社が相互に株式を保有している状態』のことである」(鉤括弧部は、引用範囲。日本銀行金融研究所発行"株式持ち合いの変化と市場流動性"p.3より)と定義している。 

この状態は、日本特有のものとされるが、似た構造は、ドイツでも存在した。

例えば、AがBを、BがCを、そしてCがAをそれぞれ保有している場合もあり、このような関係は三角持ち合いないし循環的相互保有などと呼ばれる。

ここでは、特筆しないかぎり「日本で発生した株式持ち合い」について述べる。

株式持ち合いの発生

みずほ証券エクイティ調査部チーフストラテジストの三宅一弘の報告[1]によれば持ち合いも含めた安定株式比率は、戦後復興から1960年あたりを「第一次持ち合いブーム」、1965年の証券不況から石油ショックまでを「第二次持ち合いブーム」として、第一次石油ショック前までには、日本の企業集団(企業グループ)が安定株式比率の上昇と歩調を合わせるように、ほぼ出来上がったと述べている。三宅一弘は続けて、1990年以降のバブル清算に加えて、日本型企業システムの再構成が迫られている一環として、株式持ち合いの解消や安定株式比率の低下が生じているものの高度経済成長期に持ち合いが行われ安定株式比率が高まっていたことは、当時の日本経済、資本市場、金融市場、個人資本貯蓄の状況を考えれば経済合理性があったと主張している。

丸山夏彦の著物[2]では、第一次ブームを、1940年後半~1950年代のGHQによって、財閥各社の株式が大量に分散した事を起因とする敵対的買収からの防衛策が行われたこと。第二次ブームを、1960年後半~1970年代のIMF8条国、GATT11条国への移行。そしてOECDへの加盟に伴う「貿易外経常取引および資本移動の自由化」の義務を負う事となり"第二の黒船襲来"と外資からの買収に対する危機感が強まったこととしている。

丸山夏彦の著物の中では、第一次ブームの詳細として、岡崎哲二の著物(持株会社の歴史:財閥と企業統治、筑摩書房、1999.6、p.33)を元に、三井財閥を例にとり三井銀行や三井物産など直系会社の場合、三井合名での持株比率は100%、少ない場合でも30%は超えていたとするが、大量分散後の1949年には、個人による株式保有率は、全株式総数の69%を占めるに至った結果として、株主無責任の問題が浮上し敵対的買収が容易な状況であったと述べており、敵対的買収が容易であった実例として、有沢広巳監修、安藤良雄ほか編、昭和経済史. 中、P.149を元にして、1952年に起きた旧三菱本社の不動産を引き継いだ陽和不動産の株式がグリーンメーラー相場師として知られた藤綱久二郎に35%買い占められた事件を紹介している。 第二次ブームの詳細としては、寺沢芳男著、"英語オンチが国を亡ぼす"、東洋経済新報社、1997.3の106頁を引用して、外資系からの買収不安を煽った株主安定工作があったことを指摘した上で、一次二次どちらも買収に対する危機感があったと述べている。

株式持ち合いの形成要因

三宅一弘の報告[1]によれば、持ち合いが形成された要因は、

  1. 高度経済成長を続けた日本では、企業の設備需要から慢性的な資金不足が生じているものの終戦後のハイパーインフレかつ未熟な資本市場という背景があり、企業側の安定資金の大量調達の需要と銀行側の成長企業を見つけ業容を拡大させたいという需要が合致した結果、メインバンク制が形成されお互いの担保として株式持ち合いが生じたこと。
  2. 原材料会社や部品会社、加工会社、販売会社のような間で長期にわたる取引を行う担保として、また総合商社と関係を深め輸出や海外事業の活動を行うために、株式持ち合いが生じたこと。
  3. 1964年に、日本がOECDに加盟したことで貿易資本の自由化が求められていたが当時の証券不況だったために、外資による乗っ取りを危険視する声が財界で高まっていたので、財閥系や大手銀行系を中心とした企業集団の形成を目的とした株式持ち合いが生じたこと。

の3つとされている。

問題点と解消の動き

株式の持ち合いは、子会社による親会社株式取得と同様に、以下の危険性がある。

ところが、バブル経済の崩壊以後、会計基準の潮流が取得原価主義から時価主義へと移行するのに伴い、業績の悪い会社の株式を保有し続けることが、決算に悪影響を与える等経営上のマイナス要因となることから、株式の持ち合いを解消する動きが見られるようになった。

この件に関して、丸山夏彦は、「経営」と「市場」を功罪両面から分析している。 経営上の問題として、持合ブームとされる頃に比べ株価上昇に伴う含み益を、株主に還元せず恣意的に使用してきた――例えば業績不振時の赤字補填目的で含み益を吐き出した――のが実情であると述べ巨額事件の例として、大和銀行と住友商事の事件を例とした(p.99)。なお大和銀行については、日本経済新聞1996年3月22日を参考として穴埋めに使われたとして、住友商事については、住友商事「有価証券報告書総覧」平成9年度版を引用した上で平成9年度の有価証券売却益910億円が前年の約140億に比べ大規模の益出しを行ったものとしている。また同時に、企業が厳密な採算計算を行っていなかったとも指摘。鈴木貞彦著「ケースブック財務管理」(慶應通信)の32頁を引用し回収期間法に依存しキャッシュ・フローを考慮しておらず右肩上がり経済の中で期待水準を満たさずとも長期的に見ればほとんど利益を出せた曖昧な投資決定が成されていたこと。そして持合により経営への口出しが少なかった事による緊張感喪失を罪とした。 同著に記された経済企画庁調査局編「期待成長率低下のなかでの企業行動」のアンケート調査報告書によれば株式持合のデメリットとして(2つ以内の複数回答可)、「持合株の株価低下による含み損の発生」「長期・安定的保有による資本の流動性の低下」「資本コスト意識の希薄化による資本効率性の低下」が上位3位となっている。

特に、金融機関については資産の運用先として株式を多く保有しており、この持ち合い解消のため株式売却を促進させると、株式市場に与える影響が大きいことから、自己株式の取得を緩和するほか、銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律(平成13年11月28日法律第131号)により銀行等保有株式取得機構が設けられるなどの対策がとられている。

会社法上の相互保有規制

2007年現在の会社法上は、相互保有の解消義務は明確に定められてはいない。 その理由としては、相互保有についても一定の合理性が認められている点と、相互保有解消を急進した場合に発生する社会的影響の大きさ(銀行等が大量に保有している株式が市場に流出すると起きると予想される混乱等)からである。

現在の規制としては、4分の1以上の取得している場合に議決権が停止される(会社法308条1項括弧書)のみである。その4分の1に該当するかの基準については、実質的基準をもってその判断をあたることになっている(実質的支配基準。会社法施行規則67条)。この規制は、上述の資本空洞化・議決権の歪曲化を防ぐという、企業結合法の要素から規定されたものである。また株主持合そのものの規制ではないが、関係規制として、5%の株式を保有する株主の情報開示、金融会社の5%基準、資産総額100億円以上の単体総資産20億円以上の会社の株式をもつ場合、発行済み株式総数の10%、25%、50%を超えて取得、保有する場合の公取委の報告義務などがある。

相互保有の再評価

また最近では、株式持合の再評価がなされている。 原因として、規制緩和を行い、株式持合いを解消する結果、外国資本による日本への投資・買収がさかんになるというおそれからである(関岡英之『拒否できない日本』(文春新書、2004年)のようにアメリカの圧力からみる視点、吉村典久『日本の企業統治』(NTT出版、2007年)などのように日本型経営システムを再評価する形からみる立場、その他、新たな再編への利用策として持合を利用するべきとの思考もあり、さまざまな持合への評価がなされている)。他方で、従来から持合に対して否定的な立場であったものは、「花見酒の経済」との見方をとるものもあるし、資本主義経済を取っている以上、持合は不可解なものであり、一切を禁止するべきとの見解(奥村宏の思考)や、持合の数量規制を5%にすべきとの発想はなされていた。市場において、浮動株として、あまり好ましくないとして、株式持合いが極端になされた事案について、市場の圧力(新聞記事など)によって、その保有をやめるものまであったのは事実である。


脚注および参考文献

  1. 1.0 1.1 奥村宏著、"株式相互持合いをどうするか"、岩波書店、2001年06月、第2章"株式持ち合いの歴史的形成要因と今後における問題点"(三宅一弘の報告)、ISBN 4-00-009234-0
  2. 丸山夏彦著、"株式持合解消で強くなる企業と弱くなる企業"、研修社、BSIエディケーション、2000年3月、ISBN 4-7657-3954-6

関連項目