朝鮮における漢字

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朝鮮における漢字(ちょうせんにおけるかんじ、朝鮮語한자 漢字または、한문한자 韓文漢字)では、朝鮮で使用される漢字について総合的に説明する。

概要

朝鮮語の語彙には固有語漢字語があるが、現在の韓国では漢字語のみに漢字が使われる。ただしその使用頻度は高くなく、通常ハングルのみで表記される。1970年から始まった漢字廃止政策によるところが大きい。ほかに考えられる要因として、言語的な理由がある。朝鮮漢字音が1音節であり、音節文字であるハングル1字で漢字1字を表記でき、ハングルのみの表記によっても字数が増えないこと、日本語の訓読みに相当するものがないことなどを挙げることができる。

漢字廃止政策の前後、または政策実行の程度によって習得率が変わり、つまり韓国での漢字教育(知識・能力)は世代によって異なっており、大多数は自分の名前、自国の名称すら書くことができないが、たとえ漢字を扱える人であっても“読めても書けない”人が多い。現在、韓国内で漢字が使用される場面は、漢字圏からの訪問客対策として実施された道路標識や公共交通機関での漢字併記、ニュースなどにおける国名の漢字略称、新聞の見出し文字、「大」など特定文字を強調したい場合、法律関係、仏教関係、冠婚葬祭などに限られる(後述)。

字体

韓国では日本や中国と異なり漢字の簡略化を行っていない。そのため字体は、日本語のいわゆる旧字体中華人民共和国の特別行政区や台湾、また中国以外の華人コミュニティーで使用される繁体字に近いものが使われている。正字・異体字の認定には中国や日本と異なる場合がある。例えば、ペ・ヨンジュン裵勇俊)の「ぺ」は韓国では「」を正字とするが、中国・台湾では「裴」を正字とし、「テンプレート:JIS2004フォント」を異体字としている。

日本の国字に相当する朝鮮製漢字

韓国においても日本の国字和製漢字)に相当する朝鮮製漢字がある。韓国の国字は既に存在している漢字の音で表現できない音を表すことが出来るように作られた文字、吏読などで使われた慣用句を書くため作られたもの、そして韓国の固有の文化の概念を表す文字などで区分される。それ以外に既存の字に新たな音とか訓を付けて使用することもある。

漢字の下に乙の字が挿入された字は、「乙」がハングルの (テンプレート:IPA2) に形が似ていることを利用し、既存の漢字(多くは意符になる)の下部に置くことで、その字音の音節末に テンプレート:IPA2 音を付加するという(結果、テンプレート:IPA2 音で終わる単音節固有語で読まれる)造字法が行われた。

なお、中国語圏においては日本の国字同様に沿った音を当てている(日本の国字で元々音読みがない場合も旁の音で読むことがある)。参考にそれらも併記する。

新製の文字

国字 ハングル表記 拼音 意味
テンプレート:IPA2 jiā 水田(韓国で田は畑の意味)
テンプレート:IPA2 主人の家
テンプレート:IPA2 cáo 姓の一つ(曹の略字)
テンプレート:拡張漢字/夻 テンプレート:IPA2 huà 怒り
テンプレート:IPA2 bu, pu 労務者(功夫の合字)
テンプレート:IPA2 変事/病気
テンプレート:IPA2 嬉しさ/長寿を祈ること(とは別)
テンプレート:拡張漢字 テンプレート:IPA2 (なし)
(「叱」は促音「ッ」) テンプレート:IPA2 fēn …だけ/…まで

既存の字に固有の部分を添加

国字 ハングル表記 拼音 意味
(「石」の下に「乙」) テンプレート:IPA2 shí 石(人名字、例:李世乭
(「下」の下に「乙」) テンプレート:IPA2 xià 人名、地名のみに音を表すため使われる字
(「沙」の下に「乙」) テンプレート:IPA2 shā
(「甫」の下に「乙」) テンプレート:IPA2
(「加」の下に「乙」) テンプレート:IPA2 jiā
テンプレート:拡張漢字(「高」の下に「巴」) テンプレート:IPA2 gāo
(「斜」の下に「卩」) テンプレート:IPA2 xié
(「巨」の下にハングルの「」) テンプレート:IPA2
乺/テンプレート:拡張漢字(「所」の下に「乙」) テンプレート:IPA2 biàn ブラシ
テンプレート:拡張漢字(「老」の下にハングルの「」) テンプレート:IPA2 lǎo 者・ヤツ(接尾辞)
テンプレート:拡張漢字(「z」の下に促音「叱」) 굿 テンプレート:IPA2 chóu グッ(巫が神に供物を供え歌舞で祈り願う儀式)

既存の字に新たな音と訓

国字 ハングル表記 意味
テンプレート:IPA2 鉄(人名字、元の意味は力を尽くすこと)
旀/テンプレート:拡張漢字 テンプレート:IPA2 …ながら/…であって(元は弓を射ることの意味)

略字

略字(テンプレート:Lang-ko、ヤクチャ)は韓国の民間で使用されており、日本の新字体に近い。韓国では標準字形の正字より簡略化された漢字を「略字」と総称しているテンプレート:要出典(ただし、韓国の漢字関連学界では略字の意味を限定して「社会的な合意の下に」使用されるものだけを「略字」と呼ぶ)。

」(権)のように中華人民共和国シンガポール簡体字と同じものもあるし、「」(麗)のように簡体字や新字体に使われないものもある。

「竜」のように古字に属するものもあるし、「20px」(無)のように草体の変形であるものもあるテンプレート:要出典。法的地位として、一部の略字は正字と共に韓国の人名用漢字に属する。それ以外のものは公認されていないが、民間でときどき使われている。

社団法人韓国語文会などの一部の漢字能力検定試験では、正字の代りに略字を書くことを許容している。韓国語文会の場合、一部の問題を「略字の筆記」に割り当てていて、しばしば使われる略字を準公式的に認めている。


日本語の訓読みの熟語由来のもの

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朝鮮語独自の漢語

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「文字戦争」

ファイル:8239th AU leaflet 2508.png
朝鮮戦争の際に、アメリカ軍によって作成された宣伝ポスター。漢字とハングルが混用されている。
ファイル:USN Boatswain's mate Brewer instructs ROK sailors on a block and tackle.jpg
韓国海軍のかつての軍服の帽子のペンネントには「大韓民國海軍」と漢字が書かれていた。現在は「대한민국해군」とハングルに変更されている。
ファイル:MaeilShimpo (August14-1945).jpg
日本統治時代の朝鮮で発行された、ハングルと漢字で書かれた新聞(1945年8月14日)
ファイル:Anti-Trusteeship Campaign.jpg
第二次世界大戦の終結後、連合国による信託統治構想に抗議する朝鮮人たちのデモ行進漢字英語はあるが、ハングルは見られない。
ファイル:Japanese Name Change Bulletin of Taikyu Court.jpg
日本統治時代の朝鮮での創氏の法院公告。ひらがなを読めない人のために、ハングルが振り仮名として振られているが、一方で漢字には振り仮名がない。

ハングル専用か漢字混用か。世論調査でも国論を二分している韓国にあっては政治家も争点にすることに難色を示す。独立以来続いているこの論争を、月刊朝鮮は「五十年文字戦争」(1998年当時)と名付けた[1]

李氏朝鮮時代には、漢字の知識の有無が知識人大衆を分け隔てる一線とされた。李朝末期に一部の民族主義団体がハングル振興運動を起こし(「ハン-グル(偉大な-文字)」という呼称もその当時に「諺文(オンモン)」という卑称から改められたもの)、日韓併合以降は民間のハングル学会などに引き継がれた。1886年には、朴泳孝ら開化派が発行し井上角五郎らが編集指導に加わった純漢文の新聞、「漢城旬報」の後を継ぎ、彼らによって、漢字とハングル混交文による初めての新聞、「漢城周報」が発行された。

日本統治時代には総督府朝鮮教育令により週に数時間朝鮮語の授業が設けられ、その中でハングルも教えられたが、国語国字として扱われたわけではなかった。第二次世界大戦中には公教育におけるハングルの授業は中止され、1940年には朝鮮日報東亜日報は廃刊され、ハングルの新聞は毎日新報一紙のみとなった[2]

漢字教育の廃止

独立後は、日本統治時代に漢字を使用していたことや、中華帝国による古代からの冊封体制への不満といったナショナリズムの台頭により漢字を排斥テンプレート:要出典し、国語をハングルのみで表記しようとする機運が盛り上がった。1948年施行の「ハングル専用に関する法律」(略称:ハングル専用法)により、漢字廃止に法的根拠が付与される。「大韓民国の公文書はハングルで書く。ただし、当面の間、漢字をかっこに入れて使用することができる」が法律の全文だが、公文書の定義も当面の間の定義もなく、施行規則もなく、違反者に対する罰則規定もないこの法律は、法律でなく宣言文だと解釈する法律家もいる。

李承晩の時代には、小学校段階から漢字教育が行われたが、朴正煕は漢字廃止に傾斜を強め、1970年には漢字廃止宣言を発表、普通教育での漢字教育を全廃した。しかし言論界を中心に全廃への反対が強く、1972年には漢字廃止宣言を撤回し、漢文教育用基礎漢字(約1800字)[3]を定め、中学校及び高等学校の「漢文」の教育の一環として漢字教育を復活させた。が、あくまで選択科目であり、受験にもほとんど関係がなく、実社会でもほとんど使用されない漢字は、学生らの学習動機を呼び起こさなかった。また小学校での漢字教育は禁止され、児童に個人的に漢字を教えた小学校教員は、国策に協力しない者として懲戒免職などの重い処分を受けた。

1980年代半ばから、韓国の新聞・雑誌も、次第に漢字の使用頻度を落とし始めた。漢字教育をほとんど受けていないハングル世代が多数を占め、漢字を使用した出版物が売れなくなったためである。漢字の使用を禁止するのではなく、漢字教育を禁止することにより、一世代かけて漢字を緩やかに消滅させようとしたのがハングル専用派の狙いだった。実際、一漢字が一音節である朝鮮語にあっては、ハングル専用でも日本語における平仮名専用のように長くならないので、漢字廃止は可能かと思われていた。

漢字復活論

しかし、朝鮮語の単語の約6割は漢字語であるため[4][5]、ハングルで書かれた漢字語を文脈で理解するのは非能率的であり、抽象的な学術用語を漢字を念頭に置かずに正確に理解することは困難であるとの批判が起きた。このため、漢字を知らない世代がほぼ完成した1990年代後半から、逆に漢字復活を求める声が勢いを増し、1998年に当時の大統領金大中が漢字復活宣言を発表した。この時、道路標識鉄道駅韓国国鉄はそれ以前から駅名表示は漢字併記であった)、バス停留所の漢字併記が大統領の指示で実現した。しかしハングル専用派の抵抗も根強く、小学校での漢字教育義務付けや若年層での漢字使用日常化は実現されていない。このため現在、漢字の必要性を感じる韓国人は自己負担テンプレート:要出典で子供を漢字塾に通わせている。ただ、ソウル市江南区瑞草区教育庁では2008年10月から区内の小・中学校に通う小・中学生を対象に漢字教育を実施している他、鍾路区でも区内の小学生を対象とした漢字教育を2009年から実施するなど、地域教育庁レベルで小学校における漢字教育を推進する動きもある[6][7]

ハングル専用派の主張は、従来「漢字語をなくすのではなく、漢字語もハングルで書こうと言っている」(中心はハングル学会)というものであったが、最近は「全ての学術用語を固有語に翻訳しよう」という内容に変わっている(国語純化運動)。漢字復活派が「漢字教育を確実に行えば、全ての学術用語は見ただけで理解できる」と主張するのに対し、ハングル専用派は「学問の内容全体を把握していれば、漢字を知らなくても学術用語の意味は理解できる」と反論し、一歩も譲る気配を見せていない。ハングル専用派も、中国四字熟語故事成語などは、漢字を知らなければ理解できないと認めてきた。賤出名将事件のように、漢字で書かないため結果として大きく異なる意味に取られてしまうケースもある。

2005年現在、李在田の死去により漢字復活運動が衰えたこともあり、ハングル専用派が巻き返しを見せている。同年1月に国語基本法が制定され、公文書における漢字のかっこ内使用は、大統領令が定める場合に限定されることとなった。それ以降、漢字混用になっている一部の法律のハングル翻字と表現の平易化が推進され、道路標識の漢字が中国人対象の簡体字に限定され、バス停留所の漢字併記も中止されている。しかし、その一方で2009年1月には、国務総理経験者20名が連名で「小学教育過程における漢字教育実施の建議書」を大統領府に提出[8]した他、国会議員の大部分も小学校段階での漢字教育導入に前向きな姿勢を示すなど[9]、漢字教育の必要性を訴える声が大きいのも事実である。

韓国人の中では国際競争力の面から漢字教育を肯定的にとらえる意見もある。漢字が読み書きできれば、中国とはもちろん、日本台湾シンガポールなどで筆談による意思疎通が可能であり、東アジアでの共通文字である漢字を捨てることは国際競争力を弱めるという主張である。実際に国語能力の低下が業務能力における問題点として浮上してきており[10]、こうした観点から、就職試験に漢字を課したり、漢字能力検定試験合格者を優遇する企業が増えてきている。なお大韓商工会議所主催の漢字検定の受験者は2007年の4457人から2009年には5万6391人と急激な伸びを示している[11]

漢文教育用基礎漢字

テンプレート:Main 漢文教育用基礎漢字とは、韓国文教部が1972年8月16日公布した、中学校、高等学校の漢文の教育で教える1800字の漢字をいう。

韓国戸籍法施行規則第37条[12]によれば、韓国戸籍に名を漢字で登録するには、その漢字は漢文教育用基礎漢字または別途定める人名用漢字表(韓国)[3]にある漢字でなければならない。

国際漢字会議と漢字統一の動き

国際漢字会議は、韓国主導の下1991年に初めて開催された。これは韓国、日本、中国、各国において異なる漢字の字体を統一しようと、常用漢字の字数を定め、字体の標準化を図ることが目的であった。しばらく大きな動きはないものの、2007年11月には北京で開かれた会議では、正字(香港や台湾の繁体字や日本の旧字体)を中心として、5000 - 6000字の字体を統一した「標準字」を定めていくことで合意したと報じられた[13]。但し、中華人民共和国教育部は「そのような事実はない」と否定しているとの報道もあった[14]

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

関連項目

外部リンク

  • テンプレート:Citation
  • 韓辞典「朝鮮日報」
  • 3.0 3.1 人名用漢字表(戸籍法施行規則37条(韓国))一番左の列が読み(音読み)を表し、左から2列目が漢文教育用基礎漢字(2000年12月31日現在)を表す。左から3列目以降8列目までは人名用追加漢字を表す。
  • 名古屋大学教養教育院 朝鮮・韓国語科
  • 연합회 소개 漢字 敎育의 必要性
  • テンプレート:Cite news
  • テンプレート:Cite news
  • 韓国「漢字教育の導入」運動高まり、中国紙も注目 2009年1月16日サーチナ
  • 国会議員の9割「小学校で漢字教育すべき」 2009年9月8日中央日報
  • 【萬物相】低下する韓国人の国語能力2008年7月20日
  • テンプレート:Cite news
  • 戸籍法施行規則(韓国)(韓国web六法)第37条
  • 朝鮮日報: 韓・中・日・台が漢字の字体統一へ 2007-11-03
  • Record China: 「中・日・韓・台の漢字統一」報道を否定!簡体字使用の変更は不可能 2007-11-11