日野熊蔵

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グラーデ単葉機に搭乗した32歳の日野熊蔵

日野 熊蔵(ひの くまぞう、1878年6月9日[1] - 1946年1月15日)は、日本の陸軍軍人。最終階級は陸軍歩兵中佐。日本の航空界黎明期のパイロットの1人である。

経歴

熊本県球磨郡人吉町(現・人吉市)出身。旧相良藩士・日野広一の長男として生まれる。熊本英学校卒業後、陸軍士官学校に進み1898年(明治31年)、陸軍士官学校(10期)を卒業する。

1910年(明治43年)4月11日、臨時軍用軽気球研究会から徳川好敏大尉とともに操縦技術習得のためフランスのアンリ・ファルマン飛行学校エタンプ校に派遣され、5月末に入学する。その後、エンジン買い付けの失敗などもあり、7月25日に単身ドイツに移動、ヨハネスタール飛行場で操縦技術を学びグラーデ単葉機を購入した。

同年12月14日、代々木錬兵場(現・代々木公園)において滑走試験中の日野は飛行[2]に成功し、これが日本史上の初飛行とされる。しかし、飛行機研究の第一人者として、また当時数少ない実際の航空機の飛行を見たことがある人物であったため、事実上の現場責任者として間近で注視していた田中館愛橘博士や、操縦していた日野自身も、初飛行であることを認める発言はしていない。さらに、初飛行の根拠となっている距離については、唯一「初飛行」と報じた萬朝報の記者が60mと報じたがあくまで目測でしかなく、取材していた他9紙は距離を記載しておらず初飛行とは報じていない。また記者自身も後日、「すこしでも地を離れると、手を叩いたり、万歳を叫んだりした。今から思うと、なんだか自分が気の毒になる。」と書いている[3]。また、「飛行」とは翼の揚力が機体の重量を定常的に支え、操縦者が意のままに機を操縦できる状態を指すため、「飛行」ではなく「ジャンプ」であるとして、航空力学的にも初飛行とは言えないとする意見もある[4]。しかしながら、日野の60mの区間を「定常的に支え、操縦者が意のままに機を操縦できる状態でなかった」とする史料は存在せず、逆に後日の徳川・日野の記録を「操縦者が意のままに機を操縦できる状態であった」とする史料もまた存在しない。

19日には”公式の、初飛行を目的とした記録会”が行われ、日野・徳川の両方が成功した。これが改めて動力機初飛行として公式に認められた。事前の報道においては、当時天才発明家などと報道されていた日野の方が派手な言動も相まって遥かに有名人であり、新聞記者も徳川には直前までほとんど取材活動をしていなかった[5]。しかし徳川、日野の順に飛んだため、”アンリ・ファルマン機を駆る徳川大尉が日本初飛行”ということにされてしまった。これは、徳川家の血筋でありながら没落していた清水徳川家の徳川好敏に「日本初飛行」の栄誉を与えたいという軍および華族関係者の意向・圧力だったとする説がある[6]。しかし、陸軍の方針としてたとえ名家の出身であっても軍内部での扱いは平民と同じであったため、この批判は適切ではないとする意見もある。

ともあれ、日野の記録は抹消され、12月19日の徳川の飛行をもって「日本初飛行の日」とされている。

以降、徳川は陸軍の航空機畑の看板として順調に昇進し、一方の日野は翌年には独自の機体の開発までをも行うがそれでも左遷され、以降軍務において航空機関連に用いられることはなかった。

1911年(明治44年)から翌年にかけて自身が設計の機体、日野式飛行機を製作した。1916年(大正5年)には陸軍歩兵中佐になる。 40歳で部下の失態の身代わりに引責し軍人を辞め、その後生活は困窮した。

年譜

親族

  • 長男 日野虎雄(海軍少佐)
  • 二男 日野熊雄(海軍技術少佐)
  • 義父 恒吉忠道(陸軍少将

その他

  • 日本工業大学内工業技術博物館にて、日野式2号機の復元機が展示されている。
  • 「空の開拓者 日野熊蔵伝」(フジテレビ系列 2011年)

脚注

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関連項目

参考文献

  • 渋谷敦『日野熊蔵伝』青潮社、1977年。
  • 渋谷敦『日野熊蔵伝 日本初のパイロット 改定版』2006年 たまきな出版会 ISBN 4-903547-01-9
  • 秦郁彦編『日本陸海軍総合事典』第2版、東京大学出版会、2005年。

外部リンク

  • 『日本陸海軍総合事典』第2版、132頁では「2月5日」。
  • 十四日に早くも二㍍の高さで百㍍余り、十六日には高度三㍍、距離百㍍を飛行したが、いずれも「滑走中あやまって離陸」という発表にされている。- 熊本県教育委員会
  • 村岡正明『初飛行』、光人社、2010年、164-168頁。
  • 木村秀政『飛行機の本』、新潮社、昭和37年。
  • 村岡正明『初飛行』、光人社、2010年、134、156頁。
  • 横田順彌『雲の上から見た明治』、学陽書房、1999年、15-16頁。