新疆ウイグル自治区

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テンプレート:基礎情報 中華人民共和国の一級行政区画 新疆ウイグル自治区(しんきょうウイグルじちく)は中華人民共和国の西端にある自治区である。ウイグル族の民族自治区であり、その領域は、一般に、東アジアの一部として定義されるが、場合によっては中央アジアのトルキスタン地域東部(東トルキスタン)とみなされることもある。

ウイグル族のほか、漢族カザフ族キルギス族モンゴル族(本来はオイラト族である)などさまざまな民族が居住する多民族地域であり、自治州、自治県など、様々なレベルの民族自治区画が置かれている。中華民国時代には、1912年から新疆省という行政区分が置かれていた。

本来中国には時差が設定されていないが、新疆では非公式に北京時間UTC+8)より2時間遅れの新疆時間(UTC+6)が使われている[1]

歴史

テュルク系民族が多いことから、伝統的にはペルシア語で「テュルク人(トルコ人)の土地」を意味するトルキスタンと呼ばれ、現在の国境を越えた幅広い地域の一角として、中央アジアの文化圏に属してきた。その一方で、中国から西域と呼ばれたこの地域は中国との政治的・経済的な繋がりも古くから有しており、代と代には、中国の直接支配下に置かれた時期もあった。 唐代後期、ウイグル帝国の支配下に入り、9世紀、ウイグル帝国が瓦解したのちも、ウイグル人の残存勢力による支配が続いた。13世紀、モンゴル帝国の勃興によりその支配下に組み込まれ、チャガタイとその子孫による支配が行われた。16世紀に至りヤルカンド汗国が地域を統一したが、17世紀末ジュンガルに征服された。

18世紀ジュンガル征服にともなってその支配下に入るに至り、「ムスリムの土地」を意味する「回疆」、「(新)しい(領)土」を意味する「新疆」などと清朝側から呼ばれた。19世紀には各地で反清反乱が相継ぎ、ヤクブ・ベクの乱によって清朝の支配は崩れたが、左宗棠により再征服され、1884年中国内地並の省制がひかれて新疆省となった。

辛亥革命の後、清朝の版図を引き継いだ中華民国に属しながらも、漢民族の省主席によって半独立的な領域支配が行われた。これに対して1933年1944年の二度にわたって土着のムスリム(イスラム教徒)によって民族国家東トルキスタン共和国の建国がはかられたが、国共内戦後の1949年に再び共産党支配下の中国に統一され、1955年新疆ウイグル自治区が設置された。

大躍進政策・文化大革命以後

しかし、直後に開始された大躍進政策とその影響による飢饉のため、中国全土で数千万人ともいわれる、大規模な死者を出した。自治区の経済及び住民生活も大打撃を受けた。1962年には、中国共産党による支配に絶望した国境地帯の住民7万人以上がソ連領内に逃亡した。また、1966年には自治区内に文化大革命が波及。こと文革にかんしては、少数民族を多く抱える同自治区の闘争は中国の他地域と比較してある程度は抑制されていたというが、それでも一部で行なわれたモスクの破壊や紅衛兵同士の武装闘争により、混乱に拍車がかかった。

文化大革命が終結し、言論統制の緩和がなされた1980年代には、ウイグル族住民の中で、新疆ウイグル自治区における民族自治の拡大を求める動きが見られた。また、国外の汎トルコ主義者が独立を主張する動きも見られた。しかし、このような動きを中国政府は厳しく取り締まっている。2001年のアメリカ同時多発テロ以降、世界的な反テロ・反イスラム的な潮流が強まったことや、経済発展を遂げた中国本土から同自治区への漢民族移民が増えたことで、民族問題と当局による弾圧はともに深刻化の一途を辿っている。

中国共産党政府はウイグル人の暮らすウイグル地区のロプノールで、1964年から1996年にかけて、地表、空中、地下で延べ46回[2]、総爆発エネルギー20メガトンの核爆発実験を行っている。

中華民国の主張

中華民国は、ウイグル自治区を新疆省と呼称しており、自国領土だと主張している。 新疆という呼称は清朝時代に付けられた。

2009年のウイグル騒乱

テンプレート:Main 2009年にはウイグル人漢民族の対立が激化し、ウイグル騒乱が発生。武装警察の介入もあって、世界ウイグル会議によると死者800人、中国当局によると死者156人となる惨事となった[3][4]。これにより中国は報道規制をし、また主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)に参加するためにイタリアを訪問していた胡錦濤(中国国家主席)が「新疆ウイグル自治区の情勢」を理由にサミットをキャンセルして三日後に急遽帰国するにまでに至った[5]

ウイグルの独立運動

中国政府による取り締まりに対し、新疆における民族自治の拡大や人権状況の改善を目指す運動が中国内外で続いている。中国政府に不満を持つ新疆人民が必ずしも独立を目指しているとは限らないが、一部の運動組織は新疆の中国からの分離独立を主張しており、新疆はチベットと並んで、中国が抱える民族問題のホットスポットの一つとなっている。

世界ウイグル会議の研究センター副長などを務めるトゥール・ムハメットによると、中華人民共和国のウイグル族は、下等市民あるいは人間以下とみなされ、市民同士はトラブルを怖れて接触したがらないという[6]。中国内での少数民族とウィグル族の反目も著しい。9.11同時多発テロ事件以降は中国当局の治安体制強化もあって中国国内では目立った騒擾事件は発生していないようである。しかし2013年10月末には、ウイグル族家族がガソリンを積んだ自動車で北京の天安門に突入し自爆する事件も起こった(天安門広場自動車突入事件)。この事件を機に中国政府はテロ取り締まりを強化したため、ウイグル族の女子供が警官隊に射殺される事件も増えている。2014年にも、ウルムチ市内で暴漢による無差別な殺傷事件が発生している。

国外の民族運動組織は、中国政府によるウィグル族などに対する人権侵害事案をたびたび取り上げている。また東トルキスタンイスラム運動などといった組織が独立運動を唱えているともされる(詳細は当該項目を参照)。

地理

テンプレート:Seealso 新疆ウイグル自治区の面積165万km²は中国の省・自治区の中で最大であり、中国全土の約1/6を占める(日本の約4.5倍)。ただし、面積の約4分の1は砂漠が占めており、これは中国の砂漠総面積の約3分の2に相当する。総人口は約1,900万人で、その3分の2は漢族以外の少数民族である。省都は烏魯木斉(ウルムチ)

新疆ウイグル自治区は中国の最西部に位置しており、東部から南部にかけて、それぞれ甘粛省青海省西蔵自治区と省界を接している。また、インドパキスタンアフガニスタンタジキスタンキルギスカザフスタンロシア連邦モンゴル国の8カ国と国境を接し、国境線の総延長は約5,700kmに達する。国境を接する国の数は、中国の行政区分で最大である。

1931年8月11日、新疆ウイグル自治区北部でM8の地震が発生。地震研究のための貴重な資料として、当時の地震断層や地形の変化がそのままの状態で残されている。2007年4月19日、断層の保護作業が終了した。

核実験場

テンプレート:See also 新疆ウイグル自治区ではロプノール核実験場の付近を中心に、1964年から46回の中国による核実験が行われており、放射能汚染による地域住民の健康状態や、農作物への被害が指摘されている。高田純は同地域の調査をし、19万人が死亡しており、健康被害者は129万人と推計している[7][8]。また、ウイグル人の医師は、中国政府はこの地域における放射能汚染や後遺症の存在を認めないどころか、海外の医療団体などの調査を立ち入ることも規制しており、すべてが隠蔽されていると訴えている[9]

ロプノールでの核実験は、総爆発出力20メガトン、広島の原爆の約1,250発分に相当するといわれる[10]

行政区域

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教育

住民

自治区内の住民は、ウイグル族漢族のほか、カザフ族回族キルギス族オイラト族(カルムイク族)(民族区分ではモンゴル族)などの様々な民族で構成される。また、カザフ族キルギス族タジク族ウズベク族など、隣接する旧ソ連領中央アジア諸国と国境を跨って居住する民族も少なくない。

漢族の大量入植

自治区の北部、東部を中心に居住する漢族は、1954年に設立された新疆生産建設兵団を中心に、1950年代以降に入植した住民が大半を占め、急速にその数を増やしている。中国政府の公表する人口統計には、軍人の数が含まれていないことから、実際の人口比では、漢族の人口はウイグル族を上回っていると推測されている。2003年の兵団総人口は257.9万人である[11]

1990年時点で新疆ウイグル自治区の総数が1499万人のうち、漢族が565万人[12]。1995年には、総人口1661万人のうち漢族が632万人と、5年間で漢族人口は67万人も増加している[12]。2000年には、漢族人口は約749万人となっており[13]、5年間で117万人も増加しており、10年間で184万人の漢族が新疆ウイグル自治区において増加している。

住民構成表

中国人民解放軍中国人民武装警察部隊に所属する軍人、および新疆生産建設兵団は含まない。

民族構成(2000年)
民族 人口 割合(%)
ウイグル族 8,345,622 45.21
漢族 7,489,919 40.58
カザフ族 1,245,023 6.74
回族 839,837 4.55
キルギス族 158,775 0.86
モンゴル族オイラト族 149,857 0.81
東郷族 55,841 0.30
タジク族 39,493 0.21
シボ族 34,566 0.19
満族 19,493 0.11
土家族 15,787 0.086
ウズベク族 12,096 0.066
オロス族ロシア人 8,935 0.048
ミャオ族 7,006 0.038
蔵族 6,153 0.033
チワン族 5,642 0.031
達斡爾族 5,541 0.030
タタール族 4,501 0.024
撒拉族 3,762 0.020

経済

中華人民共和国の成立後、新疆では1954年設立の新疆生産建設兵団などによって、ダム・用水路の建設、防風・防砂林の造成などが行われ、新しい耕地が開拓されてきた。

第一次産業としては、小麦綿花テンサイブドウハミウリヒツジ、イリなどが主要な生産物となっている。特にこの地域で生産される新疆綿といわれる綿は、エジプト綿(ギザ綿)、スーピマ綿と並んで世界三大高級コットンと呼ばれ、繊維が長く光沢があり高級品とされており、日米欧に輸出され高級シャツ、高級シーツなどに利用される。また、中国四大宝石の中で最高とされる和田玉ホータン市で産出される。この他、石油と天然ガスなどのエネルギー資源産業をはじめ、鉄鋼、化学、機械、毛織物、皮革工業が発達している。主要な工業地域として烏魯木斉、克拉瑪依、石河子(シーホーツ)、伊寧(イーニン)、喀什(カシュガル)が挙げられる。

2005年発表の政府工作報告によれば、新疆の2004年の全省生産総額(GDP)は、対前年比11.4%増の2,203億人民元である。また同年の外資導入額は2億米ドルとされている。エネルギー資源の影響でウルムチは一人当たりのGDPが43221元という内陸部の割にはGDPが高く、2020年には10000ドル以上は超える可能性がある。

経済特区計画

2009年に起きた暴動は、ウイグル族の生活水準が低いことによる不満が爆発したことが原因であったという反省を基に、2010年以内に経済特区を新疆ウイグル自治区に設置する予定である。これにより、経済発展、雇用創出を実現し、ウイグル族の不満を和らげることを目指している[14]

資源

新疆は石油天然ガスの埋蔵量が豊富で、これまでに38カ所の油田、天然ガス田が発見されている。新疆の油田としては塔里木(タリム)油田、準葛爾(ジュンガル)油田、吐哈(トゥハ)油田が3大油田とされ、独山子(トゥーシャンツー)、烏魯木斉(ウルムチ)、克拉瑪依(クラマイ)、庫車(クチャ)、塔里木の5大精油工場で原油精製も行われている。

新疆の石油と天然ガスの埋蔵量は、それぞれ中国全体の埋蔵量の28%と33%を占めており、今日では油田開発が新疆の経済発展の中心となっている。特に、西部大開発政策開始以降は、パイプライン敷設や送電線建設などが活発化している。これには、中国国内最大の油田であった黒竜江省大慶油田の生産量が近年では減少してきたために、新疆の油田の重要性が相対的に増していることも関連している。

交通

工業化の進展は、新疆に道路を中心とする交通網の整備をもたらし、烏魯木斉などを拠点とした道路が新疆のほとんど全ての郷・鎮を結び、更には青海省西蔵自治区カザフスタンなどとも道路で結ばれるまでになった。

鉄道

1962年には蘭州と烏魯木斉を結ぶ鉄道の蘭新線が開通し、1990年には阿拉山口への延伸によってカザフスタンの鉄道に接続されたことで、中国各省と中央アジアを結ぶ鉄道の大動脈が通ることとなった。また、1999年にはコルラ-カシュガル間の南疆線も完成し、自治区最西端すなわち中国最西端までの鉄道が開通した。

航空

更には、面積が広大なことから航空への依存度が高まり、烏魯木斉の空港を中心として十数の自治区内の主要地を結ぶ航空網が整備されていった。その為、今日の烏魯木斉空港は、北京上海広州の空港とともに、中国5大空港の一つに数えられる程の拠点空港となっている。また西アジアアフリカヨーロッパとの国際線が発着することから、中国西北地域の玄関口としての役割をはたしている。


環境問題

砂漠化

ファイル:Taklamakan lrg.jpg
黄砂のもととなる、タクラマカン砂漠の砂嵐を捉えた衛星画像 (PD NASA)

新疆ウイグル自治区には、タクラマカン砂漠があるが、近年、過放牧によって草原が荒れて、砂漠化が進行している[15]。その理由は、タリム盆地周縁のオアシス人口の急激な人口増加によるとされる[15]。漢族の急激な入植による人口増加が主な原因とされる[15]

タクラマカン砂漠やゴビ砂漠(中国北部 内モンゴル・甘粛・寧夏・陝西)、黄土高原などにおける砂漠などは、黄砂の飛翔原でもあり、黄砂は日本を含む東アジアの広い範囲に被害を及ぼしている。

脚注

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参考文献

関連項目

外部リンク

テンプレート:Commons&cat

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  1. 中国標準時(北京時間/中国国内における公式の標準時)は、首都である北京経度を基準に設定されており、基本的に全国で使用されている。
  2. 【軍事情勢】嫌われ者の不良グループ Sankei Express 2011/12/18
  3. 2009年7月7日 産経新聞ウイグル暴動 漢族がウイグル族の商店を襲撃 混乱が拡大
  4. 2009年7月8日 産経新聞ワシントンで中国に抗議デモ 世界ウイグル会議が声明
  5. 2009年7月8日 毎日新聞
  6. テンプレート:Cite web
  7. 高田純『中国の核実験』 ISBN 978-4-86003-390-3
  8. 2009.4.30産経新聞 中国核実験で19万人急死、被害は129万人に 札幌医科大教授が推計
  9. 2008.8.11 産経新聞中国核実験46回 ウイグル人医師が惨状訴え
  10. [1]櫻井よしこ『週刊新潮』2009年4月2日号
  11. 新疆生産建設兵団参照
  12. 12.0 12.1 梅村担「内陸アジア史の展開」山川出版社、1997年,p.27
  13. (下記表参照)
  14. テンプレート:Cite newsテンプレート:リンク切れ
  15. 15.0 15.1 15.2 梅村担「内陸アジア史の展開」山川出版社、1997年,p33