ミニ新幹線
ミニ新幹線(ミニしんかんせん)は、新幹線規格(フル規格)の線路を新規に建設することなく、既存の在来線を改軌した上で新幹線路線と直通運転(新在直通運転という)できるようにした方式である[1]。また、新在直通運転を行う路線やそこを走行する車両(列車)もミニ新幹線と呼ぶ。
目次
概要
この方式を採用した鉄道路線は、案内上「新幹線」と称しているが、全国新幹線鉄道整備法の定義では在来線であって、新幹線ではない。また、当然整備新幹線にも含まれない。あくまで在来線の改軌並びに高速化改良であり、在来線区間の最高速度もフル規格新幹線区間の200km/h以上に対して、関東圏の常磐線や関西圏の東海道本線や山陽本線など、在来線のうち高規格な一部路線と同じ130km/h程度である(JR以外の路線での最高速度は北越急行ほくほく線と京成成田空港線の160km/h)。とはいえ、通常の在来線区間としては比較的高速度の運転が実施されることになるため、本来であれば地平の踏切には目視性を強化した警報機を設置したり、踏切を廃して立体化・地下化するなど、道路などの横断交通への安全対策が必要である。
フル規格による新幹線の運行時間帯は、始発が午前6時以降、終着が午前0時以前(所定ダイヤの場合)となっているが、在来線であるミニ新幹線には午前6時よりも前に始発駅を発車する列車もある。
特徴
利点
- 新規路線の建設用地確保が不要なため建設コストが格段に安い。
- 建設期間が短い。
これらは、新在直通を行う路線において、標準軌に改軌するか、三線軌条化し軌道を強化するなど、高速運転に対応した改良工事を行う必要があるものの、別規格の専用線を建設することとの対比の上では利点となる。
- 並行在来線の経営分離問題が生じない。
- 接続駅での乗り換えが不要となる。つまり、直通運転が実施されることで所要時間短縮や利用者の負担軽減を図ることができる。
- テンプレート:疑問点範囲することができ、乗り入れ先の駅の宣伝効果を高められる。
- 新幹線では保線及び騒音との兼ね合いから深夜帯の運行が禁止されているが、在来線の扱いになるため午前0時から午前6時まででも運行できる。
欠点
- フル規格新幹線のように劇的な時間短縮にはならない。
- 車体のサイズがフル規格新幹線に比べて小さい。フル規格と比較して全長・全幅とも狭小である在来線規格を採用しなければならないため、1両あたりの輸送力が比較的小さい。また、フル規格のホームと車両の間に隙間が空いてしまうため車両側には、停車時に張り出すステップの設置が必要となる。
- 車体に、フル規格路線とミニ規格路線の両方で使用できる機材を搭載する必要がある。これらは、乗り入れるフル規格路線における輸送能力上のボトルネックの原因となる可能性があることを意味する。
また、三線軌条ではなく改軌をした場合には以下の欠点がある。
- 従来からあった在来線のネットワークを寸断して直通列車の運行が不可能になる。この場合、列車の経路変更や途中駅での打ち切りが必要になり、従来の在来線を引き続き利用しようとしていた利用者にとってはサービスダウンとなる。また、工事中の代替輸送をどうするかも問題である。複線区間であればともかく単線区間では、列車の長期運休が避けられない。
- 多数の車両を新造する必要が生じる。直通特急用の車両ばかりでなく、ローカル列車用にも標準軌用の車両を新しく用意しなければならない。
路線
採用された路線
この方式では、新在直通を図った路線として2008年現在山形新幹線(奥羽本線福島駅 - 新庄駅間)と秋田新幹線(田沢湖線・奥羽本線盛岡駅 - 秋田駅間)の2路線がある。前述のように「新幹線」と称しているものの、法的には在来線である。
山形新幹線では改軌区間で運転される貨物列車のために一部区間で三線軌条を敷設(後に廃止)し、山形駅 - 新庄駅間の改軌にあたっては山形駅 - 羽前千歳駅間に乗り入れる仙山線や左沢線列車のために狭軌線路を併設のままで残存させた。この区間のローカル列車については、案内上山形線の名称を使用している。
また、秋田新幹線では大曲駅 - 秋田駅間は奥羽本線の狭軌線路と単線並列の形とし、一部区間を三線軌条とするなどして運転の自由度を確保している。同区間では、営業列車としては新幹線直行特急のみ(非営業の回送列車として田沢湖線用のローカル列車用の車両が運転される)が標準軌の線路上を運行され、この区間のローカル列車は狭軌の線路を運行している。
これらの路線で運転される特急列車「つばさ」や「こまち」は、新幹線直行特急と呼ばれる。
構想された路線
テンプレート:出典の明記 湖西線や北越急行は開業当初「在来ミニ新幹線」と呼ばれていたことがある。しかし、これらは本記事の新幹線直通列車とはまったく関係ない。湖西線や北越急行がこのように呼ばれた理由は、線形が高速向きに建設されたこと、全線のほとんどを高架とトンネルで整備され踏切がまったくないことなどから、新幹線をイメージして呼ばれたものである。実際、湖西線や北越急行はともに高規格路線であり、湖西線の優等列車は最高速度130km/hで運転されている。さらに信号設備を改良すればそれ以上の速度引き上げも可能であり、実際に北越急行内で優等列車「はくたか」は最高速度160km/hで運転されている。
北陸新幹線の敦賀以南の複数のルート案の一つとして、フリーゲージトレインによる湖西線への乗り入れ、または、湖西線を改軌して正真正銘の「ミニ新幹線」化することも検討されている。ただし、現時点ではまったく具体化していない。
九州新幹線長崎ルート新鳥栖駅 - 長崎駅間は一部在来線の長崎本線を挟む関係でスーパー特急方式で建設され、フリーゲージトレイン導入の計画がある。ミニ新幹線の計画はなくなった。
山形新幹線が具体化した頃に、香川県は、瀬戸大橋線をミニ新幹線化(四線軌条)できないかと考えた。しかし、交直流型車両は値段が高く採算レベルに乗らないという調査結果が出たため、断念した経緯がある。
群馬県では上越新幹線高崎駅から両毛線前橋駅への乗り入れ構想が浮上した。1990年に県とJR東日本との間で調査検討委員会を設置したが、進展は見られなかった。
車両
ミニ新幹線に用いる車両は在来線の車両限界で設計され、フル規格の新幹線車両よりも小型であるため、この呼び名がある。車長はフル規格新幹線の25mに対して、ミニ新幹線では20–21mであり車幅も狭く、新幹線区間で乗降口とホームとの間隔が開いてしまうため、開閉式のステップを備える。
電気方式も新幹線区間が交流2万5000Vに対して在来線区間は従来通り交流2万Vとなっているため、両電圧に対応した複電圧仕様である。
保安装置についても新幹線区間の自動列車制御装置(ATC)と在来線区間の自動列車停止装置(ATS)の両方を積んである。
2007年現在、狭軌のままの在来線との新在直通運転を行うことを目的とした軌間可変電車(フリーゲージトレイン)の実用化試験も最終段階に入っており、それが実用化されると改軌工事が不要となり、地上設備の改良が最小限で済むため、運用の自由度も増すことなどについて期待されている。
営業用車両
過去の営業用車両
- 400系:山形新幹線専用として使用していた。2008年12月から2010年春までに順次E3系2000番台に置き換えられた。