戦場のメリークリスマス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

テンプレート:Infobox Film戦場のメリークリスマス』(せんじょうのメリークリスマス、テンプレート:Lang-en-short)は、大島渚監督した映画作品である。

日本英国オーストラリアニュージーランドの合作映画で、テレビ朝日製作の映画第1作でもある。1983年5月28日日本公開。

英国アカデミー賞作曲賞受賞。

概要

原作は、ローレンス・ヴァン・デル・ポストの『影の獄にて』[1] に収録された2作品、「影さす牢格子」(1954年)と「種子と蒔く者」(1963年)に基づいている[2]。 作者自身のインドネシアジャワ島での、日本軍俘虜収容所体験を描いたものである。

出演は、デヴィッド・ボウイ坂本龍一ビートたけしトム・コンティなど。

第36回カンヌ国際映画祭に出品され、グランプリ最有力と言われたが受賞は逃した[3]

あらすじ

1942年、日本統治下にあるジャワ島レバクセンバタの日本軍俘虜収容所で、朝鮮人軍属カネモト(ジョニー大倉)がオランダの男性兵デ・ヨンを犯す。日本語を解する俘虜(捕虜)の英国陸軍中佐ジョン・ロレンス(トム・コンティ)は、ともに事件処理にあたった粗暴な軍曹ハラ(ビートたけし)と奇妙な友情で結ばれていく。

一方、ハラの上司で所長の陸軍大尉ヨノイ(坂本龍一)は、日本軍の背後に空挺降下し、輸送隊を襲撃した末に俘虜となった陸軍少佐ジャック・セリアズ(デヴィッド・ボウイ)を預かることになり、その反抗的な態度に悩まされながらも彼に魅せられてゆく。

同時にカネモトとデ・ヨンの事件処理と俘虜たちの情報を巡り、プライドに拘る空軍大佐の俘虜長ヒックスリー(ジャック・トンプソン)と衝突する。東洋と西洋の宗教観、道徳観、組織論が違う中、各人に運命から届けられたクリスマスの贈りものが待っていた。

キャスト

劇中の人物 役者
ジャック・セリアズ英軍少佐 デヴィッド・ボウイ
ヨノイ大尉(レバクセンバタ俘虜収容所長) 坂本龍一
ハラ・ゲンゴ軍曹 ビートたけし
ジョン・ロレンス英軍中佐 トム・コンティ
ヒックスリー俘虜長 ジャック・トンプソン
拘禁所長 内田裕也
イトウ憲兵中尉 三上寛
カネモト(朝鮮人軍属) ジョニー大倉
ウエキ伍長 飯島大介
ヤジマ一等兵 本間優二
ゴンドウ大尉 室田日出男
軍律会議通訳 戸浦六宏
フジムラ中佐(軍律会議審判長) 金田龍之介
イワタ法務中尉(軍律会議審判官) 内藤剛志
日本兵(俘虜収容所勤務) 三上博史

作品解説

第二次世界大戦をテーマにした戦争映画でありながら、戦闘シーンは一切登場しない。また、出演者はすべて男性という異色の映画でもある。

ハラ軍曹らに見られる日本軍の朝鮮人軍属や捕虜に対する不当な扱いや、英国などにおける障害者への蔑視行為、パブリックスクール寄宿制名門校)における いじめ など、闇歴史の描写も容赦なく描いている。

撮影はクック諸島ラロトンガ島で行われた。

配役

ハラ軍曹には当初勝新太郎がキャスティングされていたが、脚本の変更を要求する勝との折り合いがつかず、ビートたけしに変更となった[4]。ヨノイ大尉も当初沢田研二が予定されていたが、沢田のライブとのスケジュールがあわず、坂本がキャスティングされた[5]。また、セリアズ役にもロバート・レッドフォードにオファーをしていたが、ロバートが断ったためセリアズ役はデヴィッドが演じる事となった。

演技

台本をまったく覚えずに現場入りした坂本は当然上手くセリフが言えず、絶対に監督から怒られるシチュエーションを自ら作ってしまったが、監督はなぜか相手役に「お前がちゃんとしないから坂本君がセリフ話せないんだろう!」と怒ったという。この監督の一瞬の配慮により、たけしと坂本は無事クランクアップを迎えることができた。

演技についてたけしは、「NGは監督からほとんど出されなかったけど、代わりにアフレコはさんざんやらされた」と語っている。これは、監督にオファーされた際「自分は漫才師であり、俳優でありませんから、きちんとした演技はできません」と言ったことから、監督なりの配慮がされた結果と言える。加えてたけしがNGを出すと、代わりに脇にいた助監督が叱られたというエピソードが残っている。

当時、たけしと坂本は、2人で試写のフィルムを見て、たけしが「オレの演技もひどいけど、坂本の演技もひどいよなぁ」と語りあい、ついには2人でこっそりフィルムを盗んで焼こうという冗談を言い合ったという。また監督の大島渚はできない俳優を激しく叱責することで有名だったため、たけしと坂本は「もし怒られたら一緒にやめよう」と約束をしていた。

演出

たけしがドアを開けるシーンで散々リハーサルするもタイミングが上手く行かず、ついに監督が怒り出し、「このタイミング!このタイミングがこの映画で一番大事なんだ!」と怒鳴るものの、本番直前にドアは壊れてしまう。仕方なくドアなしで撮ったが、直後にドアが壊れた件について監督が「え?何?ドア?あんなのどうでもいいんだ!」と答えて、たけしは目が点になったという。

反響・評価

試写会で自分の演技を見たたけしは、「自分の演技がひどすぎる」と滅入ってしまったが、共演の内田裕也やジョニー大倉は「たけしに全部持ってかれた」とたけしの存在感に悔しがったという。一方で、大島は周辺に「たけしがいいでしょう」と漏らし、同席した作家・小林信彦に、滅入っているたけしを褒めるよう要請している。後にたけしは「すぐれた映画監督というのは、その俳優が一番見せたくない顔を切り取って見せる人を言うんじゃないかな?」と、自分の演技を引き合いに大島監督の力量を絶賛した。

後日、ビートたけしは「坂本もオイラもこの映画に客観的に参加していた、映画がこけちゃえばいいとさえ思っていた。ほかの役者のように大島監督からエネルギーを吸い取られるようなことはなかった」と語った。

考察

テンプレート:出典の明記 日本人がメガホンを取った戦争映画ながら、表面的なメッセージ性は薄い。しかし、その根底にある日本独特の「武士道」「神道仏教観」や「皇道派二・二六事件」、英国人・欧米人にある「エリート意識・階級意識」「信仰心」「誇り」「死と隣り合わせのノスタルジア」( 弟の歌う 「Ride Ride Ride」の曲にのって描かれる、故国の田園居宅の「バラ」 )などがより尊く描かれ、また、それを超えた友情の存在とそれへの相克がクライマックスにまで盛り上げられていく。

また、後期の大島作品に底流する「異常状況のなかで形作られる高雅な性愛」というテーマも、日英の登場人物らのホモセクシュアルな感情として(婉曲的ながら)描写されている。

特別番組

テレビ朝日では大島渚、ビートたけし、デヴィッド・ボウイなど勢揃いした特別番組が制作された。オープニングでは「レッツ・ダンス」に合わせて若い男女が踊る中デヴィッド・ボウイが登場し、笑顔でビートたけしに握手を求めた。

エピソード

  • ビートきよしも俳優として撮影に参加しているが、すべてカットされた。
  • たけしは、スケジュールの関係でほかのスタッフらより早く撮影を終えてロケ地より帰国したことから、映画の情報を虚実ない交ぜにしてラジオなどで流布した。一例を挙げると、大島が撮影に使ったトカゲが演出意図どおりに動かないことに腹を立て「お前はどこの事務所だ!」と怒鳴りつけたことや、差し入れのうな重をたけしらが食べてしまったことに坂本が腹を立て、かわりにたけしが手配したうな重を涙を浮かべながら食べていた、などである(後に坂本とたけしの対談で、「あの時俺は泣いていなかった」「いや泣いていただろ」といったやりとりがあり、あのような状況は食事の話題が異様になると結論づけた)[6]
  • カンヌ映画祭受賞作の発表前日に、スポーツ新聞社の記者が「明日の朝刊に間に合わないから、今、受賞したという前提で喜びの写真を撮らせて欲しい」とたけしを訪れた。翌朝、そのスポーツ新聞には、たけしの写真の横に大きな文字で「たけし ぬか喜び」と書いてあった。たけしは、自身がパーソナリティーを務める深夜ラジオ番組『ビートたけしのオールナイトニッポン』で、このことをネタに自嘲気味にトークをした。
  • ラストでたけしがドアップになり「メリークリスマス、ミスターローレンス」と言うシーンについて、後に『オレたちひょうきん族』でたけしは「オレのあの顔で世界が泣いたんだぜ」と自慢した。しかし、片岡鶴太郎にはそのシーンをちゃかされ、明石家さんまにいたっては「世界は泣いたか知らんがな、オレは笑ったわ!」と言われ、ネタにされた。たけしが出演していた『オレたちひょうきん族』のコーナー、『タケちゃんマン』でも、『戦場のメリーさんの羊』というパロディコントが放映され、カンヌ映画祭で受賞を逃したところまでネタにしていた。
  • 撮影中、坂本龍一がたけしの部屋を訪ねると、真っ暗な部屋の中のベッドで、天井までとどくかというほど本を積み上げて勉強するたけしの姿に出くわすという事実があった。

関連項目

脚注

テンプレート:Reflist

外部リンク

テンプレート:大島渚監督作品 テンプレート:デヴィッド・ボウイ

テンプレート:毎日映画コンクール日本映画大賞テンプレート:Link GA
  1. 『影の獄にて』由良君美、富山太佳夫訳、新思索社、2006年、ISBN 978-4783511939
  2. ユング派分析家河合隼雄は、スイスチューリッヒにあるユング研究所に留学時代、教育分析をうけていたマイヤー師から、ヴァン・デル・ポストの『影の獄にて』を読むように薦められた。その「東洋と西洋の相克と理解」、「日本人と西洋人の深層意識」を描き出した深遠な内容に、感動で人目もはばからず、駅中でひとりで泣いていたという(『未来への記憶』河合隼雄著。他『深層意識への道 グーテンベルクの森』 岩波書店 ISBN 4-00-026987-9)、『影の現象学』ともに河合隼雄著)。
  3. 結局、今村昌平監督の『楢山節考』がパルム・ドールを受賞。
  4. 春日太一『天才 勝新太郎』(文春新書)
  5. 『内田裕也 俺は最低な奴さ』(白夜書房)
  6. 当時のことは後年も、たけしがしばしば持ちネタのように語っている。例えば「トンガ諸島での撮影で、うな重で泣いたんだよ『世界の坂本』が」(『ビートたけしのTVタックル』2010年10月18日放送分)など。