意匠権

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意匠権(いしょうけん)とは、新規性と創作性があり、美感を起こさせる外観を有する物品の形状・模様・色彩のデザインの創作についての権利をいう。意匠法で規定された産業財産権で、権利期間は登録設定から20年(日本国内の場合)。

以下のような形態で工業的なデザインの権利保護が可能である。

日本における意匠権

意匠の登録

登録の要件

意匠を登録するためには、特許庁に出願し、以下に示す要件を満たしているかどうか審査を受ける必要がある。なおすべてが審査されるので審査請求は不要。早期審査請求可能。

  1. 工業上利用性
    工業上利用することができる意匠であること(3条1項柱書)。工業上利用性を有するためには、量産可能なものである必要がある(工業性のない美術品のデザインは、原則著作物にあたる。)。
  2. 新規性
    新規性を有する意匠であること。登録を受けようとする意匠は、その出願前に知られていない新規なものである必要がある。公知となっている意匠、刊行物に記載された意匠、およびこれらに類似する意匠は、新規性がないものとして意匠登録を受けることができない(3条1項各号)。
  3. 創作非容易性
    創作非容易性を有すること(3条2項)。既に知られた形状や模様、色彩又はこれらの結合や、寄せ集め、構成比率の変更又は連続する単位の数の増減等によって、容易に意匠の創作ができたと考えられる場合には、意匠登録を受けられない。
  4. 先願意匠の一部と同一・類似の意匠でないこと
    先願の意匠の一部がそのまま後願意匠として登録出願されたとき、後願意匠が新しい意匠の創作とはいえないことから、意匠登録を受けることができない(3条の2)。
  5. 公序良俗違反でないもの
    元首の像、国旗や皇室の紋章などのように、すでに知られたもの、人の道徳観を不当に刺激し、羞恥、嫌悪の念をおこさせるものは、意匠登録を受けることができない(5条1号)。
  6. 誤認惹起に相当しないこと
    他人の業務にかかる物品と混同を生じるものは、意匠登録を受けることができない(5条2号)。
  7. 機能確保のための形状でないこと
    コネクタ端子のピンの形状など、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなるものは意匠登録を受けることができない(5条3号)。そのような意匠の登録を認めることは、デザインではなく機能そのものを保護することとなり、意匠法の趣旨に反するからである。
  8. 最先の出願であること
    同一または類似の意匠について、二人以上の者が出願をしたときには、先に出願した者のみが意匠登録を受けることができる(先願主義、9条1項)。同一または類似の意匠について同日に複数の出願があったときは、出願人に対して協議命令が出され(9条5項)、協議によって定めた一人のみが意匠登録を受けることができる(9条2項前段)。協議できない場合や協議がまとまらないときには、いずれの出願人も意匠登録を受けることができない(9条2項後段)。
  9. 一つの意匠につき一つの出願とすること
    複数の意匠をまとめて一つの出願とすることはできず、一つの意匠ごとに一つの出願としなければならない(7条)。なお、組物の意匠(後述)の場合も、複数の物品で一つの意匠である(8条)。

意匠登録の手続

意匠登録を受けるためには、願書に図面を添付して特許庁長官に提出しなければならない(6条1項)。図面の代わりに写真、ひな形、見本を提出することもできる(6条2項)。願書が提出されると、願書等が所定の書式を満たしているかどうかが審査され(方式審査、68条により準用される特許法17条3項)、所定の書式を満たしているとされたものについて特許庁審査官により登録要件が満たされているかが審査される(実体審査、16条)。なお、特許出願の場合のような出願審査請求の手続は不要であり、全出願が審査される。

実体審査では、その意匠登録出願に17条各号に限定列挙された拒絶理由がないかどうかが審査され、拒絶理由がないときには「意匠登録をすべき旨の査定」(登録査定、18条)がなされる。登録査定後、所定の期間内に登録料を納付することによって意匠権が設定登録される(20条、42条、43条)。

一方、その出願に拒絶理由がある場合には審査官から出願人に拒絶の理由が通知され、意見書によって意見を述べる機会が与えられる(19条により準用される特許法50条)。意見書の提出や補正(後述)によって拒絶理由が解消された場合には登録査定となるが、拒絶理由が解消されない場合には「拒絶をすべき旨の査定」(拒絶査定、17条柱書)がなされる。

出願人が拒絶査定に不服である場合には、拒絶査定の謄本が送達された日から3月以内に、特許庁長官に拒絶査定不服審判を請求することができる(46条)。拒絶査定不服審判では、3人または5人の審査官によって審理が行われ、拒絶査定が正当な場合には審判不成立の審決(拒絶審決)、拒絶査定が不当な場合には成立審決(この場合、審判官自らが登録すべき旨の審決を行う場合と、審査に差し戻す審決を行う場合がある)がなされる。

出願人が拒絶審決に不服である場合には、東京高等裁判所に特許庁長官を被告として審決取消訴訟を提起することができる(59条)。

補正

意匠登録出願人は、その出願が特許庁に係属している間はいつでも、手続補正書を提出することによって願書や図面などを補正することができる(60条の3)。願書や図面の要旨を変更する補正は却下される(17条の2)。

意匠権の効力

意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠を実施する権利を独占することができる(22条)。特許権と比較すると、意匠権の効力が類似範囲まで及ぶことに特徴がある。また、商標権では類似範囲については禁止権のみが認められ専用権は同一の範囲に限定されるが、意匠権では専用権も類似範囲にまで及ぶ。

意匠権者は、意匠権を侵害するものに対して侵害の差止や予防を請求することができる(37条1項)。また、民法の規定によって不法行為による損害賠償(民法709条)や不当利得の返還(民法703条)を請求することもできる。なお、秘密意匠の場合には、特許庁長官の証明を受けた書面を提示して警告を行った後でなければ差止請求権を行使することができない(37条3項)。秘密意匠は内容が公開されないので、第三者に不測の損害を与えることを防ぐためである。

意匠権の存続期間は、設定登録の日から20年間である(21条1項、2007年4月1日より従来の15年から延長された。)。

最近の法改正

意匠権は、知的財産権関連訴訟の中でも、その割合は低く、その意匠権が持つ権利の形態も決して強いものではなかったことから、その重要性が年々低下しつつあった。多くの場合、模倣品の形態等に対抗するためには、不正競争防止法等によって訴訟が行われることが多くなっていた。そのため、1998年意匠法の法改正で、「デザイン」の保護の強化が図られ、模倣等に十分に対抗措置が可能となるように改正された。

部分意匠制度

部分意匠(ぶぶんいしょう)とは、物品全体の形態の中で一定の範囲を占める部分を保護するための意匠のこと。たとえば、コップの縁の部分に特徴あるデザインの場合、そのコップの縁の部分について部分意匠を受けることができる。

以前より、意匠の保護対象は「独立した製品」であったことから、その製品のある「部分」の意匠は保護対象とはされてこなかった。そのため、独創的で特徴ある創作部分が、意匠の中にいくつか含まれている場合、その一部分が模倣されると、その模倣品に対応することが出来ず、登録者が十分な保護を受けられなかったという事情があった。

そのため、平成10年に意匠法が改正され、意匠法第2条の「物品」の定義に「物品の部分」が含まれることを明確にすることで、部分意匠が保護されることになった。

組物の意匠の拡大

複数の物品から構成される「組物の意匠」を一意匠として出願し、意匠登録を受ける場合、従来は13品目に限定されていたが、法改正により、その対象品目が大幅に増やされた。

関連意匠制度

従来の類似意匠制度が廃止され、新たに関連意匠制度となって運用されることになった。これは、今までの類似意匠制度においては、類似意匠そのものに関連した効力が認められていなかったので、第三者の意匠が、登録しようとする意匠ときわめて類似していなければ、権利行使はほとんど不可能な状態であった。また、類似意匠の審査の判断も非常に複雑になっており、制度改正は一つの課題でもあった。

そのため、新たな関連意匠制度では、登録を受けようとする意匠に類似する関連意匠にも、一般の意匠の権利とほぼ同様の効力が与えられるようにすることで、同一人の一連の類似した意匠についても、強い権利が取得可能とされた。

意匠権における問題点

国際出願への対応

特許法においてはPCTルートを用いた出願、商標法においてはマドリッド協定議定書に基づく出願という、国際出願制度が存在する。しかしながら、意匠法においては、現在、活用できる国際出願制度が存在していない。

意匠については、国際的制度を構築するための制度としてヘーグ協定があるが、制度の基本的な違いから、日本は未加盟である。ヘーグ協定は無審査登録主義を前提に締結された協定であり、日本や米国は、未加盟である。このヘーグ協定における制度は、商標法におけるマドリッド協定議定書と比較的似た制度である。ただし、この協定には審査主義国にも配慮したジュネーブアクトがあり、日本はこちらに加盟し、平成27年度から国際出願を受け付ける予定である。

タイプフェース

タイプフェース(フォントのこと。ただし、1個1個の文字のデザインではなく、ここではアルファベット全文字などのセットについての議論である)は、現在の日本の制度では、意匠権の保護対象になっていない。判例によりフォントは、現在の日本では著作権でも保護されないため(フォント#法的保護)、意匠権による保護を考える者があるようである。仮に意匠権によって保護するとしても、膨大な審査の手間が必要であり(特に日本語文字の場合、JIS第1水準だけですら、3000文字近くもある)、どのようにデザイン性を保護するかは大きな問題となる。

アイコン

アイコンは、画面上のデザインであるため、物品ではないとされ、現在の日本の制度では、意匠権によっての保護の対象にはあたらない(著作物として認められるものであれば著作権があるが)。

意匠法で保護すべきという主張

工業所有権法のうち、特許法商標法においては、近年の法改正によって、コンピュータソフトウェアが発明の保護の対象となり(ただし、従来の特許と同様に「発明」として認められるものでなければならず、単に保護の対象する「物」にソフトウェアを含める、としたに過ぎない。通常のただのプログラムを保護するものではない)、コンピュータの画面を通じて用いられる標章の使用も商標の保護の対象とされ、すでにコンピュータネットワーク時代に沿った改正が行われている。テンプレート:要出典範囲

関連項目

外部リンク