尿路結石

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テンプレート:Infobox Disease 尿路結石(にょうろけっせき)は、尿路系に沈着する結晶のこと。もしくは、その石が詰まってしまうことにより起きる症状のこと。

分類

部位による分類

日本人の場合、95%以上は上部尿路結石である。

  • 上部尿路結石
    • 腎結石
    • 尿管結石
  • 下部尿路結石

成分による分類

症状

ファイル:Pos-renal.png
尿路結石で痛みを感じる部位(黒く着色した箇所)

自覚症状がある場合に関して言うと、しばしば激痛の発作を伴う。尿路結石の疝痛は「痛みの王様(king of pain)」といわれるくらいに激烈な痛みを伴うことが多い。わき腹や背中側あたりの激痛であり、倒れこんだり、まれに痛みにより失神する患者がいるほどの痛みである。

結石というのは多くの人でしばしばできているものではあるが、できた結石の大きさが尿管よりも小さい場合は自然に尿管内を移動して排尿とともに排出され、痛みも発生せず、本人は何ら問題を感じていない。だが、できた結石の大きさが尿管と同等もしくはそれより大きい場合、尿管を塞いでしまい、腎臓で尿が作られるにつれ腎臓から結石の位置までの圧力が高まってゆき激痛が発生する。この状態でCT撮影を行うと、ほとんどの場合、腎臓の肥大が起きている。

日本で全国規模の調査が行われたことがあり、その結果が1995年に発表されたが、それによると日本人の男性約11人に1人、女性26人に1人[1]が一生に一度は尿路結石に悩まされる、とされた。男性の発症率は女性の発症率の2倍といわれている。「好発年齢」つまり発症しやすい年齢は30代だとされており[2]、おおまかに言えば青年期から壮年期にかけての人に発症する率が高く、子供では稀である。

尿路結石の要因のひとつが食習慣の欧米化だとされており、生活習慣病に分類される。尿路結石が起きる人は、やがて動脈硬化などの生活習慣病にもかかってゆく傾向がある。また、糖尿病患者の約20%には、尿路結石の合併が見られるとする研究がある[3]

予防法

  • 普段からを多めに飲む(目安としては1日に2リットル程度以上)[4][5]
  • 普段から適度な運動を行う。
  • 就寝の直前に食事をとらない。つまり夕食は早めの時間帯、就寝より数時間以上前にとる(食事の直後に就寝するのは避ける)。

治療

尿路結石は発症すると激痛を伴うことが多いので、早急な対処が求められる。また、5mm以下の尿路結石では結石が尿管を通過するとそれまでの激痛が急激に消失する。およそ10mm未満の結石は自然排出を期待して、水分および鎮痛剤、利尿剤を用いて自然排出されるまで経過観察することがある。(保存的治療法)

薬物療法

5mm以下の尿路結石が疑われる場合には、排石剤のウラジロガシエキス(日本新薬のウロカルン)、鎮痛剤のチキジウム臭化物(アボットジャパンのチアトンカプセル他、ジェネリック品あり)が投与される事がある。また尿をアルカリ性にして排石を促すために、ウラリット錠が処方されることもある。結石が5mm以上で自然排出が期待できない場合には有効な薬剤は存在しない。近年海外のガイドライン(EAU,AUA)に準じてα1ブロッカー(保険適応外使用。前立腺肥大症の排尿困難に用いられる薬剤)が使用される例も増えてきている。

薬草療法(古代イスラム医学)

アボカドの生葉を数枚入れたカップに湯を注ぎ、5分後にそのまま飲用する習慣を長期続ける事で、尿管結石を縮小・消滅させる民間療法がトルコに根付いている[6]

体外衝撃波結石破砕術

体外衝撃波結石破砕術(ESWL)は、最も負担の少ない治療法の一つである。体外の装置によって造られた衝撃波(音波の一種)を結石にむけて集中させて結石を砕き、砂状にして尿と一緒に体外へと排出させる治療法である。その原理は、衝撃波を楕円の1つの焦点(体外)から発生させて、それを楕円状の反射鏡で収束させ、もう1つの焦点(破砕部位)を対象となる結石に合わせて、周囲との物質の音響インピーダンスの差[尿(液体)と結石(固体)の音の伝わり方の差]を利用して破砕するものである。

ドイツのドルニエ社によって1980年代に初めて製品化され、その後破砕装置が一般化したことにより患者の負担が大いに軽減された。一回は約30〜60分の治療時間で複数回行うこともあるが、体をメスで切らないで治療できる。日本では、1984年9月に、札幌市にある三樹会病院で、丹田均らにより初めてESWL装置が導入され、治療が開始された。ESWL本邦第一号機であるドルニエ社HM-3は、三樹会病院に現存している。

膀胱尿管に尿を溜めて衝撃波を加えた方が効果的である。また、周辺の消化器にガスが溜まっていたり、肥満など脂肪によって衝撃が緩和され効果が下がる事もある。衝撃波を加えた直後には血尿が排泄されるが心配は無い。3〜4日の入院が必要になる事もあるが、結石の種類や大きさによっては、一泊入院や日帰りでの体外衝撃波結石破砕術を行っている医療機関もあり、この治療方法の更なる普及が望まれている。この際、ガーゼ等で覆った蓄尿瓶を使って結石排出の有無を確認する。

現在この治療には健康保険が適用される。しかし費用は3割負担の場合でも8万円前後はかかり、また一箇所の結石破砕を何回行っても一回分の点数請求しかできない。また、保険会社によっては、当該手術を保険金支払除外手術としている所もある。

経尿道的尿管砕石術

経尿道的尿管砕石術(TUL)は、結石が比較的大きいために体外衝撃波結石破砕術(ESWL)では治療困難な場合などに行なわれる治療である。全身麻酔または脊椎麻酔下にて、尿道口から結石の直下までのワイヤーを留置し、そのワイヤーに沿って尿管鏡を挿入する。尿管鏡で結石を確認しながら、結石を鉗子衝撃波レーザーなどを用いて細かく破砕する。

手術療法

体外衝撃波結石破砕術登場以後は、その件数は激減している。

再発予防

食事に気をつけることで再発を予防することができる[7]クエン酸は尿をアルカリ性のほうへ傾け結石を溶けやすくさせるが、クエン酸を多く含む野菜や果物を増やすことは、同時に結石形成を促進するシュウ酸の摂取過剰となってしまう可能性があるため、以下の方法のほうが理にかなっている(ただし結石患者の緑黄色野菜の摂取量は不足傾向である)[7]。また、野菜や果物はカリウムを含み塩分(ナトリウム)の排出を促す効果があるため判断の難しい所である。

  • 何にも増して水分の摂取である。特に夜間は水分不足となり結石が発生、成長しやすい。また、尿量が増えることにより発生初期のごく小さな結石ならば自然排出される。
  • カルシウムを適度に摂取する(サプリメント等でも用法・容量を守り、決して過剰摂取しない)。ビタミンCも代謝産物はシュウ酸であり、月余に渡る過剰摂取は結石のリスクを高める(と一般に言われているが、ガリー・カーハン博士らの論文ではビタミンCの低摂取/高摂取による結石リスクの有意差は見られなかったこともあり、現在では間違いとされる[8][9])。ビタミンCはカルシウムと結合するためその遊離型は少なくなる傾向がある。これは、カルシウムが、シュウ酸カルシウム(結石)として分離する可能性が少なくなるということである。また、ビタミンCの利尿作用により、シュウ酸塩の尿中濃度が低くなる。このように、ビタミンCはシュウ酸塩を増やすが、カルシウムとシュウ酸塩の結合を阻止するのである。
  • 炭水化物穀物を主として摂取し、尿中に排泄されるカルシウムの量を減らすため砂糖の過剰摂取は控える[7]
  • 動物性蛋白質、塩分を控えめにし尿中に排泄されるカルシウムの量を減らす[7]

またシュウ酸の摂取を控えめにすることで結石の主要成分であるシュウ酸カルシウムができるのを防ぐ。リン酸カルシウムは酸性ではない環境で唯一存在できるため、ビタミンCなどの摂取によって結石形成を防ぐことができる。また、シュウ酸カルシウム結石は十分な量のビタミンB群とマグネシウムを摂ることで予防が可能となる。

腎臓・膀胱・尿路の結石については、再発防止には食事制限を伴う都合、体重管理について極めて困難な管理を伴う。このため、たとえばプロスポーツではプロボクシング競馬競艇などの様に厳しい体重制限と減量が付いて回る種目の場合、食事制限と減量の両立が困難になることで体重維持も極めて無理を伴う様になり、最終的に職業生命にも関わってくる場合がある[10]。同様に、体重に選手生命に致命的な問題がないスポーツでも、治療の制約が体重増加や体調変化の原因となり、選手活動の全盛期が終わってしまうということが起きてくる。

結石の核は微生物か

微生物が尿路結石の核となりうるかどうか、現在議論がある。その始まりは、1998年フィンランドの研究者らによって、ヒトの腎臓結石から「ナノバクテリア」と名付けた細菌を分離したという発表がされてからである。つづいて、2004年4月に、岡山大泌尿器科の教授と共同研究員らは、ヒトの尿路結石の中に、燐灰石リン酸カルシウム)の殻を持つ微生物の存在を確認したと、発表した。これは、先のフィンランドの研究者らがおこなった実験を踏襲したものであり、再実験であった。世界的に議論となっている主題は、これらの実験手法についての是非および「微生物がいたからそれが結石の核になった」という、これまでの学説を大きく揺るがす説について、である。

その後2008年に、同じく岡山大学の公文祐巳教授らは”尿路結石などの原因となる微生物”として注目を集めてきた物体の正体は生物ではないと発表した。この物体は大きさが数10ナノメートル〜数百ナノメートルと小さく、本当に生物かどうかの論争が続いていた。公文教授は尿路結石を磨り潰したものを血清で培養。のち、培養液の殺菌に使うガンマ線を当てたところ、10ナノメートルぐらいの核となる部分に脂質が酸化して積み重なり、それはあたかも生物が自己増殖するように振る舞ったが、”尿路結石などの原因となる微生物”説の根拠となる”DNA”は見つからなかった。以上を以て公文教授らはこの核となる物質は、なんらかの生物ではないと結論づけた。

脚注

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関連項目

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外部リンク

テンプレート:腎泌尿器疾患

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  1. 下村弘治:尿路結石 生物試料分析学会誌 Volume 32, Issue 3, 2009 (published: June 30 2009)
  2. 尿路結石症の臨床統計 日本泌尿器科學會雑誌 Vol.73 (1982) No.11 P1395-1401, テンプレート:JOI
  3. 清水徹、今西努、加藤大:(原著)2痛風患者における腎結石の有病率 痛風と核酸代謝 Vol.31 (2007) No.2 p.143-149
  4. 尿路結石症診療ガイドライン2013年版
  5. 腎臓結石の予防と治療 大阪府立急性期・総合医療センター 腎臓・高血圧内科
  6. ドキュメンタリー「神秘の東洋医学」シリーズ 第5回『イスラム(前編)』(ヒストリーチャンネル
  7. 7.0 7.1 7.2 7.3 再発予防ガイドライン」『尿路結石症診療ガイドライン 改訂版(2004年版)』、平成15-16年度厚生労働科学研究医療技術評価総合研究事業(Minds 医療情報サービス
  8. Curhan GC, Willett WC, Speizer FE, Stampfer MJ. Intake of vitamins B6 and C and risk of kidney stones in women. J Am Soc Nephrol 1999;10:840-5.
  9. Curhan GC, Willett WC, Rimm EB, Stampfer MJ. A prospective study of the intake of vitamin C and vitamin B6 and the risk of kidney stones in men. J Urol 1996;155:1847-51.
  10. たとえば、JRA所属の元騎手である橋本広喜のケースなど。