対数

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対数 (たいすう、テンプレート:Lang-en-short) とは、任意の数 xa を底とする指数関数により x = ap と表したときの冪指数 p の事である。 p = loga(x) と書いて pa を底とする x対数という。対数関数 loga(x) は、指数関数 ax逆関数として定義される。

ファイル:Logarithms.png
いくつかの対数関数のグラフ。緑は常用対数、赤は自然対数、紫は底が 1.7 の対数に対応する。全て点 (1,0) を通り、y 軸を漸近線に持つ。

概要

対数により、の計算を、より簡単なの計算に置き換えることができる。近似値での計算になるので、有効数字に注意する。対数を得るには、対数表という数表を使うなどする。

2つの実数 x, y の積を求めたいとする。別の正の数 a ≠ 1 に対して、

<math> x = a^p </math>
<math> y = a^q </math>

とおくと、指数法則

<math> a^p a^q = a^{p+q}</math>

が成り立つことより、以下の手順によって積 xy を求めることができる。

  1. 対数表を参照するなどして xp に、yq に変換する。
  2. p + q を計算する。
  3. 対数表を逆に参照するなどして p + q の結果を ap+q に変換する。
  4. これが求める積 xy である。

この計算で用いる pp = loga(x) と書き a (てい、 テンプレート:Lang-en-short) とする x対数という。対数 p において x真数(しんすう)という。

qa を底とする y の対数であり q = loga(y) と書く。

歴史

対数の概念は、16世紀末にヨスト・ビュルギ1588年)やジョン・ネイピア1594年)によって考案され、便利な計算法として広まった。ヨーロッパでは日本の九九のような、かけ算を語呂よく暗記する方法が無かったために、足し算はできるがかけ算を苦手とする人が多かった。数学に長けた者にとっても、 xy の桁数が大きい場合は、計算機がなかった時代において非常に便利な計算方法であった。ネイピアは、20年かけて対数表を作成し1614年に発表した。対数の値を長さに換算した目盛りを持つ物差しを使用して、以上の計算手順を簡単に行えるようにしたものが対数計算尺である。対数は煩雑な計算にかける労力を大幅に減らし、ヨハネス・ケプラーによる天体の軌道計算をはじめとして、その後の科学の急激な発展を支えた。

対数表の近似精度を高めることはネイピア以降もしばしば行われ、産業政策にも利用された。1790年にフランスで ガスパール・ド・プロニー が失業中の理髪師たちを集めて雇用し計算させたのをはじめに、チャールズ・バベッジ階差機関への挑戦(1827年)や20世紀初頭アメリカ・ニューディール政策における公共事業促進局の実施する対数表プロジェクト (Mathematical Tables Project) において精度向上の試みが行われた。

指数関数的に変化する量を対数に変換してみると線型性などの綺麗な性質が浮かび上がったり、双曲線の面積を求める時などに用いる積分 ∫ x−1dx に現れたりするなど対数は簡便な計算法以上の意味を持つことも多く、いろいろな場面で現れ、詳しく研究されてきた関数の一つでもある。

関数電卓パソコンなどが広く使われる現代においても、厳密な値を必要としない(有効数字の桁数の少ない)計算をする際には便利な方法である。

定義

一般には複素数で定義されるが、その解説は自然対数の項目にゆずる。

指数関数を用いた定義

正の実数 a ≠ 1 をとると、 任意の正の実数 xに対し

<math> x=a^p\, </math>

を満たす 実数 p が唯一つ定まる。この p

<math> p=\log_a x\, </math>

と書き、p のことを a(てい、 テンプレート:Lang-en-short) とする x対数という。このとき x のことを真数 (しんすう、 テンプレート:Lang-en-short) という。この対数の定義は、オイラーによる。(1728年

演算法則からの定義

正の実数 a ≠ 1 をとる。正の実数 x変数にとる実数値連続関数 <math>f(x)</math>が

<math> f(xy)=f(x)+f(y)\, </math>
<math> f(a)=1\, </math>

を満たすとき

<math> f(x)=\log_{a} x\, </math>

と書き、<math>f(x)</math> のことを<math>a</math> をとする対数関数という。

特殊な底

1 以外の正の実数であれば底に何を用いてもよいが、分野によって慣例的によく用いられる底があり、底が省略されることも多い。

<math> \log x\, </math>

のように底が省略されている場合は、前後の文脈や扱われている分野によって底が何か判断される。

底を a = 10 とした対数は常用対数 (テンプレート:Lang-en-short) あるいはブリッグスの対数 (テンプレート:Lang-en-short) と呼ばれ、実験などの測定値に用いることが多い。他の対数と区別するために "Log" などのように大文字を用いることがある。ヘンリー・ブリッグス (en) は、1617年に 1000 未満の整数について8桁、1624年には1~2万と9万~10万の整数についての14桁の常用対数表を出版した。他の対数と区別するために "lg" という記号を用いることがある(ISO 31/XI)。

底を a = eネイピア数) とした対数を自然対数 (テンプレート:Lang-en-short) あるいはネイピアの対数 (テンプレート:Lang-en-short) という。名前に用いられているもののジョン・ネイピア自身とは関係ない。微積分などの計算が簡単になるため、数学などの理論分野で用いられることが多い。他の対数と区別するために "ln" という記号を用いることがある。

底を a = 2 とした対数は二進対数 (テンプレート:Lang-en-short) といい、情報理論の分野で情報量などを表現するのに用いられることが多い。他の対数と区別するために "lb" という記号を用いることがある(ISO 31/XI)。

古典的な定義

正の実数 x に対して

<math>x = 10^7 \left(1-{1 \over 10^7}\right)^p</math>

を満たす実数 p が唯一つ定まる。この p のことを ネイピアの対数 (テンプレート:Lang-en-short) という。ネイピアは、1594年に対数の概念に到達し、この定義を用い 20年間計算を続け 7桁の数の対数表を作成し1614年に発表した。

正の実数 x に対して

<math>x = 10^8 \left(1+{1 \over 10^4}\right)^p</math>

を満たす実数 p が唯一つ定まる。この p のことをビュルギの対数という。ビュルギは、ネイピアよりも早い1588年に対数の概念を発見したが、1620年まで公表しなかったため、対数の発見者としてはネイピアが称えられることが多い。

余対数

逆数の対数

<math>\mathrm{colog}_a{x} = \log_a{1 \over x} = - \log_a{x} = \log_{1/a}{x} </math>

a を底とする 余対数 (よたいすう、テンプレート:Lang-en-short) と呼ぶ。

対数の性質

a, b は 1 ではない正の実数、x, y は正の実数、p は実数、ln x は自然対数を表すとする。

基本的な演算

定義により

<math>a^{\log_a x} = x</math>

真数の積は、対数の和に変換される。逆に(底が同じ)対数の和は、真数の積に変換される。

<math>\log_{a}(xy)=\log_{a}x+\log_{a}y</math>

真数の指数は、対数の定数倍に変換される。

<math>\log_a x^p = p \ \log_a x</math>

真数の逆数は、対数の符号を反転させる。

<math>\log_a {1 \over x} = \log_a x^{-1} = -\log_a x</math>

真数の商は、対数の差になる。逆に(底が同じ)対数の差は、真数の商に変換される。

<math>\log_a {x \over y} = \log_a \left(x \cdot {1 \over y}\right) = \log_a x -\log_a y</math>

底を a から b へ取り替えたいときは

<math>\left(\log_a x\right) \left(\log_b a\right) = \log_b a^{\log_a x} = \log_b x</math>

より

<math>\log_a x = {\log_b x \over \log_b a}</math>

となる。これを底の変換という。正の実数 x が 1 でないならば、b = x とすることにより

<math>\log_a x = {1 \over \log_x a}</math>

底の逆数は、対数の符号を反転させる。

<math>\log_{1 \over a} x = {\log_a x \over \log_a {1 \over a}} = - \log_a x</math>

対数の値の大きさに関する性質

底の値によらず、真数が 1 のとき対数は 0 である。

<math>\log_{a} 1=0\, </math>

1 < a の時、対数は狭義単調増加

<math>x < y \Leftrightarrow \log_{a}x < \log_{a}y</math>
<math>\lim_{x\to+0}\log_a x= -\infty</math>
<math>\lim_{x\to+\infty}\log_a x= +\infty</math>

0 < a < 1 の時、対数は狭義単調減少

<math>x < y \Leftrightarrow \log_{a} x > \log_{a} y</math>
<math>\lim_{x\to+0}\log_a x= +\infty</math>
<math>\lim_{x\to+\infty}\log_a x= -\infty</math>

対数の発散はとても緩やかであり p > 0 に対して

<math>\lim_{x\to+\infty}{|\log_a x| \over x^p} = 0</math>

解析学における公式

微分に関する公式

<math>{d \over dx} \ln x = {1 \over x}</math>
<math>{d \over dx} \log_a x = {1 \over x \ln a} = {\log_a e \over x}</math>

マクローリン展開

<math>\ln(1-x) = -\sum^{\infin}_{n=1} {1 \over n} x^n , (|x| < 1)</math>

積分に関する公式(以下の不定積分において C は積分定数とする)

<math>\int {1 \over x} dx = \ln |x| + C</math>
<math>\int \ln x dx = x \ln x -x + C</math>
<math>\int \log_a x dx = { x \ln x -x \over \ln a} +C = x \log_a x -x \log_a e + C = x \log_a \left({x \over e}\right) +C</math>

関連項目

外部リンク

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