密度行列

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密度行列(みつどぎょうれつ、テンプレート:Lang-en)は、量子力学における混合状態を表現するために使われる行列である。

定義

ある(ここでは時間依存は考えない)の状態が、テンプレート:Math という状態ベクトルが古典的に混ざったものとして記述できるとする。つまり、ある系のどんなオブザーバブルの測定値の確率分布も、テンプレート:Math での測定値の確率分布に重みをつけて平均したものとして表せるとする。

テンプレート:Mvar 番目の状態が重み テンプレート:Mvar で混合されているとき、

<math> \hat{\rho} = \sum_k p_k | \Psi_k \rangle \langle \Psi_k | \quad(0 < p_k < 1, \quad \sum_k p_k \, = 1) </math>

で定義される演算子 <math>\hat{\rho}</math> を密度演算子 (テンプレート:En ) と言う。密度行列 (テンプレート:En ) <math>\rho</math> は、密度演算子を行列表示したものである。

ここで、テンプレート:Math は互いに直交している必要はない。たとえば、スピンテンプレート:Mvar 成分の テンプレート:Math固有状態と、テンプレート:Mvar 成分の テンプレート:Math の固有状態を混ぜることも可能である。

このような複数の状態が混ざってできた状態を混合状態 (テンプレート:En ) といい、そうでない状態を純粋状態 (テンプレート:En ) という。

性質

一般に密度演算子 <math>\hat{\rho}</math> はエルミート演算子で、ヒルベルト空間上の任意の状態ベクトル <math>|\phi\rangle\in\mathcal{H}</math> に対し、 テンプレート:Indent テンプレート:Indent を満たす。ここで テンプレート:Math は密度行列 テンプレート:Mathトレース (テンプレート:En) である。

一般には、密度演算子の二乗は、

テンプレート:Indent

となる。ここで、簡単のために状態 テンプレート:Math と状態 テンプレート:Math は規格直交性 テンプレート:Math を持つとした(密度行列を対角化することで、このような表示は常に可能である)。

特別な場合として、複数の状態が混ざっていない純粋状態 テンプレート:Math に対する密度行列 テンプレート:Math では、状態ベクトルの規格化条件 テンプレート:Math より、

テンプレート:Indent

となる。よって、純粋状態の場合は テンプレート:Mathテンプレート:Mvar は正の整数)であることが分かる。また、純粋状態に対する密度行列は射影演算子の形となっている。

物理量の期待値

量子力学において、純粋状態 テンプレート:Math におけるオブザーバブル <math>\hat{A}</math> の期待値は、

テンプレート:Indent

となる。この純粋状態が混ざってできた混合状態の期待値 <math> \left\langle A \right\rangle</math> は、重み テンプレート:Mvar を使って、

テンプレート:Indent

つまり密度行列 テンプレート:Math と、オブザーバブル <math>\hat{A}</math> の行列表示 テンプレート:Mvar との積の、トレースで表される。

時間発展

密度演算子の時間発展は、次のフォン・ノイマン方程式 (テンプレート:En ) で記述される。フォン・ノイマン方程式は古典論におけるリウヴィル方程式 (テンプレート:En ) に対応するので、リウヴィル=フォン・ノイマン方程式 (テンプレート:En)、あるいは単に(量子)リウヴィル方程式とも呼ばれる。

テンプレート:Indent = [\hat{H}, \hat{\rho}] = \hat{H} \hat{\rho} - \hat{\rho} \hat{H}. </math>}}

ここで テンプレート:Math換算プランク定数テンプレート:Mvarプランク定数)、<math>\hat{H}</math> はハミルトニアン、括弧 テンプレート:Math交換子である。

フォン・ノイマンの式は、純粋状態(状態ベクトル)の時間発展を記述するシュレーディンガー方程式 テンプレート:Indent &= \hat{H} | \Psi_k \rangle,\\ - i \hbar {\partial \langle \Psi_k| \over {\partial t}} &= \langle \Psi_k | \hat{H}, \end{align}</math> }} と密度演算子の定義式だけを用いて導出できる。ここでブラ・ベクトル テンプレート:Math はケット・ベクトル テンプレート:Math双対であること テンプレート:Math に注意。

統計力学への応用

統計力学においては、状態のアンサンブルを混合状態と考えることができる。量子統計力学では、エネルギー固有状態を用いて密度行列を表現すると便利である。

密度行列 テンプレート:Math は、たとえばカノニカル分布では、

テンプレート:Indent{\operatorname{Tr} (\mathrm{e}^{-\beta H}) } </math>}}

グランドカノニカル分布では、

テンプレート:Indent}{\operatorname{Tr} (\mathrm{e}^{-\beta H_\mathrm{G}}) } = \mathrm{e}^{\beta(\Omega - H_\mathrm{G})} </math>}}

で表される。ここで テンプレート:Math逆温度テンプレート:Mathボルツマン定数テンプレート:Mathグランドポテンシャルテンプレート:Math はグランドカノニカル分布でのハミルトニアンである。

このときオブザーバブルの期待値 テンプレート:Math は、

テンプレート:Indent

と書くことができる。特に テンプレート:Mvar恒等演算子 テンプレート:Math の場合、

テンプレート:Indent{\operatorname{Tr}\{\mathrm{e}^{-\beta H}\}} = \frac{\operatorname{Tr}\{\mathrm{e}^{-\beta H}\}}{\operatorname{Tr}\{\mathrm{e}^{-\beta H}\}} = 1</math>}}

を満たす。また、テンプレート:Mvar がハミルトニアン テンプレート:Math の場合、ハミルトニアンの固有値を テンプレート:Math とすれば、

テンプレート:Indent{\operatorname{Tr}\{\mathrm{e}^{-\beta H}\}} = \frac{\sum_i E_i\mathrm{e}^{-\beta E_i}}{\sum_i \mathrm{e}^{-\beta E_i}} </math>}}

と書き換えられる。

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