孤独死

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孤独死(こどくし)とは主に一人暮らしの人が誰にも看取られること無く、当人の住居内などで生活中の突発的な疾病などによって死亡することを指す。特に重篤化しても助けを呼べずに亡くなっている状況を表す。

なお関係する語としては後述する孤立死(こりつし)が公的にも使われるが、ほかにも単に独居者が住居内で亡くなっている状況を指す独居死(どっきょし)のような語も見いだせる[1]

概要

この言葉は日本で核家族化の進んだ1970年代独居老人の死後、だいぶ経って久し振りに訪ねてきた親族に発見されたという事件の報道で登場、同種の事例がたびたび発生した1980年代ごろからマスメディアに繰り返し用いられた。ただし孤独死に相当する事件は、具体的名称に欠くものの明治時代より報道されている[2]

特に隣家との接触のない都市部などにおいて高齢者が死後数日から数ヶ月(長いケースでは1年以上という事例もある)経って発見されるケースが過去に相次いで報告される一方、都市部に限定されず過疎地域での発生も懸念される。

当初、都会には人がたくさんいるにもかかわらずその誰にも気付かれず死んでいるという状況を指して「都会の中の孤独」という逆説的な死様として取り上げられていたが次第に「病気で周囲に助けも呼べずに死んでいった」ことがわかるにつれ、このような事態の発生防止が求められるようになったという経緯を持つ。

なおこの当時は一般的に都市部では人口が集中しているため、孤独を感じる人は存在しないと考えられていた。現在では都市部で人的交流が疎遠になりがちであることが広く理解され、孤独死が身近にも発生しうることが理解されるようになってきている(孤独の項を参照)。

独居者の死因を調査した際に倒れてから数時間以上(長いケースでは数日)にわたって生きていたと考えられる事例も少なからず見出され、福祉や災害援助の上では同種の死亡事件の予防が重要視されるようになった。このため1990年代より各所で様々な予防策が検討・施行または提供され、2005年現在では一定の効果を上げ始めている。

その一方で阪神・淡路大震災といった大規模災害では被災者の仮設住宅による生活が長期に及び慣れない住環境もあるが地域コミュニティが希薄なため隣人が異変に気付きにくく疾病で身動きが取れないまま死亡する人が出るという事態を招いており、この教訓から災害復旧時の孤独死防止が求められ予防策が講じられるようになってきている(後述災害と孤独死参照)。

2005年9月24日NHKスペシャル千葉県松戸市常盤平団地における孤独死の問題が放映されたときは大きな反響を呼び、孤独死問題の社会的関心も高まってきている。

なおその多くでは、一人暮らしで周辺社会との接点もなく、誰からも省みられることなく死後比較的長い間周囲に不在が気付かれないような状況にある場合に、孤独死と呼ばれ得るが、後述する老老介護の問題などにも関連して、必ずしも一人暮らしであることだけが孤独死の要因とはいえない。2011年1月大阪府豊中市で死亡が確認され報じられた元資産家姉妹のケース(→大阪元資産家姉妹孤独死事件)のように、一人暮らしではないが周囲の社会との連絡がなく孤立化、滞納し膨れ上がった相続税・固定資産税や終の棲家にと立てたマンションに入居者が集まらず逆に建設費の借金を負うなどして経済的に困窮、結果餓死に至った事例も「典型的な孤独死」と呼ばれている[3]

ちなみに日本国政府はこれらの社会問題において「孤立死」という表現をしばしば使っており、例えば内閣府の高齢社会白書の平成22年度版[4]では「誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な孤立死(孤独死)」と表現している。これは社会的に孤立してしまった結果、住居内で死亡して死後しばらく周囲の社会に気付かれず放置されていた状況を指してのものである。

定義の難しさ

孤独死に対しては法的に明確な定義はなく、警察庁の死因統計上では変死に分類される。この変死の中でも事後(遺体発見以降)の周辺調査や検死司法解剖等により死因特定した結果、早い段階で他者の適切な介護があれば救命できた可能性のあるケースに関して集計されるに過ぎない。このため、これを明確に定義付けての統計は存在しない。

孤独死は明確に定義され難い部分を含むため、以下のようなケースでは特に判別が難しい。

突然死
独居者の突然死は孤独死には含まれないとはされるものの突然死する直前の心肺停止段階の場合は適切な救急救命医療(→救急医療)によって救命できる可能性もある以上、場合によってはこれに含まれるケースもあると考えられる。
自殺
孤独に耐えかねて自殺する人もいる。これは「孤独が原因となった死」であるとはいえ、一般にいうところの孤独死の範疇には含まれない。しかし発作的に自殺を図ったものの途中で思いなおし、自殺を中断したにもかかわらず周囲に助けを求められなかったために結果的に死亡してしまった場合は孤独死の範疇に含まれるかもしれない。ただこのようなケースでは自殺か自殺中断による孤独死かの判別がつきにくいため、暗数である。

その一方で死後長期間経過して遺体が傷み死因特定が困難なケースも多いことから、事件性の認められない変死でなおかつ周囲がその人が亡くなったことを長期間にわたって知らなかった場合には死因特定によらずに孤独死と呼ばれるが、このような場合には特に社会的な孤立状態にあったとして、孤立死の語も使われる。

なお病院などで身寄りもなく亡くなる高齢者もいるが、これは「孤独な死」には違いないが孤独死とは呼ばれない。

類似するケース

これらの問題に絡んで近年増加中の老老介護(高齢者がその親を介護している事例)などでも介護していた側が急病などで突然死し副次的に動けない要介護者側が餓死するケースも多く確認されており、これも別の形の孤独死として問題視されている。

発生要因的には孤独死となんら変るところがなく特に要介護者側が3日~一週間程度は存命している場合も多く、これの予防は他の孤独死よりも防止しやすいはずではあるのだがたびたび発生してはその都度、関係者の対応を含めて問題視される事態を招いている。

起きやすいとされる環境

このような亡くなり方は特に都市部などの地域コミュニティが希薄な地域が多いとされ、また震災などによって地域コミュニティが分断されている場合にも発生しやすい。当然、過疎地域等では民家が疎らであるため隣家が気付きにくい部分もある。なお生活様式では、以下のような特徴が挙げられる。

  1. 高齢者(とくに男性・後述)
  2. 独身者(配偶者との死別を含む)
  3. 親族が近くに住んでいない
  4. 定年退職または失業により職業を持たない
  5. 慢性疾患を持つ
  6. アパートなどの賃貸住宅(隣家に無関心)

これらでは子供夫婦の家庭も核家族向けの賃貸住宅で身を寄せると子供や孫の生活に迷惑が掛かるとして遠慮して独居を選ぶ人も増えており、上に挙げたような状況に陥る人も少なくないことから潜在的な孤独死予備群は年々増加の一途をたどっていると考えられている。

なお2000年代後半に入っては、孤独死が社会問題として広く認識されるようになったことを背景に、70歳を越える後期高齢者への周囲の関心度が高くなる傾向があり、孤独死から長期間気付かれないなどの問題が抑制されているが、それと相反するように60代、特に65歳以下だと気付かれにくい傾向も見出せる。愛知県の遺品整理企業社長である吉田太一は、こういった65歳以下の孤独死が気づかれにくい原因として、それらの高齢者がある程度は活発に行動することもあり、周囲が不在(突然に姿を見せなくなるなど)に気付いても、何らかの事情で住居を離れているのではと考えるなどして、結果死去に気付かないといった傾向も強まっていると見ている[5]

性別に関しては、阪神・淡路大震災以降に被災者内に見られた孤独死事例やまたは随所で行われているその他の集計において男性女性の2倍以上の高率で孤独死しやすい傾向が見られる。これは女性は日常的な近所付き合いなどがある率が高いことが関係していると考えられ、男性は職場でこそ人間関係を持っていたが地域コミュニティに馴染むのが下手で周囲に異常が発見されにくく手遅れとなりやすいとされる(後述予防参照)。

死因

これらでは心筋梗塞循環器障害)や脳溢血疾患)などといった急性の疾病発作などが直接の原因に挙げられるが、肺炎により日常生活が困難になって餓死するケースや肝硬変で意識不明に陥りそのまま亡くなるケースも報じられている。

また家の中で転倒して骨折して電話で助けを呼べずに衰弱死するケースもあり高齢者が多いながらも体力のある青年層や中年層でも、また成人病罹患者によらずとも高齢者以外が何等かの原因で助けが呼べずに衰弱して死亡するケースも見られる。特に近年の日本では、慢性的な不景気から生活に困窮してそのまま亡くなるという事態の発生も懸念される。

災害と孤独死

先に挙げた阪神・淡路大震災では、震災から10年の間に仮設住宅と復興住宅生活者を合わせ560名以上が孤独死と見られる亡くなり方をしている。この中には冬季の仮設住宅にて体を冷やして肺炎によって衰弱したケースが多く、また生活が破壊されたことなどに関連してアルコール依存に陥って体調を崩しその体調不良も加わって孤独死を起こしやすい傾向も見られる。

アルコール依存と孤独死

飲酒によって孤独感や虚無感を紛らわせようとして慢性アルコール中毒により肝硬変を患った結果、発作による意識混濁で助けを呼べずに死亡するケースも少なからず報告されている。これらでは孤独から飲酒などにより健康を害しやすいという悪循環も危惧される。

予防

これらでは当人が積極的に親族に連絡を取り合ったり町内自治会や趣味の同好会といった地域コミュニティに参加する事が勧められているが、その一方で訪問介護(ホームヘルパー)や地域ボランティア団体による訪問サービスといった介護制度の利用が勧められる。

過去にも定期的に訪問していたヘルパーが「いくら呼んでも出ないのに家の電気はつきっぱなし」などといった異常に気付いて通報、辛くも救助された事例もある。この他、新聞配達や食料品・日用品・給食宅配などといった宅配サービス提供者の従業員が異常に気付いて知らせたケースもある。

近年では都市部に限らず地方町村でも高齢化により従来からある地域コミュニティ分断により孤独死の発生が懸念されるため、地方自治体が高齢者宅をコンピュータネットワークで結んで在宅健康診断などのサービスを提供するなどして予防に努める所も出てきている。

特にパソコンを扱えない高齢者でも水道ガス・携帯電話のめざまし時計の利用状況といった生活情報を送信することで安否を確認するシステムの導入も始まっており、電気ポットの利用頻度(高齢者は食後にや薬を飲むための白湯を出すため、毎日ポットを利用する)を送信するシステムも提供されている[6]

従来からある地域コミュニティの老人会も同種問題を防止するため、相互に訪問しあったり電話連絡しあうことで安否の確認を行うなどして連絡が途絶えるなどの異常が発生した際には最寄の警察官やホームヘルパーが駆け付ける体制を持つ自治体もある。このような体制により風呂場の脱衣場で倒れている人が助かったり、骨折により動けず衰弱しかけていた人が発見され一命が取りとめられたケースも報じられている。

通信インフラと予防

なお日本でも1990年代より携帯電話が普及し老若男女を問わず誰もが持ち歩くようになった結果、これが救急救命に役立ったケースも少なくない。急病で倒れたまま意識もはっきりせず身動きが取れずにいる状態でどうにか通話ボタンやリダイヤルをボタンを操作し電話をかけられた相手が異常を察知、救急隊に通報してもらって助かるというものである。

これらの機器は操作性向上のため登録済みの電話番号に簡単な操作で通話できることが幸いし、意識がはっきりしていなくてもどうにか知り合いに電話できたりするケースが多いようである。古くは電話機の短縮ダイヤル機能で助けを求めたケースもある。

また急病で倒れる可能性のある慢性疾患を持つ人など向けにペンダント型の無線送信器を常に携帯、異常時にはボタンを押すことで警備会社に通報されるホームセキュリティサービスを提供する企業もあり経済的に余裕のある家庭ではこれらを利用する所も見られる。これらの通報装置では誤操作・誤報を防ぐ機構と意識混濁状態でも大丈夫な操作性という相反する要素を持つため、人間工学的に構造や操作性が配慮されたものが利用されている。

災害時の予防

災害によって発生する人的被害で家族を失い失意の内に孤独死するケースも相次いだことから兵庫県では通称「見守り事業」を実施、復興住宅等に住む65歳以上の高齢者に対して訪問員を派遣するなどの活動を行い2004年には同事業の資金であった震災復興基金が終了した後も地域社会との連携を図るなどより強化する形で継続していきたい考えだと発表している。同事業は新潟県中越地震などの他の被災地域でも注目を集めている。

飲酒に絡む予防

アルコール依存の予防に関しては飲み方も関係するとされ、孤独感の解消を図り悪酒を防止することも依存症改善に効果があると考えられている。悪酒による疾病が予防できれば、結果的に孤独死防止にもつながる。

予防例を挙げると長野県泰阜村では高齢者のアルコール依存を予防するため村役場の人間が高齢者の飲み相手(酒・おつまみ代は割り勘で、一人1000円という予算)として高齢者宅を訪問、気分良く(飲みすぎない程度に)飲んでもらうことで依存を予防しようと言うものだがこれも訪問という形で高齢者の生活状況を確認し間接的に孤独死予防の効果があるものと考えられる[7][8]

孤独死に絡むトラブル

孤独死に絡んで居住していたマンションアパートで孤独死を遂げた人の遺族に対し、家主や不動産会社などが補償金などの名目で法外な請求を行うケースが多数報告されている。遺族にとっては身内を失ったショックに、さらに追い討ちをかけるものと言える。

不動産関係において、孤独死があった物件は「事故物件」という言葉で呼ばれている。宅地建物取引業法では家主や不動産会社は部屋を貸す際に重要事項を事前に説明することが義務付けられているが孤独死は同法上の重要事項には該当しないとされており、「事故物件」であることを事前に告知しないケースもある。また行政側も「民事上の問題」としてこの問題に対して介入を避けているのが実情で解決への方策が採られるには程遠い現状である[9]

孤独死に絡んで居住していたマンションアパートで、十分な知識や経験もなく、家財道具や残置物処理・簡単な清掃や形だけの消臭消毒をして、特殊清掃と言う名目で高額請求をする悪徳な企業が増加している。負担をするのは、遺族であり、トラブルの原因となっている。

厚生労働省「安心生活創造事業」

「安心生活創造事業」とは平成21年~23年、「地域福祉推進市町村」に指定された全国58の市区町村において実施されたモデル事業である。

この事業では「悲惨な孤立死、虐待などを1例も発生させない地域づくり」を目指した取り組みが行われた。

関連項目

脚注

  1. 用例「阪神」独居死61人…昨年、兵庫の復興住宅読売新聞2013年1月15日
  2. 小辻寿規・小林宗之『孤独死報道の歴史』「Core Ethics vol.7」2011年 立命館大学大学院先端総合学術研究科
  3. 産経MSN記事
    朝日新聞記事
  4. 内閣府「平成22年版高齢社会白書 第1章高齢化の状況」
  5. 読売オンライン記事「遺品整理業者が見るニッポンの『孤独死』」読売ウイークリー2008年10月5日号
  6. 象印マホービンによる安否確認機能付き湯沸しポット
  7. 泰阜村ゼロ予算事業「ふたり酒」
  8. 政策広報「関東の窓」第24号
  9. 孤独死:「法外」なその後 不動産業者、遺族に800万円請求 毎日新聞 2009年1月11日

東京都23区における孤独死統計