委員会設置会社

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テンプレート:Ambox 委員会設置会社(いいんかいせっちがいしゃ)とは、日本における株式会社の内部組織形態に基づく分類の1つであり、取締役会の中に指名委員会監査委員会及び報酬委員会を置く株式会社をいう(会社法2条12号)。

委員会設置会社は、従来の株式会社とは異なる企業の統治制度(コーポレートガバナンス)を有する。取締役会の中に社外取締役が過半数を占める委員会を設置し、取締役会が経営を監督する一方、業務執行については執行役にゆだね、経営の合理化と適正化を目指した。

企業の経営を監督し、意思決定を行う「取締役会」と、実際の業務の執行を行う「執行役」の二つの役割を明確に分離したのは、アメリカで採用されている組織構造のうち最大公約数的な部分を参考にしたものである。

なお、いわゆる執行役員制度は会社法に規定された制度ではなく、実際の構造も委員会設置会社とは異なるので、混同しないように注意しなければならない。

  • 会社法について以下では、条数のみ記載する。

沿革

委員会設置会社に相当する制度は、2003年4月施行の株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(商法特例法)改正により、委員会等設置会社として導入された。当時は、商法特例法上の大会社ないしみなし大会社のみが導入することができ、初年度に導入を決定した企業は36社であった。

その後2006年5月施行の会社法において、委員会設置会社に名称を変更して引き継がれた。会社法では、定款に委員会を置く旨の定めを設けることで、その規模を問わず委員会設置会社となることができるよう制度が改められた。その他、業務の適正を確保するための体制416条1項ホ)を取締役会が決定することが義務付けられたなど、細かな改正点がある。

機関

委員会設置会社には取締役会と執行役がおかれ、取締役会の中には指名委員会、監査委員会、および報酬委員会がおかれる。その一方で監査役監査役会)を設置する事はできない(327条4項)。また常に会計監査人の設置が必要である(327条5項)。

公開大会社では、監査役会をおかない場合は、委員会設置会社の形態をとることになる(328条1項)。

取締役会

取締役会の権限は、業務意思決定と、個々の取締役及び執行役による職務執行の監督である(416条)。この点については従来までの取締役会とさほど変わりはない。委員会設置会社における特徴として、取締役は原則として業務の執行をすることはできない(執行役にゆだねられる。415条)。ただし取締役は執行役を兼任することができ(402条6項)、アメリカのように取締役会構成員の過半数を社外取締役とする必要はない。

取締役会の中には指名委員会監査委員会、および報酬委員会の3つの委員会を必ず設置しなければならない。別個の委員会(例えば訴訟委員会や顧客対応委員会など)を追加してもよい。ひとつの委員会は3名以上の取締役で構成される(400条1項)。どの委員会にも属さない取締役をおいても差し支えない。

各委員会の決定は拘束力を持ち、委員会を構成する取締役の過半数は社外取締役でなければならない点が業務適正化の要となっている。監査委員会を除き、執行役が委員を兼任できる。

取締役の任期は、委員会を設置しない会社とは異なり、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなる(332条1項、3項)。つまり任期は一年と考えてよい。

各委員会は次の役割を持つ(404条)。

  • 指名委員会(404条1項)
    • 株主総会に提出する取締役の選任および解任に関する議案内容を決定する。
  • 監査委員会
    • 取締役および執行役の職務が適正かどうかを監査し、株主総会に提出する会計監査人の選任および解任・不再任に関する内容を決定する(404条2項)。
    • 監査委員による執行役等の行為の差止め(407条
※監査委員は、委員会設置会社若しくはその子会社の執行役若しくは業務執行取締役又は委員会設置会社の子会社の会計参与支配人、使用人を兼ねることができない(400条4項)。
  • 報酬委員会(404条3項)
    • 取締役および執行役の個人別の報酬内容、または報酬内容の決定に関する方針を決める。
    • 執行役が委員会設置会社の支配人その他の使用人を兼ねているときは、当該支配人その他の使用人の報酬等の内容についても決定する。

執行役

委員会設置会社には、執行役をおかなければならない(402条1項)。

執行役は、委員会設置会社ではない株式会社における業務執行取締役(363条1項2号)に、代表執行役は代表取締役に、それぞれ相当する。執行役と取締役は兼任することができ、実際にも兼任している場合が多い。

選任・解任
取締役会決議による(402条2項、403条1項)。
任期
1年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結後最初に招集される取締役会の終結の時までである(402条7項)。つまり任期は一年と考えてよい。
権限
執行役は、実際の業務を執行するだけでなく、取締役会から委任を受けた事項について自ら業務の執行の決定を行う(418条)。取締役会が執行役に委任できる事項は、従来型の制度と比べて極めて広範に及ぶ(416条4項)。これによって、委員会設置会社では、執行役による迅速な業務執行が可能になる。
代表執行役
執行役が数人いる場合、各執行役の業務分担および指揮命令系統が取締役会によって定められる(416条1項ハ)。また、取締役会によって執行役の中から代表権を行使する代表執行役を選任しなければならない。執行役が一人の場合には、その執行役が代表執行役となる(420条1項)。

株主総会権限の変化

委員会設置会社の株主総会は依然として会社の最高意思決定機関であると考えられているが、その権限は会社法に規定されている事項および定款で定めた事項に原則として限定されることとなった。

利益処分案についての承認がその権限から外された。すなわち、貸借対照表損益計算書株主資本等変動計算書個別注記表計算書類は一定の場合、定時株主総会で承認があったとみなされる(439条)。その代わり、取締役の任期を1年に短縮することで株主総会の取締役会に対する監督機能を維持した。これは、所有と経営の分離の表れとして、株主総会の権限を取締役に対する人事権に集約したのだともいわれる。

導入の状況

委員会設置会社は、執行役の権限強化による経営の迅速な実行を可能にするため、あるいはアメリカ企業を親会社にもつ企業が親会社と組織構造を連携させたり、外国人投資家へのアピールを狙って導入され始めたが、2002年から2005年までの東証一部上場企業の時価総額合計の伸び率は30%近いのに対して委員会設置会社のそれはマイナスとなっており、投資家の評価が高いとは言えない状況である。

一方、監査役をおく既存の体制をとる会社は、委員会設置会社に移行しなくても経営の効率性が図れる、あるいは移行すると監査機能が形骸化するなどを移行しない理由とするが、それらの会社でも社外取締役や執行役員制度の導入がますます進んでいる。

問題点

  • 士気の低下
従来的な人事制度では、大手企業の場合、平社員を振り出しに最終的には取締役、社長などへ昇格することがひとつの目標としている場合が多い。社外の者が取締役になることで、社内のモラール(士気)の低下などが危惧される。
  • 人材の確保
委員会設置会社においては最低2名の社外取締役が必要となるが、アメリカと比べて経営者の労働市場が流動的でない日本において経営を監督できる資質をもった社外取締役を確保できるのか危惧される。
  • 監査体制の不徹底
業務執行と意思決定が執行役に集中するうえ、執行役と取締役の兼任が認められているため(ドイツでは認められていない)、業務執行を監視する委員の選定を行う取締役会は、執行役が多数を占めることが可能であり通例である(兼任を認めるアメリカでも取締役の過半数が社外取締役であることが要求される)。また、執行役は委員との兼任もできる(監査委員を除く)。このように、日本の委員会設置会社の制度は業務の執行と監督が分離しているか疑わしく、たんに執行役の権限が強大となるばかりで、取締役と独立した監査役を置く従来型と比べて適正な監督が望めないのではないかとの批判がある。
  • 社外取締役の実効性
権限が集中する執行役に対する監督を行う委員会のメンバーの過半数を社外取締役とすることが監督体制の要となっているが、社外取締役は常勤しないし、親会社・取引先の関係者など執行役からの独立性が疑われる者もその資格を満たすため(アメリカでは経営不祥事以降この点が改善されている)、社外取締役による監視機能の実効性には疑問があるとの指摘がある。

商業登記

本稿では、委員会設置会社の定めの新設及び廃止の手続き並びに2006年の会社法施行に伴う登記について説明する。

委員会設置会社の定め新設

概要及び登記事項

委員会非設置会社は定款を変更して委員会設置会社となることができる(915条1項・911条3項22号参照)。この場合、監査役監査役会を置いている場合、廃止しなければならず(327条4項)、監査役は任期満了により退任する(336条4項2号)。また、取締役会を置いていない場合、取締役会設置会社となり(327条1項3号)、会計監査人を置いていない場合、会計監査人設置会社となる(327条5項)。なお、委員会設置会社となった場合、従前の取締役及び会計参与は任期満了により退任する(332条4項1号・334条1項)。会計監査人は退任しないので注意が必要である。

委員会設置会社においては特別取締役による議決の定めをすることはできない(373条1項)。また、特例有限会社には委員会を置くことができない(整備法17条1項)。

委員会設置会社の定めの新設は定款変更であるから、株主総会特別決議によらなければならない(309条2項11号・466条)。

登記事項は以下のとおりである(2006年3月31日民商782号通達第2部第3-10(2)ア(イ))。

  • 委員会設置会社の定めを設定した旨、指名委員・監査委員・報酬委員の氏名、執行役の氏名、代表執行役の氏名及び住所
  • 従前の取締役等が退任した旨
  • 取締役等が就任又は重任した旨
  • 取締役のうち社外取締役である者について社外取締役である旨(既にその登記があるときを除く)
  • 変更年月日

登記記録の具体例については、2006年4月26日民商1110号依命通知第4節第5-6(1)を参照。

登記申請書記載事項(一部)

登記の事由登記法17条2項3号)は「登記の事由 委員会設置会社の定めの設定」のように記載する。

登記すべき事項(商業登記法17条2項4号)は以下のとおりである。

  • 委員会設置会社となった旨及び変更年月日
  • 取締役が退任・就任・重任した旨及び取締役の氏名並びに変更年月日
  • 代表取締役が退任した旨及び代表取締役の氏名・住所並びに退任年月日
  • 指名委員・監査委員・報酬委員が就任した旨及び各委員の氏名並びに就任年月日
  • 執行役が就任した旨及び執行役の氏名並びに就任年月日
  • 代表執行役が就任した旨及び代表執行役の氏名・住所並びに就任年月日

また、以下の事項を記載しなければならない場合がある。

  • 取締役のうち社外取締役である者について社外取締役である旨
  • 監査役設置会社の定めを廃止した旨及び変更年月日、監査役が退任した旨及び監査役の氏名並びに退任年月日
  • 監査役会設置会社の定めを廃止した旨及び変更年月日
  • 会計参与が退任・就任・重任した旨、会計参与の氏名又は名称及び計算書類等の備置き場所並びに変更年月日
  • 特別取締役による議決の定めを廃止した旨及び変更年月日、特別取締役が退任した旨及び特別取締役の氏名並びに退任年月日
  • 取締役会設置会社となった旨及び変更年月日
  • 会計監査人設置会社となった旨及び変更年月日、会計監査人が就任した旨及び会計監査人の氏名又は名称並びに就任年月日

登記すべき事項を記録した磁気ディスクを提出する場合[1]、「登記すべき事項 別添FDのとおり」のように記載し、OCR用紙に記載した場合(1993年12月27日民四7783号通達第7-1)、「登記すべき事項 別紙のとおり」のように記載する。

添付書面(1961年9月15日民甲2281号回答、一部)は株主総会議事録(登記法46条54条4項)、取締役会議事録(登記法46条)及び就任を承諾したことを証する書面(登記法54条1項・2項1号)並びに印鑑証明書登記規則61条2項ないし4項)である(2006年3月31日民商782号通達第2部第3-10(2)ア(ウ)参照)。通数も記載しなければならない(1961年9月15日民甲2281号回答)。会計参与の重任・就任の場合、登記事項証明書もしくは会計参与が公認会計士又は税理士であることを証する書面も添付しなければならない(登記法54条2項2号・3号)。会計監査人設置会社となった場合については会計監査人設置会社も参照。

登録免許税(登記法17条2項6号)は委員会設置会社の定め新設の分が申請1件につき申請1件につき3万円であり(登録免許税法別表第1-24(1)ワ)、各委員等の就任及び取締役等の就任・重任・退任の登記の分が申請1件につき3万円(資本金の額が1億円以下の会社については1万円)である(同法別表第1-24(1)カ)。なお、監査役設置会社の定めを廃止した場合又は特別取締役による議決の定めを廃止した場合もしくは会計監査人設置会社の定めを新設した場合(複数の場合が混在する場合も同様)、別途申請1件につき3万円を納付しなければならない(同法別表第1-24(1)ネ)。

委員会設置会社の定め廃止

概要及び登記事項

委員会設置会社は定款を変更して委員会非設置会社となることができる(915条1項・911条3項22号参照)。この場合、従前の取締役及び会計参与は任期満了により退任する(332条4項2号・334条1項)。会計監査人は退任しないので注意が必要である。

また、委員会非設置会社となった場合、以下の会社は監査役設置会社となる。

委員会設置会社の定めの廃止は定款変更であるから、株主総会の特別決議によらなければならない(309条2項11号・466条)。

登記事項は以下のとおりである(2006年3月31日民商782号通達第2部第3-10(2)ウ(イ))。

  • 委員会設置会社の定めを廃止した旨
  • 取締役・委員・会計参与・執行役が退任した旨
  • 取締役等が就任・重任した旨、
  • 委員会設置会社の定めの廃止により社外取締役の登記を抹消する旨(特別取締役による議決の定め〈911条3項21号・373条1項〉を設定した場合又は社外取締役が負う責任の限度に関する契約の締結についての定款の定めの登記〈911条3項24号・427条1項〉がある場合を除く)。
  • 変更年月日

登記記録の具体例については、2006年4月26日民商1110号依命通知第4節第5-6(3)を参照。

登記申請書記載事項(一部)

登記の事由登記法17条2項3号)は「登記の事由 委員会設置会社の定めの廃止」のように記載する。

登記すべき事項(登記法17条2項4号)は以下のとおりである。

  • 委員会設置会社の定めを廃止した旨及び変更年月日
  • 取締役社外取締役が退任・就任・重任した旨及び取締役・社外取締役の氏名並びに変更年月日
  • 代表取締役が就任した旨及び代表取締役の氏名・住所並びに就任年月日
  • 指名委員・監査委員・報酬委員が退任した旨及び各委員の氏名並びに退任年月日
  • 執行役が退任した旨及び執行役の氏名並びに退任年月日
  • 代表執行役が退任した旨及び代表執行役の氏名・住所並びに退任年月日

また、以下の事項を記載しなければならない場合がある。

  • 会計参与が退任・就任・重任した旨、会計参与の氏名又は名称及び計算書類等の備置き場所並びに変更年月日
  • 監査役設置会社となった旨及び変更年月日、監査役が就任した旨及び監査役の氏名並びに就任年月日
  • 監査役会設置会社となった旨及び変更年月日

登記すべき事項を記録した磁気ディスクを提出する場合及びOCR用紙に記載した場合の記載例は新設の場合と同様である。

添付書面(1961年9月15日民甲2281号回答、一部)は株主総会議事録(商業登記法46条・54条4項)及び定款変更後の機関設計に応じて必要となる書面である(2006年3月31日民商782号通達第2部第3-10(2)ウ(ウ))。具体的には、代表取締役の選定に関する書面や会計参与の重任・就任に関する書面などである。通数も記載しなければならない(1961年9月15日民甲2281号回答)。

登録免許税(登記法17条2項6号)は委員会設置会社の定め廃止の分が申請1件につき3万円であり(登録免許税法別表第1-24(1)ワ)、各委員等の退任及び取締役等の退任・就任・重任の登記の分が申請1件につき3万円(資本金の額が1億円以下の会社については1万円)である(同法別表第1-24(1)カ)。なお、監査役設置会社の定めを設定した場合又は特別取締役による議決の定めを設定した場合もしくは会計監査人設置会社の定めを廃止した場合(複数の場合が混在する場合も同様)、別途申請1件につき3万円を納付しなければならない(同法別表第1-24(1)ネ)。

登記の実行

変更の登記をする場合、登記官は変更に係る登記事項を抹消する記号を記録しなければならない(登記規則41条)。

2006年の会社法施行に伴う登記

整備法の施行日(2006年5月1日)に存在する株式会社で商法特例法における委員会等設置会社の定款には、取締役会・委員会及び会計監査人を置く旨などの定めがあるものとみなされた(整備法57条66条1項前段・47条)。

この場合、委員会等設置会社である旨の登記は登記官の職権により抹消され(商業登記規則等の一部を改正する省令(2006年(平成18年)2月9日法務省令第15号)附則2条1項10号)、委員会設置会社である旨の登記が登記官の職権によりされた(同省令附則2条3項1号ロ)。根拠となる法務省令の番号と登記の日付なども記録された(同省令附則2条4項)。この登記の記録例については2006年4月26日民商1110号依命通知第9節第1-5を参照。

関連項目

脚注及び参照

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外部リンク

参考文献

  • 立花宣男 『会社法対応 役員変更の登記』 新日本法規出版、2006年、ISBN 4-7882-0954-3
  • 立花宣男・秋山幹夫編 『株式会社登記の手続 -添付書類の書式と解説-』 日本加除出版、2006年、ISBN 978-4-8178-3757-8
  • 吉岡誠一・辻本五十二 『Q&A 新商業登記の実務I 申請書及び添付書面の書式と解説 株式会社編(上)』 日本加除出版、2007年、ISBN 978-4-8178-3766-0
  • 法務局 「商業・法人登記申請における登記すべき事項を記録した磁気ディスクの提出について法務省