多層建て列車

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ファイル:Yagan Railway - Series 60100.jpg
多層建て列車の例。複数の行先が表示されている。

多層建て列車(たそうだてれっしゃ)とは、ある列車が始発駅から終着駅まで運転する間に、異なる始発駅の列車あるいは異なる終着駅の列車と相互に分割併合しながら運転する列車をいう。建物の階層に例えて、2つの列車に分割されるものを2階建て、3つに分割されるものを3階建てのように称す。

新幹線並行在来線のような多層建て路線網や、Maxのような車両自体が2階建ての列車を意味するものではない。

長所および短所

多層建て列車の長所としては、次のようなものがある。

  1. 支線区へ乗換えなしで直通運転が実施できるため、乗客にとって乗換えの手間、時間を節約できる。
  2. 線路容量に余裕がない場合、複数の列車を統合することにより線路容量の有効活用を図ることができる。
  3. 前項と同じ理由で、乗務員の効率的運用を図ることができる。
  4. 本線と支線で輸送量に差がある場合、編成の長さを増減することで輸送力の適正化を図ることができる。

一方、次のような短所もある。

  1. 列車系統と列車ダイヤの整合が困難。本線と支線区の有効時間帯を合わせるのが困難である。
  2. 分割併合のための構内作業が(機関車連結の必要のため客車列車では特に)複雑となる。また自動解結装置自動連結装置を有していない車両については、連結や解結のための要員が必要になる。
  3. 分割併合を行う駅で停車時間が増える。
  4. 分割併合を行う駅では誘導信号機などの設備が必要となる。
  5. 異常時の運転手配が複雑。併結する列車が遅れた場合、その遅れが正常運転している列車にも波及してしまう。また、単独運転する場合は、乗務員の手配が必要となる(すなわち、運転整理面において不利になる)。
  6. 行き先の違う車両を併結するため、駅や車内での旅客への案内が煩雑になり、乗客の車両乗り間違いの虞れがある。
  7. 運転台付きの車両が増えるため、乗車定員が減る。
  8. 上記各短所も然ることながら、車体塗色や形態・設備の異なる車両(例 : 急行型車両と一般型車両)を混結する列車の場合もあり、(列車自体の)見た目の統一感が損なわれてしまいかねない。特に非電化区間で顕著であった。

国鉄時代には、7 - 8列車が関係するような大規模なもの(急行「陸中」など)も見られたが、新幹線の開業により接続駅からの乗換え連絡に改められたり準急・急行列車自体の減少などがあり、その数を減らしていった。

JR発足後は、一転して分割併合運用を前提とした装備を持つ車両が多数新造されるようになり、ミニ新幹線による新在直通など積極的に支線区への直通を実施する例が見られる。

多層建て列車の例

以下の()内の区間は複数の列車を併結運転している区間。

2階建て列車

2つの列車を併結運転している例

JR

列車名のあるものについて示す。

新幹線

東北新幹線(東日本旅客鉄道)

東北新幹線では多くの列車で、“ミニ新幹線+フル新幹線”の二階建て列車を構成しているが、ここでは代表的な列車を列挙する。

上越新幹線(東日本旅客鉄道)

在来線の特急列車

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快速列車

私鉄

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小田急電鉄
西武鉄道
京浜急行電鉄
東武鉄道
名古屋鉄道
  • 公式に案内のあるものは、夕方・夜間のミュースカイ中部国際空港駅 - 犬山駅間)と、朝時間帯の一部列車のみである。
  • その他、途中駅で分割した編成をその駅始発の列車として扱うものがあるが、これらの列車は特に時刻表などでの案内はなく、事前に車内アナウンスなどで知らされるのみである。
近畿日本鉄道
  • 同社では「親子列車」という呼称を用いる。
    • 一部の京奈特急・京橿特急京都駅 - 大和西大寺駅間)
    • その他、南大阪線の古市駅で分割した編成をその駅始発の列車として扱うものがある(ただし2013年3月のダイヤ変更まで運転していた大阪阿部野橋発富田林行と橿原神宮前行準急は除く)が、これらの列車は特に時刻表などでは接続列車として扱われ、事前に車内アナウンスなどで知らされるのみである。

3階建て列車

2011年2月(3階建て運行末期)時点の編成図
「かもめ」「みどり」「ハウステンボス」
テンプレート:TrainDirection
編成 「かもめ」
長崎駅 - 博多駅間
「ハウステンボス」
ハウステンボス駅 - 博多駅間
「みどり」
佐世保駅 - 博多駅間
号車 1 2 3 4 5 7 8 9 10 11 12 13 14
座席 G G G
  • 各号車とも長崎・早岐・ハウステンボス寄りのA室と佐世保/博多寄りのB室に分かれる
  • 「かもめ」「みどり(・ハウステンボス)」は博多駅 - 肥前山口駅間で併結運転
  • 「みどり」「ハウステンボス」は博多駅 - 早岐駅間で併結運転
  • 「みどり」は早岐駅で進行方向を変える
  • 7 - 10号車は連結しない、もしくは「みどり」として運転する場合がある
座席種類
テンプレート:Bgcolor=グリーン車座席指定席
指=普通車座席指定席
自=普通車自由席

新幹線が開業する以前は東北地方を中心に3階建て以上を組む列車も存在したが、新幹線開業に伴う急行列車を中心とする優等列車の整理・廃止に伴いこうした列車は少なくなり、2011年3月12日のJRダイヤ改正により日本国内において定期の3階建て列車は存在しなくなった。

2012年3月時点における日本最後の定期の3階建て列車は、1992年3月25日から2011年3月11日まで鹿児島本線・長崎本線の博多駅 - 肥前山口駅間で併結運転を行っていた「かもめ・みどり・ハウステンボス」である。この併結は1976年の長崎本線・佐世保線電化に伴い運行を開始した「かもめ・みどり」の2階建て列車が母体で、1992年に「ハウステンボス」が運行を開始した際、博多駅 - 早岐駅間で「みどり」に併結することになったことから、列車によっては3階建て列車を組むことになった。なお、従来通りの「かもめ・みどり」の2階建て列車や、「かもめ」を欠いた「みどり・ハウステンボス」の2階建て列車も存在したほか、2000年代に入ると「ハウステンボス」編成を連結した「みどり」が「かもめ」と併結する場合も見られるようになった。車両は2000年3月10日までは485系電車、それ以降は783系電車が用いられている。

2011年3月12日のダイヤ改正で「かもめ」が全列車単独運転となったことから、現在は「みどり・ハウステンボス」の2階建て列車のみが存続している。

廃止されたもの

国鉄・JR

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分割の案内例

分割する際の乗り間違いを防ぐために以下の方法を用いるところもある。

  • 乗車位置に列車名や行き先を明記する。
  • 号車番号をドア上など目立つところに貼り付け、その番号を用いて案内する。
    また号車番号の標記を行き先・編成毎で切り替える方法もある。2013年現行では、「はやぶさ・スーパーこまち」、「はやて・こまち」や「やまびこ・つばさ」の事例がある[2]
    • かつて「きのくに」で天王寺駅発着は数字・南海難波駅発着はアルファベットを、また近鉄の京橿特急・京奈特急を併結する京奈特急にアルファベットで符番する事例も存在した。
  • 客室にも列車名や行き先を表示する。
    東北地方の気動車急行で採用され、現在でも東武日光線系統の快速・区間快速(6050系電車)でこの方式が採用されている[3]
  • 側面の行先表示装置に「この車両は○○行き(この車両○○まで)」を追記する。
    JR東日本常磐線快速電車E231系成田線直通列車で、常磐線区間の上野駅 - 我孫子駅間のみを運行する列車との区別で使われている。この場合、前面は、最終行先の「成田」を表示し、側面にその車両の行先を表示している。
    西武鉄道で採用された方式で、主に池袋発の秩父鉄道直通列車で見られる。なお、2013年3月16日まで新宿線系統では拝島線等への多層建て列車も存在し、このような表記で存在した。
    近畿日本鉄道・阪神電気鉄道・阪急電鉄では「この車両○○まで」と表記。
    かつて設定されていた近鉄南大阪線の大阪阿部野橋発、富田林・橿原神宮前行き準急の場合「前部(後部)車両は橿原神宮前(富田林)行き」。
    阪神の車両の場合、行き先と交互に表示される。
    南海のズームカーによる大運転では、場合は「後部X両橋本(三日市町または河内長野)」と表示される。
    阪急の場合、切り離される編成の行先表示は、英語表記が切り離される駅のものとなっている。
  • ホームに「分割案内板」などの切り離し位置を示す看板を用意する。
  • 車両の座席や吊革などを行き先別に別の色にする。
    京王電鉄が採用した方法で、新宿発の特急で高尾山口・京王八王子の各方面に分割される列車では、八王子行きの編成の吊革の色を緑色に変えている。なお、2006年9月以降は分割・併合運転は実施されていないが、かつて分割・併合運転を行っていた8000系車両の一部に緑色の吊革を持つ編成が残る。この方式であれば、一括放送でも「吊革の色が白(あるいは緑)の車両は高尾山口行き」など、的確な案内が可能となる。
    • なお、5000系電車による4連+3連、ならびに6000系電車の5連+3連では高尾山口行き3連が緑色の吊革であった。
  • 車両のアナウンスを、内容に応じて流す車両・流さない車両を切り替える(編成別放送)。
    小田急電鉄などで採用されていた方法で、小田急の場合1000形のうち8両固定・10両固定の編成2000形以外の通勤車全車両に「分割放送装置」が設置されている。全車一斉・前編成・後編成と放送する対象車両を選択可能。なお、現在は活用されておらず、号車番号での案内になっている。ただし3000形の近年の増備車では、液晶ディスプレイにより視覚的な案内を行なっている。
    京浜急行電鉄では都営地下鉄浅草線直通列車と品川止まり列車、三崎口方面行き列車と浦賀新逗子方面行き列車が併結されている品川駅もしくは京急川崎駅 - 金沢文庫駅間で分割放送装置を活用している。
    近畿日本鉄道では多層建て列車に対して分割放送装置を活用している(同社では途中駅での増解結列車でも活用)。
    211系電車では、車両個別に放送する対象車両を選択可能になっていたが、高崎線東北線(宇都宮線)では幌をつなぐことで、隣の編成の放送が聞こえてしまうことがあることから、あまり活用されていなかった。

現在の増解結列車

多層建て列車に似たケースとして、1つの列車の一部編成を途中駅で増結または解結することが挙げられるが、この場合は多層建て列車とはみなされない。「一部編成の増解結」も輸送力の調整法としてよく行われており、1960 - 80年代の東北地方の急行列車では多層建て列車と組み合わせての車両運用もよく見られた(詳しくは増解結の項を参照)。しかし1980年代以降の新幹線開業や、それに伴う優等列車の系統整理により、こうした列車は急速に数を減らしていった。

2012年3月現在、JRグループの優等列車で「多層建て列車を組みかつ一部編成の増解結を行う」列車は、特急「しおかぜ21号」のみとなっている。岡山駅宇和島駅行きの「しおかぜ21号」は岡山駅を5両で発車するが、宇多津駅高松駅からの「いしづち」25号」(2両)を併結。宇多津駅→松山駅間は7両で運転するが、松山駅で「しおかぜ」の後ろ2両および「いしづち」を解結し、3両で宇和島駅に向かう。

2011年3月11日までは「しおかぜ9・22号」(運行は21号と同様)「みどり23号」(肥前山口駅で「かもめ」と分割し、早岐駅で一部編成を解結する)も多層建て列車で一部編成の増解結を行う列車だったが、3月12日のダイヤ改正により「しおかぜ9・22号」は松山駅発着となり、「みどり23号」は「かもめ」との併結がなくなったため、それぞれこのパターンからは外れた。

脚注

テンプレート:Reflist

  1. テンプレート:PDFlink 2012年12月21日 JR東日本新潟支社からのお知らせ
  2. 東北新幹線と山形・秋田新幹線の場合、前者は1号車から、後者は11号車から車両の付番がされているが、当初より前者が「やまびこ」200系10両編成、後者が5両(「つばさ」400系登場時)編成を組んだ際に、新幹線直行特急(ミニ新幹線)列車へ10番代の号車番号を付番したことによる。のちにMaxE4系8両編成と組んだ「Maxやまびこ・つばさ」が存在したことで、車両番号が欠けた列車が存在した。
  3. なお、東武6050系電車ではこのために車内に方向幕を設けたが、案内上車内に設置しているLED表示器や液晶ディスプレイなどで対応が可能である。