国立大学法人

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国立大学法人(こくりつだいがくほうじん、英: national university corporation)は、日本国立大学を設置することを目的として、国立大学法人法の規定により設立される法人である。

業務

国立大学法人の業務の範囲は、国立大学法人法第二十二条により、次のように規定されている。

  1. 国立大学を設置し、これを運営すること。
  2. 学生に対し、修学、進路選択及び心身の健康等に関する相談その他の援助を行うこと。
  3. 当該国立大学法人以外の者から委託を受け、又はこれと共同して行う研究の実施その他の当該国立大学法人以外の者との連携による教育研究活動を行うこと。
  4. 公開講座の開設その他の学生以外の者に対する学習の機会を提供すること。
  5. 当該国立大学における研究の成果を普及し、及びその活用を促進すること。
  6. 当該国立大学における技術に関する研究の成果の活用を促進する事業であって政令で定めるものを実施する者に出資すること。
  7. これらの業務に附帯する業務を行うこと。

ただし、「研究の成果の活用を促進する事業」に出資する際には、文部科学大臣の認可を受けなければならない。

特徴

国立大学法人法には、業務の公共性、透明性及び自主性、評価および終了時の検討、財務および会計の三領域にまたがる独立行政法人通則法の多数の規定が準用される。すなわち、国立大学法人は独立行政法人の一形態であり、政府の施策においても国立大学法人は独立行政法人と同様に扱われている。2009年12月25日閣議決定「独立行政法人の抜本的な見直しについて」では、全ての独立行政法人の全ての事務・事業について、聖域無く厳格な見直しを行い、見直しの結果、独立行政法人の廃止、民営化、移管等を行うこととされたが、国立大学法人もこの見直しの対象とされている。このほか、中期目標・計画とかかわりなく運営費交付金が定率削減されたり、評価結果とかかわりなく文部科学大臣が「組織及び業務全般の見直し」の方針について指示を下していることなどから、法人化以前に比べて、政府の統制は格段に強まっていると指摘される。国立大学法人法第三条において、「国は、この法律の運用に当たっては、国立大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に常に配慮しなければならない」とされているが、この条項は事実上、有名無実にされていると言ってよい。

職員の身分は非公務員型であり、国家公務員法人事院規則等の国家公務員に適用されている規定が適用されなくなり(非公務員化)、労働基準法労働安全衛生法等に基づいて各国立大学法人が自主的に就業規則を定めることとなった。このことにより、例えば、国家公務員法等による兼業規制が緩和されたことにより、国家公務員より産学連携等を容易に行うことが可能となった。ただし、国立大学法人に限らず、公共性の高い事業を行う公団や事業団、公庫等に勤める職員は公務に従事しているとみなされており、「みなし公務員」と称されている。みなし公務員は、公務員に適用されていた法的な義務や制裁は基本的に従来通り継続されることを基本としている。職員(臨時的任用職員やポスドクを除く)の宿舎は、従来どおり国家公務員宿舎の文部科学省割り当てを利用する事が可能である。健康保険年金保険については、文部科学省共済組合に加入する(臨時的任用職員やポスドクを除く)。しかし国家公務員でない事から雇用保険の加入が義務付けられた分、経済的負担は増加した(ただし退職時には失業等給付が受けられるようになった)。海外出張については、従来は公用旅券の発給が受けられたが、国立大学法人化以降は、政府(各省庁)や国際機関の依頼、もしくは旅費が支給される出張等に限定された。

また資源エネルギー庁によるエネルギー管理指定工場にも85法人が指定されている[1]

一つの国立大学法人が設置する大学は一つのみである「一法人一大学」制をとっている。このため、国立大学が統合した場合には、統合前の大学は廃止され、在籍していた学生・教職員は統合後の大学に移籍する扱いとなっている。

「一法人一大学」制をとっているため、法人理事長に相当する法人の長の職名は「学長」とされ、法人の長である「学長」が設置する大学の学長を兼務する(厳密には、法人の長と大学の長が一体となった職が国立大学法人の「学長」である)。これは移行特例のようなものであり、国では両職の分離についても将来の国立大学法人法見直しにおける課題として引き続き研究している。なお、公立大学法人は、複数の大学を保有することが可能なことから、法人理事長と学長を分離している(兼務は可能)。

法人化の問題点

国立大学の法人化に際して国からの支援が縮小されることや、運営に国の干渉が強まることが懸念されていたが、現在問題になっている点は次の通りである。

  • 研究費調達は各大学の自助努力が求められるようになったため、寄付を募るなど運営が私立大学に近いものになってきている。
  • 毎年政府から交付される運営費交付金は、毎年、前年度比1%削減という効率化係数が適用されて、漸減することとなっている。したがって、必要な人数の教員や職員を確保できない事態が発生している[2]。これは、国立大学の特徴である少人数教育を年々困難にしつつある(例えば教職・学芸員科目以外における非常勤講師の一斉採用停止など)。このため大学によっては、特に文科系において教員が抜けた場合に補充が行われないという事態が起こり、大学カリキュラムに歪みが発生している。これに伴い、一部では専攻閉鎖等も危ぶまれている。
  • 法人化により一斉に新設された「理事」に、ほぼ例外なく文部科学省の職員が出向している。したがって、法人化は文科官僚のポジション増設になっているとの批判があるうえ、国立大学の理事から理事へとわたりが行なわれていることも指摘されている[3][4][5]。また、中期目標の作成、評価制度の施行により、むしろ文部科学省による各大学への関与は増大しているとの見方もある。すなわち、文部科学省の天下り法人としての傾向が強まっていくことが考えられる。

国会で指摘された問題点

提出された質問主意書

  • 櫻井充参議院議員提出(2003年7月25日)[6]
    • 今後の国立大学の入学金・授業料について
    • 国立大学に対する標準運営費交付金について
    • 教育公務員特例法の非適用について
    • 国立大学法人の業務について
    • 文部科学省による行政指導の強化への歯止めについて
    • 文部科学省設置法は、国立大学法人法成立前に中期目標の作成を文部科学省が指示することの根拠となり得たのか。
    • 文部科学省令の制御について
    • 国立大学法人職員の非公務員化について
    • 国立大学法人化は「効率化・重点化」により、日本の高等教育の規模を縮小させる意図が明確であるが、小泉総理が主張している、教育をなによりも重視する「米百俵の精神」に反しないか。
    • 法人化後の国立大学における労働安全衛生法適用問題について
    • 国立大学での会計システムの準備作業への予算措置について
    • 法人化のための費用はどのように手当されるか
    • 中期目標を大臣が定めることについて
  • 櫻井充参議院議員提出(2003年10月7日)[7]
    • 国立大学の通常の教育研究活動について
    • 準用される独立行政法人通則法第三十四条について
    • 国立大学法人の評価について
    • 国立大学における労働問題について
    • 本年九月二日付け国立大学法人化に関する質問に対する答弁書について
    • 東京都立四大学の統廃合について
  • 石井郁子衆議院議員提出(2003年11月26日)[8]
    • 国立大学の運営費交付金の充実について
    • 施設整備費補助金等の確保・充実について
  • 櫻井充参議院議員提出(2004年8月5日)[9]
    • 運営費交付金への効率化係数への適用について
    • 教育研究経費の実質減について
    • 大学への評価について
    • 教員の負担増について
    • 時間外労働の賃金不払いについて
    • 実態の把握及び施策への反映について

時間外労働未払い問題

平成18年度「国立大学法人等財務管理等に関する協議会」

  • 独立行政法人国立大学財務・経営センター主催の平成18年度「国立大学法人等財務管理等に関する協議会」において、「国立大学法人化後の人事管理上の諸課題について」の中で、「5.労働基準法上の時間外労働について」と題して、文部科学省大臣官房人事課給与班 高比良主査より説明[10]
    • 使用者が法定労働時間を超えて労働を命じるためには、あらかじめ労使協定を締結することが必要であり、また、時間外労働を命じた場合は、割増賃金を支払わなければならない。
    • 労働基準監督官による臨検の結果、超過勤務手当の不払いについて是正勧告を受けた場合には、遡って超過勤務手当等を追給することとなる。
    • 最近では、過去6ヶ月間の1日ごとのパソコンのログ履歴を調べられ、1億3千万円強の追給を行った例もある。
    • また、明確な命令があった場合だけでなく、使用者の黙示の指示があったと認められる場合も超過勤務手当の支払いが必要であることとされているので、労働時間管理については適切にお願いしたい。
    • 労働基準法等の遵守を当然の前提に、柔軟かつ機動的な組織編成や人員配置、多様な勤務形態の活用や教職員の意識改革を通じた効率化等により超過勤務の縮減に努力願いたい。

京都大学

賃金不払残業への賃金の支払いについても参照のこと
  • 2005年年明け - 京都上労働基準監督署へ投書(匿名)があった。
  • 同年2月7日 - 監督官の調査を受け、京都大学は時間外労働の管理及び把握方法を説明。

大阪大学

  • 2007年12月 - 茨木労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受ける。
  • 2008年3月 - 在職職員に対しての残業代の不払いが発覚。教職員229人に計1億619万円(44867時間分)を支払う。
  • 2008年5月23日 - さらに教職員47人に対して、2293万円(10095時間分)を追加支給する[11]

広島大学

  • 2004年8月 - 是正勧告により、職員281人に対して、未払いの残業代約3635万円を追加支給。
  • 2007年12月 - 広島中央労働基準監督署が広島大学医学部附属病院を立ち入り調査。
  • 2008年2月中旬 - 同監督署から労働基準法違反で是正勧告を受ける。これを受け、現役職員1619人と退職者469人を対象とする勤務実態調査に着手。
  • 2008年4月4日 - 是正勧告を受けていたことが判明[12]

教職員の意向と異なる学長選出

法人化前に行われて来た学長選挙と異なり2012年時点で全体の9割ほどの国立大学法人が学長選出に際して教員(一部の大学では教職員)による意向投票が行われているが、これまでに滋賀医科大学岡山大学新潟大学大阪教育大学山形大学高知大学九州大学富山大学香川大学東京海洋大学京都工芸繊維大学北海道教育大学で学長選考会議によって意向投票で2位または3位となった候補を学長に選出しており、滋賀医科大学、新潟大学、高知大学、北海道教育大学では訴訟も起きた。山形大学では元文部科学省事務次官が学長に選出されている[13]

その他

銀行振込の際の略称は「ダイ」とされている。

脚注

  1. テンプレート:Cite web
  2. 京都大、非常勤職員100人を22年度再契約せず2009年1月23日付『産経新聞』、2009年2月2日閲覧)にあるように、財政難から非常勤職員の雇い止めを大量に行なわざるを得ない状態になっている。ただし京都大学の件は、京都大学の就業規則の改定(産経新聞によると、2002年以降に採用した非常勤職員については、最大5年で契約終了と規定されている)も影響していることに留意する必要もある。
  3. 国立大役員に65人天下り 文科省出身者2007年10月8日付『産経新聞』、2009年2月2日閲覧)
  4. 文科省官僚、国立大学法人理事への出向状況 特集その1(2009年2月2日閲覧。リンク先には「その2~4」のリンクあり)
  5. 第169回国会衆議院文部科学委員会(2008年3月19日
  6. 国立大学法人化に関する質問主意書
  7. 国立大学法人化後の問題点に関する質問主意書
  8. 国立大学法人の運営費交付金に関する質問主意書
  9. 国立大学法人化後の問題点に関する質問主意書
  10. 以下「国立大学法人化後の人事管理上の諸課題について」(概要)より
  11. 阪大、残業代不払い さらに教職員47人約2300万円
  12. 広島大病院で残業代不払い-労基署が是正勧告
  13. 朝日新聞2009年3月2日版

関連項目

外部リンク

テンプレート:文部科学省 テンプレート:国立大学法人zh:日本国立大学法人