原子価殻電子対反発則

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

原子価殻電子対反発則(げんしかかくでんしついはんぱつそく、valence shell electron pair repulsion rule)は、分子の構造を最も簡単に推定する方法の一つである。電子対反発理論(でんしついはんぱつりろん)やVSEPR理論と呼ばれる場合もある。 この理論は1939年、槌田龍太郎によって提唱され、その後これと独立にナイホルムとガレスピーが発展させた。

原子価殻電子対反発則の基本となるのは「原子価軌道上の電子は相互に反発し、電子対はその反発が最も小さくなるように配置する」という考え方である。(電子は電子軌道に捕捉されているので、電子軌道間に反発があるとみなすことも出来る。)

結合電子対の占有する結合性軌道は2つの原子核の間に強く束縛されているので、非共有結合電子対の原子軌道よりも結合軸近傍に電子雲が集中している。電子の反発はクーロンの法則に従い、同じ距離であれば大きな領域を占有する電子軌道の場合ほど強く反発するので

非共有電子対間の反発 > 非共有電子対と共有結合電子の間の反発 > 共有結合電子間の反発

と考えることができる。 これを補足すると、結合電子対は結合原子間にとらわれているため狭い空間に閉じこめられているが、非結合電子対はより広い空間に広がっているため、非結合電子対同士の空間はより大きくなければいけない。そのため分子の構造を考えるときに、

非共有電子対間の角度 > 非共有電子対と共有結合電子の間の角度 > 共有結合電子間の角度

となる。

メタンアンモニアの分子を考えると、共有結合軌道と非共有電子対軌道の数はそれぞれ(4:0)、(3:1)、(2:2)であり、非共有電子対軌道の反発の結果、共有結合の結合角は小さくなると考えられ、実際には109度、108度、104.5度である。

原子価殻電子対反発則は、オクテット則に従う典型元素後半の元素群だけでなく、ホウ素など電子対欠損を有する場合においても推定が可能であることから広く用いられている。非常に単純明快な定性的理論であるにもかかわらず、希ガス分子を含む多くの化合物の幾何構造を正しく予測することができる。ただし正確な距離や角度などの分子構造を定量することは出来ない。

VSEPR則により予測される分子の形状を次の表に示す。

分子構造 分子形 電子配置
(黄色は非共有電子対)
分子の形状 結合角
AX1En 二原子分子 100px 100px HF、O2
AX2E0 直線形 100px 100px BeCl2、BeMe2
AX2E3 100px 100px XeF2、I3-
AX2E1 折れ線形 100px 100px NO2、SO2、O3
AX2E2 100px 100px H2O、OF2
AX3E0 平面三角形 100px 100px BCl3 
AX3E1 三角錐形 100px 100px NH3
AX3E2 T字形 100px 100px ClF3
AX4E0 四面体形 100px 100px CH4
AX4E1 シーソー形 100px 100px SF4
AX4E2 平面四角形 100px 100px XeF4
AX5E0 三方両錐形 100px 100px PCl5
AX5E1 四角錐形 100px 100px ClF5、BrF5
AX5E2 平面五角形 100px 100px XeF5-
AX6E0 八面体形 100px 100px SF6
AX6E1 五角錐形 100px 100px XeF6
AX7E0 五方両錐形 100px 100px IF7

関連項目