医療費

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OECD各国の一人あたり保健支出(青は公的、赤は私的)[1]
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OECD各国の保健支出明細(青は入院、水色は外来、橙は介護、薄橙は公衆衛生等、緑は医薬品等)[1]

医療費(いりょうひ, Health expenditures)とは、一年間にその国の国民が保健および医療に投じた費用の合計。公的支出(社会保障支出)と個人支出(自己負担)の両方が含まれる[2]。 これはその国の保健医療支出推計 (National Health Accounts, NHAs) として勘定される[2]

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概要

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医療資源調達費用

医療施設は医療資源である「人・物・金」を市場から調達する。医療資源は医師・歯科医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師・その他医療スタッフなどの「ひと」、医療機器・検体検査・医薬品・設備や施設などの「もの」、運転資金などをいう。市場原理によってより良い医療資源を確保してより良い医療を提供することが可能になるという考え方にもとづいているが、医師や看護師が条件が良い医療機関・診療科目や都市に集中したり、立ち去りも自由であるため、診療科や地方によっては不足(枯渇も)するなどの現象が起こりうる。

医療資源を集中させて医療の効率や医療機能高度化を図ると同時に、受診の容易さや医療内容の平等性等のためには医療資源の分散化も必要である。医療資源の集中と分散のバランスを保ちながら、医療費増加を制御する必要があり、その舵取りは難しい。

ドクターフィーとホスピタルフィー

医療費を医師による疾病の診断と治療に必要な費用(ドクターフィー的な費用)とそれ以外の費用(ホスピタルフィー的な費用)に分ける考え方がある。ホスピタルフィーには看護、事務等さまざまな医療スタッフの費用や臨床検査、薬局・医薬品の費用が含まれている。医療費抑制政策ではホスピタルフィー関連の引き下げ幅がドクターフィー引き下げ幅より大きいことが多い。

医師による疾病の診断と治療に必要な費用を、文字通りのドクターフィーとして医療保険から医師に直接報酬を支払うべきであるとする考え方もあるが、この場合には医療サービス内容が医療保険に左右される可能性もある。

各国の医療費

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各国の比較
平均余命 乳児死亡率[3] 人口10万あたり
予防可能な死
(2007年)[4]
人口千人あたり医師 人口千人あたり看護師 一人あたり
健康支出(米ドルPPP)
GDPにおける
医療費支出割合(%)
政府歳出における
医療費支出(%)
医療費支出における
政府の負担割合(%)
テンプレート:Rh| テンプレート:Flagicon オーストラリア 81.4 4.49 57 2.8 10.1 3,353 8.5 17.7 67.5
テンプレート:Rh| テンプレート:Flagicon カナダ 81.4 4.78 77[5] 2.2 9.0 3,844 10.0 16.7 70.2
テンプレート:Rh| テンプレート:Flagicon フランス 81.0 3.34 55 3.3 7.7 3,679 11.0 14.2 78.3
テンプレート:Rh| テンプレート:Flagicon ドイツ 79.8 3.48 76 3.5 10.5 3,724 10.4 17.6 76.4
テンプレート:Rh| テンプレート:Flagicon イタリア 80.5 3.33 60 4.2 6.1 2,771 8.7 14.1 76.6
テンプレート:Rh| テンプレート:Flagicon 日本 82.6 2.17 61 2.1 9.4 2,750 8.2 16.8 80.4
テンプレート:Rh| テンプレート:Flagicon ノルウェー 80.0 3.47 64 3.8 16.2 4,885 8.9 17.9 84.1
テンプレート:Rh| テンプレート:Flagicon スウェーデン 81.0 2.73 61 3.6 10.8 3,432 8.9 13.6 81.4
テンプレート:Rh| テンプレート:UK 80.1 4.5 83 2.5 9.5 3,051 8.4 15.8 81.3
テンプレート:Rh| テンプレート:Flagicon アメリカ合衆国 78.1 5.9 96 2.4 10.6 7,437 16.0 18.5 45.1

世界保健機関が発行しているWorld health Statistics 2013年版によると、先進国(世界保健機関や世界銀行の分類では、High Income Countries)の2010年度のGDPに対する医療費の比率の平均値は12.4%、医療費総額に対する公費負担率の平均値は61.8%である[2]

アメリカ合衆国

World health Statistics 2013年版によると、アメリカ合衆国では2010年度のGDPに対する医療費の比率は17.6%[2]、公的な医療保険は高齢者と障害者のための(メディケア)と低所得者のための(メディケイド)、中所得者に養育されている児童のための州の児童医療保険制度、軍人、警察官に限定されているので、国全体としての医療費総額に対する公費負担率は48.2%である[2]。アメリカ合衆国で破産した人のおよそ半数が、医療費支払いにより破産しているとの報告もある[6]。 しかも自己破産に至った患者または、その家族の多くは中産階級医療保険加入者であったという。こうした問題点は、古くからアメリカの政治的問題と認識され議論が行われてきた。2010年には医療保険改革法が成立、国民皆保険制度を通じて低所得者の医療費支出の軽減を目ざしている。

イギリス

テンプレート:See also World health Statistics 2013年版によると、イギリスでは2010年度のGDPに対する医療費の比率は9.6%、医療費総額に対する公費負担率は83.2%である[2]国民保健サービス(NHS)をうける限りでは診療は無料(自己負担額が無い)だが、薬が必要なときは処方料を支払う(約1800円)。処方料は薬一種類につき必要なため、複数の薬を処方してもらうとかなり高額になる。その結果、日本における医療費の3割負担額よりも、イギリスでの処方料のみの方が高額になることがよくある。また歯科はNHSでも有料であり自己負担額は日本よりも高い。NHS以外のプライベート(個人病院)で医療を受ける場合は全額自己負担であり、その金額は日本における医療費よりもかなり高額である。

フランス

テンプレート:See also World health Statistics 2013年版によると、フランスでは2010年度のGDPに対する医療費の比率は11.7%、医療費総額に対する公費負担率は76.9%である[2]ユニバーサルヘルスケア制度が存在し、診療報酬は出来高・償還払い制度であるテンプレート:Sfn

その他

World health Statistics 2013年版によると、中高所得国(Upper Middle Income Countries)では2010年度のGDPに対する医療費の比率の平均値は6.0%、医療費総額に対する公費負担率の平均値は55.5%[2]、中低所得国(Lower Middle Income Countries)では2010年度のGDPに対する医療費の比率の平均値は4.3%、医療費総額に対する公費負担率の平均値は36.1%[2]、低所得国(Low Income Countries)では2010年度のGDPに対する医療費の比率の平均値は5.3%、医療費総額に対する公費負担率の平均値は38.5%[2]、公費負担率が100%の国は存在せず、90%台の国も少数の例外であり、先進国で公費負担率が最も高いグループの国でも80%台の前半から半ばである[2]

日本の医療費

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日本の社会的支出(兆円)。緑は医療、赤は年金、紫はその他[7]

テンプレート:See also World health Statistics 2013年版によると、日本の2010年度のGDPに対する医療費の比率は9.2%、医療費総額に対する公費負担率は80.3%であり[2]、先進国の平均値と比較して、GDPに対する医療費の比率は低いが、医療費総額に対する公費負担率は、デンマークスウェーデンノルウェーアイスランドイギリスニュージーランドなどとともに、最も高いグループに属している[2]

概要

厚生労働省の発表によると、2010年度医療費総額は37兆4202億円テンプレート:Sfn、また75歳以上の高齢者の医療費は12兆7213億円テンプレート:Sfn

病気や障害からの回復、病気や障害の進行の遅延、心身の機能維持などの生命や健康の維持に必要な医療は、公的な医療保険が適用され、2013年10月現在、3-69歳の患者は医療費の3割、0-2歳の小児は2割(自治体で別途公費補助あり)、70歳以上の高齢者は1割(所得によっては3割)を窓口で支払う仕組みとなっている。病気や障害からの回復、病気や障害の進行の遅延、心身の機能維持などの生命や健康の維持とは関係ない、美容整形、歯科矯正、人工授精、体外受精、代理出産、性転換手術などの医療は公的な医療保険の対象外の自由診療(保険外診療)であり全額自己負担となる。

医療機関の経営改善を目的に特定機能病院や一部の民間病院では、既存の出来高払い方式から診断群分類包括評価(DPC)方式を採用している。

2006年からは保険医療機関等から受け取る医療費の内容の分かる領収証には医療内容区分毎の点数が記載され会計窓口で支払う負担金の計算根拠が表示されている。

療養費

はり師きゅう師あん摩マッサージ指圧師が行う施術、柔道整復師が行う施術の費用は療養費と呼ばれ、施術費用の取り扱い(請求方法・計算方法・負担方法)で異なるものの、健康保険とほぼ同様に扱われる。

国民医療費

国民医療費とは、単年度内の医療機関等における傷病の治療に要する費用を推計したものである。「公費負担医療給付分」「公的医療保険等給付分」「後期高齢者医療給付分」の原則として診療についての支払確定額をもって、患者が支払う「一部負担額」と医療費の全額を患者が支払う「全額自費」推計し、以上を合算することにより推算される[8]

日本の国民医療費テンプレート:Sfn
  1990年度 1995年度 2000年度 2005年度 2010年度
国民医療費 20兆6,074億円 26兆9,577億円 30兆1,418億円 33兆1,289億円 37兆4,202億円
内訳 入院 41.5% 36.8% 37.5% 36.6% 37.7%
入院外(外来) 45.7% 44.3% 41.5% 38.8% 35.1%
歯科 9.9% 8.8% 8.5% 7.8% 7.0%
調剤 2.6% 4.7% 9.2% 13.8% 16.4%
  • 診療費、調剤費、入院時食事療養費、訪問看護療養費、健康保険等で支給される移送費などは、国民医療費に含まれる。
  • 健康診断予防接種、正常妊娠分娩、固定した身体障害のために必要とする義眼や義肢などは、国民医療費に含まれない。

超過医療費

特定の疾病原因による患者増加の結果として増加した国民医療費分を、超過医療費と呼ぶ。2003年の日本総合研究所 (株式会社)志水武史研究員による研究[9]によると、「喫煙」・「排気ガス」・「アルコール乱用」による超過医療費は、1999年時点で約3兆1,898億円、2025年時点における超過医療費の総額は約7兆4,791億円と推計している。

超過医療費を抑制するために、同研究は以下の提案を行っている。

喫煙排気ガスに対して課税・課徴金を用いて内部化した場合の医療費抑制効果は2025年時点で年間約269 億円と推計している。また、喫煙排気ガスアルコール乱用に対し、内部化以外の抑制策を実施した場合の医療費抑制効果は、2025 年時点で年間約1兆1,511億円と推計している。

概算医療費の速報

概算医療費または医療機関医療費は医療機関メディアス(MEDIAS)として厚生労働省のホームページで公表されている[10]

審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金及び国民健康保険団体連合会)で処理された診療報酬の点数、費用額、件数及び日数等の集計が概算医療費データベースとして公表されている。医科入院、医科入院外、歯科及び調剤の医療費、入院時食事療養及び訪問看護療養の費用額が含まれている。

医療費問題

テンプレート:出典の明記 テンプレート:See also

国民医療費は2000年度から2010年度までの10年間に24.1%増大テンプレート:Sfn、医療費の公費負担額は1999年度の26兆3,863億円(国民所得比7,24%)から2009年度には30兆8,447億円(国民所得比9,09%)に増大テンプレート:Sfn、日本の医療費は国内総生産や国民所得を上回るペースで増大傾向である。

医学や医療技術の向上、平均寿命の上昇、高齢者人口の増大、出生率の低下、就業世代人口の減少などの複合的原因により、国内総生産や国民所得を上回るペースで増大傾向である医療費を、どのように負担していくかが重大な問題になっているが、有効な解決策が見いだせず、国民も国会も厚生労働省も政府も模索している状況である。

調剤薬局の増加

調剤薬局は、厚生労働省医薬分業を目的に増加の一途を辿ってきた。効果の狙いは以下の通りである。

  1. 医薬分業により、患者の薬漬けを防止する。
  2. かかり付け調剤薬局により、医薬品の重複及び患者の薬歴を管理する。

国民医療費に含まれる薬局調剤医療費は、平成7年の1兆2,662億円(国民医療費の4.7%)から平成18年の4兆7,061億円(同14.2%)まで急増している。その伸びは11年で372%以上、国民医療費での比率にして3倍強である。[11][12]

医療費の滞納

医師は医師法により、一定の要件が満たされなければ診療を拒むことは出来ないが、患者は医療費の支払いを先延ばしにすることがあり。患者による医療費の支払いの先延ばしは、医療機関の経営の圧迫をもたら可能性がある。

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

外部リンク

テンプレート:Asboxテンプレート:Welfare-stub
  1. 1.0 1.1 テンプレート:Cite report
  2. 2.00 2.01 2.02 2.03 2.04 2.05 2.06 2.07 2.08 2.09 2.10 2.11 2.12 テンプレート:Cite report
  3. CIA – The World Factbook: Infant Mortality Rate. Archived from the original on December 18, 2012 (Older data). Retrieved May 15, 2013.
  4. "Mortality amenable to health care" テンプレート:Cite web
  5. data for 2003
    テンプレート:Cite web
  6. テンプレート:Cite journal
  7. 社会保障費用統計, 厚生労働省
  8. 国民医療費の範囲と推計方法の概要(厚生労働省)
  9. 経済・社会政策研究センター 主任研究員 志水武史. 喫煙、排気ガス、アルコール乱用に起因する超過医療費の抑制に向けて. Japan Research Review 2003年5月号 POLICY PROPOSALS
  10. 概算医療費データベース
  11. 平成8年度 国民医療費の概況
  12. 平成18年度 国民医療費の概況