供託金

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供託金(きょうたくきん)とは、法令の規定により法務局などの供託所に供託された金銭のことである。

本項では、特に、選挙において立候補者が供託する金銭(選挙供託)について記述している。

選挙における供託金

選挙における供託金は、被選挙人(=候補者)が公職選挙に出馬する際、国によっては選挙管理委員会等に対して寄託することが定められている場合に納める金銭もしくは債券などのことである。当選もしくは一定以上の結果を残した場合には供託金はすべて返還されるが、有効投票総数に対して一定票(供託金没収点)に達しない場合は没収される。この場合において、法定得票と供託金没収点は一致しない(供託金没収点は法定得票より若干少ない)。

供託金は原則として現金または債券で供託することになっているが、日本など一部の国では、割引債で納めれば金利の分だけ支出を抑えることができる。現在日本では割引債は発行されていない。

供託金の制度はイギリスが発祥であるといわれており、公職選挙において、売名や選挙妨害を目的とした立候補の乱立を抑制し、「政治家になりたいのならばそれなりの覚悟(供託金)を示すべき」という観点からこの制度が設けられたとされているテンプレート:要出典

日本における供託金

テンプレート:Ambox 衆院選・参院選の比例区に名簿を提出する政党・政治団体および比例区選挙・町村議会議員選挙を除く公職選挙立候補者は、供託所(法務局地方法務局の本局・支局・出張所)に所定の金額を現金または国債証書(振替国債を含む)により供託した上で、立候補の届出に際し供託を証明する書面(供託書正本)を提出しなければならない(公選法92条)。

衆院選・参院選の比例区では名簿届出政党等が獲得した議席数に応じて供託金の全額または一定額が返還され、残額は没収される。それ以外の選挙では被選挙人の得票数が公選法92条所定の得票数(供託金没収点)を上回った場合には全額が返還され、下回った場合には全額が没収される。また立候補届出後に届出を取り下げた場合や立候補を辞退した場合にも全額が没収される。没収された供託金は国政選挙の場合は国庫に、地方選挙の場合は当該地方自治体に帰属する(公選法93条・94条)。

2013年現在の供託金の金額および供託金没収点は以下の通りである。

日本の公職選挙における供託金の金額および供託金没収点
選挙の種類 供託金の金額 供託金没収点
衆院選(選挙区) 300万円 有効投票総数の10分の1
衆院選(比例区) 名簿単独登載者数×600万円
+重複立候補者数×300万円
(注1)
参院選(選挙区) 300万円 有効投票総数と議員定数(注2)の商の8分の1
参院選(比例区) 名簿登載者数×600万円 (注3)
都道府県知事選挙 300万円 有効投票総数の10分の1
市長選挙(政令指定都市) 240万円
市区長選挙 100万円
町村長選挙 50万円
都道府県議会議員選挙 60万円 有効投票総数と議員定数(注2)の商の10分の1
市議会議員選挙(政令指定都市) 50万円
市区議会議員選挙 30万円
町村議会議員選挙 (供託金は不要)
  1. 表中所定の金額を供託した名簿届出政党等は「選挙区で当選した重複立候補者数×300万円+比例区議席割り当て数×2×600万円」の範囲で供託金の返還を受けられる。例えば、重複立候補者3名と単独立候補者2名を比例区に立て、重複立候補者2名が選挙区で当選し、比例区で1議席の割り当てを受けた政党の供託金は(3×300万円+2×600万円=)2100万円であり、そのうち返還を受けられるのは(2×300万円+1×2×600万円=)1800万円となる。
  2. ここでいう「議員定数」は参議院議員選挙においては通常選挙における当該選挙区内の議員の定数(非改選期の補欠選挙を同時執行するために通常選挙より定数が多くなる場合はその定数)、地方議会議員選挙においては当該選挙区内の議員の定数(選挙区がないときは議員の定数)のことを指す。補欠選挙の場合も通常時の議員定数を参照することに注意。
  3. 表中所定の金額を供託した名簿届出政党等は「比例区議席割り当て数×2×600万円」の範囲で供託金の返還を受けられる。

過去の選挙において選挙運動用のはがきなどを他の陣営に横流しして売買した候補や、選挙公報等を用いて特定の商品の宣伝を行った政党などが問題になったため、選挙公営が充実している選挙ほど供託金の額が高額になっている。

なお供託金没収点を下回った場合は選挙公営による公費負担の一部を受けられなくなる。具体的には選挙運動用自動車の使用(公選法141条7項)、はがき・ビラの作成(同142条10項)、看板ポスター等の作成(同143条14項)、演説会用の立札等の作成(同164条の2、6項)などを自費で賄わなければならなくなる。また衆院選の重複立候補者で供託金没収点を下回った者は比例復活当選の資格を失う(同法95条の2、6項)。2005年第44回衆議院議員総選挙に東京22区から立候補した共産党若林義春は小選挙区と比例代表に重複で立候補し、且つ共産党の比例名簿単独1位だった。共産党は比例東京ブロックで1議席を獲得し、小選挙区で落選していた若林が復活当選したかに見えた。しかし小選挙区での得票数が供託金没収点を下回っていた為、前述の規定により若林は復活当選の資格を失い、名簿2位で比例単独候補だった元参議院議員の笠井亮が繰上当選となった。

歴史

初期の衆議院議員総選挙立候補届出制を採っていなかったため、被選挙権さえあれば供託金はもちろん立候補手続きさえ取らずに有権者からの投票を受けることができた。1925年普通選挙法制定に伴い立候補届出制に移行するとともに、売名目的での立候補を抑制しつつ、社会主義政党の国政進出を防ぐ目的もあって当時の公務員初年俸の2倍に相当する2000円の供託義務が定められた[1]

1950年に制定された公職選挙法でもこの制度が引き継がれ、以後改正のたびに金額が高騰していった。選挙公営の充実化を理由に金額の上昇幅は物価の上昇幅よりも大きく設定された。勝算度外視でほぼ全ての選挙区に候補者を擁立していた日本共産党を除く55年体制期の主要政党(自民社会公明民社)は供託金を没収されることが少なく、さらに供託金額の引き上げは新人候補や小政党の出馬を抑制する効果があるため、国会で金額引き上げを批判したのは共産党など少数に留まった[1]

公選法制定後の供託金額の推移は以下の通りである。なお中選挙区制時代の衆院選では「有効投票総数と議員定数の商の5分の1」を、廃止された教育委員の選挙では「有効投票総数と委員定数の商の10分の1」をそれぞれ供託金没収点としていた。それ以外の選挙では供託金没収点の変更はない。また町村の教育委員の選挙では供託金を納める必要がなかった。

供託金額の推移(単位は万円)
選挙の種類 1950年 1952年 1956年 1962年 1969年 1975年 1982年 1992年 1994年
衆院選(選挙区) 3 10 10 15 30 100 200 300 300
衆院選(比例区) - 600
参院選(選挙区) 3 10 10 15 30 100 200 300 300
参院選(全国区) 3 10 20 30 60 200 -
参院選(比例区) - 400 600 600
都道府県知事選挙 3 10 10 15 30 100 200 300 300
市長選挙(政令指定都市) - 10 20 60 120 240 240
市区長選挙 1.5 2.5 2.5 4 8 25 50 100 100
町村長選挙 (供託金は不要) 2 4 12 24 50 50
都道府県議会議員選挙 1 2 2 3 6 20 40 60 60
市議会議員選挙(政令指定都市) - 2.5 5 15 30 50 50
市区議会議員選挙 0.5 1 1 1.5 3 10 20 30 30
都道府県教育委員選挙 1 4 4 -
市区教育委員選挙 0.5 1 1 -

供託金額の引き下げや供託金没収点の緩和は一度も行われていないが、2009年第45回総選挙を前に国会の議題に上ったことがあった。これは共産党が2007年9月の第5回中央委員会総会で、次期総選挙において公認候補を擁立する選挙区を大幅に絞り込むと発表したことを受け、共産空白区の共産票が相対的に政治的距離の近い民主党などの候補に流れ込むことを懸念した自民党によって提案されたものである[2][3]。なお当時自民党所属の衆議院議員だった松浪健四郎によると、同党の衆議院議員らの間でも「自分の選挙区に共産党は候補を立ててくれるだろうか」と心配する声が囁かれていたという[4]

これに対して共産党は「方向性としては前向きだが、今後よく吟味したい」とした上で[5]、選挙区絞り込みの方針自体は変更しないとした[3]。また民主党は「次元の低い問題外の話」「党利党略の発想を内包する改正案に応じるわけにはいかない」と反対の意向を示した[6]

改正案の内容は衆院選・参院選の供託金を3分の2に減額し、選挙区の供託金没収点を半分に引き下げるものとされた。なお地方選挙の供託金額および供託金没収点は変更されなかったため、都道府県知事選挙や政令指定都市の市長選挙は国政選挙よりも供託金額・供託金没収点ともに厳しいものになるという逆転現象が生じた[7]。改正案は2009年7月9日に自民・公明・共産・社民各党などの賛成多数で衆議院を通過したが[8]、民主党が多数を占めていた参議院では通過の目途が立たないまま、7月21日衆議院解散に伴い廃案となった。

批判

供託金制度を導入している他国と比較しても日本の供託金額は極めて高いため、立候補の権利を不当に抑制しているとの批判が根強い。そのためアメリカ合衆国フランスなどのように「住民による署名を一定数集める」といった代替案が提案されている[1]

また高額の供託金制度は立候補の自由を保障する憲法15条1項や、国会議員資格について財産・収入で差別することを禁ずる憲法44条の規定に反し違憲無効であるとしていくつかの訴訟が起こされているが、裁判所は憲法47条が国会議員選挙制度の決定に関して国会に合理的な範囲での裁量権を与えていることを指摘した上で、供託金制度は不正目的での立候補の抑制と慎重な立候補の決断を期待するための合理的な制度であるなどとして、いずれも合憲判決を出している[9]

日本以外における供託金

日本以外においてはイギリス、カナダ韓国シンガポールなどにおいて供託金制度があるが、いずれも日本ほど金額は高くない。また供託金の代わりに手数料を求める国もあるが、いずれも日本の供託金に比べると微々たる金額である。供託金没収点もイギリスが投票数の5%であるなど、主要先進国では日本ほどシビアでない場合が多い。

各国における供託金の金額[10]
選挙 金額 没収点 備考
イギリス(下院) £500(約8万円) 小選挙区制で5%
アイルランド(下院) €500(約6万5千円) 単記移譲式でドループ基数の25% 政党公認候補と30名の推薦人を得た候補は供託免除
オランダ(下院) 1政党当たり€11,250(約150万円) 比例代表制で0.5% 現職議員が所属する政党は供託免除
カナダ $1,000(約10万円) 小選挙区制で10% 収支報告の提出により没収免除
オーストラリア(上院) $2,000(約18万4千円) 優先順位付(単記移譲式)投票の1位票で4%
オーストラリア(下院) $1,000(約9万2千円) 優先順位付投票(Instant-runoff voting)の1位票で4%
ニュージーランド(選挙区) $300(約2万4千円) 5%
ニュージーランド(比例代表) 1政党当たり$1000(約8万円) 0.5%
インド(上院) 10,000ルピー(約1万7千円) 6分の1
インド(下院) 25,000ルピー(約4万2千円) 6分の1
マレーシア(上院) 5,000リンギット(約16万円) 12.5%
マレーシア(下院) 10,000リンギット(約31万円) 12.5%
香港(直接選挙) $50,000(約65万円) 3%
香港(職能団体別) $25,000(約32万円) 3%
シンガポール $16,000(約126万円) 12.5%
台湾 20万元(約67万円) 有権者総数と議員定数の商の10分の1
韓国 1500万ウォン(約135万円) 小選挙区制で10%(15%未満は半額没収) 比例代表制では政党に議席の割り当てがない場合にのみ没収され、1議席でも割り当てがあれば全額返還される
トルコ 7,734リラ(約40万円) 返還されない 政党公認候補は供託免除
ウクライナ(選挙区) 13,224フリヴニャ(約16万円) 落選または登録無効の場合に没収
ウクライナ(比例代表) 1政党当たり220万4千フリヴニャ(約2700万円) 5% 得票率5%未満の場合、議席が割り当てられず供託金も没収となる

またアメリカ、フランスドイツイタリアなどには選挙の供託金制度がなく、フランスに至っては上院200フラン(約4千円)、下院1,000フラン(約2万円)の供託金すら批判の対象となり、1995年に廃止している。

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 テンプレート:Cite news
  2. テンプレート:Cite news
  3. 3.0 3.1 テンプレート:Cite news
  4. テンプレート:Cite web
  5. テンプレート:Cite news
  6. テンプレート:Cite news
  7. テンプレート:Cite web
  8. テンプレート:Cite web
  9. 大阪高裁平成9年3月18日判決など。
  10. 金額はいずれも国政選挙のものである。

関連項目

外部リンク


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