中村元 (哲学者)

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中村 元(なかむら はじめ、1912年大正元年)11月28日 - 1999年平成11年)10月10日)は、インド哲学者仏教学者東京大学名誉教授日本学士院会員。勲一等瑞宝章文化勲章紫綬褒章受章。在家出身。

主たる専門領域であるインド哲学仏教思想にとどまらず、西洋哲学にも幅広い知識をもち思想における東洋西洋の超克(あるいは融合)を目指していた。外国語訳された著書も多数ある。

略歴

没後

  • 2001年(平成13年)6月、『広説 佛教語大辞典』を刊行(全4巻、東京書籍、縮刷版全2巻が2010年7月に刊行)。
  • 2012年(平成24年)10月10日、生誕100年を記念して、松江市八束町に中村元記念館が開設される。
  • 2012年(平成24年)10月、『中村元博士著作論文目録』を刊行(ハーベスト出版、公益財団法人中村元東方研究所編集)。
  • 『道の手帖 中村元 仏教の教え人生の知恵』(河出書房新社、2005年9月、新装版2012年9月)、門下生・関係者の紹介を収録。
  • 植木雅俊 『仏教学者中村元 求道のことばと思想』(角川選書、2014年)、著者は東方学院での門下生。

エピソード

サンスクリット語・パーリ語に精通し、仏典などの解説や翻訳に代表される著作は多数にのぼる。「生きる指針を提示するのも学者の仕事」が持論で、訳書に極力やさしい言葉を使うことでも知られた。その最も端的な例として、サンスクリットのニルヴァーナ(Nirvāṇa)およびパーリ語のニッバーナ(Nibbāna)を「涅槃」と訳さず「安らぎ」と訳したことがあげられる。訳注において「ここでいうニルヴァーナは後代の教義学者たちの言うようなうるさいものではなくて、心の安らぎ、心の平和によって得られる楽しい境地というほどの意味であろう。」としている。

中村が20年かけ1人で執筆していた『佛教語大辞典』が完成間近になったとき、ある出版社が原稿を紛失してしまった。中村は「怒ったら原稿が見付かるわけでもないでしょう」と怒りもせず、翌日から再び最初から書き直し、8年かけて完結させ、別の出版社(東京書籍)から全3巻で刊行。[3]完成版は4万5000項目の大辞典であり、改訂版である『広説佛教語大辞典』では更に8000項目が追加され没後全4巻を刊行した。校正や索引作成に協力した者がいるとは言え、基本的に1人で執筆した文献としては膨大なものである。

中村元は「心」をどう捉えていたか。現代人の最も知りたい「心」をどのように捉えていたかについて、朝日新聞社刊「脳とこころをさぐる」(1990年8月20日発行)に詳しい。同書は中村が76歳の時の講演録である。 注)同書には専門書では発見できない中村の「人の『心』について」及び「21世紀以降の人類社会のあるべき大前提」についての発言が掲載されている、なお、同講演会は鈴木二郎(元日本脳神経外科学会会長)藤田真一(元朝日新聞編集委員)の三人が「人間の死生観」についての討論講演会録を出版物にしたものである。

なお日本以外にも、国際的な仏教学者の権威としてアメリカ・ヨーロッパなど各地で講義・講演した。音声録音が多数残されている。NHK『こころの時代』など放送番組にも度々出でいる。

著作

翻訳

文庫・選書(現行版のみ)

辞典

  • 『広説佛教語大辞典』(東京書籍2001年、新版2010年)
  • 『新・仏教辞典』(監修) (誠信書房 第三版 2006年)
  • 『岩波・仏教辞典』(編集の一人)(岩波書店、1989年、第二版2002年)

『中村元選集』(春秋社、1988年〈第1巻〉~1999年〈別巻4〉)

  • 第1巻 『インド人の思惟方法 東洋人の思惟方法 I
  • 第2巻 『シナ人の思惟方法 東洋人の思惟方法 II
  • 第3巻 『日本人の思惟方法 東洋人の思惟方法 III
  • 第4巻 『チベット人・韓国人の思惟方法 東洋人の思惟方法 IV
  • 第5巻 『インド史 I』
  • 第6巻 『インド史 II』
  • 第7巻 『インド史 III』
  • 第8巻 『ヴェーダの思想』
  • 第9巻 『ウパニシャッドの思想』
  • 第10巻 『思想の自由とジャイナ教』
  • 第11巻 『ゴータマ・ブッダ I 原始仏教 I
  • 第12巻 『ゴータマ・ブッダ II 原始仏教 II
  • 第13巻 『仏弟子の生涯 原始仏教 III
  • 第14巻 『原始仏教の成立 原始仏教 IV
  • 第15巻 『原始仏教の思想 I 原始仏教 V
  • 第16巻 『原始仏教の思想 II 原始仏教 VI
  • 第17巻 『原始仏教の生活倫理 原始仏教 VII
  • 第18巻 『原始仏教の社会思想 原始仏教 VIII
  • 第19巻 『インドと西洋の思想交流』
  • 第20巻 『原始仏教から大乗仏教へ 大乗仏教 I
  • 第21巻 『大乗仏教の思想 大乗仏教 II
  • 第22巻 『空の論理 大乗仏教 III
  • 第23巻 『仏教美術に生きる理想 大乗仏教 IV
  • 第24巻 『ヨーガとサーンキヤの思想 インド六派哲学 I
  • 第25巻 『ニヤーヤとヴァイシェーシカの思想 インド六派哲学 II
  • 第26巻 『ミーマーンサーと文法学の思想 インド六派哲学 III
  • 第27巻 『ヴェーダーンタ思想の展開 インド六派哲学 IV
  • 第28巻 『インドの哲学体系 I 『全哲学綱要』訳註 I
  • 第29巻 『インドの哲学体系 II 『全哲学綱要』訳註 II
  • 第30巻 『ヒンドゥー教と叙事詩』
  • 第31巻 『近代インドの思想』
  • 第32巻 『現代インドの思想』
  • 別巻1 『古代思想 世界思想史 I
  • 別巻2 『普遍思想 世界思想史 II
  • 別巻3 『中世思想 世界思想史 III
  • 別巻4 『近代思想 世界思想史 IV
  • 別巻5 『東西文化の交流 日本の思想 I
  • 別巻6 『聖徳太子 日本の思想 II
  • 別巻7 『近世日本の批判的精神 日本の思想 III
  • 別巻8 『日本宗教の近代性 日本の思想 IV

CD・カセット

  • 中村元講演選集 『ゴータマ・ブッダの心を語る カセット全12巻』(アートデイズ
    • 『ゴータマ・ブッダの心を語る CD版全11巻』(アートデイズ 2010年)
  • ブッダの言葉』、『ブッダの生涯』(新潮社、新潮CD 2007年/ 新潮カセット 1992年)

論文

関連項目

脚注

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外部リンク

  • 『比較思想論』(岩波全書)と、東京書籍刊で『比較思想事典』(監修)、『比較思想の軌跡』がある。
  • 『東方学回想 Ⅷ 学問の思い出〈3〉』(刀水書房、2000年)に収録(年譜・書誌入りで177~208頁)。
  • 1999年10月11日の朝日新聞および日経新聞の追悼記事