中村主水

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テンプレート:Pathnav 中村 主水(なかむら もんど)は、時代劇必殺シリーズに登場する、藤田まこと演じる架空の人物である。小説などの原作を持たない、テレビ番組オリジナルのキャラクターである。

第2作『必殺仕置人』での初登場以来、シリーズ第31作目『必殺仕事人2009』まで、シリーズの半分を超える16作にレギュラーとして登場。その他のシリーズでも『助け人走る』や『必殺剣劇人』にゲスト出演し、公式にも「必殺の顔」と称されるなど、シリーズを通して活躍した。

キャラクター

職業は同心。うだつの上がらないヒラ同心で、家に帰れば妻・りつと姑・せんにいびられる立場の弱い婿養子だが、金をもらって弱者の恨みを晴らす凄腕の殺し屋という裏の顔を持っている。

表稼業

かつては正義感に厚く将来を嘱望されており、同心見習いとして佐渡奉行所に務めていた。その後、北町奉行所同心として江戸勤めとなるが、善人と悪人が明確に別れていた佐渡金山に対し、金や権威次第でいくらでも不正がまかり通る町奉行所や権力と富のある強者がやりたい放題できる世の中の厳しい現実に失望して職業意識を失い、怠惰な仕事ぶりで内外に知られる昼行灯となった。自分の担当地域の商人などに袖の下を要求したり、賄賂次第で微罪を見逃したりする場面も少なくない。その一方で、有力旗本や大名などの巨悪が絡む事件を上の命令を無視してまで捜査しようとするなど、青年時代の気骨のある一面が顔を出す場面も見られる。

上司・同僚は主水のことを軽んじたり蔑ろにしたりし、時には疫病神と呼んで嫌っているが、中にはその素質や性格を見抜いて目をかけようとした者もいた。奉行所内では10年以上に渡って宴会の幹事を行い、宴会の仕切りに関しては同僚たちからも信頼されていた。また賭け事の胴元をすることも多く、その際には普段は口うるさい上司もうまく丸め込んでいた。

劇中では異動や出張が多く、シリーズによって勤務地や職務が変わっている(#経歴参照)。

裏稼業

中村主水は、晴らせぬ恨みを金銭で晴らす殺し屋としての顔も持っている。『必殺仕置人』において、棺桶の錠が持ちかけてきた百姓娘の父親の仇討ちを請け負ったのをきっかけに、裏稼業に足を踏み入れた。以降、「仕置人」「仕事人」などと名乗りながら、長きに渡って裏稼業を続けてきた。

チームにおいては、主に実働隊の一員・リーダーとして活躍し、参謀として作戦を立案することもある。また、同心という表の仕事を利用した情報収集やサポートを行うことも少なくない。殺し技は剣術#剣術参照)。

裏稼業に対するその姿勢は、シリーズを追うにつれて変化している。『必殺仕置人』で仕置人となった当初は、やり場のない日々の怒りを悪人にぶつけるように積極的に仕置に関わっていた。しかし『暗闇仕留人』において、糸井貢が仕留人としての自らのあり方に苦悩して命を落とした後は、感情をなるべく表に出さず、仲間と馴れ合うことを避けるようになった。昔馴染みだった念仏の鉄や、中村家を訪れて三味線の稽古をつけている三味線屋の勇次、奉行所の同僚である渡辺小五郎などを除き、裏稼業に関係のない場面で仲間に会う機会があっても知らない者同士を装っており、必要以上に親しく接することもなくなっている。

裏切りや粛清はしないものの、仲間の甘さや未熟さを𠮟咤することは多く、感情が先走りがちだった飾り職人の秀や、子供じみた正義感を振りかざす西順之助に対して鉄拳を振るったこともある。またチームが危機に瀕した場合には、その原因であるメンバーを容赦なく斬ることも宣言していた。しかし一方で、仲間が危機に陥った場合には自ら死地に飛び込んで救い出そうとする場面も多い。

裏社会においては長く名前を知られていなかったが、『必殺商売人』あたりから腕利きの殺し屋として知られるようになっていき、後にはその存在が裏稼業の勢力争いのキーパーソンとなったこともあった。

剣術

殺し技は、手持ちの刀を用いた剣術である。その腕前は超一流で、劇中の描写や設定によると奥山神影流、御嶽新影流、小野派一刀流、一刀無心流の免許皆伝で、心形刀流の心得もある。子供の頃から、寺子屋で一番の腕前であったとも語られている。

中期までは状況に応じて様々な剣技を披露していたが、後期に入ると斬りかかるのではなく、親しげに話しかけて相手の油断を誘い刺殺する殺し方が中心になっていった(このシーンにはスローテンポの専用BGMが用いられる)。『必殺仕事人V』『必殺仕事人V・激闘編』では、刀の柄の中に刃を仕込み、柄を鞘のように抜いて相手を暗殺する場面もあった。

奉行所では昼行燈を装っていることから、剣術の腕前を周囲に隠している。奉行所での剣術の稽古や試合などでは、わざと負けて痛めつけられており、実力がないように見せるため竹光を腰に差したこともあった。

家庭など

テンプレート:Seealso 妻・りつ、姑・せんと3人で、八丁堀の役宅に暮らしている。下総の同心・北大路家の次男だった主水が、わずかな伝手を頼って中村家へと婿養子になりに来たのが、家族のなれそめである。中村家の家紋は「丸に唐花」。

恐妻家で、やる気のなさゆえに奉行所での出世の見込みがないこと、主水自身の怠惰な生活態度から、家庭内では2人から疎まれ、陰に日向にいびられ続けている。主水もまた、そのような態度で接する2人、特に厳しく当たってくるせんに対しては相当に嫌気が差している様子が窺える。しかし一方、表に出ないだけで実際は深い愛情で結ばれてもおり、それを示唆するエピソードも劇中に数多く見られた。

30歳を過ぎても子供ができず、妊娠の兆候もないことから、せんとりつからは「種無しかぼちゃ」と罵られている。『商売人』ではりつが妊娠したが、最終的には死産という結末を迎えた。夫婦ともに性欲は旺盛で、りつから床入りをねだる場面がしばしばあり、主水も時折他の女に浮気をしている。

へそくりが趣味で、袖の下や裏の仕事などで得た金銭を、家の様々な場所に隠している。それを必要な時に持ち出して様々な用途に用いているが、せん・りつに見つけられて生活費や遊興費に当てられてしまうことも多い。

好物は甘いものと目刺。酒は嗜まないが下戸ではない。

経歴

劇中での以下のような職務歴を経ている。なお、史実等に照らすと矛盾している部分があり、また時代設定も一定していない。

作品名 役職 備考
前史 佐渡金山同心見習い
必殺仕置人 北町奉行所定町廻り
助け人走る
暗闇仕留人
必殺仕置屋稼業 南町奉行所定町廻り 北町からの栄転
必殺仕業人 伝馬町牢屋見廻り 左遷
新・必殺仕置人 南町奉行所定町廻り
必殺商売人
八王子甲府勤番所勤め 左遷
必殺仕事人 南町奉行所定町廻り
新・必殺仕事人
必殺仕事人III
必殺仕事人IV
必殺仕事人V
仕事人V・激闘編 最終回で定町廻りの班長に昇格
仕事人V・旋風編 石川島百軒長屋の番所勤め 南町奉行所配下
仕事人V・風雲竜虎編 富岡八幡宮へ架かる橋の番所勤め
必殺剣劇人 南町奉行所定町廻り
TVスペシャル期間
必殺仕事人・激突! 南町奉行所定中役同心
必殺! 主水死す 南町奉行所定町廻り 劇中で死亡
必殺仕事人2007 南町奉行所書庫番 渡辺小五郎赴任に伴う配置換え
必殺仕事人2009 木挽町の自身番勤め 左遷 / 南町奉行所配下
必殺仕事人2010 西方へ赴任 以降登場せず

エピソード

中村主水の誕生

プロデューサーの山内久司は、『必殺仕置人』の制作にあたってサラリーマンキャラクターを登場させることを決め、中村主水の基本設定を作り上げた。山内は主水に平凡さを求め、これを演じられるのは、男前でなければ不細工でもなく、体格も極めて平均的な日本人である藤田まことしかないと考え、抜擢を決定[1][2]。この配役には反対も多かったが、監督を担当した深作欣二の賛同もあって藤田に決まった。一方で藤田は、「スタッフは他の有名俳優にも主水役を打診したが、家庭で嫁姑にいびられる情けない役どころを引き受ける人間が誰もおらず、最終的に自分のところに回ってきた。依頼から撮影までがたった一週間だったのが合点がいった」と語っている。これが結果として、『てなもんや三度笠』以降俳優として不遇の時代が続いていた藤田を、再びスターの座に返り咲かせることとなり、中村主水は藤田の生涯随一の当たり役となった。

撮影を担当した石原興は、当初の藤田の演技は未熟だったが、『仕置人』が終わるころには物になっており、主水は藤田以外にはいないと思ったと述懐している[3]。一方で藤田は、後年のインタビューにおいて「中村主水というキャラクターが自分の中に確立できたのはいつ頃か」という質問に「『必殺商売人』の頃だ」と答えている[4]

「中村主水」という名前の由来に関しては諸説ある。平凡な名前にしようと会議で決めていた時、山内は冗談で「ジェームス・ボンドにしましょうか?」と発言したところ、深作が「“モンド”という名前は平凡やね、目立たん名前やね」と返し、決まったという[1][2]。他方で、日本人に一般的な中村という苗字に、八木節に登場する怠け者・鈴木主水の名前を取って付けられたもので、ジェームズ・ボンド由来は人気が出た後の後付けだったともされている[4]

トレードマークになっているマフラーは、『必殺仕業人』の撮影時、寒さをしのぐために小道具係から借り、そのまま撮影に用いたものが定着したものである。

主人公問題

テンプレート:Seealso ドラマにおいては通常、配役表の先頭には主人公(ならびに演じた俳優)が記されるのが慣例になっている。初登場作の『必殺仕置人』では、主水でなく念仏の鉄が主人公として扱われていたため、エンディングクレジットは鉄を演じる山崎努が先頭に、主水演じる藤田が最後(トメ)に配置されていた。しかし主人公として抜擢された『暗闇仕留人』以降も藤田の名前はトメに置かれ、そのため以降のシリーズでは、藤田が主人公を演じたにもかかわらず、共演の沖雅也中村敦夫が主演と紹介されることがしばしばあった。藤田及び当時藤田が在籍していた渡辺プロダクションは、これについて制作サイドに幾度となく申し入れを行っていたが、クレジットの配置が変更されることはなかった。

そのような事情の中、山崎が鉄役で再びレギュラー出演することになった『新・必殺仕置人』の制作が決定。藤田側はこれに対し、またも名前がトメに回される可能性が高くなったと判断し、必殺シリーズそのものを降板する構えを見せ、厳重に抗議。これによって初めて藤田の名前がキャストの最初に登場するようになり、主役を降板する『必殺仕事人2007』まで、エンディングクレジットの先頭を飾り続けた。

注釈

  1. 1.0 1.1 講談社 2010年『必殺DVDマガジン 仕事人ファイル 1stシーズン壱 必殺仕置人 中村主水』
  2. 2.0 2.1 朝日放送「必殺シリーズ作品総編集」極私的回想録
  3. 『必殺を斬る』時代劇専門チャンネル製作番組
  4. 4.0 4.1 『必殺! CD-ROM』NECインターチャネル

出演作

TVシリーズ

TVスペシャル

舞台

  • 必殺仕置人(1976年、九州地方にて巡業。詳細不明だが、中村主水の主人公問題で急遽組まれたとみられる)
  • 藤田まこと特別公演「新・必殺仕置人」(1978年、新歌舞伎座
  • 納涼必殺まつり(1981年 - 1987年の毎年8月下旬、京都南座
    • 必殺女ねずみ小僧(1981年)
    • 必殺・鳴門の渦潮(1982年、南座に先がけ名鉄ホールで上演)
    • 必殺ぼたん燈籠(1983年)
    • からくり猫屋敷(1984年)
    • 琉球蛇皮線恨み節(1985年)
    • 女・稲葉小僧(1986年)
    • 地獄花(1987年)
  • 藤田まこと特別公演「必殺仕事人 中村主水参上!(地獄花改め)」(1988年、梅田コマ・スタジアム
  • 藤田まこと特別公演「必殺仕事人 主水、大奥に参上!」(1989年、梅田コマ・スタジアム→新宿コマ劇場⇒1991年、名鉄ホール→新宿コマ劇場)
  • 藤田まこと特別公演「必殺仕事人 地獄花」(1990年、名鉄ホール)
  • 南座八月公演「必殺 中村主水、大奥に参上!」(1996年、京都南座)
  • 藤田まこと特別公演「必殺仕事人/主水、大奥に参上!」 (1997年、新宿コマ劇場⇒1998年、中日劇場劇場飛天⇒1999年、全国巡業⇒2002年、明治座

映画

パチンコ機

いずれも京楽産業.から発売。


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