一酸化窒素

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テンプレート:Infobox 無機化合物 一酸化窒素(いっさんかちっそ、nitric oxide)は窒素酸素からなる無機化合物で、化学式であらわすと NO酸化窒素とも呼ばれる。

化学的には希硝酸を作用させたり、二酸化窒素(NO2)に(温水)を反応させることでも生じる。常温で無色・無臭の気体に溶けにくく、空気よりやや重い。有機物の燃焼過程で生成し、酸素に触れると直ちに酸化されて二酸化窒素 NO2 になる。硝酸の製造原料。光化学スモッグ酸性雨の成因に関連する。また体内でも生成し、血管拡張作用を有する。窒素の酸化数は+2。

希硝酸の反応

<math> \rm 3Cu + 8dilHNO_3 \longrightarrow 3Cu[NO_3]_2 + 2NO+4H_2O</math>

(conc(接尾辞)はその溶液が濃いこと、dil(接頭辞) はその溶液が薄いことを表す。)

二酸化窒素(温水)の反応

<math> \rm 3NO_2 + H_2O \longrightarrow\ 2HNO_3+ NO </math>

また、二酸化硫黄と二酸化窒素の置換反応の過程でできる。

<math>

\rm NO_2 + SO_2 \longrightarrow NO + SO_3 </math>

環境に対する影響

高温で窒素酸素が化合して一酸化窒素が生成する。自然界では主として山火事によって生じるが、その発生源の大部分は、人為的理由による。人為的な発生源として、ボイラー、自動車の排出ガス焼却炉、石油ストーブなどである。大気汚染で問題となる窒素酸化物 (NOx) の1つである。窒素酸化物は大気汚染防止法によって、排出規制が行われている。

大気へ放出された一酸化窒素は、二酸化窒素酸化される。

一方、二酸化窒素は紫外線を受け一酸化窒素と原子状酸素になり、この原子状酸素がオゾンなど酸化物質(オキシダント)を生成するが、一酸化窒素が二酸化窒素に酸化される反応は、非メタン炭化水素(NMHC)が光反応により酸化した物質の存在下で加速するため、反応が連鎖的に進行し、光化学スモッグを引き起こす原因となる光化学オキシダントを生成する。

また、窒素酸化物は、大気中の水蒸気と反応すると硝酸に変化し、酸性雨の原因となる。

応用

オストワルト法アンモニア硝酸に変換する過程で中間産物としてできる。

一酸化窒素を用いてポリマー表面のラジカルを検出することができる。一酸化窒素が表面ラジカルを消去することで窒素が生成し、それをX線光電子分光で検出することができる。

生理機能

生体内では一酸化窒素は、一酸化窒素合成酵素 (NOS) によってアルギニンと酸素とから合成される。一酸化窒素は細胞内の可溶型グアニル酸シクラーゼを活性化してサイクリックGMP (cGMP) を合成させることによりシグナル伝達に関与する。

免疫に関与する細胞の一種マクロファージは病原体を殺すために一酸化窒素を産生する。しかしこれは逆に悪影響を及ぼすこともある。敗血症ではマクロファージが一酸化窒素を大量に産生し、それによる血管拡張が低血圧の主因となると考えられている。

一酸化窒素は神経伝達物質としても働く。シナプス間隙のみで働く多くの神経伝達物質と異なり、一酸化窒素分子は広い範囲に拡散して直接接していない周辺の神経細胞にも影響を与える。このメカニズムは記憶形成にも関与すると考えられている。

一酸化窒素の生物機能は1980年代において驚くべき発見として迎えられ、一酸化窒素は1992年の「サイエンス」誌で「今年の分子」として取り上げられた。1998年ノーベル生理学・医学賞は一酸化窒素のシグナル機能の発見によりフェリド・ムラドロバート・ファーチゴットルイ・イグナロに授与された。

窒素酸化物(NO、NO2等)を吸入するとヘモグロビン酸化されて、酸素運搬能力のないメトヘモグロビンが生成し、メトヘモグロビン血症になることがある[1]

臨床応用

血管内皮は一酸化窒素をシグナルとして周囲の平滑筋を弛緩させ、それにより動脈を拡張させて血流量を増やす。これがニトログリセリン、亜硝酸アミル、一硝酸イソソルビド(5-ISMN,アイトロール®)などの亜硝酸誘導体が心臓病の治療に用いられる理由である。これらの化合物は一酸化窒素に変化し、心臓冠動脈を拡張させて血液供給を増やす。発毛剤ミノキシジル(リアップ®)は cGMP 分解を抑制して毛細血管の血流量を増やす。一酸化窒素は陰茎勃起でも働いており、やはり cGMP 分解抑制薬であるシルデナフィル(バイアグラ®)はこのメカニズムを利用したものである。一酸化窒素を気管内に吸入させることにより、肺動脈の血管平滑筋を弛緩させ、肺高血圧を改善させることができる。新生児の新生児遷延性肺高血圧や、開心術後の心臓の負荷軽減、原発性肺高血圧症の治療などに利用されるが、日本では保険適応外の先端治療扱いである。

脚注

  1. テンプレート:PDFlink

外部リンク

テンプレート:窒素の化合物