レオパルト2

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テンプレート:戦車 レオパルト2(Leopard 2/Leopard Zwei)は、西ドイツが開発した第3世代主力戦車である。製造にはクラウス=マッファイ社を中心に複数の企業が携わっている。

名称

『レオパル』と表記されることがしばしばあるが、ドイツ語では語尾のdは濁らないので、原音に忠実に日本語表記すれば、『レオパル』が正しい。現場ではレオパルト・ツヴァイ"Zwei"ではなく、レオパート・ツヴォー"Zwo"と発音されることが多い[1]。これは「3」を意味する、ドライ"Drei"との聞き間違いを避けるために、電話などで使われる発音と同様である。

開発の経緯

レオパルト11965年に登場したが、そのころからソ連戦車の進歩に対応するため、120mm滑腔砲を採用した強化版が検討されていた。しかし、これはアメリカとのMBT-70の共同開発プロジェクトを推進するためにキャンセルされた。MBT-70は革新的な設計であったが、想定よりコストが増加し、西ドイツ(当時)は1969年にプロジェクトから撤退した。

純国産の新型戦車の開発は1970年にクラウス・マッファイ社によって始められた。1年後に本戦車のベースとして、MBT-70ではなく、1960年代後半に存在した金メッキのレオパルトプロジェクトが選択された。1971年には新戦車の名称はレオパルト2と決定され、元のレオパルト戦車はレオパルト1となった。同年17輌の試作車が発注され、16輌が製造された。最大車重は50トンとされた。

1973年にアメリカは試作7号車を購入・テストし、1974年12月11日にはアメリカと新型戦車の共同生産について覚書が交わされた。第四次中東戦争の戦訓から、傾斜角をつけた中空装甲を多用した試作車よりはるかに強力な装甲が求められた。その結果、重量は60トン級になった。

14番試作砲塔は、新しい装甲の形状をテストするために改造され、ほぼ垂直のスペースド・アーマー(中空装甲)の採用と、砲塔後部の弾薬格納庫によってレオパルト1よりはるかに大型の箱型砲塔となった。このように、レオパルト2はしばしば言われるようなチョバム・アーマーではなく、当初は中空装甲を採用した。

試作14号車は、ラインメタルの120mm滑腔砲を採用した。アメリカのM1エイブラムスもやがて同じ砲を採用することとなった。その後、2輌の試作車体と3基の試作砲塔が発注された。20番試作砲塔は105mm砲 L7ヒューズ社の射撃管制装置を装備し、19番試作砲塔は同じ射撃管制装置に120mm砲を装備した。

21番試作砲塔はヒューズ社とクルップ社の共同開発の射撃管制装置と120mm砲を装備していた。

ファイル:Leopard 2 Prototyp PT15 T02 105mm.jpg
レオパルト2 試作型(105mm 砲搭載型)

1976年夏に19番試作砲塔と車体が、20番の試作車体と装甲防御をテストするための特殊車両と共にアメリカに送られた。この試作車は簡略化された射撃管制装置を装備していたため、レオパルト2AV(簡略化〈austere〉バージョン)と呼ばれた。同年9月1日からレオパルト2とXM1(M1エイブラムスの試作車)との比較テストがアバディーン性能試験場で開始され、同年12月まで続いた。アメリカ陸軍はレオパルト2とXM1は火力と機動力は同等だが、XM1の装甲はより優れていると報告した(砲は同じ105mm砲 L7を装備していたものと思われる)。今日、成型炸薬弾に対してはこの報告は事実であると判明しており、徹甲弾に対してはレオパルト2の装甲はXM1のおよそ2倍の強度を発揮した(XM1の350mm厚相当に対して650mm厚相当)。

レオパルト2の多燃料対応型ディーゼルエンジンは騒音は大きかったが発熱量は少なく、より信頼性が高く、燃費も良かった。20番の試作車体は砲塔の代わりにダミーウェイトを取り付けられて試験された。比較テストを終了した車体は全てドイツに送り返されたが、19番の試作砲塔のみ残されて7番の試作車体と組み合わされると共に、ラインメタル120mm砲に換装された。3月までのテストでこの砲はM1エイブラムスの初期型が搭載していた105mm砲 L7よりはるかに優れていると判明し、引き続いて行われたNATO軍の戦車射撃競技会でも同じ結果が確認された。

1977年1月にドイツは3輌の車体と2基の砲塔からなる量産試作車を発注したが、これらは車体前面により強化された装甲を装備していた。続いて1977年9月に1,800輌のレオパルト2が発注され、5つの量産バッチに分けて製造された。最初のバッチは1979年10月25日に納入された。 テンプレート:-

改修による強化

1980年代後半、KWS(Kampfwertsteigerung = 戦闘能力強化)という改良計画が立案された。 テンプレート:Multiple image 計画は三段階あり、

  1. KWS Iは、既存の44口径120mm滑腔砲を55口径120mm滑腔砲に換装し攻撃力の強化を目的とする。
  2. KWS IIは、隔壁装甲(Schottpanzerung)あるいは楔装甲(Keilpanzerung)と呼ばれる楔形の空間装甲板を砲塔前面の左右と砲塔側面前部の左右の計4箇所に取り付け(砲塔側面前部の左右に取り付けられた隔壁装甲は、外側に90度以上可動させる事ができる。これは側面の出っ張りがエンジンを着脱する際に障害になるためである)、更に全周旋回可能な車長用熱線暗視サイトを砲塔上に増設し、防御力と索敵能力の向上を目的とする。
  3. KWS IIIは、主砲に140mm滑腔砲を採用するかを決める試験的なものである。

開発の末、先行して実用化されたKWS II改良を行った車両はレオパルト2A5となり、レオパルト2A5にKWS I改良を行った車両がレオパルト2A6となった。KWS IIIだが、実際にレオパルト2のプロトタイプ車両にラインメタル社製140mm滑腔砲(NPzK-140)を搭載した試験車両が作られ実験が行われたが採用されなかった(スイス陸軍でも国産140mm滑腔砲をPz 87 Leo(レオパルト2A4)に搭載し実射試験などを行ったという)。

A4までの車両の砲塔正面装甲が垂直面で構成されていたため避弾経始上の欠陥と揶揄されたが、特殊砲弾技術が発展した今日において主に使用されている戦車砲弾のAPFSDSは、装甲を傾斜させても跳弾しないため避弾経始は過去のものとなったと言える。ちなみにA4までと同様に垂直面を多用した外観を持つ複合装甲の車両には陸上自衛隊90式戦車がある。

A5以降の改良型には隔壁装甲あるいは楔装甲と呼ばれる楔形の空間装甲が追加されており、防御効果について軍事評論家から諸説が唱えられているものの、真相は不明である。

A5とA6の違いは44口径120mm滑腔砲から55口径120mm滑腔砲に換装した事による砲身長の延長である。約1.3メートル長くなった事で砲弾の初速が向上し、有効射程が向上した。また、同時に薬室も強化テンプレート:要出典されてより強力な弾薬の使用が可能になっているが、命中精度と砲身寿命は若干低下したとも伝えられている。ドイツ陸軍のA5は全てA6に改良する予定であるという。A6及びA6の改良型はオランダギリシャスペインも導入している。

A5及びA6への改良により戦闘能力が強化された事は間違いないと考えられるが、重量増加に伴い機動性や航続距離が低下した。また、55口径120mm滑腔砲に換装したA6では、長砲身の扱いに慣れていない頃は森林や市街地での取り回しの悪さが問題視されて当初の評判はあまり芳しくなかった。

1990年代に入り従来のMTU MB 873に替わり、新型のMTU MT 883を搭載したユーロパワーパックが開発された。これは新規生産車両だけでなく、改修により既存のレオパルト2への換装も可能となっている。

スイスではPz 87 Leo WE、ドイツではレオパルト2PSOという、低強度紛争(LIC)などにおける市街戦などに対応するための最新改良型が開発されている事からも、本車がまだまだマイナーチェンジに耐えうるゆとりを残している事が伺える。既に配備開始から30年以上経っているドイツでも次期主力戦車についての発表が無い事から、ドイツ連邦軍は当分レオパルト2を主力戦車として運用するものと考えられている。状況的にはロシアとの冷戦が終結し、必要性が無くなったこと。また、イラクではエイブラムスが携帯型ロケット兵器や仕掛け爆弾に苦戦を強いられるなど、今後の戦車開発を難しくさせている。

レオパルト2各型の比較
各型 A4 A5 A6/A6M PSO A7+
全長 9.67m 10.97m
全幅 3.74m
全高 2.99m 3.03m
潜水深度 1.2m
※シュノーケル装備時は4.0m
重量 55.15t 59.5t A6 61.7t/A6M 62.5t 67.0t
最高速度 68 km/h(後進時は31 km/h)
燃料積載量 1,160リットル[2]
主砲 44口径120mm滑腔砲 55口径120mm滑腔砲 44口径120mm滑腔砲 55口径120mm滑腔砲

輸出

1980年代までにはあまり輸出は成功しなかったが、1990年代に入ると冷戦終結に伴う軍縮によりドイツ連邦軍が余剰となったレオパルト2を安価に提供したことから輸出が活発化した。今日では欧州向け輸出に広く成功したことから、事実上の欧州標準戦車と呼ばれるまでになっている。主な理由は、堅実かつ発展性のある設計により使用国独自の発展改修に対応させる余裕があり、その要望に応じた仕様変更に対応するサポート態勢にある。新車のレオパルト2A5やレオパルト2A6の輸出も行われているが、ドイツ連邦軍が配備する車両とは細部の仕様が異なる。

オランダM1エイブラムスについて、コストが高いことと120mm砲の装着を拒否されたことから不採用を決定して、1979年3月2日に445輌のレオパルト2を発注した。ドイツ本国に次ぐ保有国であり、やはり軍縮によりドイツ同様に余剰車輌の輸出国となっている。

ファイル:Stridsvagn 121 (Swedish Leopard 2A4).jpg
Stridsvagn 121(スウェーデン陸軍)

スウェーデン陸軍Stridsvagn 103 C(Strv 103 C)の後継として購入したStridsvagn 122(Strv 122)は、当初の計画ではA5そのものだったが、購入ののちスウェーデンでの運用思想に合わせて独自改良(A5では見送られた車体前面と砲塔上面に装甲を追加)を行った結果、より重装甲になり重量も62.5トンに達した。これはドイツ連邦軍の装備している通常型のA5やA6よりも優れた防御力を有している。現在では同様の装甲防御を施したA5以降のレオパルト2をギリシャ陸軍スペイン陸軍デンマーク陸軍(車体前面のみ)も装備している。最近ではレオパルト2A6Mと同様の地雷防御改良を施したStrv 122Bという車両が発表されている。

スイス1983年8月24日に35輌を発注し、1987年12月には345輌の追加ライセンス生産を始めた。Panzer 87 Leopard(Pz 87 Leo)として配備されており、車体後部に大型のマフラーが取り付けられているのが特徴的である。現在はPz 87 Leo(レオパルト2A4)を基にPanzer 87 Leopard Werterhaltung(Pz 87 Leo WE)と呼ばれる改良型を独自に開発した。隔壁装甲(ショット装甲)とは異なりAPFSDSに対する防御力を持った強固な垂直の増加装甲を砲塔前面及び側面に装着しており、砲塔部の防御力はA5やA6よりも優れている。車体底面にはレオパルト2A6Mと同様の物と考えられる地雷防御改良が施されている。装填手用ハッチ後方には全周旋回可能な遠隔操作式銃架を設置し、12.7mm重機関銃を据え付けている。

2006年3月にはチリ陸軍もレオパルト2A4の導入を決定した。

評価

レオパルト2はKFORとしてコソボに派遣されたものの、実戦投入の機会がなく、他の実戦投入の機会がない戦車と同じく真の実力は未知数とされるが、改良型のレオパルト2A6の能力は、同世代の戦車の中でも高い水準にあるとされる。

バリエーション

レオパルト2AV
原型車両。
レオパルト2A0
第1バッチ生産車両。
レオパルト2A1
第2-3バッチ生産車両。
レオパルト2A2
第3バッチに改良した第1-2バッチ生産車両。
レオパルト2A3
第4バッチ生産車両。
レオパルト2A4
第5-8バッチ生産車両。A4以前の車両も改良が行われ全てA4扱いとなっている。

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レオパルト2A5
A4にKWS IIという改良を行った車両。隔壁装甲または楔装甲と呼ばれる空間装甲板を砲塔前面及び側面に付加。重量は59.7トンに増加。
射撃管制装置を改良し、車長用ハッチ後方に全周旋回可能な車長用サイトを増設した事によりハンターキラー能力を獲得した。

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レオパルト2A6
A5にKWS Iという改良を行った車両。重量は62.56トンに増加。
主砲をA5までに搭載されていた44口径120mm滑腔砲から55口径120mm滑腔砲に換装した。
2004年に開発したAPFSDSのDM53(LKE II)を採用することで有効射程が向上した(現在は装薬を変更したDM53A1及びDM63を使用)。
配備から間もない頃は55口径砲採用に伴う不具合により命中精度が低下していたが、後に是正されて改善されている。

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レオパルト2A6M
A6の地雷防御強化型。
車体底面に対地雷用の装甲板を装着。
レオパルト2A6EX
A6の装甲防御強化型。
車体前面及び砲塔上面に装甲を追加する事で防御力を強化し、空調システムも改善させた。

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レオパルト2PSO
国際平和活動における市街戦を想定して設計された型。PSOはPeace Support Operationsの略。2006年6月に初公開された。
主砲は市街地での運用を考慮してか、44口径120mm滑腔砲を装備。砲塔側面後半部及びサイドスカート前半部にRPG-7対策用の増加装甲を装着。車体底面には対地雷用の装甲板を装着。
装填手用ハッチ後方に設置された全周旋回可能な遠隔操作式銃架には、40mm自動擲弾発射器、または12.7mm重機関銃、または7.62mm機関銃を据え付け可能。非殺傷兵器を搭載。
小型カメラ経由の情報による近接観測能力の向上。主砲同軸サーチライトを設置。偵察能力を改善。車体前面にドーザーブレードを装着。車両全体への都市迷彩。以上が主な改良点であるという。

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レオパルト2A7+
2A6Mに2PSOの改修内容も採り入れた近代化改修型。モジュラー装甲や非装甲目標用のHE-FRAG破片榴弾DM11を導入している。
重量が67.5トンに増加しており、足回りが強化されている。

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派生型

ベルゲパンツァー3 ビュッフェル(Bergepanzer 3 BÜFFEL(BPz 3)
ファイル:Bergepanzer Bueffel.jpg
ベルゲパンツァー3 ビュッフェル
回収戦車型。ビュッフェル(BÜFFEL)とは"バッファロー"の意。
レオパルト2の車体に箱型の固定式戦闘室を設置し、ブームクレーンと駐鋤、回収用機材を装備。

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コディアック装甲工作車(Pionierpanzer 3 Kodiak(PiPz 3)
装甲工作車型。コディアック(Kodiak)とは"アラスカヒグマ(コディアックヒグマ)"の意。
レオパルト2の車体に箱型の固定式戦闘室を設置、ショベルアーム及びドーザーブレードを装備。ドーザーブレードの代わりに地雷処理装置を装備することも可能。
パンツァーシュネルブリュッケ2(Panzerschnellbrücke 2(PSB 2)
ファイル:PSB 2 with bridge.jpg
パンツァーシュネルブリュッケ2(架橋状態)
レオパルト2の車体を流用した架橋戦車。パンツァーシュネルブリュッケ(Panzerschnellbrücke)とは直訳すると"装甲即席橋"で、野戦用の装甲架橋車両を指す。
全長9.7mの橋体3基と架橋装置を装備し、橋体は連結することができ、最大有効長27.7mまでの架橋が可能。

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パンツァーシュネルブリュッケ レグアン(Panzerschnellbrücke Leguan(PSB Leguan)
ファイル:Panzerschnellbrücke Leguan.jpg
パンツァーシュネルブリュッケ レグアン
カンチレバー式2分割橋体を搭載した状態
レオパルト1の派生形である「ブリュッケンレーゲパンツァー・ビーバー(Brückenlegepanzer Biber)」の後継として開発された架橋戦車。レグアン(Leguan)とは"イグアナ"の意。
多種類の橋体を複数搭載可能な架橋装置を装備しており、最大で全長40m、最小で20mの有効長の橋体を架橋できる。

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レオパルト2操縦訓練車(Leopard2 FahrschulPanzer(Leopard2 FsPz)
ガラス張りの訓練席を持つダミー砲塔を搭載した操縦訓練車型。

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採用国及び配備モデル

テンプレート:Col

採用検討国

テンプレート:Flagicon カタール

テンプレート:Flagicon サウジアラビア

脚注

  1. 出典・レオパルト戦車-世界最強の陸上兵器-浜田一穂著 原書房
  2. 非戦闘時においては、900リットルに制限

関連項目

外部リンク

テンプレート:Sister

テンプレート:現代戦車