リンネル

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リンネルのハンカチ
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死海で発見されたリンネルの布地

リンネル:liniere :linen)とは、亜麻繊維を原料とした織物の総称。リネンとも呼ぶ。

一般には薄地のさらりとした丈夫で吸湿性がある織物をさし、光沢がある。素地の色は白か淡い黄色、「麦わら色」「象牙色」などと形容される。夏物の衣服のほか、敷布・テーブルクロス・ハンカチレース地など広い用途を持つ。トルココーヒー全盛だったフランスで、1717年にリンネルの袋に粉を入れ、湯の中につけてコーヒーを浸みださせるという考案があった。厚地のものは帆布カンバスなどにする。キャラコなどで代用したものも多い。

紀元前8000年頃のティグリス川ユーフラテス川に亜麻が生えていたことが確認でき、紀元前3500年頃古代エジプトの交易品に、すでに「リンネル」が金・銀、穀物、パピルス、ロープ、陶器、彩色瓦、牛皮などに混じって登場する。古代の中近東では肌着としてよく使われ、エジプトではミイラを巻くためにも使われた。イエス・キリストの遺体を覆った「聖骸布」もリンネルであることが聖書の記述でうかがえる。現代のヒンドゥー教徒も亜麻で遺骸を包み、聖なるガンジス川へ流す。

古代ギリシア古代ローマでは純白のリンネルが珍重された。博物学者大プリニウスは、「エジプトの亜麻は少しも丈夫ではないが高値で売れる。この国には4類ある。タニティクム、ペルシアクム、ブディクム、そしてテンチュリティクムで、それができる地区によって名づけられている。エジプトのアラビア方角にある上部では、人々が綿と呼んでいるが、もっとしばしば"羊毛"を意味するギリシア語で呼ばれている一種の灌木がつくられている。そのことからそれでつくったリンネルにクシュリナという名が与えられる。これは小さな灌木で、それに芒(のぎ)のある堅果のような実が垂れ下がる。その実の内部は状の繊維で、その綿毛を糸に紡ぐ。この糸くらい滑らかな織物ができるものはない。それで作られた衣服はエジプトの僧侶の間にすこぶる人気がある。」と記述する。

18世紀では特に生産量が大きく、イギリスでは小麦のようにありふれた素材だったようで、カール・マルクスの『資本論』で交換価値を説明する最初の箇所から「20エレのリンネル=1着の上着」という例が出され、J・S・ミルの『経済学原理』でも比較生産費と交易条件を扱う例として、ドイツラシャとともにイギリスのリンネルが出てくる。日本のマルクス経済学者・宇野弘蔵著『経済原論』でも交換商品としてリンネルを例とする伝統が残っている。

また、「リネン」はその材質からシーツなどの寝具を指すこともある。現代では必ずしもシーツ類にリンネル製品が使われているわけではないが、宿泊設備のある建物では慣例的に、シーツ、枕カバーなどを保管する部屋を「リネン室」と呼んでいる場合が多い。

日本ではリンネル製品のことを(製品)と呼ぶ場合が多い。本来「麻」とは大麻(ヘンプ hemp)のことを呼んでいたが、後に海外より伝わった似たような質感の亜麻苧麻などを含めた植物繊維全般を指して「麻」の名称を使うようになった。そして本来の麻を植物の背丈が大きく成長する特徴から、大麻(おおあさ、たいま)と区別して呼称するようになったとされている。

現在の日本で流通している麻製品のほとんどは亜麻から作ったリンネルであり、家庭用品品質表示法の「麻」と呼べる繊維にヘンプは含まれていない。


関連項目


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