ラン科

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テンプレート:Redirectlist テンプレート:出典の明記 テンプレート:生物分類表 ラン科(蘭科、Orchidaceae)は、単子葉植物のひとつで、その多くが美しく、独特の形の花を咲かせる。世界に700以上15000、日本に75属230種がある。鑑賞価値の高いものが多く、栽培や品種改良が進められている。他方、採取のために絶滅に瀕している種も少なくない。

ラン科の種はラン)と総称される。英語では「Orchid(オーキッド)」で、ギリシア語の睾丸を意味する「ορχις (orchis)」が語源であるが、これはランの塊茎(バルブ)が睾丸に似ていることに由来する。

概要

南極をのぞくすべての大陸の熱帯から亜寒帯に自生する。被子植物の中では最も後に地球上に現れた植物である。被子植物の中で、もっとも種数の多い科となっている。

植物体は偽鱗茎(バルブ)を持つものなど独特の部分が多く、また、花は左右対称で、虫媒花の中では特異なほど効率の良い花形を発達させ、特定の昆虫との共進化を見せるものも知られている。また根や種子の発芽では菌類との共生が大きな役割を担う。

短期間に急速に適応放散してきたため種の間の遺伝学的隔たりが小さく、種間雑種属間雑種ができやすい。また、媒介昆虫との共進化の例が知られており、現在においてもなお急速な進化を続けていると考えられている。

花の美しさや姿のおもしろさから、多くのものが観賞用とされており、またそのための採集圧から絶滅の危機が問題になっているものも多い。

花の特徴

花弁
ラン科植物のは、非常に独特のものである。ユリなどと同じように、六枚の花びら(外花被片3、内花被片3)があるが、全部が同じ形ではないので、左右対称になる。特に、内花被片の一枚が変わった形になっている。多くのものでは袋や、手のひらをすぼめた形や、あるいはひだがあるなど、他の花びらとは異なっており、これを唇弁(しんべん、リップ)と呼ぶ。他の内花被片二枚は同形で側花弁と言う。外花被片も唇弁の反対側のものと残り二枚がやや違った形をしている。前者を背萼片、後者を側萼片という。本来、花茎から花が横向きに出れば、唇弁が上になるのだが、多くのものでは花茎から出る子房がねじれて、本来あるべき向きから180°変わった向き、つまり逆さまになる。そのため、唇弁が下側になって、雄しべ雌しべを受ける形になる。
雄しべ雌しべ
雄しべと雌しべは完全に合体して一本の構造になっており、これをずい柱という。雄しべは一本ないし二本だけが残り、他は退化する。二本のものにはたとえばヤクシマラン属アツモリソウ属があり、それぞれヤクシマラン亜科アツモリソウ亜科を代表する。
ヤクシマラン亜科のものは雄しべが比較的はっきり区別できて、花型も放射相称に近いなど、普通の花に近く、原始的なものと考えられる。
アツモリソウ亜科のものでは、ずい柱は平らで、先端下面に柱頭が、それより根元側左右に雄しべの葯がある。
それ以外のラン科では、ずい柱先端に雄しべの葯があり、その下面に柱頭がある。
花粉
ラン科植物の花粉は、花粉塊といって、塊になっており、その端に昆虫にくっつくために粘着部分をもっているものも多い。

ラン科の花は、昆虫による受粉のために特別に進化した構造をもつ虫媒花をつけるものが多い。かなり限定された昆虫を対象にした特殊な適応が見られるものも多く、共進化の結果と見られる。

その他の性質

ラン科植物はすべて草本で、若干の登はん性のもの(例、バニラ属)がある以外のものは、それほど大きくはならない。茎が大きな塊となって偽球茎(ぎきゅうけい)を形成するものや、そのうえに少数の葉をつける独特な形のものが色々とある。多くのものが厚く硬い葉をもつ。また、着生植物となるものが非常に多く、地上に生えるものをわざわざ”地生ラン”と呼ぶほどである。

また、が太く、発泡スチロールのように膨らんだ感じのものが多い。根の細胞には菌類共生して菌根を形成しており、ラン科独特の構造からラン菌根と呼ばれる。なお、かつては一部の植物のみが菌根を作るとされてきたが、現在では陸上植物のほとんどが菌類と共生していることが知られる。ただし、そのほとんどがグロムス類であるのに対して、ラン科のものは担子菌類と共生している点が独特である[1]

ラン科植物の種子はほこりのように細かく、未成熟な胚のみで胚乳もなく、ほとんど貯蔵養分を持っていない。自然下では発芽の際に菌類が共生して栄養を供給する。さらに菌類への依存を強め、自分自身は光合成をせず、菌類にたよって生きる、腐生植物になっているものが、いくつもの群に見られる。なお、ラン科植物の種子は、その内部に未分化な細胞塊があるだけで、子葉を退化させている。例外的に子葉を持つものとしてシラン属プレティア属ナリヤラン属ソブラリア属などが知られている。これらの属は、外形的にササヨシに似た姿で、多くが日当たりのよい場所の地面に生える点でも共通しており、これはラン科の起源を考える上で興味深い点との指摘がある[2]

上記の理由で、一般にランの人工繁殖は難しい。これを克服する方法として、糖含有培地を使用して無菌的に種子を発芽・生長させる無菌播種が考案されている。ほとんどの着生ランの種子は、この方法によって容易に発芽するが、菌類依存性の高いとされ地生ランは着生ランと同じ方法では発芽しない場合が多い。腐生植物である腐生ランにいたっては栽培、移植技術すら確立されていない場合がほとんどである。

一方、近年は、シュート先端にある生長点を切り出して培養するメリクロンなど、組織培養で増殖する技術も進歩してきている。これは、種子で殖やす場合と異なり、優良な個体を大量に増殖することができるため、洋ランの営利栽培では欠かすことのできない技術となっている。

森林性や湿地性のものが多いが、草原に生息するもの、乾燥地に生息するもの、極地や高山にも分布するものがある。しかし分布の中心はやはり熱帯の湿潤な地域で、熱帯雨林では一本の木に何十種類ものランが着生する例がある。蘭の多くは、とくに夏場の強い直射日光に弱く、とりわけ胡蝶蘭などの園芸においては直接の日光は避けることが求められる。

利用

栽培と品種改良

欧米では、18世紀以降、熱帯性のランが多数持ち込まれ、鑑賞用として栽培されてきた。着生種はヘゴ板(木生シダ類の幹を切り出したもの)やミズゴケ類を使うなどの工夫がされた。また、より美しいものを求めて交配が行われた。ラン科では種間だけでなく、属間でも雑種ができる例があり、多くの交配種が作られた。日本ではそれらを”洋ラン”と呼んでいる。現在では、それらは東南アジアなどでも栽培され、重要な産業となっている。これらは、栽培目的の他に、切り花としても売買される。

また、中国日本では、古くから何種かのランを珍重する伝統があり、それらは”東洋ラン”と呼ばれる。東洋ランの世界では、交配はほとんど行われず、栽培中に出現する、あるいは野外で発見される個体変異の中から、特殊なものを選び出して命名、栽培する。また、戦後には山野草の栽培がブームになり、野生ランもその対象になった。

しかし、そのために野生ランの乱獲が進み、絶滅に瀕することになった種が多数ある。他方、洋ランの世界では、現有品種の供給は十分に行われている。しかしながら、新たな品種を求める動きや、野生のものを珍重する動きなどがあり、ラン科植物の乱獲は世界的に問題となっている。現在では野生ランの国際間移動は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(略称CITES、通称ワシントン条約)で規制されている。また、熱帯雨林の開発の進行で、生息環境を失って絶滅したものも少なくないと思われる。

その他

バニラは香料の材料として栽培されている。他に、薬草として使われる例もある。

分類

ラン科

以下は、Robert Louis Dresslerによる1993年の分類である。古くはヤクシマラン亜科をヤクシマラン科とすることもあった。詳細はラン科の属一覧を参照されたい。

日本産の主な属

海外産で、よく栽培されている属

ラン科以外の「ラン」がつく植物

ラン科以外の植物にも、その花や姿の美しさ等から名称に「らん」と付くものがある。下記にその例を記載する。

保護上の位置づけ

ラン科の種のうち、下記の種はワシントン条約の附属書I類に、その他の全種は附属書II類に指定されている。

  • Grammangis ellisii
  • Dendrobium cruentum
  • Laelia jongheana
  • Laelia lobata
  • Paphiopedilum spp.
  • Peristeria elata

ギャラリー

関連項目

出典

  1. Yukawa et al.(2009)
  2. 西村(1997)

参考文献

  • 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物 草本I 単子葉植物』,(1982),平凡社
  • Tomohisa Yukawa, Yuki Ogura-Tsujita, Rchard P. Shefferson, & Jun Yokoyama, 2009, Mycorrhyzal diversity in Apostasia(Orchidaceae) indicates the Origin and evolution of chid Mycorrhiza. American Journal of Botany 96(11),pp.1997-2009.
  • 西村悟郎、1997b、「シラン」:『植物の世界9』〈朝日百科〉、1997年、p.178-180

外部リンク

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