ヤマネ
ヤマネ(山鼠、冬眠鼠、Glirulus japonicus)は、哺乳綱ネズミ目(齧歯目)ヤマネ科ヤマネ属に分類される齧歯類。現生種では本種のみでヤマネ属を構成する。別名ニホンヤマネ。
分布
日本(本州、四国、九州、島後)固有種[1][2][3][4][a 1]
種小名japonicusは「日本の」の意。
形態
体長6.8-8.4センチメートル[1][2]。尾長4.4-5.4センチメートル[1][2]。後足長1.5-1.8センチメートル[a 1]。体重14-23グラムだが、冬眠前には40グラムに達する個体もいる[a 1]。尾には約2センチメートルの体毛が房状に伸長する[1][a 1]。背面の毛衣は淡褐色で[1]、腹面の毛衣は白がかった褐色[2]。背面正中線に沿って暗褐色の縦縞が入る[1][2]。眼の周囲は黒や黒褐色[1][4][a 1]。
交尾栓をもつ。
分類
同属の化石種はヨーロッパの鮮新世の地層から発見されている[4]。
日本が大陸と地続きで温暖な時代に侵入した遺存種と考えられている[3]。山口県の50万年前(中期更新世中期)の地層から化石が発見されている[4]。
大陸産ヤマネからは、数千万年前に分岐したと推定され、日本列島に高い固有性を誇る。遺伝学的研究によれば、分布地域によって、別種と言ってよいほどの差異が見られる。
生態
森林に生息する[1][a 1]。樹上棲で[1][2]、細い枝はぶらさがりながら移動する[4]。また枝の間を跳躍したり、後肢だけで樹上にぶら下がることもある[4]。夜行性[1][2][3]。浅間山麓の個体群ではオス2ヘクタール、メス1ヘクタール弱の行動圏内で生活するという調査結果がある[1]。樹洞にコケや樹皮を集めた巣を作るが[1]、岩の上や割れ目、スズメバチの古巣に巣をつくることもある[3][4]。尾を強く掴むと体毛と皮膚が抜け落ちて骨だけになり、外敵から襲われた時に役立つと考えられている[4]。外気温が12-14℃(例として長野や山梨では10-翌4月、和歌山では11-翌2月)まで下がると、樹洞や腐った木の樹皮の隙間、地中、落ち葉の下などで冬眠する[4][a 1]。複数個体が集まって冬眠することが多い[4]。冬眠中は食事を取らず秋季まで蓄えた体内の脂肪を消費し、外気温にあわせて低体温を維持(0℃以下に下がることはない)し呼吸数や心拍数も低下させる[4]。丸まって冬眠する様子からマリネズミ、コオリネズミの俗称もある[2][4]。
食性は雑食で、主に昆虫を食べるが、果実、種子、木の芽、鳥類の卵なども食べる[1][2][3][4][a 1]。果実は皮を残して、中身だけを食べる[4]。
繁殖形態は胎生。飼育下では冬眠が明けて2週間後に交尾した観察例がある[4]。妊娠期間は平均33日[4]。1回に3-7頭(主に3-5頭)の幼獣を年に1-2回に分けて産む[1][4][a 1]。生後10-15日で開眼し、生後20日で自分で食物を食べるようになる[4]。寿命は3年で、飼育下では8年[1]。
冬眠中の心拍数は一分間に50-60回。
冬眠中でも、筋肉や血液がガチガチに凍る前に危険を知らせるスイッチのようなものがある。
人間との関わり
山小屋や巣箱に営巣することもあり、山小屋にある布団やタンスの中で冬眠することもある[4]。冬に木を切ると、冬眠中のヤマネが転がり出てくることがあることから、林業に携わる人々は、ヤマネを山の守り神として大切にしてきた。
日本では1975年に国の天然記念物に指定されている[1][2]。森林伐採による生息数の減少が懸念されている[2][a 1]。2007年までの環境省のレッドリストでは準絶滅危惧に指定されていたが、全国的な生息確認調査より、本州・九州・四国・隠岐にほぼ連続的に分布していることが明らかになったため、2012年に発表されたレッドリストの見直しではランク外として削除された[5]。
画像
- ヤマネ(日本固有種)1.jpg
冬眠中の個体
- あるヤマネの全長.JPG
ヤマネの全長の一例
- 別名マリネズミ.JPG
球形になって休眠しているヤマネ
- ヤマネのアップ.JPG
ヤマネのアップ
- 樹幹を移動するヤマネ.jpg
樹幹を移動するヤマネ
- 冬眠に備え脂肪を蓄えた状態のヤマネ.jpg
冬眠に備え脂肪を蓄えた状態のヤマネ
- 冬眠直前のヤマネ.jpg
冬眠直前のヤマネの状態(手に乗せても動きが鈍い)
参考文献
- 中島福男 『日本のヤマネ[改訂版]』 信濃毎日新聞社、2006年
- 湊秋作 『ヤマネって知ってる?-ヤマネおもしろ観察記』 築地書館、2000年
- 小宮輝之 『日本の哺乳類』 学習研究社<フィールドベスト図鑑>、2002年、P79
関連項目
外部リンク
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