モーターカー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
ファイル:JRhokkaido Motorcar.JPG
南稚内駅構内で使用されるモーターカーと作業用貨車
ファイル:JR hokkaido HTR-600 624 & 625.JPG
留萌本線で使用中の重連タイプのHTR600RW形
ファイル:MCRSnow motor car org.jpg
磐越西線で使用中のMCR除雪用モーターカー
ファイル:ENR-1000.jpg
ENR-1000形排雪用モーターカー
ファイル:JRHokkaido type TMC500AS MotorCar.jpg
新潟トランシス製造TMC500AS 両エンドのラッセル翼は必要に応じて形状を変化させる事が出来る。この場合は前方のラッセル翼を左側排雪に形状変化させ、後方はハの字型に変化させている

モーターカーとは、主に鉄道保守作業に使用される小型の鉄道車両である。ただし、鉄道部内では法規上「機械」扱いで「鉄道車両」ではないため、車籍は無いことが多い。

概要

保守、点検に用いられ、資材を積んだ小型貨車を牽引する場合もある。編成化された小型貨車の先頭に遠隔操縦用の運転台を設け、プッシュプル運転が可能な車両も存在する。車体は警戒色として黄色に塗装されている場合が多いが、東海旅客鉄道(JR東海)の濃淡ブルーや、近畿日本鉄道の薄緑色など、黄色以外の場合もある。走行用の動力原動機)は、古くはガソリンエンジンが主流であったが、現在ではディーゼルエンジンが主流で、空気圧縮機や、作業用にPTO経由で油圧ポンプを駆動するものもある。車両によっては車体中央に自車昇降用油圧式ジャッキを持ち、自車をジャッキアップした後に車体を手動で旋回させてその場で方向転換させることが可能である[1]

多くの場合は法規上の「鉄道車両」ではなく、運転者の動力車操縦者運転免許は不要である。そのため、保線係員等の動力車操縦免許不保持者などでも操縦が可能であり、作業にあたり、同資格の取得や専門運転者の別途手配の必要がない。ただし、機械扱いであるため、最高速度は45km/hに制限されている上、本線上を走行させる場合は線路閉鎖を前提とする。また、軌道回路に影響を与えないよう車輪は電気的に絶縁構造となっており、軌道回路を用いた列車検知装置や自動踏切等には反応しない(但し、排雪用の機種などで作業の必要上、軌道回路に反応するようにしているものもある。後述)。このため走行に当たっては、線路閉鎖の手続きのみならず、在線状況の確認や分岐器の進路転換の際運転指令所信号扱所との慎重な打合せを要し、踏切も手動で作動させる等[2]、特別な取扱いが必要である。

貨車移動機と混同されることがあるが、モーターカーは保線作業用動力車であり、貨車移動機は貨車の入換用動力車である。また、貨車移動機は信号等に反応するよう車輪は絶縁車輪ではなく通常の車輪を使用している。共通の基本設計に基づいて製作されたモーターカーと貨車移動機も存在するが、仕様は明確に区別されている。

主なメーカーは北陸重機工業松山重車輌工業日本除雪機製作所などである。

アメリカでは、人を運ぶ小型のモーターカーをSpeeder(スピーダー)と呼ぶ。

排雪用モーターカー

積雪地帯では、雪かき車の代用として営業線の除雪作業でもよく見かけることができ「排モ("排"雪"モ"ーターカー)」と呼ばれる。特にモーターカーによるロータリー除雪について「モロ」と言う場合もあるが、現在のほとんどの排雪モーターカーはロータリー/ラッセル兼用であり特雪と区別する必要がなければ一括りに「排モ」と言ってしまうことが多い。

変り種は長良川鉄道NTB209で、車籍がありトロッコ列車を牽引していたが、保守作業や除雪作業にも使用されていた。

北海道旅客鉄道(JR北海道)には、日本除雪機製作所製の排雪用モーターカーHTR600形を基に、鉄道車両として製造されたDBR600形が存在する。これは除雪作業の際、通常は線路閉鎖をしなければならないところを、自身も「排雪列車」として一般の列車の運行を阻害せず除雪作業が行えるようにするため、鉄道車両として法規上の要件を満たすべく、機器や装備を搭載、整備したものである[3]

また、これとは別に同社では、排雪用モーターカーHTR600形2両を連結し、両端にラッセル除雪装置を装着して総括制御運転することで老朽化したDE15形ディーゼル機関車の置き換えを行っている[4][5][6]が、こちらは鉄道車両ではなく保線係員が運転するため、線路閉鎖が必要である。

通常は1エンド側にV字型のラッセルヘッド、2エンド側にロータリー装置を装着するが、日本除雪機製作所開発のHTR400RB型のようにロータリー除雪装置を双方に装着した車両[7]やHTM350VBのような両エンドにラッセル装置を装着し排雪を行う車両[8]の他、新潟トランシス製のTMC500AS型[9]のように可変式のラッセル装置を取り付け左右それぞれ任意の方向に排雪が可能になった車両があり、用途に応じて運用している。

東日本旅客鉄道(JR東日本)では、新潟トランシス製の大型排雪用モーターカーENR1000型を導入している[10]。こちらはロータリーヘッドの掻き寄せ翼をプラウ状に変形させることができ、ラッセル・ロータリー双方を兼ねる機能をヘッドの着脱なしに実現させたものである。また、本線上では軌道回路に反応する状態で運行し、位置確認の確実化・踏切通過時の安全確保などを図っている。モーターカー本体は軸配置B-Bの箱形両運転台[11]で機関車然としているが、こちらも車籍はなく機械扱いである。

その他の無車籍鉄道車両の例

モーターカーも無車籍の鉄道車両の一つであり、これ以外にも各種保線用機械や試験用車両等で無車籍の鉄道車両は存在する。しかし法規上、これらは車両ではなく「機械」扱いとされている。「モーターカー扱い」という表現が使われることがあるが正しい用語法ではない[12]

通常の鉄道車両を改造した西日本旅客鉄道(JR西日本)の試験車両「U@tech」は改造時(2004年10月22日付)に車籍を抹消[13]されていたが、2007年3月31日付で車籍を登録している。また。東海旅客鉄道(JR東海)が事業用に保有していた新幹線貨車(バラスト散布用の931形ホッパ車など)も1993年に同じ取扱いをしている。

脚注

  1. 駅構内等でロータリー仕業後折り返しの際に転向し別の番線をロータリー仕業する事もある
  2. 多くは保線員による手動または運転指令室等への無線連絡等による遠隔操作
  3. 苗穂~手稲・札幌~千歳間等の比較的運行本数が多い路線を中心に排雪を担当する他、一部は学園都市線や函館本線等も担当する
  4. 『鉄道ファン』2004年8月号(通巻520号)p.66 交友社
  5. HTR600形2両重連時の出力性能はDE15形に近いものとなる。この重連総括制御仕様機のメーカー形式はHTR600RW形である。また、JR北海道ではこれを「ラッセルモータカー」として同社のウェブサイト等で紹介している。
  6. 主に函館本線の山間地帯や留萌本線での排雪を担当する
  7. 主に駅構内や運転所等のラッセルだけでは除雪に支障がある場所等
  8. 積雪が少ない地域等
  9. 室蘭本線や函館本線、釧網線で主に使用されており任意の方向に排雪が出来る事から単線区間と複線区間両方に対応可能
  10. 『鉄道ピクトリアル』2009年2月号(通巻814号)p.15-16・p.35・p.50 電気車研究会
  11. 試作型は凸形セミセンターキャブの形態であった(『鉄道ピクトリアル』2002年7月号(通巻719号)p.88 電気車研究会)。
  12. 保線用以外の無車籍試験用車両等は軌道回路への影響を考慮する必要はなく、絶縁車輪を用いているわけではない。
  13. 車籍を抹消されたのは213系の2両で、223系クモヤ223-9001は当初から無車籍。

関連項目

外部リンク