ミンミンゼミ

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ミンミンゼミ(ミンミン蝉、学名 Hyalessa maculaticollis) は、カメムシ目(半翅目)・ヨコバイ亜目(同翅亜目)・セミ科に分類されるセミの一種。和名通りの「ミーンミンミンミンミンミー…」という鳴き声がよく知られている。

分類については従来まではOncotympana が用いられていたが、フィリピン産のタイプ種との違いが指摘され、Hyalessa に変更された[1]

特徴

成虫の体長は33-36mmほど。幅が狭い頭部と太くて短い腹部をもち、太く短い卵型の体型をしている。ただし翅が体に対して大きく、翅を含めるとアブラゼミとほぼ同じ大きさになる。体色は胸部と腹部の境界付近が白いが、他は黒地の地に水色や緑色の斑紋があり、日本産のセミとしては比較的鮮やかな体色をしている。黒斑部がほとんどなく青緑色主体の個体もおり、これらはミカドミンミンと呼ばれる。また、元々このセミはアブラゼミやニイニイゼミなどとは異なり、ヒグラシエゾハルゼミと同じく森林性である。東京23区や仙台市などでは例外的に街中でもミンミンゼミが数多く生息するが、その理由については後述する。

弱い耐熱性

テンプレート:出典の明記 ミンミンゼミは、アブラゼミやクマゼミと比べると暑さに弱い。

具体例

その証拠として、愛知県を例にとれば名古屋市など夏の暑さが非常に厳しい所ではこのセミがほとんど全く生息していない一方、知多半島南部や渥美半島西部など夏に涼しい海風が卓越し最高気温の上昇が抑えられる所ではミンミンゼミが多数生息しているということが挙げられる。特に、最も涼しい伊良湖岬(渥美半島の先端部)では東京都心部並みに大繁殖している。 また、鹿児島県では海沿いの鬱蒼とした樹林に局地的にこのセミが多数生息しており、これについても、日中は海風が入り昇温の抑えられる地域に好んで棲んでいるということが言える。 このようなことからもミンミンゼミの耐熱性は弱く、涼しい気候を好むことがわかる。

生息地によって異なる体色

夏期の最高気温高温となりやすい甲府盆地では、体の黒味がほとんどないミカドミンミンの発生確率がかなり高い。吸収するであるが、その黒地がほとんどない甲府盆地のミンミンゼミは、同盆地の夏の気温に対する耐性を身につけたタイプだということである。ミカドミンミンは山梨県のレッドリストで「要注目地域個体群」の指定を受けている[2]

逆に、夏でも涼しい北海道のミンミンゼミ(江差町など主に道南に生息)は、むしろ体の黒味が通常より強い個体がほとんどである。それはヒグラシも同様である。

このようにミンミンゼミは、生息する地域の夏の暑さによって自らの身体の色を調節している。甲府盆地のように暑さの厳しい地域では黒地のほとんどないミカドミンミン型、東京都心部や山形市のように暑さが中程度の地域では黒とが適度に混ざった標準型、そして北海道のように涼しい地域では黒地の部分の割合が高い黒化型が多く見られるが、こうした地域変異が起こる理由はこのように説明される。なお、ミンミンゼミはロシア沿海州地方にも少数が生息するが、そのミンミンゼミの多くはほぼ全身が真っ黒(羽は除く)という異様な体色をしている。

傾斜地を好む傾向について

テンプレート:出典の明記 ミンミンゼミは傾斜地に植わっている木で鳴いていることが多い。東京23区内でも、ミンミンゼミが多いのは傾斜地の卓越した公園であり、平坦な公園ではミンミンゼミは少なくアブラゼミが主流となっている。これは、ミンミンゼミの幼虫が傾斜地における土中を好んで生息するという理由による。後述のようにミンミンゼミの幼虫はやや乾燥度の高い土中を好むのであるが、傾斜地における土も日中は太陽の光が当たりやすく、高温乾燥状態となりやすい。そして、乾燥した土を好むというこのような幼虫の性格を見越してミンミンゼミの成虫(メス)は傾斜地における木を選んで卵を産み付けるのである。ミンミンゼミがもともと低山帯の沿いに多く生息しており尾根沿いでは少ないのも、こうした理由による。

主な分布

テンプレート:出典の明記 日本国内では北海道南部から九州対馬甑島列島に分布する。このうち、北海道・屈斜路湖の和琴半島にあるミンミンゼミ生息地が分布北限とされ、1951年に国指定の天然記念物に指定された(「和琴ミンミンゼミ発生地」)[3]。「和琴半島のミンミンゼミ個体群」が北海道のレッドリストの「地域個体群」の指定を受けている[4]東日本では平地の森林に生息し、都市部の緑地などでも多いが、西日本では都市部にはほとんど生息しておらず、やや標高が高い山地を好んで生息している。成虫は7月-9月上旬頃に発生し、サクラ、ケヤキアオギリなどの木によく止まる。

大陸では、韓国中国華北に生息し市街地にも生息する。鳴き声は、日本産のミンミンゼミとはやや異なり、冒頭の「ミーン」がなくいきなり「ミンミンミンミンミー」となる(セミの方言)。また、対馬産のミンミンゼミの鳴き声もこれとよく似ており、東京周辺のミンミンゼミの鳴き声とは幾分異なっている。なおツクツクボウシも、日本産と大陸産とでは少し鳴き声が異なる。韓国ではスジアカクマゼミと並んで普通のセミで、日本と比べると地域的な生息数差は小さい。ソウル中心部でも、緑地帯では夏になるとこのセミの声がたくさん聞かれる。北京大連(特に後者)でも多い。

地域で異なる生息分布

日本のミンミンゼミは土地の気候条件によって分布する範囲が限定されやすい。そのため非常にいびつな分布をしている。もちろん他の原因(異種間の棲み分け・植生・土壌の湿度等)が絡むこともあるが、最終的な決定要因は、気候である。これはミンミンゼミに限らずほぼ全ての昆虫において見られる事実である。

東日本太平洋側

このセミは森林性の昆虫なのだが、前述のように東京都心部や仙台市中心部などではオフィス街の街路樹でも普通にミンミンゼミの鳴き声が聞こえる。その理由は以下のとおりである。つまり、ミンミンゼミの幼虫は比較的乾燥した土中を好み、成虫はケヤキサクラなどの樹木を好む。ヒートアイランド現象によって乾燥化が進んでいる東京都心部や仙台市中心部ではミンミンゼミの幼虫の成育に好ましく、またケヤキなどの街路樹も多いので成虫となったミンミンゼミにとっても生活しやすい環境である。さらに、北東気流(やませ)の影響で夏に曇りがちの涼しい天候となりやすい東京や仙台の気候も、暑さに比較的弱いこのセミの生息数増加に大きく影響している。なお、北東気流の影響を受けない長野市などでもミンミンゼミは多い。長野のような比較的涼しい夏の気候がミンミンゼミに合っているためである。

ただし東日本太平洋側であっても生息状況・生息密度は異なっている。東京や横浜湘南(藤沢市は除く)、埼玉県南部、仙台、山形市、長野、甲府、滋賀県北部および前述の知多半島南部・渥美半島西部(特に伊良湖岬)など一部の地域では普通に生息している(特に東京都心部や長野市街地、山形市街地では近年激増している)が、名古屋市静岡市小田原市東北北部(青森県岩手県北中部)などではミンミンゼミがほとんど生息しておらず、関東地方においても北関東地域ではかなり少なめである。北関東平野部でミンミンゼミが少ない原因として、この地方では夏の猛暑日日数が東京や横浜と比較して多いことがあげられる。また、青森市盛岡市のような北東北太平洋側でこのセミが少ないのは、北関東とは逆にこの地方の夏の気候がミンミンゼミにとって涼しすぎることがあげられる。なお、名古屋・静岡・小田原などクマゼミの多い地域でミンミンゼミがいない理由は、#クマゼミとの特殊な関係を参照。

東京都内では毎年たくさんのミンミンゼミの声が聞こえるが、都心部を除くとアブラゼミも生息数は多く、ミンミンゼミを凌駕する規模である。そのため、セミ全体に対するミンミンゼミの割合自体は都下全体では現在テンプレート:いつでも高くない。特に、東京都23区の東部では、アブラゼミが多く、都心から西部に比べミンミンゼミの割合は低い。東京都葛飾区亀有在住の自然観察指導員鈴木康之によれば、いまから40年前ほど昔には、ミンミンゼミはほとんど生息せず、捕まえた子供はいなかったとしており、近年の東京東部における分布は、新しくできた公園や街路樹の植栽にまぎれて幼虫が移動してきた可能性が高いと示唆している。

とはいえ他の地方と比べても、南関東では昔から市街地でもミンミンゼミがある程度多く生息していたのは間違いない。これは南関東(特に東京都心部)の気候がミンミンゼミにとって非常に適合していることの証左に他ならない。一般に南関東の気候は、西日本太平洋側よりも東北太平洋側と共通点が多いが、ミンミンゼミの生息状況に関しても一致している。

一方、長野市街地や仙台市街地、山形市街地では近年アブラゼミが激減しており、それと同時にミンミンゼミが急増しているためミンミンゼミの割合が非常に高い。このことは、長野や仙台などと比べて東京都内の夏が厳しいことを意味する。アブラゼミはミンミンゼミと比べて夏の暑さを好むセミなので、夏でも涼しい地域でアブラゼミが減っているのである。

東日本日本海側

日本海側のほとんどの市街地では冬でも湿度が高いため、ミンミンゼミの幼虫の生育に適しておらず生息域が非常に少ない。その生息地は山地や平地の森林地帯に限られており、街中ではこれに代わって幼虫・成虫ともに高湿度を好むアブラゼミの生息域が多い。そのため市街地においてアブラゼミの鳴き声は普通に聞かれるが、ミンミンゼミの声を聞くことはかなり珍しい。新潟市金沢市などに生息するミンミンゼミは、乾燥化の著しい地域(公園や街路樹)を好む東京のミンミンゼミとは全く逆の立場にあるといえる。まるでミンミンゼミとアブラゼミの生息域は棲み分けられているようである。

また、東日本日本海側の市街地(特に富山市)はこのようにアブラゼミの勢力がきわめて強く、そのためにミンミンゼミが市街地に進出することができず森林や山の中のみに生息するのだという説もある。つまり、セミの生息状況を湿度条件だけで説明することはできず、異種間の棲み分けを重視すべきだとする立場からの説である。確かに、近年の北陸三県ではミンミンゼミが急速に街中から姿を消しており、その代わりにアブラゼミが昔よりも優勢になりつつある。

ただし、例外として、山陰(特に松江市鳥取市)では近年ミンミンゼミが増加傾向にある。これは北陸地方とは正反対の傾向であるが、なぜこのような違いが発生しているのかはまだわかっていない。

いずれにせよ、ミンミンゼミとアブラゼミが同一環境下で共存共栄するのは基本的には困難である場合が多い。

西日本

西日本地域においても平地にはミンミンゼミがほとんどいない。その理由は東日本に比べ北東気流の影響を受けにくく、夏の気温が高くなるためである。西日本の主要都市(福岡大阪など)の都市部にはミンミンゼミがほぼ生息しておらず、生息地は標高がやや高く自然が多く残されている場所、主にヤマザクラモミジナラノキハゼノキなどが自生する広葉樹林帯や照葉樹林帯に限られている。例外だが、京阪神地区や広島市街地ではの終わりに緑地帯などで生息数は少ないが鳴き声が聞かれることもある。年にもよるが大体8月の終わりから9月初旬に発生のピークとなっているようである。つまり、暑さが少し収まる時期になって、ミンミンゼミが活発に活動し始めるというわけである。

近年では関西や広島に限らず、西日本平地の様々なところでミンミンゼミの鳴き声が記録されることが多くなっているが、ミンミンゼミだけでなくヒグラシについてもこのような報告がある。北日本ではエゾゼミエゾハルゼミ(特にエゾゼミ)についても同じ傾向にある。このように標高の高い場所で生息していたセミがより標高の低い場所へと降りてくる動きが全国的に見られるが、その理由はまだわかっていない。セミに限らずチョウ類においても、ウスバシロチョウなど北方系の種類が南下している例が多数報告されている。昆虫は将来の地球寒冷化を見越して一足先に寒冷な土地から温暖な土地へと移動している可能性もある。

夏の風物詩として

ミンミンゼミの鳴き声は、ヒグラシと同様に日本のドラマアニメなどの効果音としても頻繁に使用されており、夏の風物詩として知られているが、その生息分布は東日本太平洋側が中心である。東日本日本海側や西日本のミンミンゼミは山地に生息しており、平地や人口の多い都市には基本的に生息しておらず、鳴き声を聞く機会は非常に少ないのである。これに代わって平地や都市部ではアブラゼミやクマゼミの生息数が多く、これらのセミの鳴き声が夏の風物詩となっている。北海道や青森県の市街地では夏にセミ自体が極めて少ない(森や山の中にはある程度生息)ため、基本的にセミは夏の風物詩にはなっていない。

鳴き声

テンプレート:出典の明記 テンプレート:Side box

オスは午前中によく鳴き、大きな声でミーン・ミンミンミンミンミー…という鳴き声を繰り返す。この「ミン」という鳴き声は、三回ぐらいのときもあれば、五、六回以上続くときもある。東日本太平洋側では身近なセミなので、テレビ番組などでも「夏の日中」の効果音としてこの鳴き声がよく用いられる。しかし上述のように東日本日本海側や西日本の平野部にはミンミンゼミがほとんどいないので、安易なミンミンゼミの登場には違和感を覚える人もいる。

クマゼミとの特殊な関係

ミンミンゼミとクマゼミの鳴き声は、実際に人間ので聞く限りは全く違って聞こえる。この2種のセミの鳴き声のベースとなるはほぼ同じであり、その音をゆっくりと再生すればミンミンゼミの鳴き声に、早く再生すればクマゼミの鳴き声となる。このように両種のセミの鳴き声には共通点があるため、クマゼミとミンミンゼミは互いに棲み分けをしていると言われる。それは、環境による棲み分けの場合もあるが、時期的な棲み分けのほうが主流である。つまり、クマゼミがほぼ終息した頃にミンミンゼミの発生が始まるということである。西日本の、両種が生息している地域ではおおむねそのような棲み分けが行われている。特に、広島県東広島市の市街地では非常に明確に棲み分けられている。

台湾中国南部の低山帯に生息するタイワンクマゼミは、クマゼミとミンミンゼミのちょうど中間のような声で鳴く。このセミの鳴き声もまた、ベースとなる音はクマゼミ・ミンミンゼミと全く同じである。そしてタイワンクマゼミは、台湾ではタカサゴクマゼミと環境的な棲み分けをしている。タカサゴクマゼミは、日本のクマゼミとよく似た声で鳴くためである。石垣島西表島でクマゼミとヤエヤマクマゼミが棲み分けをしているのと同じ原理である。

また、ミンミンゼミとクマゼミはともに午前中によく鳴く種類であるが、このことも両種のセミが時期的な棲み分けを行っている原因の1つである。例えば屋久島ではクマゼミとクロイワツクツクが市街地において完全な時期的棲み分けをしており、クマゼミがほぼいなくなってからクロイワツクツクが発生する傾向があるが、クロイワツクツクもまたクマゼミと同じく午前中によく鳴く種類である。クマゼミとアブラゼミ、もしくはミンミンゼミとアブラゼミの場合でも、クマゼミ・ミンミンゼミが午前中、アブラゼミが午後に鳴いており、棲み分けができている。

なお、ミンミンゼミとクマゼミが同時期に出現し、時期的な棲み分けをしていない地域もある。そのような地域では、クマゼミが午前中に、ミンミンゼミが午後に発声活動を行っている。いずれにせよ、ミンミンゼミとクマゼミが同時に合唱をするケースはほとんどない。

脚注

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参考文献

関連項目

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外部リンク

  • 林&税所(2011)
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