マーガリン
項目 | 分量(g) |
---|---|
脂肪 | 80.71 |
飽和脂肪酸 | 15.189 |
14:0(ミリスチン酸) | 0.046 |
16:0(パルミチン酸) | 8.431 |
18:0(ステアリン酸) | 6.173 |
20:0(アラキジン酸) | 0.261 |
22:0(ベヘン酸) | 0.109 |
24:0(リグノセリン酸) | 0.085 |
一価不飽和脂肪酸 | 38.877 |
16:1(パルミトレイン酸) | 0.045 |
18:1(オレイン酸[2]) | 38.675 |
20:1 | 0.133 |
多価不飽和脂肪酸 | 24.302 |
18:2(リノール酸) | 22.252 |
18:3(α-リノレン酸) | 2.04 |
マーガリン (margarine) は元々バターが高価であることからバターの代替としてつくられた食品。以前は人造バターと呼ばれていた。味や風味などはバターよりも劣るが安価である。バターが添加され、風味などが改善された製品もある。バターやオリーブオイルのようにパンに塗って食べるために広く用いられる。また、バターに比べ安価であることから、バターの代用品としてパンやケーキ、クッキー、アイスクリーム、チョコレートなど多くの食品の原材料に使われる。
目次
成分・原料
マーガリンは精製した油脂に発酵乳・食塩・ビタミン類などを加えて乳化し練り合わせた加工食品で、その製造過程において水素を分子に付加して(水素付加、水素化)、常温で固体にしている。バターとの大きな違いは、バターの主原料は牛乳だがマーガリンの主原料は植物性・動物性の油脂である。以前は鯨の脂肪(鯨油)を用いた物も普及していた。日本ではJAS規格により、「マーガリン類」の中で油脂含有率が80%を超えるものがマーガリン、80%未満がファットスプレッドと分類されている。
歴史
名称としてのマーガリンは、1813年にフランスの化学者であるミシェル=ウジェーヌ・シュヴルールが、動物性脂肪の研究からマルガリン酸を発見したことに遡る。マルガリン(またはマーガリン)という言葉はギリシャ語の margarite (真珠の意)に由来しており、真珠のように美しく輝くという性質を表現したものである[3]。
製品としてのマーガリンは、19世紀末に発明された。1869年にナポレオン3世が軍用と民生用のためにバターの安価な代用品を募集したところ、フランス人のイポリット・メージュ=ムーリエが牛脂に牛乳などを加え硬化したものを考案。これは、オレオマーガリン (oleomargarine) [4]という名前がつけられ、後に省略してマーガリンと呼ばれるようになった。ムーリエの考案したマーガリンは公に採用され、その後1871年にオランダのアントニウス・ヨハネス・ユルゲンスが特許権を買収。ユルゲンスはサミュエル・ヴァン・デン・バーグと共にマーガリン・ユニを創業し、これは現在のユニリーバに繋がっていく。
日本へは1887年に初めて輸入され、1908年に横浜の帝国社(現在のあすか製薬の前身)によって国産化に成功している。
19世紀末に、ニッケル触媒を用いる水素添加反応が発見され、さらにこの反応により植物油が硬化すること(硬化油)が見出された。20世紀に入るとこの硬化植物油を用いる“合成”マーガリンの製造が始められた。第二次大戦中のアメリカでは牛脂等の逼迫から“合成”マーガリンが本格的に製造され、戦後はマーガリンといえば普通これを指すようになった。近年問題となっているトランス脂肪酸は上記の水素添加反応によるものである。
生産地
パキスタン124.7万トン 12.8%、インド107.4万トン 11%、ブラジル81万トン 8.3%、ロシア68.7万トン 7%、トルコ61.5万トン 6.3%、米国52万トン 5.3% ・・・ 日本 15.3万トン 1.5%
トランス脂肪酸問題
かつて植物性脂肪から作られるマーガリンは、動物性脂肪であるバターよりも健康によいというような印象が持たれていた。しかし近年では逆に、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸が健康被害を与える可能性が指摘されている。トランス脂肪酸は心臓疾患や現代病の一因である可能性が指摘されており、米国ではすでに食品中に含まれるトランス脂肪酸の量を表示することが義務付けられたり、食品中に含まれる量の規制が行われるなどしている。
WHO/FAOの2003年のレポートで、トランス脂肪酸は心臓疾患のリスク増加との強い関連が報告され、また摂取量は全カロリーの1%未満にするよう勧告されている[5]。トランス脂肪酸の摂取量の増加に伴って認知機能が低下していることも観察されている[6]。こうした科学的な研究報告の結果、トランス脂肪酸の削減の政策を行っている国がある。
水素添加によって作られる通常のマーガリンはトランス脂肪酸を7%前後、ファットスプレッドは5%前後含む[7]。過度なトランス脂肪酸批判のためメーカーが使用を低減させたことにより、逆に飽和脂肪酸の使用量が増加しており、飽和脂肪酸での健康被害(肥満、動脈硬化など)が危惧されるという主張もある[8]。2011年10月1日にデンマークでは、肥満の原因となる飽和脂肪酸の多い食品への課税を世界で始めて導入している。飽和脂肪酸も心臓疾患との関連からWHO/FAOはトランス脂肪酸の10倍の許容量である10%を上限とし、どちらも低減を目標とすることが示されている脂肪酸である[5]。たとえば、子供の健康を考えた加工食品の指針をアメリカ政府関連機関が合同で提案したとき、以下のような基準が示された。
2011年4月28日、食品医薬品局(FDA)、疾病対策センター(CDC)、アメリカ農務省(USDA)、連邦取引委員会(FTC)の4機関は、肥満増加の対策として子供に販売する飲食品の指針として、加工食品1食品あたりの上限を、飽和脂肪酸1グラム、トランス脂肪酸を0グラム、砂糖を13グラム、ナトリウム を210mgとした[9]。
日本マーガリン工業会の見解
日本マーガリン工業会は、マーガリンの安全性に関する見解[10]をウェブサイトに掲載している。その要旨は
- 日本人はトランス脂肪酸の摂取量及びエネルギー比が欧米に比べて少ない。WHO・FAOの報告書ではトランス脂肪酸のエネルギー比を1%未満とすることが提唱されているが、日本人の平均は0.3%(2006年)である。
- 日本人はトランス脂肪酸の害を低減するリノール酸の摂取量が欧米に比べて多い。
- トランス酸を過剰に摂取することは健康を害する可能性があるため、バランスのよい食事が大切である。
というものである。
トランス脂肪酸を低減したマーガリン
従来法
日本では、トランス脂肪酸量の表示が義務化されていないことなどから、マーガリンの生産時にトランス脂肪酸量を低減する工程を入れることは少ない。そのため、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸の含有率はほとんど上記のとおりである。なお、トランス脂肪酸の低減工程を行っており、それを明示している物として、バーガリン(マーガリン類ファットスプレッド、トランス脂肪酸1%以下)や、銀シャリ本舗のエコソフト(公称2%以下、分析値1.3%)、創健社のべに花ハイプラスマーガリン(0.5%)などがある。
新製法
2003年、不飽和脂肪酸への水素添加による生成されるトランス脂肪酸の摂取量の量的制限が勧告されて以降、メーカー各社は技術開発を進め、現在の市販品マーガリンは、飽和脂肪酸であり、常温で固化しているパルミチン酸組成が高いパーム油を素材にした製品に転換している。パルミチン酸の融点は体温より高く、パーム油原料のみでは官能評価が極めて低く、C20以上の脂肪酸を添加した製法が一般的である。
製造・販売企業
- ミヨシ油脂(製菓・製パン業務用・マーガリン・ショートニング・粉末油脂)
- 雪印メグミルク(ネオソフトなど)
- 明治(コーンソフトなど)
- J-オイルミルズ(ラーマなど)
- カネカ(業務用が主)
- 創健社(前述のべに花ハイプラスマーガリンなど)
- インペリアルキッチン(帝国ホテルとニチレイの合弁企業、帝国ホテルで使用しているマーガリンを「ホテルマーガリン」として市販している)
- ADEKA(旧・旭電化工業、「リス印」製菓・製パン用マーガリンなど)
- リボン食品(製菓・製パン用マーガリンなど。国産では唯一の有機JAS認定マーガリンも販売)
- マリンフード(給食用マーガリンなど。自社ブランドの他、ローソンなどのプライベートブランドのOEM供給も行っている)
- 小岩井乳業(小岩井マーガリン)
- 月島食品工業(自社ブランドのほか、上述の創健社へOEM供給している)
かつては味の素も「マリーナ」で参入していた。「マリーナ」は味の素がマーガリン事業から撤退後、日本リーバ(現:ユニリーバ・ジャパン)が販売を引き継いだが、現在は販売を終了している。また、ユニリーバ・ジャパンがもともと手掛けていた「ラーマ」ブランドのマーガリン事業は上記のJ-オイルミルズへ譲渡された(日本国内のみ)。歴史的経緯から味の素の油脂事業(味の素製油)を引き継いでいる同社にとっては事実上の再参入である。ちなみにユニリーバ・ジャパンはユニリーバと豊年製油(現J-オイルミルズ)の合弁で設立されたものである(その後、合弁解消。当時の社名は豊年リーバ)。