マイコプラズマ

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テンプレート:生物分類表 マイコプラズマ(ミコプラズマ、Mycoplasma)は、真正細菌の一属。真核生物を宿主とする寄生生物で、細胞壁を欠損すること、並びに細胞サイズとゲノムサイズが非常に小さい特徴を持つ。

特徴

ゲノムサイズが小さく(55万-140万塩基対程度)、記載種として最小の種を含み、細胞サイズも最小の部類(200-300nm)に入る。TCA回路、脂質合成系、アミノ酸合成経路を欠損しており[1]、大半が合成培地で増殖できず、たいていの場合はステロールアミノ酸脂質核酸など多くの成長因子を必要とする。細胞壁は欠損している。鞭毛は持たないが、適当な足場があれば滑走を起こす[2]

自然条件では特定の真核生物(主に脊椎動物)細胞に付着して寄生する。一部細胞侵入性を有する種も存在する[3]。ただし、実験室レベルでは栄養培地で培養可能な種もある。これらは培地で培養可能な最小の生物と位置づけられている。

学名は新ラテン語で「菌類のようなもの」という意味を持っている。当初真菌とも思われたため、ギリシア語で「キノコ」を意味するμύκης(ミュケース)の語幹と、「物」を意味するπλάσμα(プラスマ)を合成して名付けられた。

分布

Mycoplasma属の多くは動物に寄生し、病原菌であるものが多い。 関節症をはじめ、肺炎などの原因となる。

コンタミネーション

細胞壁を持たないため細胞の形状に可塑性があり、0.22 μmフィルターを通過する。 そのため、細胞培養に用いる培地は、ろ過滅菌してもしばしばマイコプラズマによるコンタミネーション(汚染)が見られることが多い。細菌や真菌のコンタミネーションでは汚染が目視することができ、培養細胞が死に至ることが多いためコンタミネーションの発見は容易であるのに対して、マイコプラズマのコンタミネーションでは顕微鏡下であっても小さすぎて目視することができず、また培養細胞と共存することが多いためコンタミネーションの発生を見逃しやすい。

マイコプラズマのコンタミネーションによる影響としては、培地の栄養の消費による培養細胞の成長阻害の他、マイコプラズマの直接の作用による代謝経路への影響や、遺伝子発現への影響が確認されている。 そのため、細胞を用いた実験結果の正しい評価のためには、マイコプラズマのコンタミネーションがないことを確認する必要がある。

検出のためのゴールドスタンダードは培養法であるが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)やEIA法、核染色法(ヘキスト染色法/Hoechst Stain Method)でも検出が可能である。 培養法は種の同定や検出率で優れているが、結果が得られるまでに時間がかかり、種の同定には熟練が必要である、という欠点がある。また、培養の困難な菌も存在する。 一方PCR法やEIA法はその日の内に結果を得ることも可能であるが、特定の種しか検出できない。 ヘキスト染色法も測定に要する時間は短いが、染色されたものがマイコプラズマなのか細菌等の核やデブリなのかを見分けるには熟練を要する。 最近ではマイコプラズマの酵素を利用したマイコアラート法(MycoAlert Mycoplasma Detection Kit:Lonza社)のような30分以内での測定が可能な製品もできており、検出をルーチンで行うことも簡単になってきた。

医療におけるマイコプラズマ

マイコプラズマはしばしばヒトにおいて非定型肺炎を引き起こす。 テンプレート:Main

疫学

オリンピックが行われる年に流行する(4年に1度流行する)傾向があるとして「オリンピック」とも呼ばれるが、近年はこの傾向が薄れつつある。 また喫煙者は感染しにくいことも報告されている。

症状

dry coughと呼ばれる喀痰を伴わない咳をすることが多い。発熱は38.5℃を越えることもある。頭痛、咽頭痛、刺激性の咳(乾性の咳)倦怠感などのいわゆる感冒様症状を呈する。消化管へのウイルス感染によって嘔吐、下痢、腹痛などの症状を来たすこともある。最近では、大人が感染して重症化するケースが急増している。また、症状が呼吸器を中心としたものから消化器症状を併発、もしくは消化器症状を中心としたものへと移り変わってきている傾向がある。

診断

病原体の直接証明として分離培養、PCR蛍光抗体法がある。血清診断としてはペア血清による診断が確実である。迅速診断としてIgM測定が可能である。

治療

アジスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗生物質がよく用いられる。ケトライド系、リンコマイシン系、ニューキノロン系薬剤(ガレノキサシンなど)も有効である。細胞壁を持たないため、β-ラクタム系ペニシリン系、セフェム系)の薬剤は効果がない。

野生におけるマイコプラズマの約15%は薬剤耐性菌(マクロライド耐性菌)と言われている。[4]ただし、マイコプラズマ感染症は自然治癒することもあり、かつ一部のマクロライド系抗菌薬は抗菌作用とは別に、免疫力調整による抗炎症効果も期待されるため、耐性菌であるからといって同薬剤の効果がないとも断定できない。地域でのマクロライド系抗菌薬耐性菌の蔓延が疑われる場合や、同系統抗菌薬の効果が乏しいと判断された場合には、ニューキノロン系抗菌薬も用いられる。

出典

脚注

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  1. Fraser CM, Gocayne JD, White O, Adams MD, Clayton RA, Fleischmann RD, Bult CJ, Kerlavage AR, Sutton G, Kelley JM, Fritchman RD, Weidman JF, Small KV, Sandusky M, Fuhrmann J, Nguyen D, Utterback TR, Saudek DM, Phillips CA, Merrick JM, Tomb JF, Dougherty BA, Bott KF, Hu PC, Lucier TS, Peterson SN, Smith HO, Hutchison CA, Venter JC (October 1995). "The minimal gene complement of Mycoplasma genitalium". Science 270 (5235): 397–403.
  2. マイコプラズマ滑走運動の装置とメカニズム
  3. Lo, S.-C.; Hayes, M. M.; Tully, J. G.; Wang, R. Y.-H.; Kotani, H.; Pierce, P. F.; Rose, D. L.; Shih, J. W.-K. (1992). "Mycoplasma penetrans sp. nov., from the Urogenital Tract of Patients with AIDS". International Journal of Systematic Bacteriology 42 (3): 357–364.
  4. マイコプラズマ肺炎の抗菌薬治療 病原微生物検出情報 Vol.28 p 42-43:2007年2月号 - 国立感染症研究所 感染症情報センター

関連項目

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外部リンク

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