ホット・ジュピター

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"焼かれる"系外惑星オシリスの想像図

ホット・ジュピター (Hot Jupiter) は、以下のような特徴を持つ太陽系外惑星のことである。

  • 親星から近い軌道を公転している(中心の恒星から地球 - 太陽間の距離(=1天文単位)の十分の一以下)
  • 高速かつ非常に短い周期で公転している(公転周期は数日。これに関しては後述)
  • 木星級のサイズの巨大ガス惑星である


恒星に極めて近く、強烈な恒星光を浴びるため表面温度は高温になっていると予想されている。「ホット・ジュピター」は直訳すれば「熱い木星」となるが、このような特徴に由来したものである。この種の系外惑星は1995年頃から続々と発見されつつある。

他にも、離心率の大きい彗星のような楕円軌道を描き、灼熱期と極寒期をめまぐるしく繰り返す巨大惑星エキセントリック・プラネットも発見されている。両者はこれまでに発見された百数十個の系外惑星のうち大半、百個ほどを占めているが、後者の方が圧倒的に多い。いずれも、太陽系にある惑星の様子からは想像もつかない惑星である。

ホット・ジュピターの特徴

軌道

我々の太陽系においては、比較的小型な地球型惑星太陽に近い軌道をめぐっている一方、木星・土星のような巨大な惑星は太陽から数~数十天文単位の距離を隔てて回っている。これらの外惑星は、太陽の熱を十分に受け取ることができないため、表面温度零下百数十度の極寒の世界となっている。

しかし、典型的なホット・ジュピター(ベレロフォンなど)は中心の恒星からわずか0.05天文単位しか離れていない。中心の恒星が太陽と同じ明るさを持つとすると、この軌道を周回する惑星が単位面積あたり恒星から受け取る光のエネルギーの量は、地球の数百倍にも達する計算になる。そのため惑星表面は熱せられて摂氏数百度を超える高温となっている。かつては太陽系以外の恒星系も惑星の配置・構成は先に述べたような太陽系の姿とさして変わらないだろうと思われてきたが、実際の系外惑星はほとんどの学者が予想だにしない形で発見され、大きな衝撃を与えた。

なお、惑星の居住可能性を論じる場合において、木星や土星のようなハビタブルゾーンの外側を回る木星型惑星をホット・ジュピターとの対比で「グッド・ジュピター」と呼ぶことがある。ただし、ここで「グッド(good)」とは、その巨大な重力で太陽系外縁方向から飛来する彗星などを捕らえて、内惑星に影響を及ぼしにくくするという意味も含まれている。事実、20世紀~21世紀のわずか17年間にも、シューメーカー・レヴィ第9彗星などいくつかの彗星及び類似の天体が木星に捕らえられるのが観測されている。

サイズ

恒星に近い軌道を周回する惑星は1995年から10年余りの間に数十個見つかっている。質量は惑星と褐色矮星の境界付近の大質量のものから地球の数倍程度のものまで様々である。特に明確な定義があるわけではないが、これらの惑星のうち木星や土星程度の質量以上を持ったものだけをホット・ジュピターと呼ぶのが普通である。木星の質量(地球の318倍)よりもむしろ海王星の質量(地球の17倍)に近い低質量の灼熱惑星は、ホット・ジュピターではなくホット・ネプチューンと言われる。

広く系外惑星の検出に使われている観測方法であるドップラー偏移法では、惑星の質量は分かっても惑星の半径までは知ることはできない。しかしその後、いくつかの惑星の恒星面通過を利用した観測が行われると半径を計測することが可能になった。求められたホット・ジュピターの半径は、太陽系の木星や土星と比べると、質量の割には大きいという傾向がある。これは高温によって惑星の大気が膨張しているためだと考えられている。

大気

ホット・ジュピターはガス惑星であり、いわゆる大気で覆われている。恒星に極めて近い軌道を持つため、潮汐力によって自転と公転が同期し、地球の周りを回る月と同じように、常に同じ面を恒星に向ける。すると、一方の半球面が常に恒星光で熱せられ、温度差によって常に影の半球面に向かって摂氏数百度を超える強烈な熱風が吹いていると予想されている。そのため、ホット・ジュピターの外観は木星のような横縞模様ではなく、恒星の光が最も強く当たる点から影の面へ向かう気流により縦方向の縞模様が形成され、スイカの模様のようになっているとも推定されていた。しかしホットジュピターは、太陽系のガス惑星と比べると遅いとはいえ、公転周期と同じ周期で自転もしているため、きれいにスイカの模様状の大気の流れが生じるかは疑問視されている。

惑星自体の色は、あまりの高温のために水蒸気のような揮発性の高い成分は存在せず、のような固体成分が蒸発して透明なガス成分のみになっているため、深い青い色に見える可能性も指摘されている。これは本来透明な海水大気が日光の散乱によって青く見えるのと同じ現象である。また、恒星から強力な宇宙線が大気に降り注いで衝突しているため、常にオーロラが見えているだろうとされている。

惑星オシリスは、大気の流出が観測された他、大気の成分が調べられている。

発見

従来、太陽系以外の恒星にも惑星は存在するだろうと言われており、1940年代から様々な系外惑星探査(プラネット・ハンティング)の試みがなされてきた。しかし、バーナード星など幾つかの星に有力候補が想定されてきたものの、いずれも否定され、太陽系の外の惑星は幻のままであった。SFの世界では多種多様な系外惑星が頻繁に登場するが、初めて現実に太陽系以外の恒星に惑星が発見されたのはようやく1990年代になってからである(詳細は太陽系外惑星の項を参照)。

1995年10月6日、ジュネーブ天文台ミシェル・マイヨールディディエル・クエロッツらスイスの観測チームによって、ペガスス座51番星 (51 Pegasi) に木星の半分の質量を持った巨大惑星の存在が確認された。この惑星の軌道は、中心の恒星からわずか0.05天文単位、約750万kmしか離れておらず、水星軌道よりも遙かに内側に入り込み(水星の軌道半径の八分の一)、恒星のまわりを4.2日で周回していることも確認された。この発見は様々な検証を経て間違いなく系外惑星であると確かめられ、これをきっかけとして系外惑星探査に火がついた。すると、他の恒星にも木星型惑星が続々と発見された。ペガスス座51番星の系外惑星は決して特殊な例ではなく、同様のホット・ジュピターの発見が相次いでいる。従来の系外惑星探査は、ほとんどの観測者が太陽系に似た恒星系を想定して探していたため、観測データには既にかかっていたのに、思わぬ盲点となって見落としてしまったようである。

これまでに発見された系外惑星は、先述したように大半がホット・ジュピターあるいはエキセントリック・プラネットであるが、これは宇宙に散らばる恒星のほとんどがそうした灼熱巨大惑星を擁しているというわけではない。大部分の巨大惑星は重力による恒星のふらつきを検出するという方法で観測されているが、恒星のふらつきは質量が大きく恒星と惑星の距離が短いほど大きくなるため、ホットジュピターのような惑星は最も検出が容易である。また、公転周期の短さゆえに観測や確認が短時間ですむという事情もあった。そのため初期に発見された系外惑星はホット・ジュピターが多かったが、より恒星から離れた軌道を持つ惑星も次第に多く発見されるようになっている。

ホット・ジュピターの形成理論

ホット・ジュピターの発見は、従来の太陽系を対象にした惑星系形成理論がそのまま他の恒星系にも適用できるものではないことを示し、ホット・ジュピター、エキセントリック・プラネットなども含む多様な系外惑星の形成も含めて説明できるような理論へと書き直しを余儀なくされた。

恒星系の成立については、まず原始恒星を取り巻く円盤のガスや微粒子が集積して微惑星を形成し、次第に恒星を取り巻く幾つかの惑星という系ができあがっていくという、いわゆる「京都モデル」が考えられている。このモデルでは、木星のような巨大ガス惑星は恒星の近くでは生まれにくいとされている一方、これまでに発見されたホット・ジュピターはほとんどが恒星の至近距離に存在している。そのため、こうした巨大惑星は元々円盤の比較的外側の領域で形成されたものであったが、後に何らかの原因で本来の軌道から外れ、内側に移行していったのではないかと考えられている。

その移行の過程を説明する有力なモデルの一つは、形成された巨大惑星が残存していた円盤物質の抵抗による減速で、あるいは円盤自体が恒星の重力によって収縮するのに巻き込まれて次第に恒星に近づいていったとする「惑星落下モデル」である、しかし一方で、惑星がそんなに簡単に落下するものであれば、すべての惑星が恒星に落ち込んで惑星系はほとんど存在しなくなるのではないか、という異論もある。そのため、落下した惑星が現在観測されている軌道で安定するようなブレーキ法や、円盤のガスの密度などをめぐって、シミュレーションを駆使した様々な考察がなされている(惑星が出来ては落下し、出来ては落下しが繰り返された末、円盤が消失する直前に形成された惑星だけが残ったとする説、また太陽系では円盤が希薄で早い時期に喪失したため、木星や土星などは円盤の収縮に巻き込まれることなく現在の安定した軌道におちついた、とする説などもある)。

もう一つの有力なモデルは、他の巨大惑星との摂動によって細長い楕円軌道で恒星に近づくエキセントリック・プラネットになり、最近点を通過するたびに公転にブレーキをかけられることで次第に離心率が小さくなって円軌道のホット・ジュピターになって行くとする「ジャンピング・ジュピターモデル」である。こちらはホット・ジュピターよりもエキセントリック・プラネットの比率が大きいことが傍証とされているが、対になるはずの外側のエキセントリック・プラネットがなくてホット・ジュピターのみが見つかっている場合には適用できない。

ホット・ジュピターの実例

ベレロフォン(ペガスス座51番星 b)
最初に発見された恒星の周りを回る系外惑星。
オシリス (HD209458 b)
初めて恒星面通過が観測された系外惑星。大気が流出していることでも知られている。
グリーゼ876d (Gliese 876 d)
質量が少なくホット・ネプチューン(またはスーパーアース)と呼ばれるタイプ。観測方法の特質上最低質量しか知られていないが、最も低く見積もった場合の質量は地球のわずか5.9~7.3倍である。この数値から地球と同じく岩石が主成分の惑星であると推定される。中心星は赤色矮星で、この惑星系にはこの惑星のほかに2つの巨大惑星が知られている(※惑星bの軌道傾斜角が84度と観測されていることから、惑星cも同程度、そしてこの惑星dも相似の傾斜角を持つとされる。よって、確定質量が地球の約7倍以下であることは確実視されている)。

参考文献

  • 井田茂、『異形の惑星-系外惑星形成理論から-』、NHKBOOKS、2003年。ISBN 4-14-001966-2。

関連項目

テンプレート:Exoplanet