ホウ素

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

テンプレート:Redirect テンプレート:Elementbox ホウ素(ホウそ、硼素、テンプレート:Lang-en-shortテンプレート:Lang-la-short)は、原子番号5の元素元素記号B第13族元素のひとつ。

1808年ゲイ=リュサックルイ・テナールの2人の共同作業及びハンフリー・デービーによって単体の分離が行なわれ、アラビア語で「ホウ砂」を意味する Buraq から命名された。

歴史

ホウ素 (Boron) の名称は、ホウ砂を意味する[1]アラビア語のبورق (buraq) もしくはペルシャ語のبوره (burah) に起源があるとされる[2]。中国語では10世紀の「日華本草」にペルシャ語の音写としてホウ砂のことを「蓬砂」とした記述がみられ、14世紀には日本に伝来して「硼砂」と記されている[3]

ファイル:Sassolite.jpg
ホウ素鉱石である硼酸石(サッソライト)

ホウ素化合物の存在は数千年前には既に知られており、西チベットの砂漠から産出したホウ砂サンスクリット語でチンカルと呼ばれていた。西暦300年頃の中国では既に釉薬としてホウ砂が利用されており、8世紀ペルシャの錬金術師であるジャービル・イブン=ハイヤーンはホウ砂について言及していたとされている。13世紀には、マルコ・ポーロによってホウ砂釉薬を用いた陶磁器がイタリアへと持ち帰られた。1600年ごろにはアグリコラによって冶金学における融剤としての用途が記されている。現代においてホウ素の最大の用途ともなっているガラス向けの用途は1758年に出版されたドッシーによる「技芸の侍女」において初めて言及されているが、当時はホウ砂が高価だったこともありごく一部のガラスに使われていたに過ぎない[4]

1774年、イタリアのトスカーナ州州都フィレンツェ近郊のラルデレロで産出する地熱蒸気にホウ酸が含まれていることが分かり、ホウ酸工場が設立されて重要なホウ素資源として利用されたが、19世紀にはアメリカ大陸で大規模なホウ酸塩鉱物の鉱床が発見されたためその地位はアメリカに取って代わられた。ホウ素の生産が終了した後、ラルデレロでは高温の地熱蒸気を利用した地熱発電が行われている[3][5]。ホウ素を含む鉱石としては、イタリアのサッソで発見された希少鉱石のテンプレート:仮リンクがある。サッソライトは1827年から1872年までの間ヨーロッパにおけるホウ砂の主要な資源として利用されていたが、その後こちらもアメリカ産のものに取って代わられた[6][7]。ホウ素化合物は1800年代まではあまり利用されることがなかったが、「ホウ砂王」とも呼ばれるテンプレート:仮リンクテンプレート:仮リンクが初めてホウ素化合物の大量生産を行い安価で提供し、普及させた[8]。その後光学ガラスの大規模生産が始まると、ホウ砂はガラス工業において大量に消費されるようになっていった[3]

ホウ素に関する初期の研究としては、1702年に報告されたホウ砂と硫酸を反応させることによるホウ酸の合成や、1741年に報告されたホウ素が緑色の炎色反応を示すことの発見、1752年に報告されたホウ酸とナトリウムを反応させることによるホウ砂の合成などがある[3]。単体のホウ素はジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックルイ・テナールの二人[9]と、ハンフリー・デービー[10]がそれぞれ同時期に個別に単離に成功したが、それまでは単一の元素とは認められていなかった。1808年にデービーは、ホウ酸溶液に電気を通して電気分解することによって、一方の電極上に茶色の沈殿が生成されると記している。デービーはそれ以降の実験において、ホウ酸を電気分解する代わりにカリウムで還元させる方法を用いた。デービーはホウ素が新しい元素であることを確かめるために十分な量のホウ素を合成し、この元素をboraciumと命名した[10]。ゲイ=リュサックとテナールは、ホウ酸を還元するために高温でと反応させる方法を採った。彼らはまた、ホウ素を酸素で酸化させることによってホウ酸を合成し、ホウ酸がホウ素の酸化生成物であることを示した[9][11]イェンス・ベルセリウスは1824年にホウ素の元素としての性質を同定した[12]。その後、多くの化学者によって純粋なホウ素を合成しようと試みられてきたが、そのほとんどは不純物を多く含んだものであり、比較的高純度なものであってもホウ素の純度は85%を下回っていたと考えられている。これに初めて成功したのはアメリカの化学者であるエゼキエル・ワイントローブであると考えられており、1909年に三塩化ホウ素電弧中で水素還元させるという方法で純粋なホウ素を合成した[13][14][15][16]

性質

物理的および化学的性質

ホウ素には複数の同素体があり物性値は同素体によって異なる値を示すが、全体として高融点かつ高沸点な硬くて脆い固体である[17]。例えば融点はアモルファスホウ素で2300 テンプレート:℃[18]、β菱面晶ホウ素で2180 テンプレート:℃[19]であり、沸点はβ菱面晶ホウ素で3650 テンプレート:℃[19]。アモルファスホウ素は2550 テンプレート:℃昇華する[18]。β菱面晶ホウ素のモース硬度は9.3[20]比重はα菱面晶ホウ素が2.46、β菱面晶ホウ素が2.35である[18]

単体のホウ素は金属元素と非金属元素の中間の性質を示す半金属元素であり、安定した共有結合を形成するという点では同じ第13族元素であるアルミニウムガリウムなどの金属元素よりもむしろ炭素やケイ素と類似した性質を示す[21]。これはホウ素の第一イオン化エネルギーが8.296 eVと非常に高いためイオン化しにくく、2s22p1の最外殻電子がsp2混成軌道を形成する方がエネルギー的に有利であることに起因する[22]。単体ホウ素におけるホウ素同士の結合もまた共有結合性が強いため、自由電子として導電性に寄与できる電子が少なく、導電性を示すものの導電性は低いという半金属に特有な性質が現れる原因となる[23]。また、このような電気的特性を有するため単体ホウ素は半導体としての性質を示す[24]

結晶性ホウ素は化学的に不活性であり、フッ化水素酸塩酸による煮沸に対しても耐性を示す。微細粉末は熱濃過酸化水素や熱濃硝酸、熱硫酸もしくは熱クロム酸混液に対して徐々に侵される[14]。ホウ素の酸化率は結晶化度、粒径、純度および温度に依存する。ホウ素は室温では空気と反応しないが、高温では燃焼して酸化ホウ素を形成する[25]

4 B + 3 O2 → 2 B2O3

ホウ素はハロゲン化によって三ハロゲン化物を形成する。

2 B + 3 Br2 → 2 BBr3

三塩化ホウ素は通常、酸化ホウ素から合成される[25]

化合物

ホウ素の化合物は通常+3価の形式酸化数を取る。これらには酸化物、硫化物、窒化物およびハロゲン化物が含まれる[25]

ファイル:Boron-trifluoride-pi-bonding-2D.png
三フッ化ホウ素の構造。π供与性配位結合におけるホウ素の空のp軌道を示す。

三ハロゲン化物は平面三角形構造を取る。それらの化合物はホウ素上に6つの電子しか持たないためオクテット則を満たしておらずルイス酸としてはたらき、ルイス塩基のような電子対供与体と即座に反応する。例えば三フッ化ホウ素 (BF3) はフッ化物イオン (F) と反応してテトラフルオロホウ酸塩アニオン (BF4-) を与える。三フッ化ホウ素は石油化学産業において触媒として利用される。三ハロゲン化ホウ素は水と反応してホウ酸を形成する[25][26]

ファイル:Tetraborate-xtal-3D-balls.png
四ホウ酸アニオン ([B4O5(OH)4]2−) の棒球モデル。結晶質のホウ砂 (Na2[B4O5(OH)4]·8H2O) 中などで見られる。ピンク色のホウ素原子が赤色の酸素原子に架橋されており、端には白色の水素原子を伴う4つの水酸基がある。4つのホウ素の内、右上と左下の2つはsp2混成軌道による平面三角形構造を形成して電気的に中性となっているが、残り2つのホウ素はsp3混成軌道による四面体構造を形成してそれぞれ-1価の電荷を持っている。全てのホウ素の酸化数は+3価である。このように、配位数と電荷の異なったホウ素の混合は天然ホウ素の特色である。

ホウ素は地球上の自然中においては様々な種類の+3価の酸化物として見られ、しばしば他の元素と結合している。100種類以上のホウ酸塩鉱物でホウ素は+3価のホウ素を含んでいる。これらのホウ酸塩鉱物はいくつかの点でケイ酸塩鉱物と類似しているが、SiO4の四面体構造が構造の基本単位となっているケイ酸塩とは異なり、ホウ酸塩はBO4の四面体構造だけでなくBO3の平面三角形構造の基本単位も多く見られる[27]。典型的な例としては、一般的なホウ酸塩鉱物の一つであるホウ砂における四ホウ酸アニオンがある(左図)。四ホウ酸アニオン中のホウ素は平面三角形構造と四面体構造の2種類の構造を取っており、四面体構造を取っているホウ素は負の電荷を有している。この負の電荷は、例えばホウ砂におけるナトリウム (Na+) のような金属陽イオンとの間で釣り合っている[25]

ボラン

ボランはホウ素と水素の化合物であり、BxHyの組成式で表される。これらの化合物は自然中で形成されることはない。ボランの多くは空気と接触すると激しく反応してすぐに酸化される。狭義にボランと言えばBH3を指し、これはガス状の化合物であり二量体のジボランを形成する。より大きなボランは全て多面体構造のホウ素クラスターの集合からなり、そのいくつかは異性体として存在する。例えばB20H26の異性体は、ホウ素が10原子集まったクラスター2つが融合して形成される。

ボランのうち重要なものにはジボラン2H6および、ペンタボラン5H9、デカボランB10H14とその2つの熱分解物がある。多数の水素化ホウ素アニオンが知られており、例えば[B12H12]2-がある。

ボランの形式酸化数は正であり、水素はヒドリドのように-1価としてカウントされるという仮定に基き計算される。ホウ素の平均酸化数は単純に分子中の水素とホウ素の原子数比である。例えばジボラン2H6ではホウ素の酸化数は+3価であるが、デカボランB10H14においては7/5価もしくは1.4価である。これらの化合物においては、ホウ素の酸化数はしばしば整数とはならない。

窒化ホウ素

窒化ホウ素は様々な構造を取り、それらはダイヤモンドカーボンナノチューブを含む炭素の同素体に似た構造を取る。ダイヤモンド様の構造をした窒化ホウ素は立方晶窒化ホウ素と呼ばれ、ホウ素原子はダイヤモンドの四面体構造における炭素原子の位置に存在しているが、4つのB-N結合の内の一つは配位結合と見ることができる。すなわち、三フッ化ホウ素の場合と同様に、3つの窒素原子とホウ素原子が結合することで3つのB-N結合と1つの空軌道が形成され、窒素の2つの電子がルイス塩基としてホウ素上の空軌道へ供与されることで4つ目のB-N結合が形成されることとなる。立方晶窒化ホウ素はダイヤモンドに匹敵する硬さを有しているため研磨剤に用いられる。黒鉛様の六方晶窒化ホウ素 (h-BN) は正の電荷を持つホウ素と負の電荷を持つ窒素が交互に配列した平面構造が層状に積み重なったを構造を取る。そのため、六方晶窒化ホウ素とグラファイトは共に層間の滑りによる潤滑性を示すという類似した性質もあるものの、非常に異なった性質も示す。例えば、黒鉛は優れた熱伝導性および電気伝導性を示すが[28]、h-BNは平面方向の熱伝導性および電気伝導性が比較的乏しい[29][30]

金属ホウ化物

ホウ素は非常に多くの元素との間でホウ化物を形成するが、特に金属元素との間で形成されるホウ化物は金属的な性質を示すことが多いことから、ホウ素自身は非金属元素であるものの、しばしばホウ素合金として扱われる[31]。金属ホウ化物は一般的に高硬度、高融点、低反応性といった性質を示す[32]。金属ホウ化物の多くはホウ素と金属元素を共に溶融もしくは焼結させることによって合成することが可能であり、ホウ化鉄やホウ化クロムなどの工業的製造法としては高純度なものは得られにくいものの大量生産が可能なテルミット反応などの直接還元法が利用されている[33]。金属ホウ化物はホウ素原子と金属原子との間に化学量論的な関係が見られないことが多い。これは、金属原子が形成する立体構造の空隙に遊離したホウ素原子が取り込まれた構造を取るものや、逆にホウ素が形成する立体構造の空隙に遊離した金属原子が取り込まれた構造を取るものが多く存在するためである[34]。金属ホウ化物として重要なものにホウ化鉄(フェロボロン)があり、Fe2BやFeB、Fe2B5などが知られている[35]。ホウ化鉄は製鉄の原料として焼入れや溶接に関する性能向上に利用される[36]。ホウ素はこのような二元化合物のみならず、複数の金属元素との間に他元化合物を形成することも知られている[37]。代表的なものに、非常に強力な磁力を有するネオジム磁石として利用されるネオジム-鉄-ホウ素の三元化合物であるNd2Fe14Bがある[38]

有機ホウ化物

数千種類におよぶ有機ホウ化物の存在が知られており、代表的なものにトリエチルボランボロン酸のようなアルキルホウ素化合物、ボラジン誘導体のような複素環式化合物などが存在する。アルキルホウ素化合物はハロゲン化ホウ素とグリニャール試薬を用いて合成され、アリールホウ素化合物も同様に合成することができる。トリアルキルホウ素を含むアルキルボランはヒドロホウ素化反応によってボランから合成される[39]トリエチルボランなどのトリアルキルホウ素化合物は空気中で酸素と反応して自然発火する自然発火性物質であるが、一方でトリフェニルボランのようなトリアリールホウ素化合物は空気中で燃焼しない[40]。ハロゲン化ホウ素は4倍モル当量のアルキル化剤もしくはアリール化剤と反応させると、トリアルキルもしくはトリアリールホウ素からさらに反応が進行してテトラアルキルもしくはテトラアリールホウ酸イオンが生成される。このような化合物としてはテトラフェニルホウ酸ナトリウムやテトラメチルホウ酸リチウムなどがあり、テトラフェニルホウ酸ナトリウムはカリウムやルビジウムなどの重アルカリ金属元素を分離するのに用いられる[39]

同素体

テンプレート:Main

ファイル:Brown-boron.jpg
アモルファスホウ素

ホウ素には7つの同素体が存在しており、それらは結晶およびアモルファスの構造を取る。よく知られているものにα-菱面体、β-菱面体、β-正方晶があり、特殊な条件下ではα-正方晶やγ-斜方晶のような形も取る。アモルファスの同素体には、微細な粉末状のものとガラス状のものの2つが知られているテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。標準状態において最も安定なものはβ-菱面体晶であり、他の同素体は全て準安定状態である[41]。少なくとも14以上の同素体が報告されているが、前述の7つ以外の同素体は弱い論拠に基いたものであったり実験的に立証できなかったりするため、それらは単一の同素体ではなく複数の同素体の混合物や不純物によって安定化した構造であると考えられているテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn[42][43]

α β γ β
結晶形 菱面体晶 菱面体晶 斜方晶 正方晶
原子数/単位格子[43] 12 105‒108 28 192
密度 (g/cm3)[44][45][46][47] 2.46 2.35 2.52 2.36
ビッカース硬度 (GPa)[48][49] 42 45 50–58
テンプレート:仮リンク (GPa)[49][50] 185 224 227
バンドギャップ (eV)[49][51] 2 1.6 2.1 ~2.6[52]

同位体

テンプレート:Main 天然に存在するホウ素は2種類の安定同位体から成っており、11Bが80.1%、10Bが19.9%を占める。天然存在比11B/10Bの値と実測の11B/10Bの値の差として定義される質量差δ11Bは伝統的に‰(千分率、パーミル)で表され、その値の幅は自然水域において-16から+59の広い範囲を取る。ホウ素には13の既知の同位体があり、半減期の最も短い7Bは陽子放出およびアルファ崩壊によって3.5×10−22の半減期で崩壊する。ホウ素の同位体分離は、B(OH)3および[B(OH)4]-の交換反応によって制御される。ホウ素の同位体はまた、熱水系や熱水変質岩において水層から鉱石結晶が析出する際にも分離される。例えば熱水変質岩の粘土上では[10B(OH)4]-イオンが析出することで海水から優先して除去され、その結果として大洋性地殻や大陸性地殻と比較して海水中の11B(OH)3濃度が大規模に高められている可能性がある。このような同位体比の違いはテンプレート:仮リンクとしての働きをするかもしれない[53]エキゾチック原子核である17Bは中性子ハローを示す(すなわち液滴模型から予測されるよりも大きな原子半径を示す)[54]

10Bは良質な熱中性子捕獲材である。10Bの天然存在比はおよそ20%ほどでしかないため原子力産業においては天然ホウ素を濃縮して純粋な10Bとして利用しており、ほぼ純粋な11Bが利用価値の低い副生物として生じる。

分析

定性分析

ファイル:Boratflamme.jpg
ホウ素の炎色反応

ホウ素を含む試料を炎で熱すると緑色の炎色が観測されるため、ホウ素の定性分析には炎色反応が利用される。この反応においては、バリウムなども類似した緑色の炎色を示して妨害となるため、炭酸ナトリウムで妨害元素を分離するなどの前処理が必要となる。また、フッ化ホウ素の200℃における炎色は鋭敏であるため、試料にフッ化カルシウムと硫酸を加えて試料中のホウ素をフッ化ホウ素とすることで微量の試料でも定性することが可能となり、およそ10 μg程度の検出限界が得られている。他の定性方法としては、1,2,5,8-テトラヒドロキシアントラキノン(キナザリン)とホウ素との反応によって生じる青色の発色が利用される[55]

定量分析

ホウ素の定量分析には、マンニトール法やクルクミン法、アゾメチンH法、メチレンブルー吸光光度法、誘導結合プラズマ発光分析法 (ICP-AES) および質量分析法 (ICP-MS) などが主に用いられており[56][57]日本工業規格においてはホウ酸などの試薬の純度分析にはマンニトール法が、工場排水の試験方法などには吸光光度法やICP法が公定法として規定されている[58]。吸光光度法では反応時間や妨害成分の問題が、ICP法では高価な装置が必要になるなどの問題があるため、高価な装置を必要とせず迅速に測定が可能な方法として電気化学的な定量分析法の開発も行われている[59]

マンニトール法は、ホウ酸とD-(-)-マンニトールとの反応によって定量的に発生する水素イオンの量を水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液を用いて中和滴定を行うことによって定量する分析法である[60]。ホウ素含有量の高い試料に適しており、ホウ酸や四ホウ酸ナトリウムなどの純度を分析するのに用いられる。マンニトール法は鉄やリンなどの共存元素による妨害を受けやすく、また中和滴定であるため酸やアルカリが存在している場合は先に一度中和しておく必要があるため、複雑な前処理が必要となることもある[56]。例えば鉄鋼中のホウ素の分析にマンニトール法を用いる場合では、まず試料を酸溶解させた後にメタノールと反応させホウ酸メチルとして蒸留を行って他の成分からホウ素を分離し、得られた留出液を蒸発乾固させて生じる残留物を硫酸で溶解させ、硫酸酸性となっている試料溶液のpHを水酸化ナトリウムで中和してpH調整するという前処理が行われる[60]

クルクミン法、アゾメチンH法、メチレンブルー吸光光度法はいずれも、ホウ素が発色試薬と錯体を形成することによって生じる発色の度合いを吸光度として吸光光度計を用いて測定し、ホウ素濃度が既知の溶液を発色させた場合の吸光度と比較することでホウ素濃度を定量する分析法である[61][56]。クルクミン法はクルクミンがホウ素と反応して形成されるロソシアニンの赤色の発色を利用した分析法であり、分析感度は高いもののフッ素など妨害となる元素が多い[56][62]。アゾメチンH法はアゾメチンHとホウ素の錯形成反応を利用した分析法であり、クルクミン法と比べて分析感度は低いものの妨害となる元素が少なく、妨害となる元素もEDTAによりマスキングすることができる[63][56]。メチレンブルー吸光光度法はフッ化水素酸の存在下でホウ素とメチレンブルーが反応して形成されるメチレンブルー-テトラフルオロホウ酸錯体を溶媒抽出によって分離して吸光度を測定する分析法であり、クロム酸イオンなどが妨害要因となる[59][64]

ICP-AES法は低濃度の試料においても高感度かつ簡便にホウ素濃度の定量分析を行うことができるが、装置価格は非常に高価である[59]。通常は182.64 nmもしくは249.77 nmの発光波長が利用されるが、後者では高感度であるものの鉄の妨害を受け、前者は鉄の妨害を受けないものの低感度である。また、試料の分解中にホウ素が揮発することもあり誤差要因となる[65]

存在

ホウ素は地殻中の存在率が比較的低い元素であり、その存在率は酸化ホウ素としておよそ0.001%である(地殻中の元素の存在度も参照)。しかしながら、その存在率の低さに反してホウ素はホウ酸塩の形で鉱床を形成して局所的に濃縮されるため容易に採掘可能であることから、古くから人類に利用されてきた[66]。このようなホウ素の濃縮は、マグマの冷却による火成岩の形成過程や、マグマから揮発放散したホウ素の堆積などによって引き起こされる。そのため、火山におけるマグマの噴出孔近辺や火山性の温泉、湖沼などにおいても、しばしばホウ素の濃縮が見られる[67]。ホウ素は地球上において単体の形では存在しておらず、常に酸素と結合してホウ砂ホウ酸ホウ酸塩テンプレート:仮リンクテンプレート:仮リンクウレキサイトなどの形で存在している。このようなホウ素を主成分として含む鉱物は100種類以上存在している。また、ホウ素はそのイオン半径からケイ素やアルミニウム、ベリリウム、リンなどに置換されやすく、数多くの鉱物中に微量元素としても存在している[68]。海水中のホウ素濃度はおよそ4-5 mg/Lであり、場所や深度による差異は比較的小さい[69]

商業的に利用可能なホウ酸塩の埋蔵量は全世界でおよそ1000万トンと見られている[70][71]。ホウ素の最大の産出国はトルコアメリカであり[72][73]、全世界のホウ素の埋蔵量の63%がトルコにあるとされる[74]。経済的に重要なホウ素源はケルナイトおよび天然ホウ砂であり、それらはアメリカのカリフォルニア州にあるモハーヴェ砂漠に位置する世界最大の露天掘りホウ砂鉱山「Rio Tinto Borax Mine(もしくはthe U.S. Borax Boron Mine)」で採掘されている。Rio Tinto Borax Mineだけでホウ酸塩の世界産出量のおよそ半分におよぶホウ素が生産されている[75][76]。世界最大のホウ酸塩鉱床はエスキシェヒルキュタヒヤバルケスィルを含むトルコの中-西部に存在しているが、その多くは利用されていない[77][78][79]

生産

ホウ素化合物の生産はホウ酸塩が容易に入手可能なため、単体ホウ素を経由せずに生産される。

初期の単体ホウ素の合成方法はホウ酸をマグネシウムもしくはアルミニウムを用いて還元することによって生産されていた。しかしこの方法では純粋な単体ホウ素を得ることができず、常に金属ホウ化物が不純物として混在した。純粋な単体ホウ素は、揮発性のハロゲン化ホウ素を高温条件下で水素還元させることによって得られる。半導体産業で用いられる超高純度ホウ素は高温条件下でのジボランの分解によって合成され、その後ゾーンメルト法チョクラルスキー法によってさらに精製される[80]

ホウ素の同位体である10Bは高い中性子吸収能を有するが、天然ホウ素中の同位体存在率はおよそ20%でしかないため、同位体を分離して10Bを濃縮する必要がある。その方法としては、蒸留法や化学的交換法があり、蒸留法では低沸点のホウ素化合物であるハロゲン化ホウ素を用いた低温蒸留が、化学的交換法では有機ホウフッ化化合物を用いた気液交換反応が利用される[81]。また、蒸留法と化学的交換法を組み合わせた化学交換蒸留法という方法も開発されており[82]、現代の濃縮ホウ素の生産のほとんどは化学交換蒸留法によって行われている[83]

市場動向

2005年のホウ素の消費量はアジア、ヨーロッパおよび北アメリカの需要の増大によってB2O3換算で180万トンにのぼると推定されている。ホウ素の採掘および精製能力は今後十年間の需要増に見合う十分な能力を有していると考えられている。

近年、ホウ素の消費形態は変化した。テンプレート:仮リンクのようなホウ素鉱石はヒ素が含有されているという懸念のために使用量が減少した。そして消費者の動向は、不純物含有量の少ない精製されたホウ酸塩やホウ酸を利用する方向に進んだ。2008年における結晶質ホウ素(純度99%)の平均価格はおよそ5 $/g、非晶質ホウ素は2 $/gであった[84]

ホウ素の需要の増加に伴い、いくつかの生産者は生産能力を増強するために投資を行った。トルコの国営企業である「Eti Mine Works」はトルコ西部のエーゲ海地方にあるEmetで2003年に年間生産能力10万トンのホウ素生産プラントを立ち上げた。「Rio Tinto」グループはホウ素の年間生産量26万トンの既存設備の生産能力を2003年5月までに31万トンに増強し、さらに2006年までには36.6万トンにまで増強する計画である。中国のホウ素の生産者は高品質なホウ酸塩の急速な需要増に追いつくことができなかった。そのため、中国の四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)の輸入量は2000年から2005年までに100倍も増加し、同期間中のホウ酸の輸入量も年に28%ずつ増加した[85][86]

ホウ素需要の世界的な増加はガラス繊維およびホウケイ酸ガラス生産の急成長によって引き起こされた。繊維強化プラスチックのような強化素材用途ガラス繊維においては、ヨーロッパやアメリカではホウ素を用いないホウ素フリーなガラス繊維も発展しているが、アジアにおけるホウ素を用いたガラス繊維の生産量が急速に増加しており、ホウ素の需要としては相殺されている。近年のエネルギー価格の上昇によって、絶縁素材用途のガラス繊維の使用量が増加し、それに伴ってホウ酸塩の需要がさらに拡大する可能性もある。イギリスの金属市場調査会社であるロスキルは、ホウ素の需要が年間3.1%ずつ成長して2010年までに2100万トンにまで成長すると予測している。その成長はアジアにおいて著しく、年間平均5.7%の需要の成長が予測されている[85][87]

用途

ホウ素が単体で使用されることは少ないが、化合物や合金の形で様々に利用されている。

身近な用途で使用される場合は、ホウ砂やホウ酸の状態であることが多い。ホウ砂はガラスの原料や防腐剤、金属の還元剤溶接溶剤や研磨剤、火の抑制剤などに使われ、教育の現場では、ホウ砂と洗濯糊などを用いてスライムを作成する子供向けの科学実験工作がしばしば行われる。ホウ酸はの洗浄剤、うがい薬や鼻スプレーなど口腔衛生のための医薬品ホウ酸団子としてゴキブリ駆除などに使われる。

ガラスおよびセラミックス

ガラスはホウ素の主要な用途の一つであり、2011年におけるホウ酸塩消費量のおよそ60%がガラス繊維を含むガラス用途であった。ホウケイ酸ガラスは一般的に5から30%の酸化ホウ素を含んでおり、熱膨張率が低いため熱衝撃に対する耐性が高い。また、ホウ素をガラスに添加することで溶融状態におけるガラスの流動性が向上するため、ガラスを成型する際の生産性が向上する[88]。ホウケイ酸ガラスの主要な商標としてデュランおよびパイレックスがあり、熱衝撃に対する抵抗性を利用して主に実験用のガラス器具や、一般用の調理器具、耐熱皿などに用いられる[89]

ホウ素繊維(ガラス長繊維)は軽量かつ高強度であるため、繊維強化プラスチックのような複合材料の強化材として利用される。主に航空宇宙分野における構造体に用いられ、一般消費者向けとしてはゴルフクラブ釣り竿のような一部のスポーツ用品にも使われている[90][91]。また絶縁材や耐火材としても用いられており、ガラス繊維用途のホウ素の消費量は全体のおよそ45%におよぶ[88]。このようなホウ素繊維は、化学気相蒸着法によってタングステン繊維の上にホウ素を堆積させることによって製造される[72][92]

ホウ素繊維(ガラス短繊維)はグラスウールとして冷蔵庫建材などにおいて断熱材として用いられる[36]。ガラス短繊維はレーザーアシストCVD法によって製造され、収束したレーザービームの並進によってサブミリメートルサイズの螺旋状のホウ素結晶のような複雑な構造さえも作り出すことができる。そのような構造は弾性係数450 MPa、剪断ひずみ3.7%、破断応力17 GPaといった良好な機械的性質を示し、セラミックスもしくはMEMSの強化に用いることができる[93]

音響機器

密度が小さく、ヤング率が大きく、音の伝わる速さが16,200 m/sアルミニウムの約2.6倍以上であることから、音響材料としてはベリリウム以上に理想的な素材として知られている[94]が、技術的に加工が難しい素材であった。実際に音響機器の応用商品が流通し始めたのは1980年代からである。

  • レコード針のカンチレバーにおいては品川無線シュアオーディオテクニカダイナベクターデノンより商品化されている。
  • ダイヤトーンでは炭化ホウ素 (B4C)、をスピーカーの高・中音域ユニットの振動板に用いている。「経年劣化で自然崩壊する」などと記載されることが多いが定かではない。衝撃により崩壊しているのではないかという説も有る。
  • デノンはボロン長繊維を使用したボロンファイバー振動板を低域ユニットに使用していた。高域ユニットの振動板としても、αボロン化合物が使用されたが、チタンやジュラルミンベースに溶射する形を取っていた。

半導体

ホウ素はケイ素ゲルマニウム炭化ケイ素などの半導体ドーパントとして用いられる。ホウ素は3つの価電子を有しているため、4つの価電子を有するケイ素のようなホスト原子中で電荷を運ぶ正孔として機能してP型半導体が形成される。古典的なホウ素のドープ方法としては、高温での原子拡散が利用されていた。このプロセスではホウ素源として固体の酸化ホウ素や液体の三臭化ホウ素、気体の三フッ化ホウ素やジボランなどを利用することができる。しかしながら1970年代以降、大部分はホウ素源として三フッ化ホウ素を利用するイオン注入法に取って代わられた[95]。三塩化ホウ素ガスもまた半導体産業において重要な化合物であるが、それはドープでなく金属および金属酸化物のプラズマエッチングのために用いられる[96]。トリエチルボランはホウ素源として化学気相成長の反応器に注入され、ホウ素を含有した硬質炭素膜やダイヤモンド膜(ダイヤモンドライクカーボン)、窒化ケイ素-窒化ホウ素膜などにおけるプラズマ堆積法に利用される[97]

磁石

ホウ素は最も強い永久磁石の一つであるネオジム磁石 (Nd2Fe14B) を構成する元素の一つであり、ネオジム磁石中のホウ素の含有量は1%ほどである。ネオジム磁石は様々な電子機器や電子デバイス、核磁気共鳴画像法 (MRI) のような医用画像処理システム、比較的小型な電動機およびアクチュエータに用いられている。例えば、ハードディスクドライブCDプレーヤーDVDプレーヤーなどにおいては、ヘッド駆動機構を小型化するためにネオジム磁石が利用される。また、携帯電話向けにスピーカーを小型化するためにもネオジム磁石が用いられる[98][99][100]

超硬度材料

ファイル:Bodyarmor.jpg
炭化ホウ素はボディアーマーの内板に用いられる

テンプレート:Main いくつかのホウ素化合物は非常に高硬度であることで知られている。炭化ホウ素および立方晶窒化ホウ素の粉末は研磨剤として広く用いられており、また金属ホウ化物は化学蒸着もしくは物理蒸着法によって被覆材として用いられる。金属および合金にホウ素イオンを導入する方法としてはイオン注入法もしくは収束イオンビームによるイオンビーム堆積法、レーザ合金化法などが利用され、その結果として表面抵抗や微小硬さが著しく増加する。このようにホウ化物に被覆された素材はダイヤモンド被覆された素材に代わるものであり、それらホウ化物の表面はバルクのホウ化物と類似した性質を有している[101]

炭化ホウ素

テンプレート:Main 炭化ホウ素は、酸化ホウ素を炭素と共に電気炉で熱分解することによって得られるセラミックス材料である。

2 B2O3 + 7 C → B4C + 6 CO

炭化ホウ素の構造はほぼB4Cのみであるものの、炭素量は化学量論比よりも明確に低い値を示す。これは炭化ホウ素の非常に複雑な構造に起因しており、炭化ホウ素はホウ素がB12クラスターとして存在しているB12C3の分子式で表される構造を取るものの、3つの炭素原子のうちの一つはホウ素原子に置換されやすいため炭素原子数の少ない単位クラスターが混在した構造となる。また、正八面構造のB6クラスターも混在しており、炭素量が少なくなる要因となる。このような構造に起因して、炭化ホウ素は単位重量当たりの構造強さに優れている。そのため、炭化ホウ素は戦車などの装甲ボディアーマーの他、多くの構造材として利用される。炭化ホウ素(特に10B)は、長寿命な放射性核種を生成することなく中性子を吸収する能力を有しているため、原子力発電所において発生する中性子線の吸収材として有用である。そのため、10B濃度を制御した炭化ホウ素が原子炉における遮蔽材や制御棒などに利用される。制御棒としての利用においてはその表面積を増やすためにしばしば粉末状で用いられ、また粉末を焼結させた円筒のペレット状でも用いられる[102][103]

ヘテロダイヤモンド (BCN)[104]および二ホウ化レニウム (ReB2)[105]の機械的性質
素材 ダイヤモンド 立方晶-BC2N 立方晶-BC5 立方晶-BN B4C ReB2
ビッカース硬さ (GPa) 115 76 71 62 38 22
破壊靭性 (MPa m1/2) 5.3 4.5 9.5 6.8 3.5

その他の超高硬度ホウ素化合物

  • ヘテロダイヤモンドはBCNとも呼ばれ、ダイヤモンドの高硬度と立方晶窒化ホウ素の優れた耐熱性を併せ持つ多結晶材料である[106]。鉄と反応しやすいダイヤモンドとは異なり鉄との反応性が低いことから研磨剤としての有用性が期待されている[107]
  • 窒化ホウ素は炭素と等電子的であり、六方晶窒化ホウ素 (h-BN) はグラファイトに類似した六角形構造を、立方晶窒化ホウ素 (c-BN) はダイヤモンドに類似した構造を取る。h-BNは高温領域で用いられる構造材や潤滑油に利用される。c-BNは優れた研磨剤として利用され、ボラゾンの商標で知られている[108]。c-BNの硬度はダイヤモンドにわずかに劣るだけであるが、化学的安定性はダイヤモンドよりも優れている。
  • 二ホウ化レニウム (ReB2) は大気圧下で容易に生産することが可能な超高硬度材料である[109]。ReB2の硬さはその六角形の層状構造に起因してかなりの異方性を示す。その硬さは炭化タングステン炭化ケイ素チタンテンプレート:仮リンクなどに匹敵する。その高硬度かつ高融点な性質から、高温領域で用いる構造材などの用途が検討されている[110]
  • ホウ化アルミニウムマグネシウム-ホウ化チタン複合材料 (AlMgB14-TiB2) は高硬度かつ耐摩耗性に優れた性質を有しており、高温や磨耗に晒される構造材のための被覆材もしくはバルクのままで利用される[111]

建築

ホウ素系薬品で処理をした古新聞紙が、「セルロースファイバー」という名称で断熱材として使用される。吸湿性を持つ天然繊維系断熱材として注目されている。ホウ素系薬品で処理することにより、撥水性、難燃性、駆虫作用が得られる。日本の大手ハウスメーカーで採用例は少ないが、アメリカでは家庭用断熱材の40%前後のシェアを占める[112]。充填工法で施工されるために、専門の吹き込み用機器が必要なこと、改築の際に壁・天井に充填されたセルロースファイバーが障害になる、吹き込み後の沈み込みの可能性、などの問題を指摘する声がある[113]

鍵の潤滑剤としても使われる。鍵穴にホウ素の粉末をスプレー注入することによって抜き差しや回転の滑りを良くするという用途がある。

原子力

ホウ素の同位体のうち 10B は非常に大きな中性子吸収断面積を持つ。この特性を生かし、原子炉内において中性子の吸収のため制御棒に使用される。化合物であるホウ酸は一次冷却水に溶かし込んで加圧水型原子炉余剰反応度制御に使われる。微量のホウ素添加を行った金属による放射性物質運搬容器も使用される。

有機化学

ホウ素の有機化学への利用はH・C・ブラウンによって系統的に研究が行われ、ブラウンはその業績によって1979年ノーベル化学賞を授与された。還元剤としての水素化ホウ素ナトリウムヒドロホウ素化は、現在でも有機合成上、盛んに利用されている。

有機ホウ素化合物は鈴木・宮浦カップリングによって多用な変換が可能なため、複雑な化合物の前駆体として利用されている。トリエチルボランは自己発火性を持つために、点火剤として使用される。

生物

植物必須元素の一つであり、98%は細胞壁に存在することから、細胞壁の合成、細胞膜の完全性の維持、の膜輸送、核酸合成、酵素の補酵素などに関係していると予想されているが、まだ解明されてはいない[114]。植物中でホウ素輸送を行う物質は2002年平成14年)に初めて同定された[115]

一方、高濃度のホウ素は植物の成長を阻害する[116]ため、土壌中のホウ素含有量が高いオーストラリア南部などでは農業が困難となっている[117]。植物の遺伝子を改変することで、ホウ素耐性を持たせる研究が進められている[118]

生物学的役割

ホウ素は主に植物の細胞壁を維持するのに必要である重要な栄養素である。土壌中におけるホウ素の欠乏は植物に対して全体的な成長障害を引き起こすが、逆に土壌中のホウ素濃度が1 ppmを越えても葉の周辺や先端の壊死といった過剰障害を引き起こす。特にホウ素に敏感な植物では土壌中のホウ素濃度が0.8 ppmを越えると同様の症状が現れることがあり、土壌中のホウ素濃度が1.8 ppmを越えるとホウ素に耐性を示すような植物を含むほとんどの植物において過剰障害の兆候が現れる。ホウ素濃度が2.0 ppmを越える土壌で正常に生育できる植物はほとんどなく、一部は生存できないこともある。植物組織中のホウ素濃度が200 ppmを越えると過剰障害の兆候が現れる[119][120][121]

ホウ素は恐らく全ての哺乳類にとって必須であると考えられているが、動物におけるホウ素の生物学的役割は良く知られていない。例えば、精製してホウ素を除去した食品を与え、空気中のチリを濾過することによってホウ素欠乏症を誘発させたラットでは体毛への影響が出ることが知られていおり、ホウ素は超微量元素としてネズミの最適な健康状態を維持するために必要である。動物におけるホウ素の摂取は広く食糧に由来しており、その必要摂取量はラットにおける試験からの推測によって非常に少量であると考えられている[122]

1989年以降、ホウ素が人間を含む動物にとって栄養素として生物学的な役割を持つのではないかという議論が起こった[123]アメリカ合衆国農務省が閉経後の女性に対して1日3 mgのホウ素を投与する実験を行った結果、ホウ素の補給がカルシウムの排出を44%抑え、エストロゲンおよびビタミンDを活性化させるという結果が示され、骨粗鬆症を抑制する可能性が示唆された。しかし、これらの影響が栄養素としての効果なのか医薬品としての効果なのかということは判別できなかった。アメリカ合衆国国立衛生研究所は「正常なヒトの食事におけるホウ素の1日当たりの総摂取量の範囲は2.1から4.3 mgである」と述べた[124][125]

角膜ジストロフィーの珍しい型であるテンプレート:仮リンク2型は、ホウ素の細胞内濃度を調整している輸送体をコード化するテンプレート:仮リンク遺伝子における突然変異と関連している[126]。しかし、2013年のDiego G. Ogandoらの報告によればSLC4A11とホウ素輸送の関係は否定されており、SLC4A11はNa+-OH(H+)およびNH4+に対する透過性を持った輸送体であるとされている[127]

健康問題と毒性

単体ホウ素、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸塩および多くの有機ホウ素化合物はヒトおよび動物にとっては食塩と同程度に無毒である。動物に対する半数致死量 (LD50) は体重1キロ当たりおよそ6 gであり、LD50が体重1キロ当たり2 g以上となる物質は一般に無毒であるとされている。ヒトに対する最小致死量ははっきりとしていない。事件を除く1日4 gのホウ酸の摂取は報告されているが、それを超える量の摂取では有毒であると考えられている。50日間継続して1日0.5 g以上のホウ酸を摂取すると下痢など消化器系の不良が生じ、他の毒性も示唆される[128]中性子捕捉療法のために行われるホウ酸20 gの単回投与では、著しい他の毒性が生じることなく使用されている。魚類は飽和ホウ酸溶液中で30分間生存することができ、ホウ酸ナトリウム溶液中ではより長く生存できる[129]。ホウ酸は、昆虫に対しては動物に対してよりも毒性が強く、通常殺虫剤として利用される[130]

ボランのような水素化ホウ素やそれに類似したガス状の化合物は毒性を示す。ホウ素自体は他の単体ホウ素やホウ素化合物と同様に本質的には有毒ではないが、その毒性は化学構造に起因する[6][7]

ボランは可燃性かつ有毒であるため、取り扱いには特別な操作が必要となる。水素化ホウ素ナトリウムは強い還元性を持つ物質であるため、水や酸、酸化剤などと反応して火災や爆発を起こす危険性がある[131]。ハロゲン化ホウ素は腐食性を有する[132]

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

和書

洋書

関連項目

テンプレート:Sister

テンプレート:元素周期表

テンプレート:ホウ素の化合物テンプレート:Link GA
  1. テンプレート:Cite web
  2. テンプレート:Cite book
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 斉藤 (1965) 4頁。
  4. 斉藤 (1965) 3-4頁。
  5. テンプレート:Cite web
  6. 6.0 6.1 テンプレート:Cite book
  7. 7.0 7.1 テンプレート:Cite web
  8. Hildebrand, G. H. (1982) "Borax Pioneer: Francis Marion Smith." San Diego: Howell-North Books. p. 267 ISBN 0-8310-7148-6
  9. 9.0 9.1 Gay Lussac, J.L. and Thenard, L.J. (1808) "Sur la décomposition et la recomposition de l'acide boracique," Annales de chimie [later: Annales de chemie et de physique], vol. 68, pp. 169–174.
  10. 10.0 10.1 テンプレート:Cite journal
  11. テンプレート:Cite book
  12. ベルセリウスはホウフッ化塩の還元、特にホウフッ化カリウムを金属カリウムとともに加熱することでホウ素を合成した。以下を参照のこと。Berzelius, J. (1824) "Undersökning af flusspatssyran och dess märkvärdigaste föreningar" (Part 2) (Investigation of hydrofluoric acid and of its most noteworthy compounds), Kongliga Vetenskaps-Academiens Handlingar (Proceedings of the Royal Science Academy), vol. 12, pp. 46–98; 特にpp. 88ff. Reprinted in German as: Berzelius, J. J. (1824) "Untersuchungen über die Flußspathsäure und deren merkwürdigste Verbindungen", Poggendorff's Annalen der Physik und Chemie, vol. 78, pages 113–150.
  13. テンプレート:Cite journal
  14. 14.0 14.1 テンプレート:Cite journal
  15. テンプレート:Cite journal
  16. 斉藤 (1965) 5頁。
  17. 村上 (2004) 70頁。
  18. 18.0 18.1 18.2 テンプレート:Cite web
  19. 19.0 19.1 テンプレート:Cite web
  20. 宇野、木村 (2008) 11頁。
  21. コットン、ウィルキンソン (1987)、286頁。
  22. コットン、ウィルキンソン (1987)、285頁。
  23. 櫻井、鈴木、中尾 (2003)、33頁。
  24. 白井 (2008) 43頁。
  25. 25.0 25.1 25.2 25.3 25.4 テンプレート:Cite book
  26. コットン、ウィルキンソン (1987)、286-287頁。
  27. コットン、ウィルキンソン (1987)、292頁。
  28. テンプレート:Cite web
  29. テンプレート:Cite journal
  30. テンプレート:Cite book
  31. 斉藤 (1965) 167頁。
  32. コットン、ウィルキンソン (1987)、289頁。
  33. 斉藤 (1965) 167-168頁。
  34. コットン、ウィルキンソン (1987)、290頁。
  35. 斉藤 (1965) 177頁。
  36. 36.0 36.1 テンプレート:Cite web
  37. 斉藤 (1965) 181頁。
  38. テンプレート:Cite journal
  39. 39.0 39.1 コットン、ウィルキンソン (1987)、316-319頁。
  40. 斉藤 (1965) 134頁。
  41. コットン、ウィルキンソン (1987)、289頁。
  42. テンプレート:Cite encyclopedia
  43. 43.0 43.1 テンプレート:Cite journal
  44. テンプレート:Cite journal
  45. テンプレート:Cite journal
  46. テンプレート:Cite journal
  47. テンプレート:Cite journal
  48. テンプレート:Cite journal
  49. 49.0 49.1 49.2 テンプレート:Cite journal
  50. テンプレート:Cite journal
  51. テンプレート:Cite book
  52. テンプレート:Cite book
  53. テンプレート:Cite journal
  54. テンプレート:Cite journal
  55. テンプレート:Cite book
  56. 56.0 56.1 56.2 56.3 56.4 テンプレート:Cite web
  57. テンプレート:Cite web
  58. 日本工業規格 JIS K 8863、JIS H 0102
  59. 59.0 59.1 59.2 テンプレート:Cite journal
  60. 60.0 60.1 日本工業規格 JIS G 1227 附属書1
  61. 日本工業規格 JIS G 1227 附属書2-5
  62. テンプレート:Cite book
  63. テンプレート:Cite web
  64. 日本工業規格 JIS G 1227 附属書5
  65. テンプレート:Cite journal
  66. 斉藤 (1965) 7頁。
  67. 斉藤 (1965) 17、21頁。
  68. 斉藤 (1965) 10-13、15頁。
  69. 斉藤 (1965) 25頁。
  70. テンプレート:Cite journal
  71. テンプレート:Cite journal
  72. 72.0 72.1 テンプレート:Cite web
  73. テンプレート:Cite web
  74. テンプレート:Cite web
  75. テンプレート:Cite web
  76. テンプレート:Cite web
  77. テンプレート:Cite journal
  78. テンプレート:Cite journal
  79. テンプレート:Cite journal
  80. テンプレート:Cite book
  81. 斉藤 (1965) 64頁。
  82. 宍戸、岡田 (2008) 156頁。
  83. テンプレート:Cite journal
  84. テンプレート:Cite web
  85. 85.0 85.1 テンプレート:Cite book
  86. テンプレート:Cite web
  87. テンプレート:Cite web
  88. 88.0 88.1 テンプレート:Cite web
  89. テンプレート:Cite book
  90. テンプレート:Cite web
  91. テンプレート:Cite journal
  92. テンプレート:Cite journal
  93. テンプレート:Cite journal
  94. 井上敏也 監修『レコードとレコード・プレーヤー』ラジオ技術社、1979年昭和54年)においてカンチレバーの素材として紹介されている。
  95. テンプレート:Cite book
  96. テンプレート:Cite book
  97. テンプレート:Cite book
  98. テンプレート:Cite journal
  99. テンプレート:Cite journal
  100. テンプレート:Cite web
  101. テンプレート:Cite book
  102. テンプレート:Cite web
  103. テンプレート:Cite book
  104. テンプレート:Cite journal
  105. テンプレート:Cite journal
  106. テンプレート:Cite journal
  107. テンプレート:Cite web
  108. テンプレート:Cite journal
  109. テンプレート:Cite web
  110. 公開特許公報 H10-251095、科学技術庁無機材質研究所、"二ホウ化レニウム単結晶の製造方法"
  111. テンプレート:Cite journal
  112. 山本順三「無垢材・無暖房の家―断熱・防音・透湿!奇跡の工法」ISBN 4778201167
  113. 西方里見『最高の断熱・エコ住宅をつくる方法』 ISBN 4767809517
  114. 京都大学農学部植物栄養学研究室
  115. http://jstshingi.jp/abst/p/07/jst/05/0504.pdf
  116. Ross O. Nable, Gary S. Bañuelos, Jeffrey G. Paull, "Boron toxicity", Plant Soil 193, 181-193 (1997). テンプレート:Doi
  117. http://www.dwlbc.sa.gov.au/land/topics/rootzone/boron.html
  118. Kyoko Miwa, Junpei Takano, Hiroyuki Omori, Motoaki Seki, Kazuo Shinozaki, Toru Fujiwara, "Plants Tolerant of High Boron Levels", Science 318, 1417 (2007). テンプレート:Doi
  119. テンプレート:Cite news
  120. テンプレート:Cite web
  121. テンプレート:Cite journal
  122. テンプレート:Cite journal
  123. テンプレート:Cite web
  124. テンプレート:Cite journal
  125. テンプレート:Cite book
  126. テンプレート:Cite journal
  127. テンプレート:Cite journal
  128. テンプレート:Cite journal
  129. テンプレート:Cite book
  130. テンプレート:Cite journal
  131. テンプレート:Cite web
  132. テンプレート:Cite web