フィットネス

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ジョギングをする人たち(ニューヨーク、セントラルパーク)

フィットネス健康の維持、増進を目的とした運動

語源

英語の "fitness" には「適合」のほかに「健康であること」の意味もある。活き活きと生活できることを指すこともあり、医学書においては身体の状態を意味することもある。 一方で、"fitness convention" で各種の運動プログラムが紹介されていることから[注 1]、米国においても "fitness" が健康のための運動を指すことが多いようである。

また、英語の "physical fitness"「体力」と訳される。「体力」は単に筋力や持久力のみを指すのではなく、柔軟性や平衡性や敏捷性そして防衛体力(細菌や環境ストレスから自身を守る能力=抵抗力/免疫力)をも含む。

"health related physical fitness" すなわち健康に関連する体力は体組成(体脂肪率)、心肺機能、筋力・筋持久力、柔軟性をいう[1]。一般的に、「フィットネス」の目的は "health related physical fitness" を高めることである。

フィットネスの必要性

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ジョギングを行うジミー・カーター

身体活動量の少ない生活は心身の状態を悪くし病気を発生しやすくするが、適度な運動により心身を良好な状態にすることができる。身体活動量が不足すると心臓疾患高血圧動脈硬化自律神経不安定症候群などがおきやすくなるが、定期的な運動によりこれを防ぐことができる。

日本では戦後、感染症が激減し同時に乳児の死亡率も低下して長寿国家となったが、一方で生活習慣病による死亡が増加してきた。また、高齢化社会の到来、国民医療費の増加も社会問題となっている[2]。今日、運動すなわちフィットネスによる健康の回復、維持、増進は個々人にとっても社会にとっても重要である。

定期的な運動の効果

身体活動の多い生活の健康に対する効果は、定期的な持久性トレーニング(すなわち有酸素運動)の効果でもある。それは、

  • 心肺機能の改善
  • 冠動脈疾患の危険性の減少
  • 慢性疾患の発症率低下。

さらに、精神面での効果すなわち不安感や抑うつ感を軽減する作用も指摘されている(詳しくは有酸素運動のページを参照)。 健康に近づくためのキーポイントは心肺機能と体脂肪率の改善とされており[3]、有酸素運動はフィットネスの重要な要素である。

加えて、近年では筋力の改善も重要視されている。筋力トレーニングによる筋力・筋持久力の維持・増加はQOL[注 2]の維持につながる。例えば、高齢者の転倒事故防止のために下肢の筋力トレーニングが有効とされている。高齢者の転倒事故は足が十分に上がらず段差などにつまづくことが原因であるため、筋力をつけて事故を防止するというものである。

ストレッチなどの柔軟性トレーニングは筋肉の柔軟性を高め関節の可動域を広げ、障害防止に役立つ。

一方で運動にはリスクがあることは否定できないが、統計によれば運動によるリスクはきわめて低い[4]。 健康に対する効果と考え合わせると、定期的な運動は健康によいといえる。

フィットネスの実施方法

フィットネスすなわち健康のための運動に決まった形はない。自宅周辺をウォーキングする。近隣のスポーツクラブで泳いだり水中ウォーキングをしたり、エアロビクスダンスを楽しむ。自宅でヨガを行うなど、自分の環境や興味に合わせてさまざまな方法が選択できる。

安全かつ効果的にフィットネスを行うために、専門資格を持った指導員(インストラクター)のいる、スポーツクラブ等でトレーニング・メニューを作ってもらい、個々の能力に合ったアドバイスを受けることもひとつの方法である。

外見をシェイプアップするだけでなく、本来の意味である健康を回復・増進・維持するために、生活習慣として継続することが望ましい。

実施にあたっての注意点

健康スクリーニング

定期的な運動を開始するにあたっては、安全のため健康スクリーニング[注 3]行うべきである。統計上、運動のリスクが低いとはいえ、個々人についてはリスクの高い人もおり中には運動を控えるべきケースもある。単に整形外科的障害の有無をたしかめるだけではなく、胸の痛みやめまい、失神といった心血管疾患や肺疾患の徴候・症状の有無、年齢的に激しい運動が可能であるかについても注意が必要である。

健康スクリーニングの方法はさまざまである。民間のスポーツクラブでみられる質問票による方法もそのひとつである。可能ならば以下についてもチェックすることが勧められる。

  • 冠動脈疾患の危険因子がないか(高血圧、喫煙の習慣、高コレステロール血症など)
  • 心血管疾患、肺疾患あるいは代謝性疾患[注 4]の徴候、症状がないか

適切な運動量を守る

過剰な運動は健康を損なう。運動量が多すぎると

  • カゼや気管支炎にかかりやすくなる[5]
  • 運動性貧血をおこしやすい[5]
  • 同じ部位を繰り返し使うことにより炎症や疲労骨折をおこす

などのデメリットがある。 健康のための有酸素運動は1回1時間程度まで週5回まで[5]筋力トレーニングは同じ部位のトレーニングは間に1日以上あけるのがよい。

水分補給と服装

水分補給はこまめに行うのがよい。古くは運動中は水を飲まないほうがよいとされていたが、近年では考え方が逆になっている。軽い脱水症状でも運動能力が低下する上[6]、気温が高い場合は重大な事故に至りうる。

運動中は体温が上昇するが、周囲の気温や湿度が高いと熱をうまく放出できず熱中症を起こす。運動前と運動中に水分補給を行う、熱を逃がしやすい服装を選択する、気温や湿度が高すぎる場合は運動を中止するなどの配慮が必要である。

逆に気温が低い場合は、重ね着しすぎによる体温上昇と、運動終了後に体温を奪われることに注意しなければならない[7]

交通安全

屋外でウォーキングやジョギングなどを行う場合は、交通事故にあわぬよう注意が必要である。特に夜間は自動車から見えにくいため、運転手が視認しやすいよう反射材が使用してあるウエアやシューズ、夜間でも目立つ色合いのウエアなどを選択するよう、各方面から呼びかけが行われている。

近年の動向

公営のスポーツ施設や民間のスポーツクラブなどフィットネスのための施設では、筋肉トレーニング水泳エアロビクスダンスランニングウォーキング等の一般的な運動から、パワーヨガボクシングカンフーなどのちょっと変わったものまで、さまざまな運動メニューが用意されている。身体の健康を実現するためには、ストレス解消やリラクセーションなど精神的な要素も重要であることが認識されてきたため、ヨガなどが人気を集めているのが近年の特徴である。

注釈

  1. 米国西海岸で毎年開催されるIDEA World Fitness Conventionが有名。
  2. Quality Of Life (生活の質)
  3. 英語のscreenには資格審査を行うという意味がある。(ここでいう)健康スクリーニングは、運動を行っても問題がないか健康チェックをおこなうこと。
  4. 糖尿病(1型、2型)、甲状腺疾患、腎臓疾患、肝臓疾患

出典

  1. アメリカスポーツ医学会『運動処方の指針』原著第6版 日本体力医学会体力科学編集委員会監訳、南江堂、2001年、54頁
  2. 小沢治夫・西端泉 『Fitness Handy Notes 30』補訂版 (社)日本エアロビックフィットネス協会、2001年、1-2頁
  3. アメリカスポーツ医学会『運動処方の指針』原著第6版 日本体力医学会体力科学編集委員会監訳、南江堂、2001年、134頁
  4. アメリカスポーツ医学会『運動処方の指針』原著第6版 日本体力医学会体力科学編集委員会監訳、南江堂、2001年、6頁-8頁
  5. 5.0 5.1 5.2 小沢治夫・西端泉 『Fitness Handy Notes 30』補訂版 (社)日本エアロビックフィットネス協会、2001年、133頁
  6. アメリカスポーツ医学会『運動処方の指針』原著第6版 日本体力医学会体力科学編集委員会監訳、南江堂、2001年、312頁
  7. アメリカスポーツ医学会『運動処方の指針』原著第6版 日本体力医学会体力科学編集委員会監訳、南江堂、2001年、315頁

関連項目