ファンタジー

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ファンタジーテンプレート:Lang-en-short)とは、魔法やその他の超自然的幻想的・空想的な事物をプロット・主題・設定などの主要な要素とした作品が属するジャンルである。

このジャンルの作品の多くは、魔法が一般的な存在となっている架空の世界や惑星を舞台としている。ファンタジーはサイエンス・フィクションホラーとは科学のテーマを避けることで概ね区別されるが、これらには互いに重なる部分も多い(いずれもスペキュレイティブ・フィクションの一種である)。

狭義においてはジャンルとしてのファンタジーは、とりわけJ・R・R・トールキンの『指輪物語』の世界的な成功の後、中世風の形式が支配的となった。しかしながらより広い意味での大衆文化などのファンタジーは、古代の神話伝説から、今日世界中で愛好されている近年の作品までの幅広い作家、芸術家、ゲームクリエイター、映画監督、音楽家などの作品を含む。

ファンタジーの定義

ファンタジーの定義は曖昧だが、弁別的な特質として、作品内に魔法などの空想的な要素が(現実的には有り得なくとも[1])内部的には矛盾なく一貫性を持った設定として導入されており、そこでは神話や伝承などから得られた着想が一貫した主題となっていることが挙げられる[2]。 そのような構造の中で、ファンタジー的な要素はどのような位置にあっても構わない。隠されていても、表面上は普通の世界設定の中に漏れ出す形でも、ファンタジー的な世界に人物を引き込む形でも、そのような要素が世界の一部となっているファンタジー世界の中で全てが起こる形でもありうる[3]

サイエンス・フィクション(SF)との対比で言うと、SFでは世界設定や物語の展開において自然科学法則が重要な役割を果たすのに対し、ファンタジーでは空想や象徴、魔術が重要な役割を果たす。ただし、SF作品においても、現実世界には存在しない科学法則を仮定し、それに基づいた世界や社会を描く試みがその歴史の初期から存在すること、逆にファンタジー作品においても錬金術魔法などに体系的な説明が用意されている場合があること、など、両者の線引きを困難にするようなケースがある。また執筆当時にそのような分類がなされていたかは別にして、SFとファンタジー双方の作品を発表する作家が居る事もあり、SFとファンタジー両方の性質を併せ持った境界線上の作品(SFファンタジー)も多数発表されている。

ファンタジーの定義を広く「仮想の設定のもとに世界を構築する作品」とし、SFをサイエンス・ファンタジーとしてファンタジーに含ませる考え方もある。SFとファンタジー双方の作品を発表する作家であるアン・マキャフリィなどは、SFはファンタジーのサブジャンルであると度々語っている。

また逆に、近代文学におけるファンタジーの形成と再評価の相当な部分、特にパルプ雑誌に代表される(児童文学に分類されない)大人向けの部分の多くが、先行して市場が形成されていたサイエンス・フィクション市場の枠内で行われてきたという歴史的な経緯から、ファンタジーをSFの有力な一分派とする考え方もある。サイエンス・フィクション研究家であるフォレスト・アッカーマンやSF作家でSF史の著書もあるブライアン・オールディスなどもこの見解である。

どちらも極論ではあるが、この両者は明確な境界が存在し得ない程近しい関係にあるとは言えるだろう。これらを包括した呼称として「スペキュレイティブ・フィクション」がある。

なお、ファンタジー的(幻想的)を意味する英語の形容詞は「ファンタスティック」(fantastic)であり、日本で時として使われる「ファンタジック」というカタカナ言葉は本来の英語では誤りとなる和製英語である[4]

児童文学においては、主人公が異世界と行き来するものをファンタジー、主人公がもともとその世界の住人であるものをメルヘンと分類している。

ファンタジーの特徴

ファンタジーの特徴として語彙や用語にこだわる形式主義の点がある。架空の設定に一貫性と堅牢な構造を持たせ、複雑な思想を伝えるために選択された歴史を持つ。例えば、日本の児童文学研究者である石井桃子は『子どもと文学』(1960)のファンタジーの章においてこの点を指摘している。

同時に外観から思想や宗教寄りの傾向が批判されている。例えはフィリップ・プルマン(Philip Pullman、1946 - )やJ・K・ローリング(JK Rowling、1965 - )は1950年代の『ナルニア国ものがたり』(1950-1952)に対して作中のキリスト教的ドグマへの強い批判を行っている。今日の文芸に対しては迂遠な思想よりも現実の社会が有する問題へ個人がどう対応するか示唆が求められている。

ここから形式主義を利用した新しい作り手たちは、現実と思想の両方の受容により問題へ対応する弁証機能を作品の主題にしており、これに対しては作品自体が大人である作者の方法論に終始している、さらにミーイズムへ深化しているとの批判がある。作家のさねとうあきらは「超激暗爆笑鼎談・何だ難だ!児童文学」(2000年 星雲社)でファンタジーの「不連続性」を指摘している。

文学におけるファンタジー

ファンタジーの源流

文学史の中にファンタジーの起源を求めると、民族原初の神話伝説に行き着く。『ギルガメシュ叙事詩』、『マハーバーラタ』、『ラーマーヤナ』、『デーンカルド』、『ブンダヒシュン』、『ナルト叙事詩』、『山海経』、『聖書』、『古事記』、『ベーオウルフ』、『イーリアス』、アーサー王伝説群など古代の書物に描かれた数々の天地創造の起源譚や英雄物語は、現代のあらゆるファンタジー作品にまで連なっている。

そして、これらの神話伝説を素材として編まれた、数々の文学作品がファンタジーへの流れを形成する。一方にはイソップ童話のような童話から児童文学につながる流れがあり、他方にはダンテの『神曲』やミルトンの『失楽園』といった教養人たちの文学なども、ファンタジーの先駆的作品とみなすこともできよう。

また、18世紀、イギリス最初の小説の1つといわれる『ロビンソン・クルーソー』に触発され書かれたジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』は、独自の世界観や政治的風刺とも読める内容など、その後優れた作家を多数輩出することになる英国ファンタジーの先駆的な作品として後世に多大な影響を与えている。

近代文学におけるファンタジーは、19世紀から20世紀初頭にかけて隆盛を誇ったリアリズム文学に対するアンチ・テーゼとして出発している。テンプレート:要検証すなわち、小説世界のルールは現実世界に順じ現実の一コマとして存在しうる物語であるというリアリズム文学に対し、小説世界のルールを小説世界で規定し現実にはありえない物語をファンタジー文学と呼んだのである。

最初期のファンタジーは、主に児童文学の領域にみられる。すなわちチャールズ・キングスレイ『水の子 陸の子のためのおとぎばなし』(1863年)やルイス・キャロル不思議の国のアリス』(1865年)などである。これらは、既に単に子供向けではない大人向けの含蓄が含まれる点で、初期ファンタジー文学としての形質が見られる。その後の流れとしては、ライマン・フランク・ボームオズの魔法使い』(1900年)、ジェームス・マシュー・バリーピーター・パンとウェンディ』(1911年)、パメラ・トラバース風にのってきたメアリー・ポピンズ』(1934年)などが挙げられる。これらもファンタジー文学、児童文学両方の扱いがなされる。

やがてファンタジーは児童文学の一分野として扱われながらも、次第に対象を大人にも広げて行き、またサイエンス・フィクションとも相互に影響しあって発展していく。児童文学に分類されない、大人向けのファンタジーとしてはロバート・ネイサンジェニーの肖像』(1939年)や、ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』(1963年)などが代表作として挙げられる。ただしこの両作品はサイエンス・フィクションの時間テーマものの傑作としても扱われており、ファンタジー文学、SFの両方の扱いがなされる作品でもある。

近代ファンタジーの形成

児童文学に分類されない近代ファンタジーの形成は、ファンタジーの定義の解釈によって諸説はあるものの、狭義のファンタジーとしては1920年代から1940年代にかけて隆盛を誇ったパルプ雑誌を嚆矢とすることができる。特に通常はSFとファンタジーとの境界作品的な存在であるため、そのどちらにも分類されるエドガー・ライス・バローズ火星シリーズ(第1作「火星のプリンセス」は1912年に原型が発表され1917年に完成)、ロバート・E・ハワードによるヒロイック・ファンタジーの最初の完成型とも言われる英雄コナンシリーズ(1932年に第一作発表)がこの時代の代表作であり、同時にJ・R・R・トールキン以前の近代ファンタジー文学の1つの典型と言える。

なお、ハワードは多数の模倣者を生み出したことでも知られ、ハワードとその有象無象の模倣者たちはヒロイック・ファンタジーや同時代に隆盛を誇ったスペース・オペラなどの形成に大きな役割を果たしている。

同時期の特筆すべき事項としては、1923年創刊のパルプ雑誌ウィアード・テールズ」誌、同じく1939年創刊の「アンノウン」誌の2雑誌の存在である。「ウィアード・テールズ」はホラー文学に、「アンノウン」はサイエンス・フィクションに近い雑誌ではあるものの、ファンタジー的な要素も強く、トールキン以前の近代ファンタジーの形成には無視できない存在となっている。

付け加えるなら、近代ファンタジー形成の黎明期である1910年代からパルプ雑誌の市場が事実上消滅する第二次世界大戦の直前までの期間においては、市場的にもファンタジーというジャンルは黎明期であったと言える。例えば、児童文学に分類されない大人向けのファンタジー作品を専門に紹介するパルプ雑誌は事実上存在していない(ただし「ウィアード・テールズ」を一応の例外と考えることは可能で、同雑誌を世界最初のファンタジー専門パルプ雑誌とみなす場合もある)。この時代のファンタジー作品は、事実上ホラー文学やウィアード・メナスと呼ばれる当時隆盛を誇っていた怪人もの、そして、サイエンス・フィクションの市場の中で発表されており、市場としてもジャンルとしても独立した存在と認知されるのは1930年代末期に前述の「アンノウン」誌や「Fantastic Adventures」誌などが創刊したあたりからである。ただし、認知されたとは言っても限定的なもので、特に一般層への認知度は現代とは比べ物にならない程低かった。事実、後述するトールキンの諸作品の登場後ですらも、バローズやハワードの諸作品はSF冒険小説に分類されていたし、「ジェニーの肖像」も発表当時はSFに含まれるべきものとされていた。

近代ファンタジーの転機

このような近代ファンタジー文学の一大転機となったのは、やはりJ・R・R・トールキンによる『指輪物語』(1954年刊行。ただし、執筆されたのは1937年から1949年)であろう。彼の作品は後のファンタジー作家に多大な影響を与え、以降「トールキン様式」にならった多数の剣と魔法の小説作品が書かれることとなった。「トールキン様式」の影響は、ファンタジー文学のみならず『ダンジョンズ&ドラゴンズ』などのロールプレイングゲームや映画『スター・ウォーズ』シリーズなど他の表現形式にも及んでいる。ただしその評価と後に与えた影響は、英国・欧州と合衆国ではかなり異なっている。

まず、英国や欧州では、トールキンの「リアリズム文学へのアンチテーゼ」という第二者的な立場から脱却した「神話の構築」という独自の立脚点による作風や高い文学性、言語学者としての専門知識を駆使して架空の神話から人工言語まで編み出し、極めて綿密に世界を構築した作品を創作しているという点などが非常に高く評価されている。この点で、トールキンは従来のファンタジー作家とは一線を画す存在である。

なお学者がその専門知識をもって綿密な世界観を構築した類例としては、トールキンの元同僚でもある宗教学C.S.ルイスの『ナルニア国ものがたり』シリーズ (1950年 - 1956年) や、文化人類学上橋菜穂子『守り人』シリーズ1996年 -)などがある。またそこまではいかずとも、トールキンの作品に近い傾向の作品を「ハイ・ファンタジー」と呼ぶこともある。

ただしトールキン以前に(それがファンタジーというジャンルだとは認識されていなかったものの)相応の規模を持つ大人向けのファンタジー文学の市場が形成されていた合衆国においては、事情が異なる。

合衆国ではその文学性や綿密な世界観は非常に高く評価され、後にトールキン様式の作品も多数産み出されはするものの、「神話の構築」という視点は戦前のロバート・E・ハワードの時点で既に形成されていたため、その点が評価されることは稀であった(これは指輪物語のブームに乗る形で戦前のファンタジー作品がペーパーバックとして多数復刊され、並列する形で紹介されたことも原因の一つと言えるだろう)。多数の模倣者が存在したと言う点についても同様である。また「リアリズム文学へのアンチテーゼ」という立脚点についても、英国や欧州ではそのような議論は正しいにせよ、ファンタジーの形成当初より「神話を持たない民」であるアメリカ人のための「人造の神話」としての性格が強かった合衆国では、そもそもファンタジーが第二者的な立場の作品であるという意識自体が存在しないか、存在してもきわめて希薄であったようだ。

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フィールド・オブ・ドリームス』の野球場。ファンタジーの舞台は中世風には限らない

これらの事情の差は、サイエンス・フィクションがファンタジーの要素を融合させた作品を多数送り出す1960年代から1970年代にかけ英国・欧州と合衆国との交流が進む過程で希薄化され、1980年代中盤には両者の姿勢にそれほどの差は見られなくなっている。

一方、トールキン様式ではないファンタジーも根強い人気があり、トールキン以後も、W・P・キンセラ『シューレス・ジョー』(1982年)などがファンタジーの傑作として映画化(「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年))されるなどしている。また、J・K・ローリングの『ハリー・ポッター』(1997年 - ) は、現代のイギリスを舞台に現実空間のすぐそばに魔法の通用する仮想空間を置くことで、リアリズム文学とファンタジー文学との融合を図る独特の作風を持ち、世界的なベストセラーとなっている。

ファンタジーの舞台

ファンタジー作品の舞台となる場所や時代は様々である。一例として中世ヨーロッパ、オリエントや古代日本、中華帝国など、各地各時代の神話伝説の世界を背景世界とした作品が挙げられるが、(作品が創作された時点での)現代や、全く架空の世界を舞台にした作品も多く存在する。

特に日本に於いて、狭義の「ファンタジー」というジャンルは中世ヨーロッパ風の世界で繰り広げられる物語を表すことがある。時代背景・小道具・登場人物の振る舞いなどは現実の中世ヨーロッパをモチーフとしているが、中世ヨーロッパの人々が抱いていたと想像される神話や伝説、キリスト教に基づく世界観を、直接あるいは間接的に世界設定やストーリー構造に取り入れているのが特徴である。よく題材として扱われる要素として、ドラゴン)や妖精を代表とする各種の怪物、騎士、魔法、王家、囚われの姫君の救出、立身出世、などが挙げられる。いわゆる「剣と魔法の世界」がこれに当たる。

しかし一方で日本の中世風ファンタジーには、「中世風」を謳いつつも世界設定において明らかに中世欧州には存在しなかった、もしくは一般的ではなかった概念が用いられる事も少なくない。一例としては、貴族を完全に従え、王国の隅々にまで支配権を行き渡らせる君主という存在が挙げられる。実際の中世欧州での王権は極めて弱く、また領土統治も封建制に立脚した地方分権が基本であった。王権が強化され君主による中央集権的な統治が始るのは、封建制が崩壊し、有力貴族が力を失った近世以降の絶対王政時代の事である。また戦争で用いる武具に関してもプレートアーマーを身に着けた兵士が主となって争い戦う姿が散見されるが、プレートアーマーが普及するのは近世以降であり中世の兵士はレザーアーマーチェインメイルが一般的である。他にも騎士団に対する認識など、後の時代の要素や誤った概念(あるいは製作者側の完全な創作)を含んでいながら、それを「中世風ファンタジー」として一纏めにしてしまっている事が、結果として中世欧州に対する誤った認識を与える結果を生んでいると言えよう。

ただこうした誤解には単なる製作者側の知識不足(中世と近世を区別していないこと)だけでなく、中世と明記されていながらそれを現実の中世としてステレオタイプ的に捉えてしまう、いわば受け取る側の問題や、時代の区分法における中世があまりに広い範囲(最大で1400年)を指す用語であり、中世の様相が一定でないという歴史学上の問題点も存在すると考えられる。

ファンタジーの下位ジャンル

前述の通り、ファンタジーはかなり性格の異なる複数の作品群が含まれており、それらは下位ジャンルを形成している。こういった下位ジャンルについては、実はそれほど明確に分けられるものではなく、学術的に確立しているわけでもない。とは言え、ある程度は名称や分類が定着しているものである。これらを以下に挙げる。

それぞれの下位ジャンルについては、個別の記事を参照されたい。

代表的な作品

日本以外の作品

他多数

日本の作品

小説作品

他多数

ゲーム作品

他多数

漫画作品 テンプレート:Main

アニメ作品

他多数

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

参考文献

  • 石堂藍 『ファンタジー・ブックガイド』 国書刊行会 2003年12月 ISBN 978-4-336-04564-5
  • 風間賢二 『きみがアリスで、ぼくがピーター・パンだったころ―おとなが読むファンタジー・ガイド』 ナナ・コーポレート・コミュニケーション 2002年7月 ISBN 978-4-901491-08-2
  • いするぎりょうこ 『ファンタジーノベルズガイド』 新紀元社 1992年7月 ISBN 978-4-88317-214-6
  • 脇明子 『魔法ファンタジーの世界』 岩波新書 2006年5月 ISBN 978-4-00-431020-4

関連項目

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外部リンク

テンプレート:Fantasy fiction
  1. Diana Waggoner, The Hills of Faraway: A Guide to Fantasy, p 10, 0-689-10846-X
  2. John Grant and en:John CluteJohn Clute, The Encyclopedia of Fantasy, "Fantasy", p 338 ISBN 0-312-19869-8
  3. Jane Langton, "The Weak Place in the Cloth" p163-180, Fantasists on Fantasy, ed. Robert H. Boyer and Kenneth J. Zahorski, ISBN 0-380-86553-X
  4. 大辞林三省堂)より