ハンス・クリスティアン・エルステッド

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テンプレート:Infobox scientist ハンス・クリスティアン・エルステッド(Hans Christian Ørsted:1777年8月14日 - 1851年3月9日)はデンマーク物理学者化学者である。電流磁場を形成することを発見し、電磁気学の基礎を築いた。カント哲学の信奉者であり、19世紀後半の科学の方向性を決定付けた1人である[1]

1824年、Selskabet for Naturlærens Udbredelse (SNU) すなわち自然科学普及協会を創設。Danish Meteorological Institute やデンマーク特許庁などの組織の前身となった団体の創設にも関わった。また、思考実験という観念を明確に述べた最初の近代人でもある。

いわゆるデンマーク黄金時代のリーダーの1人とされ、ハンス・クリスチャン・アンデルセンとは親友だった。弟のアナス・エルステッド(Anders Sandøe Ørsted)は政治家となり、1853年から1854年までデンマーク首相を務めた。

彼の名は、磁場CGS単位エルステッド (Oe) として残っている。

前半生

ファイル:Hans Christian Ørsted som ung.jpg
若いころのエルステッド

ランゲラン島のルードコービングに生まれた。父は薬局を営んでおり、父の仕事を手伝いながら科学への興味を育んだ[2]。教育そのものはほとんど独学であり、1796年にコペンハーゲンに行きコペンハーゲン大学の入学試験をうけ、飛びぬけた優秀さで入学した。1796年には美学物理学の論文が賞を受賞している。1799年、イマヌエル・カントの哲学を扱った論文 "The Architectonicks of Natural Metaphysics" で博士号を取得した。

1801年、エルステッドは奨学金と助成金を得た。そこで、3年かけてヨーロッパ各地をめぐる旅をしている。ドイツでは、電気磁気には関係があると信じている物理学者ヨハン・ヴィルヘルム・リッターと出会った。エルステッドはそれ以前からカント哲学流の自然の単一性や自然現象の間の深い関連を信じていたため、リッターの考えは納得できるものだった[2]

リッターとの対話からエルステッドは物理学の研究に入っていく。1806年コペンハーゲン大学の物理学教授になり、電流や音響についての研究を進めた。エルステッドの指揮の下で、同大学では物理学と化学の総合的な教育プログラムを作り、新たな研究室も創設した。

電磁気

ファイル:Statue of Hans Christian Øersted, Øerstedsparken, Copenhagen.jpg
コペンハーゲンの公園にあるエルステッド像

1820年4月21日、講義中に実験器具をいじっていたエルステッドは、電池のスイッチを入れたり切ったりするとそばに置いた方位磁針が北でない方角を指すことに気づいた。これが電気と磁気の直接的関係を示す最初の証拠となった[3]。当初彼は、導線に電流が流れるとき、光や熱のように磁気的効果が導線の周囲に放射されると解釈した。その3カ月後により集中的な研究を開始し、間もなく電流の流れる導線の周囲に円形の磁場が形成されるという発見を公表した。この発見は単なる幸運というわけではなく、エルステッドは数年前から電気と磁気の関係を示す証拠を探していた。その現象の特殊な対称性が発見を遅らせた一因とも言える[4]

電流の磁気作用の発見についてはイタリアのジャン・ドメニコ・ロマニョージ1802年に発見したことがイタリアの新聞に報じられた。ロマニョージの実験は電流ではなく、ボルタ電池の電気を蓄えた静電気と方位磁針の関係を示したものだった[5]。しかしロマニョージは科学者ではなかったため、その報道は科学界から見過ごされてしまった[6]

エルステッドはこの現象について、充分な説明や数学的な解析を行わなかったが、彼の実験のレポートがアンペールらによる電磁気学の発展のきっかけとなった。

1822年、スウェーデン王立科学アカデミーの外国人会員に選ばれた。

その後

化学の分野では1825年に、初めてアルミニウムの分離に成功した(アルミナから合成した塩化物をカリウムアマルガムで還元してアルミニウムを分離した)。それ以前にアルミニウムと鉄の合金はハンフリー・デービーが作っていた。

1829年、エルステッドは Den Polytekniske Læreanstalt という学校を創設し、それが後にデンマーク工科大学 (DTU) となった[7]

1851年、コペンハーゲンで死去。市内の墓地に埋葬された。

後世への影響

彼の名は、磁場CGS単位エルステッド (Oe) として残っている。1 Oe ≒ 79.577 A/m である。

また、彼の肖像はデンマークの旧100クローネ紙幣に描かれていた(1950年から1970年まで)。コペンハーゲン大学にはエルステッドの名を冠した建物がある。1999年に打ち上げられたデンマーク初の人工衛星はエルステッドと名付けられた。エルステッドの名を冠した賞は2つある。1つはアメリカ合衆国の物理教師協会が物理教育に貢献した者を表彰する Oersted Medal で、もう1つはエルステッド自身が創設した Selskabet for Naturlærens Udbredelse(自然科学普及協会)がデンマークの科学者を表彰する H. C. Ørsted Medal である。

著作

エルステッドは詩人でもあり、詩集を出版している。Luftskibet ("The Airship") と題した詩集は、同僚の物理学者の気球実験とマジシャン Étienne-Gaspard Robert に着想を得て書かれたものである[8]。死の直前、エルステッドは "The Soul of Nature" と題してそれまでの論文をまとめた本の出版を準備していた。この本はエルステッドの哲学や様々な問題についての見方を示したものとなっている[9]

脚注・出典

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参考文献

  • Dibner, Bern, Oersted and the discovery of electromagnetism, New York, Blaisdell (1962).
  • Ole Immanuel Franksen, H. C. Ørsted – a man of the two cultures, Strandbergs Forlag, Birkerød, Denmark (1981). - エルステッドの1820年の論文のラテン語版と英訳版が掲載されている。

関連項目

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外部リンク

  • Brian, R.M. & Cohen, R.S. (2007). Hans Christian Ørsted and the Romantic Legacy in Science, Boston Studies in the Philosophy of Science, Vol. 241.
  • 2.0 2.1 テンプレート:Cite web
  • Hans Christian Ørsted (1997). Karen Jelved, Andrew D. Jackson, and Ole Knudsen, translators from Danish to English. Selected Scientific Works of Hans Christian Ørsted, ISBN 0-691-04334-5, pp.421-445
  • Martins, Roberto de Andrade, "Resistance to the discovery of electromagnetism: Ørsted and the symmetry of the magnetic field", in: Fabio Bevilacqua & Enrico Giannetto (eds.), Volta and the History of Electricity, Pavia / Milano, Università degli Studi di Pavia / Editore Ulrico Hoepli, 2003, pp. 245-265. (Collana di Storia della Scienza) ISBN 88-203-3284-1
  • Martins, Roberto de Andrade, "Romagnosi and Volta’s pile: early difficulties in the interpretation of Voltaic electricity", in Fabio Bevilacqua & Lucio Fregonese (eds.), Nuova Voltiana: Studies on Volta and his Times, Pavia / Milano, Università degli Studi di Pavia / Ulrico Hoepli, 2001, vol. 3, pp. 81-102.
  • テンプレート:Cite book
  • テンプレート:Cite web
  • National Museum of Denmark. "The Soul in Nature: 1802". Accessed 30 July 2007.
  • テンプレート:Cite book