ネイピア数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
ファイル:Exp derivative at 0.svg
関数 y = axx = 0 における微分係数が 1(赤線)になるのは a = e(青線)のときである(破線は a = 2, 4 のとき)。

ネイピア数(ネイピアすう、テンプレート:Lang-en-short)は数学定数の一つであり、自然対数の底として用いられる。記号は、電気工学で電圧のeと区別する場合にεと表記される[1][2]ほかは、e を用いられるのが普通である。これは導入者のレオンハルト・オイラーに因んでいる。最初の研究者であるジョン・ネイピアの名を冠していないのは、オイラーの功績と名誉のためとされている[3]。その値は

e = 2.71828 18284 59045 23536 02874 71352 …

と続く超越数である。ネピアの定数、ネピア数、特に欧米ではオイラー数と呼ばれることもあるが、オイラーの定数 γオイラー数列とは別である。

歴史

ネイピア数に関する最も古い研究は、1618年ジョン・ネイピアによって発表された対数の研究の付録に収録されていた表である。その表自体はウィリアム・アウトレッドによって書かれたとされているが、そこで実際に記述されていたのは自然対数のいくつかの値だけで、対数の底自体は含まれていなかった。

初めてネイピア数そのものを見い出したのはヤコブ・ベルヌーイだとされていて、

<math>\lim_{n\to \infty} \left( 1+\frac{1}{n} \right)^n</math>

を求めようとした。これは e に等しくなる。

この数に初めて定数記号を割り当てたのはゴットフリート・ライプニッツだとされている。1690年と1691年のクリスティアーン・ホイヘンス宛ての手紙の中で、記号 b を用いた。レオンハルト・オイラーは、1727年からこの数を表すのに記号 e を使い始め、オイラーによる1736年の『力学』がネイピア数を e で表した最初の出版物となった。その後しばらくは c によってこの数を表す流儀もあったが、やがて e が標準的な記号として受け入れられるようになった。

オイラーは、指数関数 ax

<math>\frac{d}{dx} a^x =a^x</math>

を満たすとき a = e であることや、テンプレート:Sfrac の積分として定義された自然対数の底でもあることを示した。したがって、一般には e自然対数の底と呼ぶことが多い。

定義

オイラーによる定義
e
<math style="margin-left:2em;">{d \over dx}\, a^x

= \lim_{h\rightarrow 0} \frac{a^{x+h}-a^x}{h} = \bigg( \lim_{h\rightarrow 0} \frac{a^h-1}{h} \bigg) a^x = a^x</math>

であるようなa のことであるから
<math style="margin-left:2em">\lim_{h\rightarrow 0} \frac{e^h-1}{h} =1</math>
をネイピア数の定義とすることができる。
収束数列による定義
以下の式の右辺は、ヤコブ・ベルヌーイによって、利子の複利計算との関連で言及されたものである。
<math style="margin-left:2em">e=\lim_{n\to \infty} \left( 1+\frac{1}{n} \right)^n</math>
オイラーは、導関数がもとの関数と等しい指数関数の底が、この式の右辺によって求まることを示した。ここで n自然数だが、n実数として変動させた場合も上の式は同じ値に収束する。
ファイル:Ln+e.svg
自然対数の e における値は 1 である。すなわち ln e = 1。
微分積分学の基本的な関数を使った定義
<math style="margin-left:2em">e=\exp 1</math>
<math style="margin-left:2em">\ln e=1</math>
exp x指数関数、ln x自然対数であり、互いに逆関数になっている。指数関数や自然対数はネイピア数 e を用いて定義することもあるが、それを逆にネイピア数の定義に用いることは、定義が循環してしまうので、できない。以下に示すようなネイピア数 e を用いない定義により、ネイピア数を定義できる。

定義に用いられる諸公式

ファイル:Hyperbola E.svg
グラフ y = テンプレート:Sfrac の 1 ≤ xe における領域の面積は 1 になる。

ネイピア数を定義するために用いられる指数関数や対数関数の性質・公式を挙げる。これらの式と e = exp 1 などを組み合わせることによって、ネイピア数が定義できる。

  • <math>\exp x=\sum^{\infty}_{n=0} \frac{x^n}{n!}</math>

    これは関数 <math>\exp x=e^x</math> をテイラー展開したものである。

  • <math>\frac{d}{dx} y(x)= y(x),\quad y(0)=1</math>

    という常微分方程式の初期値問題の解 y(x) によって exp x = y(x) が定義される。

  • <math>\int_1^x \frac{dt}{t} =\ln x</math>
  • <math>\left.\frac{d}{da} x^a \right|_{a=0} = \ln x</math>

性質

底が e指数関数 ex導関数不定積分

<math>\frac{d}{dx} e^x = e^x,</math>
<math>\int e^x \,dx= e^x +C</math>(C は積分定数)

となる。また、底が e対数関数 loge x (ln x と表すことも多い。紛らわしくない場合は log x と書くこともある)の導関数は

<math>\frac{d}{dx}\ln x=\frac{1}{x}</math>

となる。したがってまた

<math>\int \frac{dx}{x} =\ln x+C</math>

である。

e は無理数である(ネイピア数の無理性の証明、オイラー、1744年)だけでなく超越数でもある(シャルル・エルミート、1873年)。

指数関数の解析接続によって一般の複素数を指数とした e冪乗 ez が定義されるが、特に純虚数を指数とする冪はオイラーの公式として知られる関係式

<math>e^{ix} =\cos x+i\sin x</math>

を満たす。この式の特別な場合として x = テンプレート:Πテンプレート:Π円周率)を代入して得られるオイラーの等式

<math>e^{i\pi} +1=0</math>

はネイピアの数を含む基本的な数学定数の間の、直観的には全く明らかではない関係を記述するものである。

ネイピア数は以下の連分数展開を持つ:

e = [2; 1, 2, 1, 1, 4, 1, 1, 6, 1, 1, 8, 1, 1, 10, ...]

参照

テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

外部リンク

テンプレート:Sister

  1. テンプレート:Cite book
  2. テンプレート:Cite book
  3. テンプレート:Cite web