ニホンマムシ

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ファイル:Gloydius blomhoffii.jpg
草むらに潜むニホンマムシ(高精細画像)
ファイル:Mamushi togurosugata.jpg
とぐろを巻いたニホンマムシ

ニホンマムシ(日本蝮、学名:Gloydius blomhoffii)は、クサリヘビ科マムシ属に分類されるヘビの1種。単にマムシとも呼ばれる。特定動物毒蛇

解説

形態

全長45-80センチメートル。まれに体長が1メートル近くになる。北海道産の個体は大型で、60センチメートルを越える個体が多い。伊豆大島には「赤まむし」の別名を持つ体色が赤い個体が多いと言われる。

全長に比して胴が太く、体形は太短い。頭は三角形で、瞳が縦に長い大きな目とピット(熱感知器官)を持つ。舌は暗褐色。体色は淡褐色で、眼線がかなりはっきりしており、20対前後の中央に黒い斑点のある俗に銭型とも呼ばれる楕円形の斑紋が入る。胴体中央部の斜めに列になった背面の鱗の数(体列鱗数)は21列。尾は短い。幼蛇の場合は尾の先端が黄色になっている。

生態

食性は動物食で、小型哺乳類、小型爬虫類、両生類等を食べる。平地から山地森林、藪に棲む。水場周辺に多く出現し、山間部の水田や小さな川周辺で見かけることも多い。時に田畑にも現れる。夜行性だが、冬眠直前や直後の個体、妊娠中のメスは日光浴のため昼間に活動することもある。繁殖形態は卵胎生で、夏に交尾し翌年の 8-10月に1回に5-15匹の幼蛇を2-3年に1度産む。

性質は臆病で、よほど接近しすぎない限りはマムシの方から人を咬みに来ることはない。また、危険を感じると尾を寝かせた状態で細かく振るわせ、地面などを叩いて音を出して威嚇するが、これは他のヘビにも見られる行動である。野外で出会って威嚇を受けても、それ以上近寄らずに無視して遠巻きに通り過ぎればほとんど害はない。

咬傷による死亡率は高くないが、年間約3,000人が被害を受け、死者は5 - 10名程度とされる。これは小型であるため液量が少ないことや、基本的に出血毒であり神経毒が少ないため、効果が局所的に留まり身体全体を冒さないためである。しかし、量は少ないが毒性そのものではハブよりもはるかに強く、ハブの2 - 3倍はあるので、充分な注意が必要である[1]

ニホンマムシの毒は出血毒が主成分で、マウス腹腔内投与による致死量(LD50値)は1.22±0.40mg/kgとされる[2]が、コブラと同様な神経毒も含有している[3]

おもな成分と作用は、

  • ブラジキニンを遊離する酵素:末梢血管の血管拡張を行い血圧を降下させる。
  • ホスホリパーゼA2:溶血作用に関与する。
  • トロンビン様酵素:細胞膜を溶解する酵素や血液凝固系に作用する。
  • アリルアシダーゼ、エンドペプチダーゼ:タンパク質分解酵素で、咬傷部の骨格筋変性に作用する。
  • 出血因子:毛細血管に作用し、強力に体内出血を誘発する。
  • 希に、眼瞼下垂、外斜視、四肢の筋力低下、換気障害などの筋無力症状を呈する[3]

などである。

分布

日本北海道本州四国九州大隅諸島)、伊豆大島八丈島

参考:中国朝鮮半島などに亜種が生息する。対馬に住むツシママムシ (Gloydius tsushimaensis) は本種とは別種(亜種ではない)とされる。[4]

咬傷の症状と処置

症状

咬傷を受けて20 - 30分後、激しい疼痛、出血、腫脹がおきる。1 - 2時間後、皮下出血、水泡形成、リンパ節の腫脹と圧痛。発熱、めまい、意識混濁など。1時間以上経過しても、疼痛・腫脹がおきない場合は、毒素が注入されなかった可能性がある。重症な場合、体液減少性ショック、血圧低下、眼筋麻痺による霧視・複視・視力低下。腫脹部に筋壊死を生じることもある。死亡例の多くは受傷後、3 - 4日後に集中する。重篤な場合は、呼吸不全[5]

3 - 9日後、急性腎不全による乏尿、無尿、蛋白尿、血尿。

処置

咬傷を受けた場合安静にする。身体を激しく動かすと体液の循環が促進され、その分毒のまわりが早くなる。牙跡は通常2ヶ所(1 - 4ヶ所である場合もある)で、現場で可能な処置は、咬傷部より心臓側で軽く緊縛(緊縛も後述の乱切や吸引同様、問題視されつつあり、するのであれば軽く緊縛するのが無難である)。毒蛇に咬まれた時の応急措置として「口で毒を吸い出す」と言われているが、『素人による切開・毒素の吸引は行わない』こと。咬まれた時間や状況が説明出来るように覚えておく。

速やかに処置可能な医療機関でマムシ抗毒素血清投与などの治療を受ける。6時間以内の血清投与が推奨されており、少なくとも24時間は経過観察が必要。血清投与に際しては、アナフィラキシー・ショックに十分注意[6]し投与する(また、医療機関における乱切や吸引も問題視されつつある)。血清投与後、7 - 10日して2 - 10パーセントで遅延型アレルギーを起こした場合は、ステロイド剤や抗ヒスタミン剤を投与する。

血清投与に関わる諸問題を回避するため、台湾に自生するタマサキツヅラフジ (Stephaniecepharantha) から抽出されたアルカロイド系のセファランチン (Cepharanthin) が使用される場合がある[2]

人との関係

薬用

マムシの皮を取り去り乾燥させたものを、反鼻(はんぴ)と呼び、漢方薬として滋養強壮などの目的で用いる。また、胆嚢を乾燥したものは蛇胆(じゃたん(通称じゃったん))と呼ばれ、反鼻よりも滋養強壮効果が高いとされる[7]。 反鼻や蛇胆は、栄養ドリンクなどによく使用されている。「マムシドリンク」・「赤まむし」といえば、動物生薬を使った栄養ドリンクの代表格でもある。

民間療法では強精効果を目的に乾燥させた身や生の身を焼酎漬けにして飲用する場合があり、マムシ酒(まむしざけ)と呼ばれる。また、目玉は生で飲用することもある。生の身をマムシ酒にする際は、1か月ほど餌を与えずに飼ってその間に体内の排泄物を全て出させるのだが、その状態でもまだ生きている。そのため、一般にはかなり生命力のある生物と思われる事が多いが、1か月の絶食でも生きているのは変温動物であるがゆえにエネルギー消費が小さいのが原因である。ただし、この方法でマムシ酒を造る場合、アルコール濃度が低いと腐敗してしまう可能性が高い。特に体色が赤めのものは赤マムシと呼ばれ薬効が高いとされるが、成分は他の個体と変わらない。マムシ酒は薬用酒として飲用されるだけでなく打撲傷に使用される。科学的な根拠は確認されていない。

渾名

日本人にとって最も身近な毒蛇であることから、渾名(あだな)に使われる場合がある。毒蛇としての印象から、クセのある、どちらかといえば粗暴もしくは陰険な人物の渾名とされることも多い(例:斎藤道三鳥居耀蔵栃錦清隆など)。また、たとえば毒蝮三太夫のように奇抜な芸名として用いられる場合もある。

植物の名にはマムシグサがある。これは茎のまだら模様がマムシに似ていることが由来である。

また、関西では料理において鰻丼のことを「まむし」、あるいはウナギの釜飯をまむし釜飯と言うことがあるが、呼び名の由来は本種とは無関係である。

脚注

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参考文献

関連項目

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外部リンク

  • ただしマムシ毒は、一説には捕食対象である小動物に特異的に効き、対人効果は数値に現れる程ではないともされる。イヌ・ネコはマムシ毒に対する耐性が強く、成体であれば咬まれても死ぬことはほとんどない。
  • 2.0 2.1 ニホンマムシ毒(Agkistyodon halys blomhoffii)毒による致死および循環器系障害に対するCepharanthinの作用日本薬理学雑誌 Vol.98 , No.5(1991)pp.327-336。なお、標題中の Agkistyodon halys blomhoffii は本種の古いシノニム Agkistrodon halys blomhoffii の誤りと思われる。
  • 3.0 3.1 筋無力症状を呈したマムシ咬傷の1例 日本救急医学会雑誌 Vol.4 (1993) No.4 P350-353
  • 多数のマムシがいることで有名な中国旅順沖の蛇島にいる蛇もGloydius shedaoensisという別種の蛇である。
  • マムシ咬傷により急性腎不全および呼吸不全を呈したが救命しえた1例日本救急医学会雑誌 Vol. 21 (2010) No. 10 P 843-848
  • 「原著」まむしウマ抗毒素によるアナフィラキシーの1例 日本小児アレルギー学会誌 Vol.22 (2008) No.3 P357-362
  • 蛇胆は、ハブやコブラの場合もある。