ド・モアブルの定理

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ド・モアブルの定理(ド・モアブルのていり。ド・モアブルの公式(ド・モアブルのこうしき)とも)とは、整数 n に対して

<math>(\cos \theta +i\sin \theta)^n=\cos n\theta +i\sin n\theta</math>

が成り立つという複素数に関する定理である。定理の名称はアブラーム・ド・モアブルに因む。証明には三角関数加法定理が利用される。

ド・モアブルの定理を既知とすれば、左辺に現れる n自然数として、左辺を展開し右辺と実部・虚部を比較することよりn 倍角の公式が導出される。すなわち、ド・モアブルの公式は三角関数の n 倍角の公式を内在的に含んでいる。

オイラーの公式によれば、この定理は複素変数の指数関数に関する指数法則(の一部)

<math>(e^{i\theta})^n=e^{in\theta} |(\theta \in \mathbb{R},n \in \mathbb{Z})</math>

の成立を意味するものである。

証明

1. まず、n ≥ 0 について成り立つことを、数学的帰納法により証明する。

[i] n = 0 のとき

(左辺)= (cos θ + i sin θ)0 = 1
(右辺)= cos 0 + i sin 0 = 1

よって n = 0 のとき成立。

[ii] n − 1 のとき、すなわち

(cos θ + i sin θ)n−1 = cos (n − 1)θ + i sin (n − 1)θ

が成り立つと仮定する。

(cos θ + i sin θ)n
= (cos θ + i sin θ)n−1 (cos θ + i sin θ)
= {cos(n − 1)θ + i sin(n − 1)θ} (cos θ + i sin θ)
= {cos(n − 1)θ cos θ − sin(n − 1)θ sin θ} + i{sin(n − 1)θ cos θ + cos(n − 1)θ sin θ}
= cos + i sin 加法定理

故に n のときも定理は成立する。

よって、[i], [ii] から、n ≥ 0 に対してド・モアブルの定理が成り立つ。

2. 続いて n < 0 の場合を、1. を利用して証明する。

n < 0 のとき、n = −m とおくと、m自然数1. の結果より m については定理の等式が成り立つから、

(cos θ + i sin θ)n
= (cos θ + i sin θ)m
<math>=\frac{1}{(\cos \theta +i\sin \theta)^m}</math>
<math>=\frac{1}{\cos m\theta +i\sin m\theta}</math>
<math>=\frac{\cos m\theta -i\sin m \theta}{(\cos m\theta +i\sin m \theta)(\cos m\theta -i\sin m\theta)}</math>
= cos i sin
= cos(−) + i sin(−)(負角公式)
= cos + i sin

故に n < 0 のときも成り立つ。

以上からド・モアブルの定理は任意の整数 n について成り立つことが示された。

指数が非整数の場合

ド・モアブルの定理は指数が非整数のとき一般には成り立たない。それは、複素数の非整数乗は複数の異なる値を取る(多価関数)からである(failure of power and logarithm identities 参照)。n が整数でないとき、ド・モアブルの定理における n 乗の式は、等式が成立する値を含めた複数の値を取ることとなる。

zw を複素数とすると、

(ez)w

という表記では左辺が多価関数であることを表せておらず、 より正確には

(ez)w = (ez+2kテンプレート:Πi)wk は整数)

と書ける。

<math>(e^{i\theta})^p = (e^{i(\theta +2k\pi)})^p = e^{i\theta p} e^{i\cdot 2kp\pi}</math>

ド・モアブルの定理が成り立つには、全ての整数 k に対して

<math>e^{i\cdot 2kp\pi} =1</math>

すなわち kp が整数であることが条件である。p が整数ならばこれが成り立ち、p が非整数ならば成り立たたない。(e)p は、<math>e^{i\cdot 2ka\pi}</math> の取りうる値の個数だけ値を取る。k = 0 のときはド・モアブルの定理は成立するが、k ≠ 0 では成立していない。

(e)p の値の取り方について、p が有理数 テンプレート:Sfraca, b は互いに素)ならば、<math>2kp\pi =2\pi \cdot \frac{ka}{b}</math> は k = 0, 1, …, b − 1 で循環し、b 個の値を取る。p が有理数でない(無理数または虚数)ならば循環せず、可算無限個の値を取る。

指数が有理数の場合への拡張

指数 n が有理数のとき、<math>n=\frac{a}{b}</math>(a, b は互いに素)とすると、

<math>\left(\cos \theta +i\sin \theta\right)^\frac{a}{b}</math> は
<math>\exp \left\{ i(\theta +2k\pi)\cdot \frac{a}{b} \right\}</math> (k = 0, 1, ... , b − 1)

という b 個の値を取る[1][2]

一般化

ド・モアブルの定理を一般の複素数 z, w に拡張すると次のようになる。

(cos z + i sin z)w は複数の値(多価関数)を取りうり、
cos wz + i sin wz はその中の一つである。

適用例

虚数単位の累乗をド・モアブルの定理を用いて求める。

<math>i^a =(0+i)^a =\left(\cos \frac{\pi}{2} +i\sin \frac{\pi}{2} \right)^a =\cos \frac{a\pi}{2} +i\sin \frac{a\pi}{2}</math>

(なお、先述したように、a が非整数のときは、複数取る値のうちの1つだけを求めている。)

<math>i^2 =\cos \frac{2\pi}{2} +i\sin \frac{2\pi}{2} =-1+0i=-1</math>
<math>i^{\frac{1}{2}} =\cos \frac{\pi}{2\times 2} +i\sin \frac{\pi}{2\times 2}=\frac{\sqrt{2}}{2} (1+i)</math>

虚数単位の平方根にはこの他にもう一つの解があるのは周知の通りである。

関連項目

脚注

テンプレート:Reflist
  1. Text Book Of De Moivre S Theorem, A.K. Sharma, 2004, Sec5.1 Theorem2, Pages 116, ISBN:81-7141-905-4
  2. Basic Applied Mathematics for the Physical Sciences, R. D. Sarma, Umesh Kumar, Third Edition, Sec12.2, Pages 362-363, ISBN:978-81-317-6395-7