トンネル効果

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テンプレート:量子力学 トンネル効果(トンネルこうか、テンプレート:Lang-en-short)は、非常に微細な世界にある粒子が、古典的には乗り越えることができないポテンシャルエネルギー)障壁を、量子効果すなわち、時間とエネルギーとの不確定性原理により乗り越えてしまう(透過してしまう)現象。量子トンネル効果ともいう。

1928年ジョージ・ガモフとガーニー=コンドンがそれぞれ独立に原子核におけるアルファ崩壊をトンネル効果により説明した。また、同年にはロバート・オッペンハイマーが電界イオン化について、ファウラー=ノルトハイムが電子の電界放出について、同様の説明を行っている。

概要

高い壁の向こう側に、手に持っているボールを投げる場合を考える。普通であれば、その壁を越える高さまでボールを投げることが必要になる。つまり、壁の高さに相当する位置エネルギーよりも大きな運動エネルギーを、ボールに与える必要がある。壁の高さに届くようにボールに運動エネルギーを与える事が不可能な場合、その壁は「古典的には乗り越えることができないポテンシャル障壁」となる。

しかし量子力学の世界においては、ボールを壁の高さまで投げることができないのに、ボールを壁の向うに投げる事ができてしまう。あたかも壁にトンネルが存在し、ボールが壁をすり抜けるように見えるため、この現象はトンネル効果と呼ばれている。

これは、粒子の波動関数ポテンシャル障壁の反対側まで染み出してしまうことによる。量子力学では粒子は同時に波としても扱われる。波であれば、壁の向う側にも回折によって届くのである。壁の向こう側にボールを投げることはできなくても、壁の向こう側に声を届かせることはできる。これは声は音波という波だからである。だから粒子を波と見なせる場合、粒子もまた壁を越えることができる。

だが、現実としては、壁の高さ以上に投げることができないボールを、壁の向こうに投げることは不可能である。これはトンネル効果が、「ポテンシャル障壁を越えるのは何%」という確率で表されるものだからである。ボールが壁を越えるには、ボールを構成する何億、何兆という素粒子が、全てポテンシャル障壁を越えることが必要である。その確率はゼロでないにせよ、限りなくゼロに近い。

言葉を換えて説明すれば、ボールのようなマクロな物質を、ミクロな物質を扱う量子力学上の物質波として看做した場合、その物質波としての波長はそのボール自体の大きさよりも遥かに短い。つまりボールは、波としての性質が極めて小さく、つまり回折によって壁の向うに届く確率は、限りなくゼロに近い事になる。当然、人間が壁を越えることもあり得ない。

よって、我々が日常見る事のできる物については、トンネル効果は無視できる(巨視的トンネル効果という話題もある。詳細は該当項目参照)。しかしながら半導体集積回路を流れる電流を扱う場合などにおいては、このトンネル効果が無視できない。よって、我々が日常使っている電化製品、電子機器もトンネル効果と深くかかわっており、そういった意味で我々の日常生活にも影響している。

トンネル効果の応用例としては、走査型トンネル顕微鏡(STM)や、電子デバイス(エサキダイオードフラッシュメモリSEDなど)など、多数存在する。

逆に集積回路の微細化によるリーク電流増加の原因ともなる。

また、この宇宙の生成においても、トンネル効果は深くかかわっているという説もある。かいつまんで述べれば、無の状態から宇宙は誕生したのだが、その無から有の状態への移動はトンネル効果によってなされた。

関連項目

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