デウス・エクス・マキナのソースを表示

{{Otheruses|演出技法|[[烏丸渡]]の漫画|デウスXマキナ|[[ナイトメア (バンド)|ナイトメア]]の曲|Deus ex machina (ナイトメアの曲)}}
{{出典の明記|date=2013年2月8日 (金) 04:55 (UTC)}}
'''デウス・エクス・マキナ'''（{{lang|la|Deus ex machina, Deus ex māchinā}}）とは[[演出]]技法の一つであり、[[ラテン語]]で「'''機械仕掛けから出てくる神'''」を意味する。一般には「'''機械仕掛けの神'''」と表現される。「デウス・エクス・'''マキーナ'''」などの表記もみられるが、ラテン語としては誤りで、より忠実に発音転写するならば「デウス・エクス・'''マーキナー'''」となる。

== 由来 ==
由来は[[ギリシア語]]の '''{{lang|grc|ἀπό μηχανῆς θεός}}''' (apo mekhanes theos) からのラテン語訳で、[[古代ギリシアの演劇]]において、劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在（[[神]]）が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるという手法を指した。[[悲劇]]にしばしば登場し、特に盛期以降の悲劇で多く用いられる。[[アテナイ]]では紀元前5世紀半ばから用いられた。特に[[エウリピデス]]が好んだ手法としても知られる。

エクス・マーキナー（機械によって）とは、この場面において神を演じる役者が[[クレーン]]のような仕掛けで舞台（オルケストラ）上に登場し、このからくりが「機械仕掛け」と呼ばれたことによる。由来は、「機械仕掛けで登場する神」ないし、舞台装置としての解決に導く神そのものが機械仕掛けであることとも解される。日本語で思いがけない展開を指す「[[どんでん返し]]」（[[歌舞伎]]において、大道具の背景を倒し、瞬時に場面転換する「[[強盗返]]」から来た）あるいは「超展開」とも発想は類似している。日本で発想が類似する演出としては、テレビドラマ「[[水戸黄門 (パナソニック ドラマシアター)|水戸黄門]]」のオチで出される[[葵紋]]の[[印籠]]や、[[ザ・ドリフターズ]] の[[コント]]で著名になったタライ落としなどが挙げられる。

[[井上勇]]は[[創元推理文庫]]の[[ヴァン・ダイン]]『ベンスン殺人事件』で、「時の氏神」と翻訳している。

== 評価 ==
=== 内容 ===
[[古代ギリシア]]の時点で既にこの手法は批判されている。[[アリストテレス]]の『[[詩学]]』において、デウス・エクス・マーキナーは褒められた解決方法ではない、とされている。アリストテレスは、演劇の物語の筋はあくまで必然性を伴った[[因果関係]]に基づいて導き出されていくべきであるとし、行き詰った物語を前触れもなく突然解決に導いてしまうこのような手法を批判している。現代においても余り良い評価は得ているとは言えない手法である。

=== 技術 ===
好ましくない解決とされることの多いデウス・エクス・マーキナーではあるが、舞台の機械装置の発展としては、盛期アテナイ演劇の成果のひとつとして評価される。

== デウス・エクス・マキナの例 ==
=== ギリシア悲劇 ===
* [[アイスキュロス]]『[[オレステイア|恵み深い女神たち]]』 - アトレウス家のオレステスを追う復讐の女神たちに対して、アポロンがオレステスの無罪を宣し、女神たちが承服する。
* [[ソポクレス|ソポクレース]]『ピロクテーテース』 - [[オデュッセウス]]の説得を拒む[[ピロクテーテース]]に対して、神となった[[ヘーラクレース]]が現れ、アカイア勢への助力を命じる。
* [[エウリピデス]]『オレステス』 - 母を殺したオレステスは狂い、エーレクトラーともども死刑を宣告される。エーレクトラーはその原因であるとみなしたメネラウスを殺そうとするが、アポロンの計らいで和解する。
* エウリピデス『タウリケのイーピゲネイア』 - 逃亡したオレステスと[[イーピゲネイア]]に追っ手を出そうとしたタウリケの領主に女神アテナが現れ、追っ手をとどめる。
=== 悲劇 ===
* [[ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ|ゲーテ]]『[[ファウスト]]』 - ファウストは[[メフィストフェレス]]と「時よ止まれ、汝はいかにも美しい」と言えばメフィストフェレスに魂をゆだねるという契約を結んだ。終幕で彼はこの言葉を吐いて絶命し、メフィストヘレスは彼の魂を地獄に運ぼうとするが、唐突に現れた天使やグレートヒェンの霊によって遮られ、神による救済に至る。

=== 喜劇 ===
* [[ウィリアム・シェイクスピア|シェイクスピア]]『[[夏の夜の夢]]』 - 妖精王オーベロンのほれ薬のために、錯綜していた四角関係が整理され、相愛の恋人二組が誕生する。
=== オペラ ===
* [[ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト|モーツァルト]]『[[イドメネオ]]』 - 王が王子を生け贄に捧げようとし、王子の恋人が自分が犠牲になると進み出ると、神の声が響いてすべてが赦される。古典的なデウス・エクス・マーキナーの使われ方。
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== 用語の転用 ==
その本来の意味とは無関係に、字義的に解釈したネーミングがなされることがあり、[[サイエンス・フィクション|SF]]などでは超越的な存在の呼称としても用いられる。

====映画====
* 『[オーメン]/最後の闘争』 (THE FINAL CONFLICT, 1981年) - 大統領補佐官にまで上り詰めた悪魔の子ダミアンが神父と戦い、神父に止めを刺そうとする瞬間に「神」の奇跡が起こりダミアンは倒される。

====ミュージカル====
* 『キャッツ』 - 夜の都会の片隅に猫が集まり、一年に一度「ねこの中のねこ」を選び出すという話。選ばれた猫は永遠の命を授かり天上に生まれ変わることができる。年老いた娼婦ねこグリザベラが選ばれ、主題歌を歌い、満月へと登る。

====テレビ時代劇====
日本のテレビ時代劇には、数多くのデウス・エクス・マーキナーの例を見ることができる。『[[水戸黄門]]』の[[印籠]]、『[[遠山の金さん]]』のお白洲における桜吹雪の刺青の、ドラマ終盤における効果は、まさにデウス・エクス・マーキナーの典型といえよう。ただしこの場合は[[勧善懲悪]]の[[カタルシス]]と結びついている。

==== アニメ・特撮物 ====
* 宮崎駿のアニメ作品には、デウス・エクス・マーキナーの手法を見ることができる。『[[魔女の宅急便]]』の飛行船事件、『[[ハウルの動く城]]』の戦争開始とサリマンによる唐突な戦争の終結など。
* 『[[超電磁ロボ コン・バトラーV]]』 - 最終回、地球人類がどうすることも出来ない最終手段を使った敵方、地球侵略を目論むキャンベル星人を、[[クーデター]]により政権を奪取した穏健派キャンベル星人が阻止・誅殺する形で、コン・バトラー隊の長きに渡る戦いは終止符を打った。
* 『[[ウルトラマン]]』 - 最終回ではウルトラマンが怪獣[[ゼットン]]に敗れたものの、ゼットンは地球人が突然持ち出した新兵器によって倒され、ウルトラマンも救援に訪れた[[ゾフィー (ウルトラシリーズ)|ゾフィー]]によって蘇生させられている。これ以降も[[ウルトラシリーズ]]では、レギュラーのウルトラ戦士が絶体絶命の危機に陥った（あるいは死亡した）際、他の[[ウルトラ兄弟]]や[[ウルトラの父]]・母らの来訪によって救われる展開が多い（ある意味、ウルトラ戦士そのものが、怪獣を倒し、話を盛り上げて終わらせるデウス・エクス・マーキナー）。なお、『[[ウルトラマンマックス]]』には[[ウルトラマンマックスの登場怪獣#夢幻神獣 魔デウス|「デウス・エクス・マーキナー」をテーマにした話]]が存在する。
* 『大長編ドラえもん』のタイムスリップものの大半はラストでドラえもんたちがピンチに陥った時にタイムパトロール隊の救助で解決する。
* 『[[舞-HiME]]』 - 物語が進むにつれ、主人公達の戦いによって多数の犠牲者が出る。主人公達の戦いは神話の時代から行われていた儀式に則った物であり、何事も無ければ今回も悲劇の繰り返しとなる予定だったが、最終回で人造HiME「アリッサ・シアーズ」のパートナーとして製造されたアンドロイド「深優・グリーア」が、それまで説明がなかった「アンチマテリアライザー」なる装置によって封印の柱を破壊、封印されていた犠牲者達が復活。対立する理由のなくなった主人公達は協力して共通の敵に挑む。
* 『[[エクセル・サーガ]](アニメ版)』 - 大宇宙の大いなる意思の力により、エクセルやペドロといった死んだ登場人物がやたらと生き返る。(ハイアットは別として）なぜか、アクロス6人衆は死んだまま。

==== 漫画・小説などの文学作品 ====
* 『[[ゾンビパウダー]]』 - 最終話一話手前にて、ある目的地を目指して旅していた主人公たちの前に、その目的地にテレポートできるキャラクターが唐突に出現。
* 『[[猫の事務所]]』（[[宮沢賢治]]） - かまどで寝ている薄汚れた「竃（かま）猫」が主人公。同僚たちは努力家で親切な彼を貶めようと、仲間ぐるみで意地悪をするようになる。事務長の黒猫も陰口に丸め込まれ、竃猫も成すすべなく泣くばかり。そんな荒んだ事務所に獅子が現れ、解散を命じられる。
* 『[[ゲッターロボ號]]』（[[石川賢]]） - 敵の最終兵器により北極圏がマグマで覆われるも、主人公達の乗る真ゲッターロボが敵をすべて吸収し火星へ飛んでいってしまうことで戦いが終結する。作者はこの真ゲッターを「すべてを終わらせるキャラクター」として描いたと語っている。
* 『[[サブマリン707]]』（[[小澤さとる]]） - 事故による連載中断のため、単行本に完結篇が書き下ろされたが、唐突に披露された自爆装置の設定により、急転直下の結末を迎える。

* 『[[アルシャード]]』『[[アルシャード|アルシャード フォルティッシモ]]』（[[井上純弌]]/[[F.E.A.R.]]の[[テーブルトークRPG]])
*: 敵役の「真帝国」は機械神デウス・エクス・マキナを信仰する政教一致の神政軍事国家である。また、同社の[[TRPG]]『[[トーキョーN◎VA]]』シリーズにも「電脳神（デウス・エクス・マキナ）」という超常能力（ハッキング能力）が登場するため、一種のセルフパロディーであると考えられる。なお、『アルシャード』シリーズには時間制限をつけて遊ぶ「シナリオクラフト」という遊び方があるのだが、この遊び方で時間制限を越えるとこのデウス・エクス・マキナが地上に降臨してゲームシナリオを強制的に解決するという仕掛けがある（シナリオは終了するがゲームは失敗として扱われる）。これは「デウス・エクス・マキナ」の本来の意味を逆説的にひっかけたパロディである。
* 『[[イリスのアトリエ グランファンタズム]]』(PS2)
*: 主人公エッジの武器に「デウスエクスマキナ」がある。
* [[ウルトラシリーズ]]
*: 『[[ウルトラマンティガ]]』に守護怪獣マキーナ、『[[ウルトラマンマックス]]』に伝説神獣・魔デウスと、ともに「デウス・エクス・マキナ」の概念をモチーフにした[[怪獣]]が登場する。『マックス』では作中に「デウス・エクス・マキナ」の説明シーンがある。
* 『神の機械』 The God Machine （[[マーティン・ケイディン]]）
* 『[[からくりサーカス]]』 （[[藤田和日郎]]の[[漫画]]作品）
*: 自動人形の造物主・フェイスレスは人類を破滅に追いやるため、病をバラ撒く巨大な天使を放つ。彼はこれを「機械仕掛けの神」になぞらえ、物語は最終章へ突入するという急展開となる。最終章のタイトルも「デウス・エクス・マキナ」であった。
* 『[[スーパーロボット大戦MX]]』
*: [[ラーゼフォン]]や、[[エヴァンゲリオン (架空の兵器)|エヴァンゲリオン]]を指す言葉のつもりであったが、長い目で見ると、登場するロボットすべてが”デウス・エクス・マキナ”であった。
* 『[[Deus Ex]]』 （Ion Storm開発、[[アイドス・インタラクティブ]]発売のコンピューターゲーム）
* 『デウス・マシーン』 （[[ピエール・ウーレット]]のSF小説）
* 『[[ハイペリオン (小説)|ハイペリオン]]二部作』 （[[ダン・シモンズ]]のSF小説 続編の「エンディミオン」二部作にも登場）
*: 独立A.I.群&lt;テクノコア&gt;が（物語における時空からの）未来において創造したUI（究極知性）、&lt;機械の神&gt;をさす。
* 『[[ふしぎの海のナディア]]』 （[[ガイナックス]]の[[日本放送協会|NHK]][[アニメ]]作品）
*: ガーゴイルの秘密結社「ネオアトランティス」が有する空中戦艦の二番艦は、「デウス・ウキス・マキナ」である。
* 『[[HELLSING]]』 （[[平野耕太]]の漫画作品）
*: 少佐率いる[[国家社会主義ドイツ労働者党|ナチス]]の残党、“最後の大隊”「ミレニアム」が大英帝国を空襲する第二次ゼーレヴェ作戦発動に際して旗艦とした[[飛行船]]の名前は、「デウス・ウキス・マキーネ」である。
* 『[[魔剣X]]』『[[魔剣X|魔剣爻]]』([[アトラス]]の[[ドリームキャスト]]及び、[[プレイステーション2]]用アクションアドベンチャー)
*: 主人公の持つ[[魔剣]]として「デウス・エクス・マキーナ」（通称マキーナ）が登場する。
* 『[[マトリックス・レボリューションズ]]』 （[[ウォシャウスキー兄弟]]監督の[[映画]]作品）
*: マシン世界を統合する最高位のマシンとして、「デウス・エクス・マキナ」が登場する。
* 『[[ワイルドアームズ アドヴァンスドサード]]』 （[[ソニー・コンピュータエンタテインメント|SCE]]販売・[[メディア・ビジョンエンタテインメント|メディア・ビジョン]]開発の[[プレイステーション2]]用[[コンピューターRPG|RPG]]）
*: 終盤の[[ダンジョン]]に「デウスエクスマキナ」がある。
* 『[[未来日記 (漫画)|未来日記]]』（[[少年エース]]連載の漫画）
*: 予知能力者達を戦わせる神としてデウス・エクス・マキナがいる
* 『[[機械仕掛けのイヴ ～Dea Ex Machina～]]』（ゲーム会社ninetail製作のアダルトゲーム）
*: タイトルに使用されている。（deaはdeusの女性形）

; Deus Ex （デウスエクス）
: SFをベースにしたFPSゲーム。タイトルはこのデウス・エクス・マーキナーからきている。
; DEM（Deus Ex Machina）
: オンラインゲーム「[[エミル・クロニクル・オンライン]]」に登場する機械種族。プレイヤーが操るキャラクターとして選択することができ、チップやパーツを付け替えることによってステータスやスキルをある程度自由に設定することができる。
; Deus Ex Machina
: [[藤田和日郎]]作の漫画[[からくりサーカス]]の最終章タイトル。複雑に絡み合う因果を知った主人公達と、その「元凶」となる人物との最終決戦が描かれる。
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==参考文献==
*中村善也（1979）「悲劇の終わりの「神」-エウリピデスのデウス・エクス・マキナについて-、[[岡道男]]、[[松本仁助]]、[[中村善也]]共編『ギリシアローマの神と人間』　[[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]]　 161-190ページ
* Akiko Kiso（2004）What Happened to Deus ex Machina after Euripides?
* AbleMedia Classics Technology Center<ref>http://ablemedia.com/ctcweb/showcase/kiso1.html</ref>

==注釈==
<references/> 

==関連項目==
* [[舞台機構]]
* [[演出]] - [[落ち]]

{{DEFAULTSORT:てうすえくすまきな}}
[[Category:文芸上の技法]]
[[Category:プロット]]
[[Category:ラテン語の成句]]