パクリタキセル

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パクリタキセル (paclitaxel、略称: TXLTAXPTXPAC) は、がん化学療法において用いられる有糸分裂阻害剤の一つである。タキサン系に類する抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)一種。リサーチトライアングル研究所におけるアメリカ国立がん研究所のプログラムにおいて1967年に発見された。テンプレート:仮リンクテンプレート:仮リンクは、セイヨウイチイ (Taxus brevifolia) の樹皮からパクリタキセルを単離し、「taxol(タキソール)」と命名した[1]。後に、樹皮中の内生菌がパクリタキセルを合成していることが発見された[2]

ブリストル・マイヤーズ スクイブ (BMS) 社によって商業的開発された際、一般名がPaclitaxel(パクリタキセル)へと変更され、BMS社の化合物はTaxol(タキソール)という商標で販売されている。この製剤では、パクリタキセルはKolliphor ELエタノールに溶解されている。パクリタキセルをアルブミンに結合させたより新しい製剤は「Abraxane」の商標で販売されている。

パクリタキセルは肺がん卵巣がん乳がん、頭頸部がん、進行性カポジ肉腫患者の治療に用いられている。また再狭窄の予防にも用いられている。

パクリタキセルは微小管を安定させ、その結果として細胞分裂の間の微小管の正常な分裂を妨げる。ドセタキセル(商品名: タキソテール)と共に医薬品分類のタキサン類を構成する。フロリダ州立大学ロバート・ホルトンによって初めて全合成された。

開発

1971年タイヘイヨウイチイ (Taxus brevifolia) の樹皮から分離された。

発見当初はタキソール (Taxol) と呼ばれていたが、1990年ブリストル・マイヤーズ スクイブ社がこの名を商標として登録し、「タキソール (TAXOL) 」として使用するようになった。そのため、特定の企業商品を連想させないように、薬学系の研究者を中心に一般名であるパクリタキセルが物質名としても使用されている。

生成

1993年にロバート・ホルトンらのグループにより初めて全合成された(発表は翌年)。しかし、全合成はコストが高い。現在、医薬品としてのパクリタキセルは太平洋イチイの葉よりバッカチンⅢという原料を取り出して、これをもとにパクリタキセルを合成している。また、細胞培養法(PCF法:Plant cell fermentation法)により安価で大量に供給する技術も確立されている。

作用機序

ファイル:Tubulin&paclitaxel-2HXF.png
チューブリンとパクリタキセルの複合体。黄色の棒で示したのがパクリタキセルの分子である。

微小管に結合して安定化させ脱重合を阻害することで、腫瘍細胞の分裂を阻害する。パクリタキセルはチューブリンの2つのサブユニット(αとβ)のうちβサブユニットに結合する。

効能・効果

子宮体癌での本剤の術後補助化学療法における有効性及び安全性は確立していない。

組成

内容に無水エタノールを含有しているのでエタノールによる中枢神経症状(酔払う)が出やすい。

副作用

ショック (0.2%)、アナフィラキシー様症状 (0.3%)、白血球減少 (59.7%) などの骨髄抑制、末梢神経障害 (41.2%)、麻痺 (0.1%)、間質性肺炎 (0.5%)、肺線維症(頻度不明)、急性呼吸窮迫症候群(0.1%未満)、心筋梗塞(0.1%未満)、うっ血性心不全(0.1%未満)、心伝導障害(頻度不明)、肺塞栓 (0.1%)、血栓性静脈炎 (0.4%)、脳卒中(0.1%未満)、肺水腫(0.1%未満)、難聴 (0.2%)、耳鳴 (0.4%)、消化管壊死(頻度不明)、腸管穿孔(0.1%未満)、消化管出血(0.1%未満)、消化管潰瘍 (0.1%)、重篤な腸炎、腸管閉塞 (1.7%)、腸管麻痺 (0.1%) (食欲不振、悪心嘔吐、著しい便秘腹痛、腹部膨満あるいは腹部弛緩及び腸内容物のうっ滞等)、機能障害 (4.4%)、黄疸膵炎(0.1%未満)、急性腎不全 (0.2%)、皮膚粘膜眼症候群Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)、播種性血管内凝固症候群 (DIC) (0.1%)。

類似名称による問題

タキサン系抗癌剤には「タキソール®(パクリタキセル)」とは別に「タキソテール®ドセタキセル)」という類似商品名称が存在する。日本では発売開始がどちらも1997年でパッケージデザインが類似していること(毒薬指定のため販売名が黒地に白文字で記載)から、医師の処方箋のオーダー間違いやパッケージの誤認識による取り違えに気付かず投与したことで、重篤な症状や死亡に至る医療過誤が度々報告されている。

このため医療機関では取り違え防止のために自主的に商品名では無く一般名の「パクリタキセル」「ドセタキセル」を用いて対処しているが、取り違え事態が深刻化した2008年12月8日に厚生労働省が「医薬品の販売名の類似性等による医療事故防止対策の強化・徹底について(注意喚起)」を発令し、以後承認される医薬品に販売名称が類似する製品がないかチェックするようになった。これを受けて先発メーカーのブリストル製薬サノフィの日本法人が正式に協議し、それぞれ外箱やバイアルのラベルに販売名より一般名を大きな色文字で強調表示する対応をようやく実施した。その後発売された同系統の後発医薬品では販売名そのものに一般名を含めるといった対応をしている。

誘導体

近年、主にパクリタキセルの副作用の緩和を目的としてパクリタキセルの誘導体や薬物送達システム (DDS) 製剤の抗がん剤の開発が進んでいる。

  • アルブミン結合パクリタキセル:nab-パクリタキセル(アブラキサン® ABRAXANE®)
パクリタキセルをアルブミンで封入したナノ粒子製剤のアルブミン結合パクリタキセル注射用懸濁液。パクリタキセル誘導体のDDS製剤である。水に難溶性のパクリタキセルを溶解するために通常の製剤で使用されている溶媒ポリオキシエチレンヒマシ油(クレモホールEL)を含有しないため、投与時の副作用予防目的のステロイド剤等の前投薬を必要としない。
アメリカアブラキシス・バイオサイエンス(Abraxis BioSciences)社で開発され、2005年1月に化学療法不応の転移性乳癌あるいは術後補助化学療法6ヶ月以内の再発乳癌を適応としてFDAにより承認された。日本では大鵬薬品工業が開発・販売権を取得し、現在乳癌胃癌・非小細胞肺癌に保険適応されている。
  • DHAパクリタキセル(タクサオプレキシン® Taxoprexin®)
腫瘍細胞に集積しやすい脂肪酸のドコサヘキサエン酸 (DHA) をパクリタキセルと結合させたプロドラッグ。パクリタキセルの抗腫瘍効果は、腫瘍内でパクリタキセルがDHAから切り離されたときに発現する。
  • ポリグルタメート化パクリタキセル(OPAXIO®)
血中から腫瘍に移行しやすいポリグルタミン酸をパクリタキセルと結合させたプロドラッグ。パクリタキセルの抗腫瘍効果は、腫瘍内でグルタミン酸ポリマーが分解されたときに発現する。商品名がジオタックス ®(XYOTAX®) からOPAXIO®に変更された。
  • 腫瘍で活性化されるパクリタキセル (tumor-activated Taxol)
腫瘍細胞を標的とするモノクローナル抗体をパクリタキセルと結合させたプロドラッグ。血液中を循環している間は抗体とパクリタキセルの結合は安定しているが、標的の腫瘍細胞に到達すると抗体からパクリタキセルが切り離されて抗腫瘍効果を発現する。

引用・参照

  1. テンプレート:Cite journal
  2. テンプレート:Cite journal

関連項目

外部リンク

参考資料

  • 『タキソール注 (5mL)/タキソール注 (16.7mL)』添付文書・2005年5月改訂

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